バレンタイン礼装フレーバーテキスト
・復讐王妃バーヌマティー
「無糖マサラチャイ」
バーヌマティーからのバレンタインチョコ……ではないが、バレンタインの贈り物ではある。
彼女はバレンタインを「本命の相手にのみチョコを渡す日」だと認識していたため、当然夫ドゥリーヨダナのための豪華なチョコケーキしか作っていなかったのだ。
バレンタイン前日になって無二の友カルナ──カルデアのバレンタインにカウラヴァの中で誰よりも詳しい男──に「バレンタインはチョコレートで身近な者への感謝を伝える日だ」と告げられ、夫以外には何も用意していなかったバーヌマティーは大パニック。ドゥリーヨダナの派生サーヴァント達にはチョコ味のマドレーヌを、カルナには太陽を模した、アシュヴァッターマンにはチャクラムを模したホワイトチョコを乗せたチョコモンブランを、義弟達と義妹達にはミニチョコタルトを、その他の人物にはチョコクッキーを大急ぎで作ったところで、バーヌマティーの体力が尽きた。普段は霊基に習合されている99人の義妹たちを解き放ち、彼女たちに各々の夫へのチョコを作らせていたため普段よりも弱っていたのだろうと、倒れた彼女を介抱したユッダは言っていた。
そして翌朝、バレンタイン当日。バーヌマティーは絶望するが、同時に安堵する。
マスターへのチョコを作っていなかったことに気づいた時は、ガンダルヴァ王に捕らえられたのをパーンダヴァに救われた時のドゥリーヨダナを彷彿とさせるような凹み方をしていたのだが、マスターにチョコを渡す女性サーヴァントの多さにバーヌマティーは閃き元気を取り戻した。
「あんなにチョコを渡されているんだもの、私くらいはチョコじゃないものを渡したっていいわよね?」
こうしてマスターに渡されたのが、“甘くない”マサラチャイである。スパイスの配合は彼女オリジナルのもの。そして砂糖を入れていないのか、全然甘くない。
「あんなにチョコを貰ったら、チョコにうんざりするでしょう。だから私特製のマサラチャイをあげるわ。これで甘ったるいチョコを流し込みなさい」という気遣いで渡されたマサラチャイ。量はなんと4L。しかも鍋には保温機能と防御魔術がついているため、重い。
サーヴァントから貰ったチョコの甘さが辛くなってきたら、マサラチャイでリセットしよう!
ラクシュマナ「アレをマスターに贈るなんて、母さんセンスいいじゃん! ……ねえ。日本じゃマサラチャイはふつう甘いのに、マスターがチョコを食べる合間に必ず飲むように僕が好きな方の無糖にするなんて、母さん策士だね」
バーヌマティー「当然よ。マスターがいなければ、私は二度と夫にも、あなたと娘にも会えなかったのだから」
・水着バーヌマティー
「ラーメン型チョコ」
バーヌマティーからのバレンタインチョコ。
見た目はどう考えてもラーメンだが、実はチョコである。
……確かに麺は箸で掴めるが、ホワイトチョコである。
……確かにスープもあるが、ホットチョコである。
視覚と味覚がバグを起こしそうになるが、こんな見た目でもチョコである。ラーメンにハマりにハマったバーヌマティーが、工芸神ヴィシュヴァカルマンの権能を用いに用いて作った、奇妙極まりないチョコである。毎年バレンタインに膨大な量のチョコを貰うマスターを気遣ってか、2Lの無糖マサラチャイもセットでついている。うーん、多い。
当然と言われれば当然だが、ラーメンの形を保つためにあらゆる魔術がかけられている。しかし、心配ご無用。“マスターが”食べる限り、毒や呪いになるようなことはない。
・ラクシュマナ
「カバディ開始のコイントス」
ラクシュマナ〔カウラヴァ〕からのお返し。
カバディはインド発祥のスポーツで、一人の選手が相手の7人の選手にタッチしに行く競技である。起源には諸説あるが、その一つに「『マハーバーラタ』に語られるクルクシェートラ戦争の13日目に、アルジュナの息子アビマニュがカウラヴァの総司令官ドローナの指揮するチャクラ・ヴューハ(円形陣)を突破し孤軍奮闘した末にカウラヴァの勇将たちに寄って集って殺された」というものがある。
ラクシュマナは、この時アビマニュに殺されたことがサーヴァントとなった今でもトラウマになっている。つまり、そんなラクシュマナがカバディをするということは、生前を乗り越えるという意思表示になると言える。ご丁寧にレイダー(攻撃する側でコートに立ち守備側の7人の選手に向かっていく1人の選手)にアルジュナを、自分以外のアンティ(守備側の選手)にドゥリーヨダナ、ドゥフシャーサナ、ヴィカルナ、カルナ、アシュヴァッターマン、ジャヤドラタを指名するあたり、本気度は高い。
