ビッチ個体純愛派生CP

ビッチ個体純愛派生CP


※攻め視点

※付き合っているかは不明ですが体の関係を仄めかしています

※ご都合設定あり

※頂上戦争後の二年間のどこかの話です

※ニセルフィ年上設定

※コビーは将校になっています

※頂上戦争の余波でコビーの心が少し疲れ気味です

※性格にニセルフィの影響が若干見られます






休むという行為が嫌いです。救えなかった命が、目標への焦りが、今なおどこかで流れる血が、追いついてくるような気がするから。しかも、よりにもよって、過去の僕自身のかたちをとって這い寄ってくるのです。


あれらを振り切るには前進するしかありません。けれど、何かを得ようとしたら何かを失わないといけない。前を向くことで今度は背中にある”正義”を見ることができなくなります。きちんとそれを背負えているかどうかは、僕らが背中に庇った存在にしか感知できないのです。


もしかしたら「正義」は敵に剥ぎ取られたかも、あるいは爆風で吹き飛んだか、はたまた最初からなかったのかもしれません。それでもまだ自分に正義は残っていると信じて戦い続けるのが海兵です。僕は普段そんなところにいます。




そんなところから今日は、東の海の小さな島へと一時的に離れました。大気となった潮が僕の身体を包みながら午後を告げます。


頭上を名も知らぬ渡り鳥が飛んでいき、つい「同じですね」と呟きました。届きもしない呼びかけは独り言と同義でした。


彼らは遠くの、もっと過酷な海で過ごしたのち、こうした温暖な島へ飛来します。お気楽なバカンスのようにも思えますが、動物は全ての行動を生存戦略に帰結させるもの。彼らがわざわざ穏やかな環境に移動してやることと言えばもっぱら繁殖です。すなわち形を変えど生存という戦いのさだなかにいることに、何の変りもない。そんな屁理屈と、道中いくつか壊滅させた海賊団を言い訳に僕は閑散とした通りを歩きます。”彼”の家を目指して。




彼はここいらを拠点とする海賊で、略奪と詐欺、時に売春をすることで生きていました。普段ならすぐに捕縛してあとは野となれ山となれで次の現場へ目を向ける…そんな取るに足らない存在でした。しかし、その風姿は僕の憧れの人物、麦わらのルフィと瓜二つだったのです。唯一似ていないところは瞳でした。濁り切った角膜に映る僕を見た時、喉元が切なく収縮したことだけは覚えています。実のところ、僕はそれよりずっと前から彼のことを知っていました。当時の彼は海兵になりたての僕では到底敵わない海賊で、僕はただ見ていることしかできませんでした。それから日が経ち、僕は彼の瞳に映る将校としての僕に初めて出会いました。そこで、己の変化を知ったのです。


それから僕は駆け回りました。各所に掛け合い彼の拘留を最短に留め、代わりに奉仕活動を命じ、その監督役に収まりました。たった薄皮一枚に秩序としての矜持を捧げる悔恨は、奔走の中で置き去りにしてしまいました。当時の僕は道徳性やロジカルシンキングを超越する何か大きなものに突き動かされていたのです。


今思えばそれは、動物的な生存戦略だったのかもしれません。




彼の家は酒場の隣にあります。普段はそこで働いているのです。少し歪んだ木製の扉に渇いた煉瓦、それから軒先のツバメの巣が目印でした。前に訪れた時は雛たちが可愛らしく親鳥を待っていたのですが、巣立ってしまったのでしょう。空っぽです。


