ヒーローは獣に堕ちて

ヒーローは獣に堕ちて


大きな姿鏡には自分が映っている。

変身してヒーローとなった姿は気が付けば身に着けるマントも服も失い、髪をまとめていた髪飾りも片っぽがどこかへと消えて解けていた。

一糸まとわぬままベッドの上で組み伏せられた姿は耐えられないほどの羞恥心を与えてくる。

上半身はうつ伏せの状態で押し付けられ、下半身はお尻を突き出す形になっている。


「ぅん…ぐぅ……ぉ……!」


なのに声は自然と甘いうめきを上げる。

パンっ、パンっ、バチュっ。

肌と肌が激しくぶつかり合い、その中で水分も交えた淫靡な音が響く。


「ハァ…ハァ……! ソラ…! ソラ……!」


覆いかぶさるように腰を激しく打ち付けながら彼は自分の名前を呼んでいる。

その声色は普段の優しさを感じさせない。どこまでも貪欲に目の前の性行為に没頭する獣のようなぐぐもった唸り。返答なんて求めていない一方的な吐き捨てだ。

一心不乱に行われる行為はすでに何時間と続いていた。

快楽の激流に思考はすでにどろどろにふやけ、全身が敏感になっている所為でどこを触れられても身体が反応してしまう。

変身することで少しでも耐えられるかと予想していたが見込みが甘かった。変身した後も繰り広げられる獰猛で甘美な感覚は容赦なく自分の体力と精神力を奪い、肉体はすでに限界を超え、絶頂を繰り返しながら無理矢理さらなる絶頂へと飛ばされ続けている。

快感もここまでくればもはや拷問に近い。わずかに残る意識もいつ途切れるかもわからず、止まることのない深いピストンは子宮の入り口にまで届き、何度もその奥へとこじ開けていく。

ありえないほどの絶頂の波が押し寄せた。


「ぐっ……でるぞ……!」


どぷっ、どぷっ。

数えることをやめてから、何回目かの射精。

どれだけ出しても減ることのない量の白液が膣内を押し広げるように注がれた。収まりきらない分が陰部の隙間からあふれ出し、どろっとした塊がベッドに零れ落ちた。


「…ぉ…ぅ……っ♡」


脳がばちばちと火花を散らした。視界がぐにゃりと霞む。意識が闇の中に消えそうになって————陰裂から肉棒の抜かれた感覚が再び衝撃を与えてきた。


「…ぁあ………」


蓋の役目をしていたものが取れたことで中にため込まれていた精液が一気にあふれ出してくる。重かったお腹が少しだけ軽くなった。

……また、気を失えなかった。

これで終われていたならどれだけ気が楽になったことだろう。そう思っては何度も気を失いかけ、乱暴な絶頂に何度も呼び戻された。


「ソラ……!」


力の入らない自分の体がぐるんと仰向けに変えられる。

目の前に広がるのは暗い部屋の天井と、焦点の合っていない彼の視線と、荒い呼吸で上下する胸板。

男性特有のごつごつとした肉体がおもむろに近づいてくる。

顔を超え、首、胸、腹部、そして自分の顔の前まで乗り出してやってきたのは、


「………ひ………」


それはあまりにも凶悪に肥大化した男根だった。

下手をすれば子供の腕ほどありそうな大きさは目の前に置かれるだけで圧倒的存在感を放つ。こんなものが自分の中に挿っていたとは到底思えなかった。


「咥えてくれ…!」

「……ぅむぐぉ……ッ!?」


返事も聞かず咥内に一物が侵入する。

異臭。なんて言葉が甘いと思えるほどの臭いが充満し、一瞬にしてさらなる臭いを放つ射精が始まった。

恐らく先程出し切れなかった分なのだろう。それにしたって量が尋常ではない。勢いも含めて衰えることのない性の暴力に喉奥があっという間に支配される。

どろっとした精液は簡単には飲み込めない。まして今はほとんど体力が残っていないのもあってむりやり喉に通すこともできなかった。

酸素も得られない状態で咽かえる現象を意図的に抑え込むのは、もうできなかった。


「おえぇ……ッ!」


受けきれなかった白濁が押し返された男根と共に吐き出される。


「げほっ……げほっ……! ぉえ……ッ」


液体と言うより白いスライムのようなねばねばした粘液は気泡を作り、ベッドのシーツに大きなシミを作る。

息ができない。胸が苦しい。頭が痛い。

酸素を求めて全身が大きく揺れる。

心臓の鼓動が普段の数倍以上に聞こえ、意識が朦朧として視界が安定しない。


「ソラ……」


咳き込みながら声に反応して見上げると、熱の籠った視線とかち合う。



————こわい。



自分を見ているようで自分を見ていない。そんなどこか虚空を捕らえているような彼の目。

いつもの柔和で温かい光は完全に消え失せ、瞳の奥に滾るのは激しく燃える欲望の炎。



————こわい。



いつもの彼なら苦しんでいる自分がいたらまっさきに駆け寄り、優しく語りかけてくれていた。

何かあったのかのと尋ね、親身になって力になってくれた。

だけど今の彼にその面影はどこにもない。


「ソラ……」


ゆらりと近づいてくる彼に言い知れぬ恐怖が芽生えた。


「…たく…みさん…。こわい……手を…にぎって……こわい…から…」


脱力感に苛まれる体を必死に動かし、なんとか手を伸ばす。

行為に及んで数時間、久々に人語を介した気がした。

余裕などない自分の顔面はもうぐちゃぐちゃだ。みっともなく涙とよだれが溢れだし、口の中で逆流した精液が鼻水と一緒に垂れている。穴という穴から汁をまき散らす姿は自分が憧れていたヒーローとは真逆の醜態だった。


