"ヒカリ"を見つけて 前編

"ヒカリ"を見つけて 前編


「島が見えたぞ~!」


 偉大なる航路、グランドライン。その大海原を行くのは海賊"麦わらの一味"の乗るサウザンド・サニー号。

 白い水飛沫を上げながら、船は新たなる島へ辿り着こうとしていた。

 船首に立って両腕を掲げ、まだ見ぬ冒険に胸を躍らせるルフィ。


「キィ~~~~ッ!!」


 その肩の上で、同じように両腕を掲げて壊れたオルゴールを鳴らし、ボタンの瞳を輝かせているのは、わたし。

 人形のウタ。

 ちっぽけで、無力で、大好きな家族から忘れられてしまった人形の女の子。

 でも今は違う。


「ヨホホホ~。未知の島を冒険するなんて、本当にもういつ以来でしょう……。わたし、迷子にならないか心配です! なにせほら、五十年も海の迷子になっていましたから!」


 音楽家ブルック。こないだ仲間になったばかりの骸骨さん。

 彼のおかげで、わたしの肩書きは変わった。

 わたしの書いた落描きのような楽譜を読み解いてくれた彼のおかげで、ルフィはずっと欲しがっていた音楽家を、最初から仲間にしていたんだと大喜び。

 だから今のわたしは"人形の音楽家ウタ"……そんな感じの役職。二人目の音楽家ブルックに自作の曲を演奏してもらえるようになり、わたしの"シアワセ"がまたひとつ蘇った。

 そう、あの日、誰からも忘れ去られたわたしを――。

 彼が"ウタ"と読んでくれたように。


「へっ、迷子になるのが怖ぇなら、ウタみてぇに誰かにくっついてるんだな」

「いやお前が言うんじゃねえよ!!」


 ブルックのブラックジョークに迷子の達人ゾロが茶々を入れ、ウソップが盛大なリアクションと共にツッコミを入れる。こういう時のウソップの顔って本当に面白くって、わたしが表情を作れたとしてもきっとあんなの真似できない。


「未知の島と言っても、前の島で聞いた限りじゃ、ジャングルと猛獣しかいないらしいわ。ログがたまるまで大人しく待っていたいところだけど……あんたらそんなつもりないんでしょうね」

「つまり食材が豊富ってことだな。ナミさぁぁぁん! とびっきりの恐竜料理を作るから楽しみにしててくれぇ!」

「恐竜なんていつぞやの島だけで十分よ!!」


 いつかの巨人さんが決闘していた島を思い出し、ナミはトラブルの予感にまたもや頭を悩ませていた。サンジは楽観的で料理好き。瞳をハートマークにしながらも、頭の中では恐竜料理の献立を考えているのだろう。ルフィが「恐竜肉!!」とテンション上げてる。

 まだ恐竜がいると決まった訳じゃないんだけどね。……あの時はルフィと一緒に恐竜に食べられちゃって怖かったなぁ……すぐ助けてもらえたからよかったけど。


「アウッ! どーしたウタ、恐竜にビビってんのか? よぉーし! おれ様がスゥーパァーな強化装甲を……」

「フランキー、そういうのやめてって言ってるでしょう」


 わたしを改造したがるフランキーに、いつものようにロビンが辛辣な言葉を投げかける。うん、もっと言ってやって。改造なんて絶対にイヤだから。


「おれ虫よけの薬取ってくる! 虫に噛まれて変な病気になったら大変だからな」


 初めてナミを診察した時を思い出したのか、チョッパーは船医らしい配慮で医務室に駆け戻った。虫かぁ。わたしの場合、噛まれても病気にはならないし、ちょっと破れるくらいなら縫ってもらえばいいんだけど、下手したら内側に入り込まれて大変な事になるからなぁ。痛みや痒さはないんだけど、体内を虫が動き回るのはちゃんと分かって、神経がゴリゴリ削られるような恐怖を覚えた事がある。


 わたし、神経ないんだけどね! ヨホホホ~! なんちゃって。


「キィ、キィ」

「しししし、ウタも恐竜楽しみだってよ」

「ギィ」


 いや……恐竜はちょっと……。

 またルフィと一緒に食べられちゃったらどうしよう……ゾロのナビゲーターでもしてようかな……安全を考えるならサンジかロビンと一緒の方が……。

 あ、でもブルックとも冒険してみたいな。彼にとっては久々の冒険だもん、きっとすっごく楽しんでくれそう。




(×) (×)




