ヒカルのお料理教室〜カレーうどん編〜

ヒカルのお料理教室〜カレーうどん編〜


どこかで聞いたことがあるような3分で料理が出来そうなメロディー…に良く似た全く別の音楽が鳴り、賑やかな文字列が画面いっぱいに広がる。

[ヒカルのお料理教室 第28回 カレーうどん]

その文字が崩れて、エプロンを付けた若い男が髪を束ねてにこやかな笑みで一礼する。

このチャンネルはある男が企画、運営しているもので、簡単レシピ、洒落た材料が要らない料理やお菓子づくりを行い、紹介するのが主となっている。

その男の名は

「始まりました、ヒカルのお料理教室!ご視聴ありがとうございます。僕が司会のカミキヒカル。そしてアシスタントの」

「MEMちょでーす!さてさてカミキさん!!今日は何を作るんでしょうか!!」


苺プロ所属、舞台役者兼女優 星野アイのマネージャー。

名をカミキヒカル。「これからはネットタレントにも力入れて行くし、やってみないか?」と勤務先兼所属事務所社長兼義父の斎藤壱護からの提案でやり始めたのだ。

ユニークな体当たり系や商品レビューは向いてない、とのことから自分が得意とする家事関連の動画を細々と投稿し始めたところ話題にはならないが、そこそこ根強いファンが付いてくるチャンネルになっていった。

今日は時短レシピの紹介と称して、youtuber MEMちょとコラボという形でトークを8割、料理を2割の構成で配信するという形だ。

では、収録風景を見て行こう。

★★

「今日はカレーうどんの簡単な作り方を伝授しようと思ってるんだ。MEMちゃん、そのトレー持って来て貰えないかな?」

「はいはーい!」

僕自身は動画編集については正直得意ではなくてチープなものを作り続けていた。

だが、アクアが五反田監督から学んだ編集技術で手助けしてくれるようになってからは見るからに凝った演出が出来るようになって来た。アーカイブ版は今回も彼が手伝ってくれる手筈だ。

そして今回は生配信で愛娘、ルビーがアイドル活動するにあたって新たに事務所に加わった仲間のMEMちょちゃんの紹介と宣伝も兼ねている。ある程度打ち合わせしているし、失敗し難いメニューだから問題無くトークに注力出来るはずだ。

「よっこいしょー

持って来ましたよ、ヒカルさん!」

「ありがとうMEMちゃん。

用意する材料は至ってシンプル。

冷凍うどん、あ、茹で済みのうどんでも良いよ。

豚細切れ肉、玉ねぎ、麺つゆ、カレールー1カケ、お水。

極論を言うとね、これをどんぶりに入れてレンジでチンしたらカレーうどんが出来上がります」

「え⁈カレーうどん、地味に作るの面倒ですよね⁉︎」

良いリアクションをありがとう。わざとらしく、だけど自然に。分野は違えど彼女も表現者という意味では僕たち役者と変わらない。

youtuberの商品レビューで紹介やリアクションが良い、上手い製品は企業の売り上げに繋がる。MEMちゃんはその上手い類の人間でしっかりそれで生活している実力の高さを感じる。

「思うよね?だけど、出来ちゃうんだよねーこれが!

あ、ちなみにこの作り方は僕が考えたのでは無くてある料理研究家の方が編み出した方法です。動画概要欄にURLを貼るので参考になりますよ。真面目に僕の家の食卓支えているから」

