フィガーランド・ガーリングの生涯 3章(後編)

フィガーランド・ガーリングの生涯 3章(後編)


最愛の息子を失い、ゴッドバレーからガーリングは暗い表情で帰ってきた。ガーリングの名声はロックス討伐への貢献で更に高まり「王者」として天竜人達から讃えられた。しかし、その称賛も何の慰めにもならなかった。失意のままにガーリングは私邸へ帰宅した。

普段は柔和な妻もガーリングの過信の為に愛する息子を失った事で激怒していた。妻は確かにガーリングの実直な人柄を愛していたが、そのあまりにも度が過ぎる傲慢さには常々疑問を抱いていた。そしてその疑問はホーミング聖の下野で抑えきれなくなった。妻は「あなたがそんなに傲慢だったからあの子は死んじゃったのよ!?」とガーリングに怒りをぶつけた。ガーリングは沈痛な面持ちで頷くしか無かった。自分が天竜人中でも最も素晴らしいと思って選んだ女性の言葉に耳を傾けない訳にはいかなかった。しかし、妻はガーリングにとって許容しがたい事を言った。「人の事を見下すばかりで見える物も見えないなんてそんなの『神』なんかじゃないわ!!人間よ!あなたも…私も!!」「ホーミングさん達を見て私も色々考えさせられたわ…いたずらに奴隷を傷つけたりして良いはずが無いわ!驕り高ぶるのを辞めないといずれ天竜人は時代の流れに置いて行かれて滅びてしまう…!!」

その瞬間、ガーリングの意識は凄まじい怒りに支配された。

暫く経ってガーリングは我に返った。周囲を見回すと変わり果てた姿の妻がいた。激昂するあまりに刀を抜刀すらせずにそのまま何度も振り下ろし滅多打ちにしていた。ガーリングは愛する妻をわが手で殺してしまったのだ。

ガーリングはこう思った。「何が『私たちも人間よ』だ!!!我々は地上の人間とは違う神!!上位存在なのだ!!それを…なぜお前も理解しなかったのか!!ホーミングどもに毒されおって!!」

ガーリングは自分の妻の死を「不穏分子であったので処分した」と処理した。自分の妻に裏切られ、天竜人全体の為に泣く泣く斬った様に周囲に印象付けたのだ。彼の天竜人への献身は天竜人達、特にイムから高く評価された。妻を生贄にする事でガーリングは益々名声と権勢を高めたのだ。

傍から見れば何の罪悪感も感じず、自分が完全なる正義の様に振る舞うガーリングも内心では凄まじい苦悩、後悔、そして怒りに苛まれていた。「私は妻を殺してしまった。彼女は賢い天竜人だった。それなのに、なぜ下々民に目を向けたのか?地を這う虫に優しさを向ける必要があるのか?下々民は私が思うより強く素晴らしい存在だとでも言うのか?そんなはずは無い。だが他ならぬ私の妻の考えだ、見当外れではないのか?ガープどものような強大な下々民が我々を脅かす日も近いのか?ならば、我々に逆らうゴミどもは全て抹殺しなければいずれ天竜人は滅びてしまうのではないか?」

ガーリングは天竜人に歯向かう全てをこの世から消す構想の具体化へと本格的に動く事を決意した。

ガーリングは愛した妻のために喪に服す名目で暫く自室に籠った。周囲は精強で苛烈なガーリングでも打ちひしがれ、悲しみに沈む事があるのだと驚いた。しかし、実際は違った。ガーリングは暫く任務や面会を謝絶しガーリングは書物を読み耽った。元々自分が持っている天竜人の中の知識人達が書いた本のみならず、これまで侮蔑し読んでいなかった下々民が書いた本も大量に取り寄せた。ガーリングは見識を深めると同時に、下々民がこれほど高度な知識や思想を持っているのかと驚愕した。ガーリングは下々民の知力と武力に脅威を感じた。同時にガーリングは自らの計画を形にし始めた。

ガーリングの妻が亡くなってから16年程が経った頃、大きな事件が起きた。考古学の島、オハラへのバスターコールである。海軍本部中将5人と軍艦10隻という凄まじい戦力による無差別攻撃によってオハラの考古学者達は皆殺しにされ、避難船すら撃沈し無辜の民すらも虐殺された。その一報が入ってきた時、ガーリングは狂喜した。「私を聖地に押し込める腑抜けの五老星、そしてその尻尾の海軍とCPも漸くここまで動くとは!!素晴らしい!!愚かにも我々に歯向かったゴミのような考古学者どもを殺せ!皆殺しにしろ!!」ガーリングにとってガープやロジャーが下々民の武力の面での脅威の象徴とすれば、クローバー博士やニコ・オルビアは知力の面での脅威の象徴だったのだ。

しかし、暫く経った後、ガーリングは激怒した。オハラに最後の生き残りがいた為である。その少女の名は「ニコ・ロビン」である。「おのれ神に盾突く悪魔め!!あのゴミは何度殺しても飽き足らん!!この世のありとあらゆる苦痛を受けさせてもなおゴミの罪は消えん!!」ガーリングは彼女へ有らん限りの憎悪、憤怒、軽侮を燃やした。

ガーリングは所詮海軍はこの程度の役に立たない番犬だと見なした。しかし、バスターコールという制度自体には大変関心を持ち、示唆に富んでいると感じていた。バスターコールのような無差別攻撃は天竜人の敵を全て抹殺するには大変効率的であり、下等な人間の海軍でもこのような多大な成果を出せたのならば、自分達「神」が実行すればニコ・ロビンのような生き残りは決して出ないであろうとガーリングは考えた。

ガーリングは後に大粛清、大虐殺に繋がる二つの恐ろしい腹案を思い付いた。「神の騎士団の軍備拡張」と「海軍の掌握、恒常的なバスターコールの発動」である。

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