バケモノはヒーローになれない 第一話(仮)

バケモノはヒーローになれない 第一話(仮)



ヒーロー。


と、言われたら、どんな存在を指すのだろう。

格好いいスーツやコスチュームを着ている?

何か特別な力を持っている?

少なくともそうではないな、とおれは思う。


テレビやマンガの中で見たそれは、誰よりも強い力を持っていた。それなのに、皆から親しまれていて、周りにはいつも仲間がいた。


何故そうなるのか、おれには分からなかった。分からなかったから、真似してみた。困っている人を見たら積極的に手を貸したし、何事にも諦めずに挑戦していった。


けれど、どうしてだろう。おれの周りに、人は集まらなかった。


当然だ。

所詮ヒーローの行動の上辺だけをなぞっただけであり、彼らの心の在り方までは真似できなかったからだ。


結局、人の心を持たないバケモノでは、ヒーローになれはしないのだ。


* * *


冷房が適度に効いた空間の中、洒落た木製のテーブルで一組の女子高校生が向かい合っていた。


「フルーツタルトにするか、それともパフェにするか……」


真剣そのものといった表情でメニュー表を睨んでいる、赤橙色の髪をウルフカットにした少女。その名を辰巳留花という。


「選ばなかった方はわたしが頼もうか?」


首元で揃えられた美しいブロンド。人形のように整った顔立ち。そして頭頂部から生えたアホ毛がチャームポイントな少女、ソフィ。フルネームはソフィーア・エミリ・クリスティアンソン。こんな見た目と名前だが、日本生まれの日本育ちである。


「いやいい。ソフィも好きなもん頼みな」


「それじゃあお言葉に甘えて! どれにしようかな……?」


そうして、悩む事数分。留花がメニューを机の上に置いた。


「……決めた! やっぱりパフェにする!」


「わたしはこのブルーベリーのレアチーズケーキ! 爽やかですっごく美味しそう!」


「いいなそれ! すみませーん!」


やがてパフェとケーキがウエイターに運ばれ、留花の目の前に置かれた。


「うおぉー! すっげぇーーー!!」


透き通ったガラスの器に、下からソース、コーンフレーク、特製クリーム、そして季節の果物がふんだんに盛り付けられたフルーツパフェ。積み重ねられたグラデーションは、まるで芸術だ。

白と紫のコントラストが実に美しい。またケーキの上に乗ったブルーベリーが、全体的な可愛らしさを醸し出している。

待ちかねていたデザートを前に、留花たちは無邪気に目を輝かせる。


「いっただっきまーーす!!」


満面の笑みで手を合わせ、柄の細長いスプーンをパフェに突き刺そうとしたその時。





ドオオオォォォォォォン!





突如として発生した爆風に煽られ、留花は顔面から机に突っ伏してしまった。彼女が顔を持ち上げると、目の前には、あんなに美しかったのに、無残にも横倒しになってしまったパフェが。


「お、おれのパフェが…………ッッ!」


お楽しみを奪われた悲しみと絶望のあまり膝をついて項垂れる留花。


「ちくしょう! 誰だ! 誰がやりやがった!!」


しばらく咽び泣き腹の底から怒りがふつふつと沸き上がる中、震える手をソフィに握られた。


「それどころじゃないよ! 逃げなきゃ!!」


「逃げるって、どこに!?」


「とにかく地下! それか頑丈な建物の中!」


ソフィに引っ張られるままに、留花はパフェへの未練も置いてカフェを後にした。

鳴り止まぬ轟音に、逃げ惑う人々。非日常の光景を目の当たりにして、留花の怒りが冷えてくる。そうなれば見えてくるのは、己の手を引く友の背中。ソフィだって怖いだろうに、懸命に走っている。