 ――――そんな風に、わたしは無邪気に、楽しみに――でも――。


 わたし達が島に上陸してすぐ――ソレは起こった。




(×) (×)




「ぎゃああああああ! ウタが鳥にさらわれたあああああ!?」


「ギイイイイイイイイ!?」


 上陸して大喜びするルフィ、その麦わら帽子の上によじ登ってわたしもテンション上げて力いっぱいオルゴールを鳴らそうとした瞬間、鳥が、鬱蒼と茂るジャングルの中から飛び出してきて一瞬でわたしを鷲掴みにして、飛び去った。


「ウタを返せ!」


 遠のく地上。視界の半分は海の青、もう半分はジャングルの緑。

 そんな中、猛スピードで追いかけてくる肌色の――ルフィの手だ! 安堵の気持ちが広がった瞬間、視界が回転し、ルフィの手が消えた。


「しまっ……!!」


 鳥さん空中大回転。洗濯機に放り込まれたかのようにわたしの視界はグルグルグルグル。視界に映る青が海なのか空なのかも判断つかない。これじゃあ護身用のタバスコや衝撃貝だって取り出せない。どうすればいいのぉ~~~~!?


「おれに任せろルフィ! ウタを巻き添えにしねえよう……必殺、鉛星!!」


 遠くでウソップの声が聞こえた気がして――。

 鳥の悲鳴と同時に震動がわたしを襲ったかと思いきや、視界の半分が突如として消え、浮遊感がわたしを包み込んだ。半分になった視界は相変わらずグルグル回っている。あの青が海なのか空なのかは分からないけど、緑色も視界の右から左へと流れては消え流れては消え、けれど次第に近づいてきて、近づいてきて、ああ地面だ、近づいてきて、助かる、近づいて――。




 枝が。


 ――――ブツンッ。


 ……………………あれ? わたしは緑色の地面に向かっていたはずなのに、どうして、真っ暗なの?


 奇妙な感覚に陥ったままわたしは全身を叩きつけられ、一度だけ跳ね上がり、それからコロコロと転がった。温度は感じないけれど物に触れている感覚はあり、きっと今は土の上。小石や、葉っぱもある。……もう転げ終わり、地面に突っ伏している。

 きっとうつ伏せ。顔の前に地面があるから真っ暗闇。


「ギ、ギィ……」


 起き上がろうとして地面に手を……あれ? 手が、空を切る。

 あれ? ……あれ? おかしいな。

 ああ、地面の感覚があるの、背中だ。じゃあ仰向けに倒れてるんじゃないか。

 わたしは上半身を起こし、顔を拭う。なんだか暗い。なにかかぶさってるのかな?

 ごしごし、ごしごし……。

 ……あれ? なんか……顔が平らだ……引っかかるものがないというか……いや、右目がちょっと破けてる。

 ……破けてる? 右目は破れないよ。だって、わたしの目はボタンだもの。

 ボタンの下が、破れてる。

 ボタンの付け根が、破れてる。

 ……え?

 眼の前は真っ黒なのに、頭の中は真っ白になって、今度は左目を注意深く探る。こっちは破れてはいない。でも、あれ、糸が伸びてる……というか……ほつれてる? そんな手触りがあった。


 …………あれ?

 真っ白な思考が、理解を経て、恐怖に墜ち、真っ黒に染まる。


 わたしの――目――ボタン――が――。


 失くなっちゃった――?




(×) (×)




 背筋なんてない身体なのに、わたしは、背筋というものを知覚できた。

 その背筋は冷たい氷でできていて、先端は尖っており、脳髄に突き刺さって、木の根っこのように心全体を掘り返して、冷たく、暗く、凍えさせていく。

 目眩がする。何も見えないのに、何の変化もないのに、全部真っ黒なのに、わたしの視界はグルグルと回転を続けている。もう鳥に捕まっていないのに、地面を転がってもいないのに、グルグル回転が止まらない。止まらない。止まらない。


「ギィ、ギィ……」


 立ち上がり、歩き出そうとして、何もないのに転んでしまう。

 立ち上がり、それでも歩こうとして、何かに躓いて転び、何かに頭をぶつけてしまう。


「ギィ……ギィ……」


 ペタペタと触ってみれば、多分、木の幹。

 足元にあるのは、多分、根っこ。


 ここはどこ? ジャングルの中?


「ギィ……」


 ボタン……ボタンはどこ?

