バレンタイン、ハロウィン。私の好きな言葉です

バレンタイン、ハロウィン。私の好きな言葉です



泣く子も黙る悪の組織"クロスギルド"にもバレンタインの季節がやって来た。「バレンタイン⋯?ウチはハデにやろうぜ!!」というバギーの宣言のせいだろう、クロスギルドの組織員たちの中には一ヶ月も前から準備を始めるものも少なくなかった。


バレンタインまであと一週間を切ったクロスギルドで"元七武海"サー・クロコダイルの表情は険しかった。チョコ、バニラ、キャラメル、苺、たまに香ってくるのはワノ国の小豆というやつだったか甘い香りが島全体を包み込んでいた。甘い香りから逃れようと島のはずれで深いため息をつく。甘い香りと共によぎったヤツの顔と嫌な予感を振り払うように男は葉巻に火をつけた。

ちょうどその頃の楽園で、この甘い季節だけのお宝たちを全て貯蔵庫に運び終えた男は一息つき飴を口に入れた。


嫌な予感というのは当たるものだ。聞き慣れた声がドアノブを回そうとした手を止める。

「ありがとう。お返しといっちゃなんだがこの中から好きなのを⋯」「泣くほど気に入ってもらえて嬉しいよ。え?こんなにお返しくれるのかい?」「ウチの弟が世話になってるねダズ君。コレはほんの気持ちだよ」

巻き込まれたくないので気配消して見守る。バレンタインを世界で一番楽しんでいるであろう男はこちらに気付いてないようだ。『頂き物』と書かれた袋はもうそろそろ溢れ出しそうである。健康のためにも甘やかさないで欲しいが⋯

一段落して『頂き物』袋の中を確認した後、なにやら奇妙な動きをしだした。毒でも盛られたのではないかと近づいたおれを見て、動きが少し激しくなる。

「やあクロ!ハッピーバレンタイン!」覇気を纏いながらおれに高級そうな菓子の箱をいくつか押し付けてきた兄に問う。

「⋯海にいたラクダのキャラバンはアニキのか?」「ああ!頂き物を運ぶ子がだろ、プレゼントを運ぶ子だろ、あと三頭はフォンデュの具材だよ。甘いものから辛いもの、義務まであるさ。この日のために野生のラクダをショコラに説得してもらっ⋯」

眩暈がしてきた。いつのまにかボーっとしていた俺の額にいきなり手が置かれる。「熱はなし⋯脈はいいか。」と呟いたかと思うといきなりおれをラクダに乗せた。

「昨日食べたものは」と聞きながら自分も後ろに乗ってくる兄に食べてないと返す。

そうか、と何か納得したような兄はラクダに指示を出した。


兄に口に入れられたロリポップキャンディが柔らかくなったころ、おれ達は広場に着いた。そういえばバギーが巨人族でも楽しめるぐらいデカいフォンデュパーティをすると宣言したな、とチーズの泉やチョコの滝を見て思い出した。

キャンディを噛み砕き少し働き始めた頭でそんなことを考えていた俺の口にチョコでコーティングされたマシュマロが突っ込まれた。

「低血糖だよ。お仕事お疲れ様。」そう言いながら三頭のラクダから袋を下ろした兄が具材をいくつか串に刺す。

「こういう時にはお肉とかより飴の方がいい」もぐもぐと口を動かしながら次から次へと運ばれてきた串を口に入れる。普段甘いものはあまり食べないし辛党よりだろうと思う。だが美味い。止まらない。体が求めるままおれはしばらく食べた。


一段落し、フォンデュの材料をバギーに渡しに行った兄を待ってる間、自分が何も用意していないことを思い出した。

いらない、大丈夫だと言うであろう兄さえも『欲しい!』と言ってくれるようなものを探し来よう。兄は自分の欲望には忠実なのだが理屈めいてるとこがある。そんな兄が時たま見せるあの顔が浮かんだ。

少し口が緩んでしまっていることにクロコダイルは気付かなかった。




「見ろクロ!キャラメルフォンデュがあるぞ!!行かねばだ!」

「⋯おい、トマトフォンデュがあるぞ、来い」

「「こっちの方がいいだろ?」」


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