クラスのはぐれ物同士から始まった関係が、今では心を許し合っている。自分は、この背中に見合う働きを返せるだろうか。

答えが見えないまま、向かう先は最寄りの地下鉄。


「はぁ……はぁ……やっと着いた……」


「あと一息だな。行こう!」


階段を転がり落ちるように駆け下りる。

二人を出迎えたのは、同じように逃げてきた人でごった返した駅の構内だった。


「押さないでください! ちゃんと人数分の空間は保たれています!」


係員が拡声器を手に、駅の端から端まで埋め尽くさんばかりの人々に呼び掛けている。


「……お二人様でしたか。残念ながら当駅はこのような様でして……」


留花とソフィに気づいた駅員は、言いながらやがて目を伏せた。


「受け入れられるのは、あと一人が限界です」


「そんな! どうにかならないんですか……?」


「決まりですので。御二方だけ特別扱いはできません」


一度『特別扱い』をしてしまえば、次にこういった災害が起こった時もその『特別扱い』をしなければならない。迅速な対応が求められる現場では、なるべく避けたい事態だった。

だが駅員とて非道ではない。安全を確保できるのはどちらか一方だけだという無情な現実を告げるも、その表情には苦渋が滲み出ていた。

ソフィの顔色がどんどん青ざめてゆく。友人のそんな顔なんて、見たくなかった。


「わかった。じゃ、ソフィはここに残っててくれ」


「ルカちゃん!?」


「来る途中で息切れてたろ? この辺でゆっくり休んでろって。おれは……もう一駅くらい余裕だからな!」


「まさかあの中を走っていくつもり!? そんなの無茶だよ、危険すぎるよ!」


「無茶でもなんでも! それしかないなら仕方ないだろ!?」


二人が揃って助かるには、どちらかが一旦地上に出るしかない。

更にここに来るまでの間に息を切らしているソフィでは、地上に出た所で助からない。

ならば、留花がやるしかない。


「まぁ……心配してくれてありがとうな」


「絶対に、無事で戻って来てね!」


涙を湛えつつ声を張るソフィに、任せろとばかりに留花はサムズアップで応えた。

地上への階段をひとつ飛ばしで駆け上がる。その顔は晴れやかであったが、長くは続かなかった。


「何なんだよこれ……」


勢いのままに飛び出した留花が見たのは、見慣れた街が無残にも崩れている光景。あまりの惨状に言葉を失い、しばし立ち尽くしてしまう。


「一体何がどうなってやがる……!」


得体のしれない出来事に留花の首筋に脂汗が伝う。心拍数は増し、良くない感覚がより掻き立てられてしまう。

戸惑いを露にする留花だったが、響いてきた爆発音で正気へと戻される。一定の呼吸を保ちながら走り、次の駅へ。


「やっと着いた……」


地下鉄の看板を見つけ、留花はようやく安堵する。駅があるのは、このビルの地下だ。

建物に足を踏み入れ、地下への階段を探す。その最中、留花の背筋に悪寒が走った。それも特別に大きいものだ。

人間に備わった野性的な本能。それに従い、留花は頭を防御しながら物陰に飛び込む。



瞬間、周囲が白で埋め尽くされた。



とある砲門から放たれた、特定の方向へのベクトルを持たせた極光。運悪く、留花のいるビルにそれが直撃したのだ。心柱の大部分を失った結果、ビルは崩落。留花は、瓦礫の中で生き埋めになってしまった。


直撃からしばしの時間が経ち、留花が目を覚ます。両足は瓦礫の下敷きになり、狭い空間内で動きも制限され、出血も止められない。

もはや、命の灯火は消えつつある。



ふざけるな。


フザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナ


なぜ、死なないといけない?

まだ何物にも成れていないというのに。まだ何事も成していないというのに。

けれど、この傷だ……。

全身が痛みを訴えている。主張しすぎて、逆に痛くないように感じてさえいる。

それに、なんだか寒くなってきたな……。

ああ、そうか。

ここで、死ぬんだ。


「……ご、めん…………」



逃れようのない"死"に直面し、留花の口から謝罪の言葉が漏れる。


『……!』


(こんな時に、誰だよ……)


