バイバイバージン
・ペンギン×ワイヤー
・エロなし
・勢いで書いた
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やってはいけない、と言われたこと程やりたくなってしまうのは人の性である。例えば立ち入り禁止区域に足を踏み入れてしまったり、見てはいけないものを覗いてしまったり、触れてはいけないものに触れたりなど様々である。常に倫理とか道徳とか法の下を歩いている人間は、その禁忌を破る瞬間の快楽に滅法弱いのだ。まあそれを海賊に説くことではないが
要はペンギンはその“やってはいけないこと”をやってしまったのである。
ハートの海賊団船員のペンギンといえば、その名の通りペンギンのモチーフが着いた帽子を目深く被っている男である。普段は帽子で目元が一切見えないが、本人曰く“イケてるメンズ”らしい。真相は謎だ。そんな彼は性的嗜好は至ってノーマルだ。降りた島でセクシーなお姉様がいれば「oh…」と思いながらバレないように必死でチラ見するし、夜な夜な他の船員たちと猥談だってする。一度船を寄せた女ヶ島では鼻の下を伸ばして妄想をした。生まれてからずっと女が好きだし、いわゆるソッチのことだってずっと女だけだと思っていた。思っていたのだ。
まさか敵船の船員で童貞を卒業するなど思ってもなかったのだ。
相手はユースタス・キャプテン・キッド仕切るキッド海賊団船員のワイヤーだった。比較的穏健なペンギン達とは違い、向こうは海賊らしい海賊である。度々過激な噂は耳に入り、新聞などで見た。
きっかけは覚えていない、いつだったかどこかの島で酒盛りをしていたのは覚えている。島の名前は覚えていないが、酒場の雰囲気や飯の味は鮮明に覚えていた。そのまま気分が良くなって、うっかりハメを外して水のように酒を煽っていた。今思えばこれが終わりの始まりである。翌朝、前日の二日酔いの不快感と共に目覚めてみれば、隣で大男が眠っていた。二日酔いも朝の微睡も全て吹き飛んだ瞬間である。男が二人、ベッドの上で素っ裸、何も起きてないはずがなく……と昔からの馴染みの声で脳内にナレーションが流れた。とりあえず尻を摩ったが、違和感はない。いや尻の違和感とはなんだというのもあるが。もしかして酔ってるうちに暑くなって服を脱いだだけかもしれない、とペンギンは一抹の希望を抱く。そのまま素っ裸カーニバルをしたのだ。きっとそうだと、いそいそとベッドを抜け出そうとすると隣の男が起きた。ペンギンもそれなりにデカいはずなのに、隣の男はもっとデカい。まあ新世界ではどっちもどんぐりや豆粒同然であるが。男はくあり、と欠伸し緩慢にこちらを振り向いく。眠そうな目をしながら口を開いた。
「おはよ…そして童貞卒業おめでとう」
五秒後にペンギンの叫び声が響いたのは言うまでもない。
ワイヤー曰く、そういう気分だったので酒場に行ってみたら酔っ払ったペンギンに絡まれたそうな。捕まえる手間が省け、これは幸いと言わんばかりに大人しく絡まれてみれば結構童貞っぽくて、丁度童貞を食いたかったワイヤーからしてみれば鴨がネギを背負って来たようなモノだったのだ。聞いてれば何故か自分を“網タイツを履いた長身の女性”と勘違いしていた。酔っ払いとは謎生物である。しかし男だと気付かれたら逃げられて面倒だな、と思ったワイヤーはペンギンにこれでもかと酒を飲ませたのだ。前後不覚にしてしまえばこっちのもんだ、海賊に汚いもクソもない。ちなみにペンギンの酔っ払いの原因は四割がワイヤーで五割がペンギン、残りの一割は酒場の飯の旨さと雰囲気のせいである。
聞かされたペンギンは泣いた。襲われた生娘の如くさめざめと泣いた。自分が襲われてなかったことに喜べばいいのか、男に童貞を食われたことに絶望すればいいのかわからない。ハジメテはせめて夜のお店のお姉さまが良かっただろうに、現実は非情である。あと酔っ払いすぎて男を女と勘違いする己の馬鹿さにも泣いた。なんかベッドに下に網タイツが落ちてるなと思ったら「なんか引き裂いてた」と言われた。たしかにタイツって破いたらどうなるんだろうなと思ったことはあった。酔っ払ってる間に夢を叶えたらしい、嬉しくなかった。
放心してるペンギンを他所にワイヤーは落ちてた網タイツなどを拾う。そして肩に手をポンと置いてペンギンに言い放ったのだ。
「チンコもいい感じにデカいし、めっちゃヨかった、なにより童貞臭くて最高だった、ありがとう」
満足げに笑いその場を立ち去るワイヤー、ペンギンは泣いた。褒められたのか貶されたのかわからない。確かに本当に童貞だったが面と向かって言うことはないだろう。童貞臭いはペンギンのプライドにデカデカと傷をつけた。例えるなら皮膚をタワシやヤスリのように。せいぜい喜ぶ要素といえばチンコがデカいということ、お世辞でも自分のムスコを褒められれば喜ぶのが男という生き物である。哀れなり、我ながらチョロいとペンギンは涙で枕を濡らした。
別れたあと、流石に船長に言えるハズもなくシャチにそれとなく相談したら生温かい目でお菓子をもらった。人の優しさが身に染みる。それはそれとて男だろうが脱童貞したペンギンは一部の船員から目の敵にされた。ペンギンは一瞬だけ人間不信になった。
というのが大体再会するまでの話である。現実は小説より奇なり、今後出会うことはないと思っていた二人はワノ国で出会ってしまったのだ。
「久しぶり元童貞くん」
「テメーが食ったんだろうが!!!」
三つの海賊団とワノ国の侍達とその他諸々を巻き込んでカイドウとビッグマムを四皇から無事突き落とし、見事互いの船長が三十億の首になった。そして物資補給やら済ませて、ペンギンはやっとの思いでワイヤーを捕まえたのだ。
「色々あって今言えるけどよくもおれのハジメテを……!!」
「誘ったのはそっちだろ、ノリノリだったし」
「グッ……」
秒で玉砕された。その場に崩れるペンギン、走馬灯のようにあの日の夜の記憶が流れる。
「ペンギン、て言ったよな」
「?おう」
影がかかる。鼻水を啜り、見上げてみればワイヤーが目線を合わせるためかしゃがみ込んでいた。
「おまえ時間ある?」
「ある、けど……」
「ふーん」
ペンギンはなんとなくデジャヴを感じた。それもそうである。なぜなら、前もこれと同じ手口で食われたのだ。同じ奴とは夜を繰り返さないはずのワイヤーは、あろうことかもう一度ペンギンを誘っていた。
「なんだよ……」
「んー、いやさぁ……このタイツもうボロボロなんだよ」
トレードマークと言わんばかりの網タイツをみょんみょん指で引っ張るワイヤー、戦火に巻き込まれてもちょっとやそっとじゃ千切れない不思議網タイツである。それでもあの大戦の後じゃ破けやすくなったのだ。
「捨てればいいだろ?」
「それも思ったんだがなぁ、お前見て思い出したんだよ」
四つん這いになっていたペンギンの手を取り、己の脚へ乗せる。そのまま指を一本、網の下に潜り込ませた。つぷり、と細く固い繊維は指を締め付ける。柔らかくない男の足と黒い網がペンギンの指を挟んだ。
「もう一度これ破いてみない?」
話の結果とすれば「ワノ国の人たちってセックスしてるとき背中痛くないのかね」というワイヤーの全てで察してほしい。