 わたしのボタン……わたしの目……わたしの……ヒカリ。


 地面に這いつくばって、手のひらを左右に動かす。ザラザラとした土、落ち葉……尖ったものに触れ、破れてしまうのではと慌てて手を引っ込める。

 …………今のは、枝? 地面に落ちた枝、の、尖った部分……だと思う。


「ギィ……」


 …………怖い。見えないのは怖い。

 わたしの感覚は鈍い。嗅覚と味覚はないし、触覚も「触れている」という事が分かるくらいで、暖かいとか冷たいとか、痛いとか、分からない。

 耳は聞こえる。風がジャングルの木々をざわめかせている――。


 ガサッ! ガサガサッ!!


 明らかに、風ではないものが木々を揺らした。距離は遠い。ナミが言っていた、この島には猛獣がいると。猛獣以外にも、わたしをさらった鳥だっている。チョッパーは虫よけを考えていた。危険な虫もいるかもしれない、人形くらい噛みちぎるような虫とか。


 ジジジジジ。ジジジジジ。

 グルルル……。

 ガサッ……ガサ……ボキン!

 ホーッ! ホーッ、ホウッ!

 ジジジ。ジジ。ジジジジジ。

 クワーッ! クワワッ!

 ガァアアアッ! バキボキッ、ガルルルッ! ガァァァ!!


 …………何の……音なの……?

 虫、鳥、木々のざわめき、獣の争う声。

 聞こえる……聞こえるけど……"どっち"から聞こえるかは分かるけど……"どっち"なのか確信が持てない。音の反響で間違った方向と勘違いしていないか。あの獣の声は本当にあっちなのか。

 虫の声が聞こえる。本当に? あれは虫の鳴き声でいいの?


 ザッ、ザザッ。


 地面を擦る。ボタン、わたしのボタン、どこ? どこにあるの?


「ギィ、ギィ……!」


 見えない……暗い……暗くて見えない……目が見えない……!! ボタン、目が、わたし、返して、いやだ、人形になって、わたしもう、失くしたよ? いっぱいいっぱい、失くしたんだよ? なのに、なんで、ルフィがわたしを見つけてくれて、名前を取り戻してくれて、友達、いっぱいできて、音楽家も、なのに、ヒカリ……わたしのヒカリ……どこ……? ヒカリ……返して……わたしのヒカリ……。


「ギィ……ギィ……!!」


 返してよぉぉぉぉぉぉっ!!


「ギィィィィィィ!!」


 ……………………………………。

 ない…………。

 ヒカリ…………失くしちゃった……。


 わたしの……。

 ヒカリ……。




「ウタァァァァァァ――――――――ッ!!」


 ウタであったわたしに、ウタと名付けてくれた声が、ウタの名を叫んでいるのが聞こえた。

 わたしの心にあったのはそれだけだった。


「ギィィィィィィ――――ッ!!」


 だから返事をするように叫んだのもただの条件反射で、助けを求めるのでも、居場所を教えるのでもなく、ただルフィの名を叫び返そうとして、叫び返せなかっただけだった。

 だってわたしは喋れないから……歌えないから……壊れたオルゴールの音を鳴らすしかできないから……。


「ウタ、見つけた!」

「ギイィ、ギイ、ギィ……!」


 どこ? ルフィ、どこ? 近くにいる、いるのに、見つからない。見つけられないよルフィ。

 でもルフィはとっくにわたしを見つけていて、わたしの身体が持ち上げられる。手のひら、指、両手で掴んでる、それが分かる。


「よかったぁ~、無事だったか! 心配したぞ~!」

「ギイ! ギイ!!」

「ん? どうしたウ……タ…………」


 ルフィの声が固まり……。


「おぉーい、ルフィー」

「ウタちゃんは無事かー!?」


 他の仲間の声も近づいてきて……。


「うわぁぁぁぁぁぁ!! ウタの目が無くなってる~~~~~~っ!?」


 ルフィが大声で、わたしの現状を告げた。




(×) (×)




「目が無くなったっつっても、ボタンだろ? それで見えなくなるもんなのか?」

「間違いないわ。……ウタ、見えないのよね?」

「ギィ……」


 フランキーの訝しげな疑問、ロビンの沈痛な質問に、わたしはうなずいて答えた。

 誰かが息を呑んだ、ような気がした。

 おかしいね。耳で判断する事柄なのに、目が見えなくなると、耳で判断できる事も正しいのかどうか分からなくなる。

 怖い。怖いよルフィ。きっとわたしを抱きしめてくれているルフィ。


「ど、どどどどど、どーしよう!?」

「落ち着いて」


 この声はロビン。


「距離がありすぎてわたしの能力は間に合わなかったけど、ルフィの手に目を生やして、多少は何があったか見えていたわ。右目は鳥に手放される時に爪で引っかかれてボタンがちぎれてしまったみたい。でもまさか左目まで無くなってるなんて……ジャングルに落ちてから取れてしまったの?」

