パルデア忍者がゆく!風呂編

パルデア忍者がゆく!風呂編


パルデア地方、しるしの木立ち。

鬱蒼とした森の中を軽い足取りで歩いてくるのは、この場所にアジトを構える少年・シュウメイである。

独特の衣装に身を包み、とある事情から「ボス」と呼ばれる立場ではあるものの、頬を緩ませてアニメの主題歌を口ずさみながら歩く姿は年相応といったところだろうか。両手の袋にしきりに目をやりながら歩みを進め、アジトの門をくぐると複数人の少年少女に「お帰りなさい、ボス!」と出迎えられた。

シュウメイはそんな彼らに軽く会釈をするとテントの裏へと向かっていく。そして水の入ったタンクと空のドラム缶を手に取り、相棒であるブロロロームの背中にうまいこと載せるとアジトを後にした。

そのまましばらく森の中を歩き回り、適当な平地を選ぶとドラム缶を配置して水を注ぎこむ。

「ブロロローム、オーバーヒート!」

シュウメイがそう声を上げると、たちまちドラム缶は炎に包まれた。燃え移らないうちに火を消してやれば準備は完璧。

彼が作ろうとしていたもの。それは……

「準備万端、時は来たれり!ユー達、ウキウキバスタイムスタートでござるよ!」

そう、風呂である。

ポケモン用のビニールプールも慣れた手つきで拵えると、シュウメイは改造制服を脱ぎ捨てた。空気を孕んだ頭巾も風にはためくコートも、この服にはいささか不釣り合いな灰色の下着も全て、である。

一糸纏わぬ姿になったシュウメイは勢いよくドラム缶風呂へ飛び込むと、手持ちのポケモン達をボールから繰り出した。そしてその様子を眺めながら、のんびりとくつろぎ始める。

「極楽でござるなぁ」

空には満天の星が輝き、涼しい風が頬を撫でる。プールに目をやれば、ポケモン達も楽しそうな様子だ。

水辺を住処としていたドヒドイデやドラミドロは勿論のこと、スカタンクも器用にパシャパシャと飛沫を上げて泳いでいる。体長の大きなブロロロームは傍で休んでいたが、時折プールの中を羨ましそうに覗いていた。そんな相棒の様子に気付いたシュウメイはおもちゃの水鉄砲を取り出し、湯を浴びせてやる。毒液をまき散らして嬉しそうに鳴き声を上げる姿はとても可愛らしく、シュウメイもどこか嬉しそうだ。

そうして暫く露天風呂を満喫したシュウメイはポケモン達を洗ってやるべく、隣のプールへと移動した。袋の中から色とりどりの石鹸を取り出し、力いっぱい泡立てる。ふわふわの泡で尻尾を包まれ、スカタンクは満足そうに目を瞑った。辺りがいい匂いで満たされてゆき、全員がうっとりとした表情を浮かべていた…その時だった。

ガタン!という音を立て、ドラム缶がいきなり倒れたのだ。慌てたシュウメイが周囲を見回すと、ブロロロームが申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。おそらく感情が昂ったか何かでうっかり蹴飛ばしてしまったのだろう。

しょぼくれた様子の相棒を見ていたたまれない気持ちになったシュウメイはそっと彼に近寄ると、大きな声を上げる。

「忍者はいかなる状況でも冷静に、されど全力で……今宵はウキウキバスタイムの予定であったが……よし!これよりウキウキ水遊びタイムに変更!心ゆくまで遊びつくそうぞ!」

遊び、という単語に反応したのか、他のポケモン達も期待に満ちた眼差しでシュウメイを見つめ始める。

こうして入浴……もとい水遊びが始まったのであった。


普段は忍びの末裔を自称して修行に励むシュウメイだが、今だけは素肌を晒して子どものようにはしゃいでいた。

引き締まった白い肌に月光が降り注ぎ、薄っすらと浮かんだ肋骨を際立たせる。指先を彩る極彩色のネイルが動くたびに艶々と輝き、まるで宝石のようだった。

しかし、その輝きも五体のポケモンの元気なエネルギーには勝つことができない。泡や水、果ては泥まで。ほのおタイプだったら非常にまずいものがシュウメイ目がけて飛んでくる。あっという間に体中が泥水に包まれ、髪もさらに乱れてしまった。

しかしシュウメイは嫌がる素振りを見せるどころか楽しそうに笑い声を上げ、先程の水鉄砲を取り出す。

「ユー達がその気なら…我も本気でいかせていただこう!」

その掛け声とともにシュウメイとポケモン達のバトル…もといじゃれ合いが始まった。全裸であるにもかかわらず地面を転がりまわり、空に向かって水鉄砲を放ち。

こうしてヘトヘトになるまで遊びつくしたシュウメイ達は泥を払い落とすこともなく片付けを終えると、互いに身体を支えながらアジトへ歩いて行った。

流石にタオルを腰に巻いてはいるものの裸同然の少年とどくポケモン達がフラフラと歩いているのはなかなかな光景だが、本人たちは満足そうだった。


それから十数分後のこと。

「ボス、風呂沸いてますよ。どうぞ」

湯浴みをしてきたはずなのに何故か以前より汚れているシュウメイを誰も気に留める様子はなく、一人のしたっぱがタオルと寝間着を手渡す。

シュウメイはかたじけない、とだけ答えるとそれらを受け取り、バスルームのあるテントへと向かっていった。

ボスがアジトに帰還するたび発生するこのイベントに、周囲もある程度慣れてしまっているようだった。困惑しているのは新人のしたっぱのみ。しかし彼らはタオル一枚で泥にまみれた姿のボスを止めることもできず、ただ見送ることしかできなかった。

この状況は一体何事?というかそもそもボスってあんな顔だったんですか?疑問が生まれたとしても、答える者は誰もいない。周囲にいるのは何事もなかったかのように談笑するしたっぱ達と、ボリボリとビニールプールを齧るベトベトンだけなのだから。

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