「てを……にぎっ……」


彼が握ってくれれば怖いと思う気持ちなんて一瞬で消えてくれる。

いつだってそうだ。甘えたいと思った時、彼の手はとても気持ちを落ち着かせてくれた。

どんなささくれ立った感情も抑え、優しく包み込んでくれる。不思議な安心を与えてくれる。

それが彼の大きくて力強い手。自分よりもたくましい彼の手なんだ。

しかし、その手は自分の伸ばした手を掴むことはなかった。


「ぉごぉ……ッ!?」


咥内に再び彼の陰茎が押し寄せた。今度は下半身全体が覆いかぶさるように彼の両脚が頭を挟み込み、頭頂部分をがっしりと腕に掴まれて身動きを完全に塞がれる。


「頼むもう一度だけ…! 咥えてくれ! ————咥えろッ!」


彼のものとは思えない彼の言動。

叩きつけるような容赦のないピストンによって巨根が喉奥にまで突き進む。


「んぁ……んぐッ……ぅんん……!」


苦しみに嗚咽が漏れる。

ただでさえまだ呼吸が整っていなかったのにこれでは酸素を取り込むことすらできない。多少の抵抗として彼の腰を掴もうとするが微々たる力しか入らない腕では忘我の激しい動きを止めるには至らなかった。