『ア…………に、……って…………!』


朦朧とする意識の中、声が留花の脳内に響く。


『……ツを……さずに……まるか……!』


留花の声ではない。壮年男性の、渋めの声だ。


『アイツを倒さずに終わってたまるか……!』


その声が、留花に残っていた僅かな心を動かす。


「ああ……そうだ……」


現状に抗う、叛骨の精神。こんな結末、認めて堪るか。

歯を食いしばらせて、瓦礫からの脱出を試みる。結んだ拳は固く、血が滲み出そうなくらいだ。


『「こんな、こんな所で……」』


声の主も留花も、未だ道半ばで果てようとしている。故に、気持ちはひとつだ。


『「死んでたまるかああああああああああああ!」』


魂の叫び。それと共に留花の左手首に光が集まり、妙なデバイスを形作る。

デバイスの中央には液晶ディスプレイがはめ込まれており、デフォルメされた怪物の目が映し出されている。このデバイスが、怪物の新たな肉体だ。


「あんたは……?」


『オレサマの事はどうでもいい! 死にたくないならそこのトンガリを押し込め!』


言われるがままに、デバイスの突起物を掌で押し込む。瞬間、身体の奥底から焦がすような痛みが留花に襲い掛かる。だがこの痛み、ついさっきまで味わってきたものより耐えられる。

特に熱を持つのは、頭と背中と尾てい骨付近。思わず掻き毟りたくなる衝動を抑え、苦しみ藻掻きながら瓦礫を押しのけてやがて外へと這い出る。


「…………ん?」


ふと留花が視界の端に捉えた、折れて地に落ちたカーブミラー。それに映った己の姿を見た彼女は愕然とする。


試しに右手を挙げてみると、鏡像は向かって左手を挙げた。じゃんけんをしたら、結果は引き分け。睨めっこしても顔は同じだった。


「なっ、なんじゃコレ!?」


そこに映っていたのは、間違いなく己の姿。だがその全身は鱗と強化された皮膚に覆われ、側頭部から雄々しいツノが生えており、瞳孔は爬虫類であるかのように縦に切れている。背中からは雄大に空を飛べるだろう翼が、腰の辺りからは太く、かつ鞭のようにしなやかな尻尾が。そして牙は何物でも噛み砕けるように、爪は何物でも切り裂けるように固く、鋭くとがっている。

現状を受け入れきれずに、顔やらツノやら尻尾やらを触りまくる留花。試しに、その辺に転がってたコンクリート片を握りしめると、それはあっけなく粉々になった。


「なんだこのコンクリート! 豆腐か!?」

『逆だ逆。オマエの力が増しているのだ!』


有り得ない光景に驚いていると、留花の左腕から声が耳をつんざく。紛れもない、怪物の声だ。


「これか? どこから声出してるんだよこれ。裏にスピーカーでも仕込んでるのか?」


『やめろ! オレサマを叩くな!! 裏側を覗こうとするな!!!』


「……どこにもネジ穴が無い。埋めてあんのか?」


『それよりも! この惨状を引き起こした奴が来てるぞ!』


白い光を放つのっぺらぼうの異形がにじり寄り、顔を上げた留花の視界に入る。四本の脚にはそれぞれに無限軌道を携え、二門の砲がそのまま異形の腕を成しており、砲の下部には刃がギラリと輝いている。