母と姉を救い、そして父が至る可能性を忘れず記録したカルデアのためならば、出来ることなら何でもやる。女装した男性へのトラウマは拭えなくても、もう二度と、戦場で負けたくないから。
──そして、二度と親父にあんな顔をさせたくないから。
・ラクシュマナー
「ドヴァーラカー再現チョコ……?」
ラクシュマナーからのバレンタインチョコ。
彼女が嫁ぎ、愛し、最期は共に海底へ沈んだドヴァーラカーを、可愛くチョコレートで再現した。カルデアには今のところ来ていないクリシュナとその兄バララーマ、妹でありアルジュナの妻でもあるスバドラー、クリシュナの息子で愛神カーマの転生した存在プラデュムナ、そしてラクシュマナーの夫サーンバがホワイトチョコレートで再現されている。その他の建物などは、上手くクッキーなどを組み合わせて出来ている。全てチョコだと食べていて飽きるだろうという彼女の気遣いだ。手前にある海を再現したものもゼリーなので、美味しく食べられる。
しかし、このドヴァーラカーチョコ、背景になっている高い壁のようなビスケットの裏の方を見ると、そこにはクルの都ハスティナープラが再現してあるのだ。そこでは若かりし頃のドゥリーヨダナとバーヌマティー、ドゥフシャーサナ、ヴィカルナ、カルナ、アシュヴァッターマン、その他クルの長老たちが、幼い頃のラクシュマナとラクシュマナーを囲んでいる。
父ドゥリーヨダナらカウラヴァの悪逆を嫌っていても、ラクシュマナーは幼い自分を果てのない愛情をもって育てた家族と友を愛しているのだ。
・チトラーンガダー
「失敗作と完成品」
チトラーンガダーからのバレンタインチョコ。
バレンタインを知ったチトラーンガダーは、夫アルジュナにチョコを渡すべくチョコのカタログを見ていたのだが、友人であるバーヌマティーが彼女の夫ドゥリーヨダナへのチョコケーキを試作する姿を見て一念発起し、自分もアルジュナに手作りチョコを渡そうと決意した。
……のだが。お菓子作りはチトラーンガダーが生前行っていた料理とは勝手が違い、何度も失敗するばかり。1週間前になってビーマに頭を下げ、協力してもらうことに。義妹と弟のためだと喜び勇んで協力したビーマは、後にマスターに「斬新な体験が出来た」と語っていた。
その上で、チトラーンガダーが渡してくれたチョコを見る。最初に作った失敗作と最後に作った完成品を見ると、彼女とビーマの血の滲むような努力が垣間見える。マスターにも渡した理由は、「マスターには言葉に表せないほど世話になっているから、感謝を伝えるために渡したかった」からだという。失敗作を渡したのは、ビーマのおかげで上達したということを忘れないためらしい。
なお、アルジュナに渡った本命チョコはマスターのものよりも当然手が込んでいる。ビーマ曰く、「アルジュナがあんなふうに笑うのは久しぶりに見た」そうだ。
・シャクニオルタ
「ドゥリーヨダナオンリー同人誌」
シャクニ・オルタからのお返し。
かつての特異点では忘れていた甥ドゥリーヨダナへの愛を思い出す形で取り戻した結果、オリジナルのシャクニよりもドゥリーヨダナへの愛が拗れてしまった。
その結果シャクニオルタが行ったことが、ドゥリーヨダナオンリーの開催である。ハワトリア特異点での一件でマスターとジャンヌオルタと黒髭がアルトリア・アヴァロンに「アルトリア縛りをするならアルトリアオンリーを開催しなさい」と説教していたのを見て閃いたそうだ。
この同人誌には、ドゥリーヨダナの関係者たちのドゥリーヨダナへの愛がぎゅうぎゅうに詰められている。例えばカリ化ヴィカルナやラクシュマナはドゥリーヨダナが美味しいと言った珍味集を寄せている。もちろん“ドゥリーヨダナ”は派生した存在でもOKなので、アーユスへの兄弟愛を書き殴ったアーチャーのカルナの怪文書もランサーのアシュヴァッターマンの手紙のコピーもあるし、アルジュナ・オルタがスヨーダナへ宛てた手紙の原文も掲載されている。巻末には、ドゥリーヨダナとその派生サーヴァントたちの勇姿が収められた写真集がある。撮影者はバーヌマティー、二人のドゥフシャーサナ、二人のヴィカルナ、二人のカルナ、二人のアシュヴァッターマン、ラクシュマナ、アルジュナ・オルタ、そしてシャクニオルタである。
「マスター。どうかお前さんも、わしの……否、“姉上の最愛の子”・ドゥリーヨダナを愛しておくれよ?」
──シャクニがオルタに成り果てても、ドゥリーヨダナへの愛を取り戻せた理由が垣間見えた気がする。