「ちなみに許可は取ってます?」

「当然。大事なのは根回しだよMEMちゃん。根回しさえ上手くやれば大人の世界は上手くいくようになってるのさ…ふふ…」

「わー夢も希望も無ーい」

基本僕の動画のメインは生活の知恵やズボラレシピ、時短料理の紹介だ。

紹介するにあたって事前に許可を取りに行き、動画収入のインセンティブを一部お渡しするようにしている。

ちなみにこの料理研究家の方は苺プロと提携を結んでいるので色々楽な条件でやらせて貰っている。

根回しとかコネとか本当大事。身内に引き込めればもっと良い。

まあ、僕の動画収入なんて家族で食べに行くファミレス代とどっこいなんだけど。

「MEMちゃん、君は僕みたいになったらダメだよ。しがらみとか凄いからね…という訳で玉ねぎと豚こまを一口サイズに切ってくれるかな?」

「話題の転換も急ですねー了解です!」

慣れた手つきで玉ねぎと豚こまを一口サイズに切ってくれるMEMちゃん。身体を悪くした母に代わり幼い弟達の面倒を見てきた、というだけあり手際が良い。

さて僕は僕で準備しなきゃ。

「慣れてるねー…動きに淀みが無い。惚れ惚れするよ」

「ははは…まあ慣れですよ慣れ」

「慣れ、ならもしかして知ってる?玉ねぎで泣かない方法。」

「確かティッシュを鼻につめるんですよね。玉ねぎの匂いに粘膜が刺激されて涙が出る、でしたっけ?」

「そうそう…やる?」

「やりませんよ⁈私これからアイドルになるのに⁉︎」

「ちっ…警戒心が強いね…苺プロの先輩として安心したよ」

「凄い睨むじゃないですか!セリフの中身と表情が一致してない!!」

本当に良いリアクションだ…ルビーや有馬さんとも波長合うだろうなぁ。

ただ苦労人属性な気がする。頑張れ!

「あ、カミキさん。アクた…スタッフさんからフリップが。

なになに…」

「硫化アリル、あの涙を誘発する物質だね。これは揮発性で鼻と目を刺激するので鼻を詰めるだけじゃダメ…とマジか。知らなかった」

「えっと、よく冷やした玉ねぎは硫化アリルが揮発しにくいので泣きにくいそうです!

あと水を入れたボールに10分漬けてから切ると揮発しにくいからオススメだとか!!

よし!私の面白顔撮る展開は無くなりましたよカミキさん!」

「うーん、僕今までドヤ顔でルビーちゃんやアクアくんに紹介していたのが恥ずかしいんだけど…」

「うわ、ゲストの私より事務所の後輩に間違った知識披露していた黒歴史にダメージ受けてる…」

ちなみに打ち合わせしてないくだりなので僕がガチ凹みしてるのはガチだ。

ただでさえ父の尊厳らしさが不足しているのに尊厳がマイナス切ってしまった気がする。

…切り替えよう。

「はぁ…よし、MEMちゃん!一口サイズに切ったそれとうどん一人前をどんぶりに入れてね。そうしたらどんぶりに水300mlとめんつゆ (2倍濃縮)大さじ3杯入れようか」