己の左腕と奇妙などつき合いを繰り広げていた留花も、一気に現実に引き戻される。


「あいつが、そうなのか……?」


『神霊"トリニティ"、奴はそう呼んでいた。施設から脱走したオレサマを追ってここまで来た最後の門番だ』


「神霊……? って、神様かぁ!? おれ達に勝ち目あるのかよ!」


『神霊と言っても、本物の神ではない。模造品だ。オレサマもそう造られたのだからな』


「ちょっと待て! どういう事だよそれ!?」


『説明は後でしてやる。来るぞ!』


トリニティは砲門を留花に向け、連射。着弾の寸前に留花は身を翻し、翼を広げ飛んだ。


「なんだ……? 体の動かし方が、分かる……!」


『心がオレサマとシンクロしてるからな。オマエの動きはオレサマ直伝だ』


「そういう事なら、ガンガン行くぜ!」


迫りくる弾幕の中を大きな翼をはためかせながら、留花はぐんぐんと上昇を続ける。ある高度まで達すると、利き手を胸の前に構え、一気に急降下。

脳天に直撃する拳。確かな一撃を与えたと確信するも、反応が無い。

嫌な予感がする。それに従い飛び退いた刹那、留花がいた場所は両腕の刃で×字に切り裂かれた。


「嘘だろ! まるで応えてねぇってのか!?」


『だが、どこかに弱点はあるはずだ! 完璧な神では無いのだからな!』


左腕の怪物の言葉を受け、留花はトリニティを見据える。そして白い光の出所、コアの部分に狙いを定めた。


『行くぞ!』


砲撃は光の収束という予兆があり、光弾にはそれが無い。弾幕の被弾は仕方ないと考え、次々と迫る砲撃だけを躱し続け懐に潜る。垂直に振り下ろされた刃を半身になり凌ぎ、続く薙ぎ払いを下から手を振り上げ弾いた。

トリニティの体勢が崩れる。もう一歩踏み込んだ留花の口元には、今にも溢れんばかりの炎。それを一気に放出し装甲を溶かし、ドロドロになったトリニティの装甲に手を思いっきり突っ込んだ。


それが放つ熱量を感じながら手探りで当たりをつけ、掴んでひと思いに引き摺り出す。動力源を失ったトリニティがアスファルトに沈む。


コアを構成していたのは六角形で半透明の赤、青、緑のクリスタル。外殻を力任せに外すと三つに分かたれ、留花の手に収まった。


「こいつで動いてたのか。綺麗なもんだな~」


赤いクリスタルを日に翳すと、その中央に大きな剣の意匠が見える。

興味深そうにクリスタルを眺める留花の頬を、砲撃が霞めた。

飛んできた方を見ればトリニティが再び立ち上がっていた。

コアを引き抜かれようとも、途切れたエネルギーラインを繋ぎ合わせて再び起動したのだ。


「まだ動けるのかよ!? どどど、ど~すんの!?」


『オレサマに聞かれてもなぁ! …………ん?』


電源を抜いても尚動き続ける。そんな得体のしれない存在を目にして、動揺した留花に揺さぶられる怪物。その視線がクリスタルに向かった。

引き抜いても再び立ち上がれる程の力をトリニティに与えていたクリスタル。この力が使えたら……。

じっとそれを見つめていると、何かを思いついた怪物が留花に話を持ち込んだ。


『なんかそれ、オレサマに入りそうじゃね?』


「え、どこ」


『ほら。ここ、この部分』


「ここか!?」


『入れてみ?』


促されるまま、怪物の側面に存在したスリットに赤いクリスタルを挿入。すると約十秒でループするサウンドが流れ出した。


『なんか正解っぽいな!』


「でも何も起こってねーぞ! あれか? もう一回トンガリ押し込めばいいのか!?」


『それでいってみよう!』


こうしている間にも、トリニティは近づいてきている。

意を決し再びとんがりを押し込んだ瞬間、赫奕たる光が留花の全身に迸る。


光から出てきた留花の姿は、大きく変わっていた。


サイバーチックな雰囲気を纏う、メタリックで重厚なアーマーが全身を包む。目元を覆うマジックミラー仕様の赤いバイザー。頭部から生える雄々しい竜の角と腰から伸びる尻尾も、より機械的に。