「ギィ……」


 正直よく分からない。でも多分、左目は枝に引っかかってちぎれたんだと思う。


「じゃあボタンをくっつければ、また見えるようになるんだな!?」

「……多分ね。手分けしてボタンを探すしかないわ。」

「おいおい、この馬鹿でけぇジャングルで、ちっぽけなボタンを2つも探せってのかよ。そいつはなんともベリーハードだぜ。それより、おれ様の予備の目玉でもつけてやった方が早ぇんじゃねえのか?」

「…………最終手段として、それも考えた方がいいかもしれない」


 わたしの改造に絶対的に批判的だったロビンが、あろう事か、フランキーの言葉を肯定した。それほどまでの事態に陥っている。


「ひとまず、ウタちゃんは船に連れ帰ろう。また鳥にさらわれたらシャレにならねぇし、ここに来るまででも十頭くらい獣に襲われてんだ。目の見えないウタちゃんを抱えたままボタン探しってのは危険だろ」


 ……サンジ。


「おれはボタンを探す!」

「おれもだ! 山遊びならおれの右に出る奴はいない!」


 ……ルフィ。ウソップ。


「わたしも手伝うわ。"目"も"手"も多い方が便利でしょう? それとチョッパーにも来てもらいましょう。匂いでボタンを探せるかも……」


 ……ロビン。みんな、ありがとう。


「じゃあおれは一度、フランキーと一緒にウタちゃんを送り届けてから、ボタン探しするよ。レディの危機を放っておけねえからな。さ、ウタちゃん。こっちおいで」

「サンジ、フランキー、ウタを頼んだぞ」


 こうしてわたしはサンジに受け渡され、サウザンド・サニー号へと戻った。

 その道中、何度も獣の鳴き声がして、それを撃退する音がした。




(×) (×)




「キャアアアアアアアアアア!! ウタの目がああああああああ!?」

「目が、無い! ビックリして目玉が飛び出るかと思いました! わたし、元から目は無いんですけどね!」


 見えないから、船に着いたと聞かされてもそれを確認できず安心できなかった。

 なのにナミの悲鳴、ブルックのスカルジョークを聞いた途端、戻ってこれたんだと確信できて安心する。


「ナミさん、見ての通りウタちゃんの目のボタンが両方ともなくなっちまって……目が見えなくなっちまった。ルフィ達は今、ジャングルの中でボタンを探してる。おれもすぐ探しに行く。チョッパーも来てくれ、匂いでボタンを探せるかもしれねぇ」

「わ、わかった!」

「ナミさんは船でウタちゃんと一緒にいてやってくれ。……おいクソマリモ! フランキー! てめぇらは留守番だ、二人になにかあったら容赦しねえからな!」

「うるせえ、とっとと行ってこい。つうかおれ達も探しに行かなくていいのかよ」


 ゾロもお留守番組みたい。ゾロがいれば何が襲ってきても安心だね。


「てめぇにジャングルのどこに落ちたかも分かんねぇボタン探しなんかできる訳ねえだろ! すっこんでろ!」

「まぁ、いざとなればおれ様がウタ専用スーパーアイをつけてやるから安心しな! もちろん、派手に光る機能もバッチリつけてやるぜ!」

「つけんな!!」


 フランキー……今はその心遣いが嬉しい……嬉しいけど……うん、嬉しいからいいや。ありがとうフランキー。


「それじゃウタちゃん、待っててくれよ。うおおお! 行くぞチョッパー!」

「おー!」


 二人の足音が遠のいていく。

 そして船に残されたのはわたし、ナミ、ゾロ、フランキー……でいいんだよね?