僕は上官の前に立ったように気をつけをして、しかつめらしく扉を叩きます。その音に少しの雀躍も感じさせないよう、細心の注意を払って。


「はーあ お前かようざってェなぁ さっさと入ってさっさと帰れ!!」

彼は出迎えるなりそう言い放ちますが傷つきやしません。こう見えて僕は見聞色が得意なのです。喜びを隠すのは僕の方が一枚上手のようですね。




「で 何かいいモン持ってきたのかよ」

ん、と差し伸べられた手にグランドラインの珍しい鉱石を置くと、彼はそれを空中に透かさせます。光が鉱石を通り彼の頬を滑り落ちて行きました。「おお!でかしたなァ!!」と弾む声は、海賊の名残りなのでしょうか。「プレミアがつくまで寝かせねェと」といい溜め込む姿はむしろ鳥の羽ばたきに似ていました。


精巧なボトルシップ、アンティークカメオ、海底で見つけた化石。それらは全て彼の巣で貨幣に変えられるのを待っています。


果たしてその日は来るのでしょうか?僕は分かりません。一つ言えることは、さすがの彼でもケーキはその場で食べるということ。さて、有名店のカッサータはお眼鏡に叶うでしょうか。彼はそれを見るなり黙って茶器の準備をし始めました。久々の大当たりのようです。


彼のような人間は、本当に美味しそうなものを見たとき静かになるのですから。


「ほら」と置かれたマグカップには真っ黒のコーヒーが並々と注がれていました。

「ありがとうございます。あのー申し訳ないんですが…」

「ああーーっ!そうだなお前にゃ砂糖とミルクが必要だったよな!?忘れてたぜーっ悪ぃ悪ぃ」


彼はわざとらしく頭をかいて戸棚を開けました。別に、飲もうと思えば我慢できるんですけど、市民の期待に応えるのが海兵ですからね。


僕は砂糖とミルクを入れて、彼は満足げにそれを見て、そうして、ゆるやかに談笑が始まりました。厳密に言うと監査報告なのですが、僕たちの声色をそう定義する人はきっといないでしょう。




気づけば、僕たちの声に皿の擦れ合う音や水の流れる音が混じり合うようになりました。さながら楽器のようです。明らかに数日前からのものであろう皿洗いをきっかり半分こされていますが、そんな不公平はこの音楽の前ではどうでもいいことです。


「そういえば」僕は転調するように切り出しました。「あのツバメ、ついに旅立ったみたいですね」


「ツバメ…?」

彼は一瞬呆気にとられた後答えました。

「あいつらなら食い殺されたよ 蛇かカラスか知らねェけど 全滅」

「食い殺され…そう、ですか」

「羽も血痕もおれが全部片したから確かだぜ あーあおれ 雛が飛んだとき家族総出でぴいぴい旋回するのが見たかったんだけどな 死ぬならその後死ねよなぁ」


「ああ」思わず息が漏れてしまいます。

彼は相変わらず情緒というものを欠いていましたが楽しい話題を続けるという目論みが頓挫した今、何かしら返さなくてはいけないと思ったからです。気分を変えられる洒落た一言であればなお良しですね。


「弱かったんですね」


気づいたときには既に口を滑らしたあとでした。僕は人間というある種の安全圏から、傲慢な憐憫を垂れたわけではありません。ましてや公正世界仮説に逃げて悲劇をエンタメとして消費したわけでも。彼らが死んだのはそれを回避するための強さが足りなかったからで、そこに善悪もない。そんな、何の温度も湿度も持たぬ所感を、僕は思考というものをする前に反射的に叩き出していました。


泡まみれの手では口をふさぐこともできません。己が冷淡になってしまった決定的証拠が迫ってきているのに、固まったまま動けません。それは生ぬるく粘り気を帯びていました。その時、ひゃはは、と下卑た笑い声が一陣の風となり全てを吹き飛ばしたのです。


「弱かったんですね…って ひっでー! ぐふっぐっ やべ笑い止まらね ひーっ 薄情だなあオイ!弱かった…って当たりめーだろ!!わざわざ言うか!?おめー普段セッキョウ垂れる割によぉ へっへっへ おれに染まってきたよなァ!!」