そしてひと際目を引くのが、その手に持つ武器。留花の身の丈以上の大きさを誇る大剣。柄にレバーギミックが設けられており、刀身の両側から赤い光の刃が伸びている。


バイザーには、角から感知された情報が映し出される。

それは留花の健康状態だったり、自分や相手の装甲の損傷具合だったり、周囲の気温や湿度、気流だったりと様々だ。

電子マニュアルに記載された多くの機能から留花が閲覧している中、各種武装の説明が分かり易いイラストで表示される。


『ああいう奴の対処法は簡単。一瞬で近づき、最速で仕留めろ!』


「なら、これ使ってみるか……?」


留花が目をつけたのは、背中に設けられた翼。

鋼鉄の翼に取り付けられているのは、四基の大型スラスター。留花はこれを戸惑いながらも起動させた。点火されたスラスターが静かに立ち上がる。

充分に温まった所で一歩踏み出した足は、再び地面を捕らえず。弾丸の如くスタートを切った留花は一瞬でトリニティを追い抜いた。

留花は地面に剣を突き立てブレーキをかける事により停止に成功。そのままターンしてトリニティに向き直る。


「すっげぇ速ぇなコレ!」


『喜んでいる場合か! もうちょっと力加減をだな……』


「そうだな。っしゃあ! やるぞ!!」


両手で頬を叩き己に気合を入れ、留花は突き刺さった大剣を蹴り上げて担ぐ。この間にトリニティは尚も留花をロックオンし続けていた。


砲門が閃くと同時に、再び地を蹴り飛翔。休みなく乱射された光の着弾点から爆炎が立ち上る。その中を弾丸のように最速、最短距離で突っ切り、そして接近。狙いをつけたのは、砲を構える腕。肩の関節部へ思いっきり、大剣をカチ上げた。

ぐしゃり。何かが潰れる感触が手に伝わる。次に意識を向けた時には既に、トリニティの右腕部は宙を舞っていた。


「なぁ、これってあんま切れないのか?」


『切れ味なんか気にすんな。そのまま攻めていけ!』


「お、おう!」


左腕からの指示に元気よく答えた留花は果敢に攻めてゆく。湧き上がる腕力に物を言わせて振り回し、トリニティに多くの傷を与えてて追い詰める。

トリニティが堪らず反撃の一手を繰り出す。その素振りを見るや留花はスラスターを点火させ、バク宙しながら空へ舞い上がる。そして翼を根元から動かしスラスターの向きを変え、右足を突き出しながらトリニティへ急襲を仕掛けた。蹴りを入れるや奴の躯体に爪を食いこませ、がっちりと掴んで空中へ連れ去り、乱暴に振り回した後に解放した。


『オレサマの縄張りから消えろ!!』


 上空で身動きが取れなくなったトリニティ。留花は器用に体を捻り、大剣を振り下ろした勢いで機械の尻尾も叩きつけ相手を地面に打ちつけた。衝撃で着地点から大きな土煙が巻き起こる。


煙が晴れゆく中、道の中央にできたクレーターの真ん中で、トリニティは各部の機能が停止しながらも留花を、正確には留花と共にある怪物を狙う。空中でホバリングしたままの留花は、インターフェースに表示された説明書きを更に読み進める。


「えっと……ここが、こうか?」


左腕の怪物からクリスタルを取り出し、示されるがままに大剣の柄に嵌め込み、レバーを操作してクリスタルに保存された情報を読み込ませる。


またも十秒程で1ループするサウンドが流れ出すと共に、大剣に莫大な力が蓄積され始める。

これで正解だったのか、と留花が思う間に蓄積されたエネルギー量がMaxになり、光の刃が明るく輝く。


『爆熱痛断!!』


「こいつで決まりだ!」


留花は剣を大きく天へ掲げると、一気に急降下。彗星の如く落ちてくる彼女を見たトリニティが最後の抵抗を見せるも、あえなく押し切られた。


トリニティの切りつけられた箇所からは大量の火花が飛び、やがて完全に倒れながら大爆発を起こす。

至近距離で爆風を浴びることになった留花は身構えたが、何時まで経っても衝撃は来なかった。どうやら見かけだけの、人体には無害な爆発らしい。


「な、なんとか……なったのか……?」


『ああ、奴の気配は完全に消えた。オレサマの勝利だ!』


「はぁ!? なんであんただけなんだよ! おれだって頑張っただろ!」


『オマエなんかオレサマが居なけりゃ、とっくにお陀仏だったっての!』


「あぁそうかい! だったらこの場であんたを置いてってもいいんだがなぁ!?」


『オイ待て! オレサマが動けなくなるだろうが!』


「そうと決まれば今からでも外してやる! …………全然外れん」


『ざまぁ見ろ! オレサマを見捨てようとするからだ!』


やいのやいの。

お互いの性格上このまま言い争う事になりそうだ。それでは埒が明かない。


「けど、本当に」


この騒動を起こした張本人を退治する事ができたなら。

そしてこの騒動の中生き延びる事ができたなら。


「よかっ、た……倒せ……」


張り詰めていたものが切れた。

留花は意識を失い、崩れ落ちるように倒れ込んだ。

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