「はーい…割と凹んでましたよね?」

「ははは…凄いドヤ顔で語ってたんだよね僕…その度にルビーちゃんは喜んでくれてね…

さて、カレールーを丼1つに対して25g大入れようか。」

後はレンジでチン。

その後はお好みで薬味を入れたら終わりだ。

「わー…長くなりそー…それはそうと了解でーす。後はレンジでチンですかね?何分くらい?」

「4分だね。チン終わればお好みで薬味を、てな感じ。

…まあ彼女とアクアくん。社長夫妻のお子さんだけど生まれた時から知ってるし、実の家族みたいに過ごして来たからね。まあ、良い格好をし続けたいのさ。」

「…兄(父)のプライド、てやつですね!私にも弟いますけど、姉の私に格好付けたりしますねぇ。ふふふ、やっぱり男の子には意地がありますか?」

「意地しか無いねぇ。好きな人や大切な人達には出来るだけカッコいい姿を見せたいものだと思うよ。男の人はみんな、ね。

弟さんとは仲良いの?」

彼女の最大の秘密には触れないようにしながら身内トークしながらレンジのカレーうどんを取り出す。

…うん!良い出来だ。正直失敗しようがないメニューだけど。

「仲良いですね!私が大変な時とか助けてくれますし、今回アイドルになること伝えたら泣いて喜んでくれましたし!!」

「仲良いのは良いことだよ本当にね…MEMちゃん、、出来たよ!」

「わー!本当にカレーうどんが出来てるー⁉︎料理を始める前の昔の自分に紹介したかったなぁ!!」

「確かに、個人的に料理初心者にこそ触れて欲しいメニューかな。包丁を使う練習にもなるし、作り方は簡単だし、美味しいし」

事務所の同僚である料理研究家兼youtuberの彼のアイデア脱帽だ。シレッと自分考えたみたいに言っちゃったけど許して欲しい。

「カミキさんが考えた方法じゃないのに自分の手柄にしちゃダメですよー?」ケラケラ

「おっと…これは失礼…MEMちゃん、では実食としようか」

「はい!では、」

「「いただきます」」

実食後

黙々と食べると絵面は地味なので箸を二回行き来させたら後はトークだ。

「メンバー間はどう?仲良くなれそう?」

「はい!ルビーも有馬ちゃんも優しいですし、私を受け入れてくれて嬉しかったですね!!事務所自体私の夢を叶えてくれて嬉しかったです!!」

「夢を叶えるチャンスを掴んだのは君だから、言わば君自身の力で叶えたものだよ。

色々な縁の巡り合わせがあった訳だけど運も縁も引き寄せるのも実力の内さ。

それはそうとMEMちゃんは自己プロデュースの天才、と今ガチに参加していた後輩のアクア君から聞いているから是非とも魅せ方を教えてあげて欲しい」

「ゔぇ"…アクたん恥ずかしい紹介しちゃってるなぁ〜」

「地味に僕、君のチャンネルのファンで登録してるけど勉強になります。魅せ方とか自己分析の仕方とかは今度芝居に活かそうかなーと本気で考えてるぐらい、彼の紹介は的を得てると思うよ」

「本気ですか⁉︎あと登録とか褒めてくれてありがとうございます!」

ワタワタしたりしながらも良いリアクションや表情をする。

…ある程度は計算し尽くされたものと考えるとこの子もまた才能の重みを感じさせる子だ。

アクアは凄い子を連れてきてくれたものだ。

「本当に僕や事務所の面々も応援しているから新生B小町、頑張ってね!」

「はい、ありがとうございます!!」

「そうそう、ウチの稼ぎ頭の星野アイさん。今度この動画で料理するからまた来てよ」

「え"え"え"⁉︎あのあああアイさんのお料理姿とか見れるんですかー⁉︎」

食いつきが良いなぁ。多分素だね。打ち合わせに無い話だし。そして今日はサプライズもあるんだ。

「あと実食とトーク、よろしくね」

「そうだよ?よろしくー♪」

「へ?…!!!!???!!きゅう…」バタン!

「うわっ⁈MEMちゃん⁉︎」

「だ、大丈夫?MEMちょちゃん!」

後ろから現れたサプライズゲストのアイを見て色々オーバーフローしたのか気を失ってしまった様だ…まあ、

「…アイも出たし、MEMちゃんの紹介にもなったからokかなぁ?」

「ルビーのチームメイト達は良い子だから安心だね!」

「あ、カメラ回ってるからね。じゃあみなさん、また今度。see you again」

「バイバーイ」

おまけ

「やっぱりか…父さんと母さんが数秒だけ仲良く話ししていたの、話題になってる。距離感が近いとか、親しげ過ぎるとか…

まあ火消しは効く範囲だけど、次撮るやつは距離感とか気をつけて」

「「はーい」」

少し炎上しかけましたとさ

材料1人前

  • うどん (ゆで)1玉
  • 豚こま切れ肉100g
  • 玉ねぎ50g
  • 水300ml
  • めんつゆ (2倍濃縮)大さじ3
  • カレールー (25g)1片
  • トッピング 小ねぎ (小口切り)適量

お好みでニンニク、生姜を少々



手順

  • 1.玉ねぎは1cm幅に切ります。
  • 2.大きめの耐熱ボウルに、1、豚こま切れ肉、水、めんつゆを入れ、ふんわりラップをして600Wの電子レンジで豚こま切れ肉に火が通るまで、5分程加熱します。
  • 3.うどん、カレールーを加え混ぜ合わせます。ラップをして再度600Wの電子レンジで4分程加熱し、混ぜ合わせます。
  • 4.器に盛り付けて、小ねぎを散らして完成です。



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