彼はそう言いながら、ばしばしと泡だらけの手で僕の背中を叩きます。喧しくて浅ましくて意味がない、でもそれでなくっちゃ僕は前を見れないのです。彼の手が叩きつけられるたび、取りこぼしかけていたものが再び僕の中へと押し込まれるような気がしました。「正義はまだここにあるよ」と教えられているような。


「やりましたね」僕は塞がった手の代わりに肩で彼にぶつかりました。心の揺れを、体の揺れの中に隠すためです。当然彼はやり返してきます。すると僕たちは目の前の皿洗いをすっかり忘れてしまうのです。男子とはいくつになってもそういうものなのです。そしていくつかの応酬の末、彼が吠えました。


「なかなかやるなぁ…これはどうだ!!」

叩きつけられた拳はしかし、拍子抜けするほど柔らかでした。


あまりにも控えめな衝撃に、僕は、やっと年相応の遠慮を身に着けたのかと感心しながら彼を見やりました。が、そこにはいつもと全く変わらない低劣なニヤケ顔がありました。おそらく彼は”悪ふざけにしてはちょっと痛めの一撃をお見舞いしてやった”と思っているのでしょう。それに気づいた瞬間、尾てい骨から脳髄を心地よい電流がくすぐってゆきました。




弱い。弱すぎる。彼は東の海から出られない。未熟なりに本部でいろいろ見てきたからこそ、そう確信できました。そして、それは、ほぼ願望でもありました。


僕はかつて自ら「弱さ」という鎖につながれており、そこから解き放たれた身です。でも、自由を与えてくれた恩人とよく似た彼が、身動きが取れないくらい、僕から離れられないくらい弱い現状を変えたくはないのです。僕はいったいいつからこんなにも身勝手になってしまったのでしょう。


結局のところ、ルフィさんとは全く別の人間なのです。僕も彼も。シンクから泡がふわふわ飛んでいきます。その不規則な挙動は僕らが持つ詮無き葛藤のようでした。


泡が弾けたのを合図に、開き直った僕は強めに彼にぶつかりました。とは言えそれでもおままごとのようなものですけれど。「う゛っ」と苛立たしげなうめき声に口角が上がるのを隠せません。


「いい加減にしろよてめェ」

言葉とは裏腹に、彼の上気した顔には”遊び足りない”と書かれています。午後四時という時間は公園から帰るには早すぎる。僕はそれに応えるように寝室の扉を開けました。割れ物が多いダイニングよりは広く使えますし、そこにはベッドという名の柔らかいコロシアムが置いてあります。遊びのためなら子供は、驚くほど速く脳を回転させ最高効率を選びとるのです。しかも無意識に。


いや、そこには確かに打算的な欲がどろりと流れていたと告白しましょう。誠実な海兵でありたいですし。兎にも角にも僕たちはフィールドを寝室に移しました。


「お前さァ もうちっとやり方あったろ そういうとこホントウに若くて笑えるぜ」

彼の目はいつの間にか大人の包容力を湛えていました。大人の包容力とは、静かさのことです。僕は無性に恥ずかしくなり彼を突き飛ばしました。安物のマットレスが悲鳴を上げます。




とっくみあいになって寝具をひっくり返しているとまるで瞬く間に昼夜が巡るよう。一度布で覆ってそれから剥ぐとそこにはいつも赤子のようにきゃらきゃら笑う彼がいます。僕はそれを何度も繰り返し確認することで初めて、大切なものがきちんと自分の拳中に納まっていると安心できるのです。これじゃあ僕の方がいないいないばあで喜んでるみたいだ。


「なぁ、コビー 名前呼んでくれよ」

それとも忘れたのか?と彼は卑屈に僕のことを試します。

「まさか あなたのためなら何度だって」

彼の名を呼ぶたび、振動でシーツの天蓋が震えました。



本当の朝が来たら、二人で洗濯物を干してレモネードを飲むでしょう。

明日晴れることを願いながら僕たちは愛を贈り合います。

ついばむように 囀るように そのようにして、愛を。

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