ファム・ファタールへ

ファム・ファタールへ


善き人だと思った。

いつか父が話した「人は善き行いをするもの」。だとしたら彼女は絵に描いたような善き人だろう。星の様にきらめく、誰かの灯りとなる人。

「──我が怨念。我が憎悪」

朝も夜もない霧の中、夢を見た。宙の果てにある崩れた神殿。向かいあう、2人の存在。

かつて自分もまとった純白のカルデアの制服。それを着た善き人と、炎のような揺らめく髪をなびかせた1人の男。淡々と言葉を連ねるそれはある種のシステムの様にも見えた。

「──我が運命」

それは確かに告げられた。運命、その言葉に善き人は何も言わない。それは無言の困惑でもなく、否定でもなく、肯定だ。善き人はそれを受け入れた。運命であることを受け入れた。

そうか、そうだったのか。

自分の全てをかけて星を壊すつもりだった。彼女がいなければそれは成せたはずだった。それでも向かい合ったのは──彼女が善き人だったから。嵐で隠れて見えなくなった星を探して進む人だったから。

お互いに自分の全てをかけて戦った。後悔はなかった。例えそれが人であろうとした、自分の全てを台無しにするものだったとしても。彼女なら、ノウム・カルデアなら成し遂げると思ったから。

運命と対峙する彼女はとても美しくて。それがここまで来た彼女の理由だと理解して。人類最後のマスターと、人となった王は全てをぶつけ合って、それが互いに運命だと受け入れて。

「そっか、運命はボクではなかったのか」

運命に狂うだなんて──なんて人らしくなったのだろう。


Report Page