止むことのない抽送に、涙、涎、鼻水が白濁に混じってさらに溢れかえる。

全体重を使って頭を固定されている所為で逃げることも叶わず、じゅぽじゅぽと音を鳴らしながら咥内が犯されていく。

本格的に視界が明滅し始め、動悸の速さがレッドラインにまで差し掛かると、彼はまるで示し合わせたかのようにいっそう腰の打ち付ける力を強めた。


「ぉっっ……ぉぼっ……! ごっ……ごっ…!」


死ぬ。

死んでしまう。

殺されてしまう。

汚濁にまみれる脳内にありえないほどの恐怖が沸き上がる。

と、同時に感じたことのない名状しがたい快感がやってくる。


「出すぞ! 飲め!」

「ぅ…んぶ……ぐっ…!?」


苦しみ咽ぶ喉奥に熱の固まりが発射された。

射精をはじめてからも、二度、三度と、彼は震える腰を突き出して、喉奥へ精を打ち付けてくる。

そのたびに必死になって、ごくっ、ごくっ、と喉を脈打たせた。

ゲル状の精液は未だ量の陰りが見えない。飲み込むのにつっかえ、食道にいかなった分が鼻から強烈な痛みを伴って返ってくる。

苦しくて涙が止まらない。それでも必死に飲んだ。飲まなければ酸素を吸えない。酸素を求め続けて、飲み込み続けて、ようやく彼の巨根が射精を終えて口から抜き出された。


「ぉおぇぇ……ッ」


次の瞬間、口に残っていた分。必死になって飲み込んだ分。すべてを吐き出した。

ぐったりと倒れこんだまま顔の横に鼻がひん曲がってしまいほどの悪臭が広がる。

肺が酸素をかき集めようと、かひゅー、かひゅー、と声にならない空気が鳴り、虚ろな目が空中を彷徨う。



————こわい。こわい。こわい。



悍ましい快楽に呑まれ、恍惚の悦が恐怖に変わっていく。

あんなに気持ちよかった行為が今は身を振るえるほど拒否反応が出ている。

これ以上続けたらまともではいられない。

このままでは、死んでしまう。


「た…くみさ…ん……もう……やめ……」


訴えようとした口を今度は彼の口が塞いだ。

僅かに残る彼の精液ごと舌を絡ませ、ぐちゃぐちゃにむさぼりつくす。


「んんぅ…ちゅうぅ……はあぁ………んちゅっ、はんんぅ……ちゅぉぷっ……ぅちゅ……」


長く深く甘く、執拗なまでの熱いキス。彼の舌が自分の舌をねぶる度に思考は麻痺し、絶頂に体が跳ねる。

耐えがたい恐怖に彼の手を握ろうと腕を掴むが、彼の手が伸びたのは自分の胸だった。

心臓すら掴まれてしまうんじゃないかと思うぐらいの強さで未発達の自分の胸を押しつぶすように揉みしだく。

ぬるっ、と今なお大きく反り立って健在のペニスが恥丘をなぞった。


「んちゅ……ちゅむぅ……ちゅぅ……じゅぷ……」


もはや抵抗なんて無意味、なのだろう。

恐らく彼は止まらない。

何度声をかけても。

何度お願いしても。

何度手を伸ばしても。

彼の性欲にまみれぎらついた眼光がこちらのすべてを押し殺す。


「ソラ……まだ、いいよな…? オレ、まだしたりないんだ…。だから……いいよな?」


同意を求めているようで彼のペニスはすでに秘唇の前に用意されていた。

ぐっと片脚が持ち上げられ、体制が横向きとなり、自分の恥部が大きく露になる。


「行くぞ……? ソラ……」


彼の吐息が耳元にかけられる。

何も言えないまま身を任せていると、再び視界に姿鏡が入った。

そこに映るのは全身精液まみれでされるがままの自分と、同じく汁まみれで今からその一物を挿入しようとしている彼がいる。周りには脱ぎ捨てられた衣服が散乱しており、変身して身に着けていたはずのマントも近くに転がっていた。

ヒーローに憧れ、ヒーローとして切磋琢磨していた自分の象徴とも言うべきブルーのマントは、ヒーローのような存在として憧れていた彼の吐き出した白液に汚されている。

それを許してしまったのは他でもない自分で、そんな自分の顔はヒーローを目指す者とは到底思えないほど情けなく、呆れるぐらい酷い有様で、どこまでも無様だった。



—————わたしはあの人みたいなヒーローになれるのかな……。こんな……こんな姿になっても……。



残された力でマントに手を伸ばす。


じゅぷんっ。


お腹の奥底、拓海の陰茎がソラの子宮口を穿ったのは、その手がマントを掴もうとした瞬間だった。











〈おまけ〉


夕暮れ時の虹ヶ丘庭。

あまねはある用事を済ませていた。


「—————すみません、ヨヨさん。突然押しかけてしまって」

「いいのよ、あまねさん。また必要になったらいつでも調合してあげるから」

「助かります。あれがあると食欲や睡眠が取りづらいときにとても役に立つので」

「若いうちからあまりお薬に頼らない方がいいのだけど……。それで健康じゃなくなったら本末転倒よね。きちんと使用方法は守っているなら問題はないかしら」

「もちろんです。あくまでも不良状態をよくするためのものとして使わせていただいています」

「なら大丈夫ね。もし何かあったら言ってちょうだい」

「はい。助かります」


軽く会釈。そろそろ帰ろうかと考え、リビングの扉がおもむろに開いた。


「た、ただいまです」

「あら、ソラさん」


入ってきたのは随分ぐったりした様子のソラだった。


「おかえりなさい。どうかしたのかしら、疲れているようだけど?」

「えっ。あ、いえ! ちょっと遊び疲れた……みたいな感じです!」

「そうなの? だったら今日はもう早くおやすみするといいわ。————そうだ、あまねさん。あれを少しだけソラさんに分けてあげられないかしら?」

「ええ、もちろんです」

「……あ……」


あまねは先程ヨヨから貰っていたスカイランドに伝わる秘薬を取り出した。


「ソラ、これを」

「これって……」

「それはねあまねさんに作ったお薬なの。疲労にも効くから飲んでみるといいわ」

「……あぁ、ヨヨさん。実を言うとソラにはもうすでに何回かわけているんです」


ビクッ、とソラの体が僅かに弾む。


「あら。そうだったの。だったら飲みすぎたら危険なのも知っているの?」

「はい、きちんと説明済みです。そうだな、ソラ?」

「は、はい……。飲みすぎたら……その、食欲がすごくなったり、よく眠たくなったり……すると」

「飲みすぎたら、ね。きちんと容量を間違えなければ問題はないわ」

「だそうだ」


ポンとあまねの手が肩に乗せられる。

そこには自分たちにしかわからないたくさんの含みが込められていて、ソラは貰った薬をギュッと握った。


「あの……ヨヨさん。このお薬って材料があればもっと作れるんですか?」

「大丈夫よ。ちょうどあまねさんがたくさん持ってきてくれたの」

「え……」


思わずあまねの方を見る。

あまねはすべてを見透かしたように優しく微笑む。


「ああ。当分は困らないほどの分は確保できただろう。……だから遠慮することはないぞ?」

「…………」


その言葉が何を意味するのか、ソラにはわかっていた。


「ではヨヨさん。私はここで失礼します。お邪魔しました」

「ええ。帰りは気を付けてね」


固まるソラをわき目にヨヨとの挨拶を済ませたあまねは玄関の方へと踵を返す。途中、ソラの耳元でそっと囁きながら。


「…………また欲しくなったら言ってくれ。いつでも用意しよう。……品田の分も含めて、な」


まるでこちらの心を覗き見たような言葉。慌てて聞き返そうと振り返るが、あまねの背中はすでに消えていた。


「さあ、ソラさん。ましろさんたちもそろそろ帰ってくるだろうから、夕飯の支度を手伝ってくれるかしら」

「…………はい、すぐに行きます」


キッチンへと向かうヨヨに生返事をしたソラはしばらく立ち止まる。

手にした秘薬と今日の出来事を思い出し、あまねの言葉が脳内で何度も再生される。




つーっと、太ももを伝う一滴の汁。

期待と恐怖の染みが、じんわりと広がっていた。

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