ビーストテスカ…
とさり、と見た目よりも軽い音を立ててビーストは倒れた。
[ビースト反応消滅しました!お疲れ様です、マスター!]
マシュの声が通信機越しに聞こえる。
立香はそれに生返事を返した。
「これで“オレ”の失態は片付いたか?もちろん最後までお前と共にいるが」
そう笑って立香の肩を叩いたのはグランドバーサーカーのテスカトリポカ。ビーストに対する抑止として召喚されたものだ。
「あ…さいご、まで…」
ぐしゃりと地に伏せた“テスカ”が悲痛な声を発する。
「さいごまで…いっしょにいるのは、テスカ、なのに…」
最後の力を振り絞り、起き上がった彼の姿は酷くボロボロだった。
片腕はぐちゃぐちゃになり、ビーストであることを示す角は折れ、黒曜石の鱗は剥がれ落ちて、痛々しい肉をさらけ出していた。
パキ、パキと彼にどんどんヒビが入っていく。それを気にせずに彼は話す。
「いやだ、ますたぁ…いかないで、おいて、いかないで…」
「テスカ…ごめん。もっと俺、テスカのこと…」
目を伏せる立香の弱々しい声を遮るようにテスカが声を上げる。
「ちがう、あやまらないで、ますたぁ!テスカは、ますたぁのことがだいすきで、ゆいいつのひとで、まもろうとしたんだ」
残ったもう片方の腕が砕ける。
「…でも、けっきょく、ますたぁをきずつけた」
精神が子供レベルに堕ちたテスカにもよくわかっていた。『もう、マスターを守るものにはなれない』と。
マスターの隣に立つかつての自分を見て、テスカは悲しげに笑った。
「あは、あはは…そっかぁ、そう、だよね…」
全身にたくさんのヒビが走る。
「ごめんなさい、ますたぁ…でも、こんなテスカを、だいじにしてくれて、ありがとう」
最後にテスカは笑って、そして粉々になった。
「テスカ…」
人類悪を討伐したのに、酷く悲しげな立香の背中をテスカトリポカは少し力を込めて叩く。
「ビースト退治を終えたんだ、少しくらいは胸を張れよ。……感傷に浸るのはどこでもできる。さあ行け、カルデアのマスター。じきにこの特異点は崩壊する」
「テスカトリポカは?」
「オレはここまでだ。何せオレは“アレ”のために呼ばれただけのサーヴァント。そのまま契約結んで付いて行ってもいいが…オレまでお前に肩入れしちまうのは神としても、グランドとしても良くないからな」
「…そっか、ありがとう、テスカトリポカ神!」
そう言って駆け出すカルデアのマスターを見送ったテスカトリポカは、さっきまでビーストが横たわっていた場所へと行った。
「名もなき獣。憐れだが…神としてのシステムを放棄したことはいただけないな。」
砕け散ったテスカだったものの破片を拾い、空にかざす。その破片が太陽を映すことはなかった。
「はぁ、おまえさんも大概、あのマスターに好かれてんなぁ」
テスカを見つめる立香の表情を思い出し、テスカトリポカは少し苦々しげに笑った。
「これはオレからのサービスだ。お前にとっての休息は、これが一番だろう?」
テスカトリポカは欠片を強く握ると、たちまち彼の周囲は煙に包まれる。
次にテスカトリポカが手を開いたときには欠片は消えていた。
名もなき獣の欠片はカルデアの元へ。
そして特異点は崩壊する。テスカトリポカも、共に消えた。
テスカトリポカは自分に優しい神(マテリアル)なので…ちょっとくらい抜け殻テスカにも優しくしてくれると思ってます
このあとビーストテスカは無事(?)カルデアに召喚されてどたばたラブコメが始まるので…