 仲間の顔も、声も、みんなみんな覚えてる。忘れるはずもない。

 なのに今、ここに誰がいて誰がいないのか、自信が持てない。

 誰が残って、誰がボタン探しに行ってるのか、ちゃんと聞いていたはずなのに。

 見えないだけで……世界はこんなにもあやふやで……不確かで……曖昧で……。


「ギィ……」


 わたしは再び、恐怖に震えた。


「…………全身ホコリまみれじゃない。洗う……前に、右目のとこ縫わないとね」

「なあ。他のボタンを縫いつけるんじゃ駄目なのか?」

「ちょっとゾロ、そんな単純な……いえ、そうね、試してみる? ウタ」


 コクンと、わたしはうなずいた。

 人形の身体とはいえ、ずっとルフィと一緒にいて、みんなと冒険してきた身体だから、パーツひとつだって失いたくないってくらい愛着はある。

 でも今は、この真っ暗闇が、怖い。



(×) (×)




 チク、チク、チク。

 チク、チク、チク。


 目の辺りを細い感覚が通過する。

 針と糸が目のあった場所を通っている。

 痛みはない。

 今は傷口を縫ってくれてるのかな? もう終わって、新しいボタンをつけてくれてるのかな?


 チク、チク、チク。

 チク、チク、チク。


 わたしが怪我した時は、いつもナミが縫ってくれた。直してくれた。

 ナミの手の感触が、ナミの指先が、わたしの恐怖をわずかにやわらげてくれる。


 チク、チク、チク。

 チク、チク、チク。


 ルフィの麦わら帽子が傷ついた時も、ナミが縫ってくれたんだよね。

 あの時は本当にありがとう。あの帽子は、シャンクスから預かった、とても、とても大切な帽子だから。


 チク、チク、チク。

 チク、チク……。


 頼りになる仲間がいる。みんながいる。

 だから大丈夫。きっと大丈夫。

 みんなを守るより、守られる事の方がずっと多いわたしだけど……。

 仲間として、これからも一緒に冒険するんだ。

 だから……目が見えないとわたし……本当の足手まといになっちゃう……。


 ………………。

 …………。


「ギィ?」


 針が止まった。疲れたのかな? 休憩?


「…………ウタ」

「ギィ」

「……見える?」

「……………………」

「新しいボタン……もう、付け終わったわ」

「……………………ギィ」

「……そう」


 押し殺すような、ナミの声。

 ……ああ、やっぱり。

 オモチャにされた本来のわたしのボタンじゃないと、目にはならないんだ。

 そっか。

 …………そっかぁ。


「ヨホホ……落ち込むのはまだ早いですよウタさん。こうしてる今も、ルフィ船長達があなたの瞳を探して……」

「そうだぜウタァ! ナミがお前を修理している間に、おれ様の準備も完了した! 見ろ! これがお前のサイズに合わせた、ウタウタアイライト!!」


 フランキー、見ろって言われても見えない。見えないから。


「ちょっとフランキー! その義眼、どうやって装着する気?」

「そりゃ目玉んところを切り開いて、中に押し込むに決まってんだろ」

「あんた、それ本気で言ってたのね……」


 ナミの声は疲れと呆れに満ちていた。そして両手でわたしを引き寄せると、やわらかな固まりに押しつけられた。フランキーに取られないよう胸元に抱えてくれてるのかな。


「ギィ……」


 …………心配かけて……ごめんね……。

 わたし……やっぱり一味の足手まといなのかな……。

 一生懸命……わたしも一生懸命、みんなの手伝いをして……みんなも、わたしに助けられたって言ってくれてたけど……わたし……わたし、もう……駄目なのかな。


 ~~~~♪


 そこに、バイオリンの音色が聴こえてきた。

 この曲は……わたしの作った……。


「ヨホホ……まだ曲名もなく、歌詞も未完成。ですがわたし、この曲、とても好きです。完成するのが楽しみですねぇ。ヨホホホー!」


 ブルック……でも、目が見えなきゃ……さすがにボディランゲージだけで全部を伝えるのは難しくて……音楽って……色んな形で楽しめるけど……歌えなくなってもわたし……音楽を楽しむ事ができていたけど……。

 目が見えなくなっても、音楽の楽しさが……減っちゃうんだね……。


「ギィィ……ギィィ……」


 やだよぉ……もう、これ以上、わたしから歌を奪わないで……。

 音楽を奪わないで……。

 仲間を……奪わないで……。

 もう、みんなの顔を見る事ができないなんてなったら……わたし……。


「ギィィィイイイイイ……!!」

「キャッ!? う、ウタ! 暴れちゃダメよ、ねえ! ウタっ!

「ギィィィ! ギイイイイ!!」


 "ヒカリ"の欠落は、自分の肉体だけじゃなく、精神までも欠落させるのを、これ以上ないほど実感させられた。

 わたしはまた失ってしまった。肉体も、精神も……削ぎ落とされていく……。


 後編へ。

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