ハンドアイランド
プルプルプルプルプル…
プルプルプルプル…ガチャッ
「もしもし」
「久しぶりだな町長、私だ」
「!これは○○様、ご無沙汰しております
直接ご連絡いただくとは珍しい」
数回のコールの後、男の声で返答がある
いいきなり珍しがられてしまったが、まぁむべなるかな
私は基本事業投資後の運営には必要以上には口出しせず、経営陣に一任することが殆ど
よほど経営内容が迷走したり、明らかな規約違反であったり犯罪行為に走ってない限りは、定期的に上がってくる報告書に目を通すだけだ
そんな私が直接連絡してきたのだ、この村長は多少驚くだけで済んでいるが、人によっては心当たりのあるなしに関わらず、すわ投資打ち切りかと戦々恐々しながら対応するものも少なくはない
「…それで○○様、本日はどのようなご用件で?
先日の原材料不足の件に関しましては、代替品が見つかったので解決したと文書で提出したはずですが?」
「あぁいや、今回はそっちのはなしじゃない、私個人で注文したい品あってな
それよりどうだ、最近の【ハンドアイランド】の様子は?」
ハンドアイランド
偉大なる航路の後半、新世界に存在する手の形をした島
そこにはあらゆる分野で新世界でも指折りの職人たちが数多く住んでいる
皿や宝飾品などのいうに及ばず、楽器、時計、眼鏡に工具、医療器具と言った専門用具に至るまで
その質の高さはもちろん、デザイン性、利便性などあらゆる面から世界中に好事家やリピータを持つまさに"職人の島"
電伝虫の相手は、この島の町長だ
ハンドアイランドがこれだけ発展し有名になっているのには当然理由がある
この島も元々は、この海ではありふれた海賊に怯えつつ毎日を必死に暮らす職人たちの島であった
しかし数十年前、あの大海賊、白ひげ事ニューゲートがこの島を縄張りとしたことで事態は一変した
世界最強の男の縄張りを争うとするなど、よほどの馬鹿かその名を知らぬモグリか
まぁとにかくそれだけの男の名のもとに守られたこの島は海賊の襲撃も劇的に減り、おまけに海賊の縄張りなので世界政府に天上金を払う必要もないという、この海では珍しい安全地帯となった
といっても、それだけでは商業は発展しない
ああいつはあくまで海賊、商売の知識などないからな
そこで手を貸したのが、この私という訳だ
ニューゲートに相談を受けた私はこの島を訪れ、職人たちの技術に将来性を見出したためその原料、施設、流通、販売すべてに投資した
そして、その目論見は大成功、先に述べた通り世界を客にした商売が成り立つほどになった
すべての関連資本の持ち主として私も利益還元を受けているが、まぁこれは必要経費というものだ
毎年のように持っていきすぎじゃねぇかとニューゲートの奴に文句を言われているが、利益還元率として見れば相場より相当低いし、なにより私の名も現在の流通網を維持するのに一役買っているのだから、むしろ感謝されるべきだろう
「えぇ、○○様や白ひげ海賊団の皆さんのおかげで、ますます活気に満ち溢れております
最近は直接船で商品をお買い求めに来られるお客さんもおられるほど」
「そうか、それは何よりだ」
客が増えれば、当然利益も職人たちのモチベーションも上がる
この大海賊時代に合っても、活気があるのはいいことだ
『ところで○○様、先ほど注文したい品があるとのことでしたが、いったいどのようなものを?』
おっと、話しが脱線してしまっていたな、本題に入らなくては
さすがに発注する数が数だ、使用用途から色々と細かく説明しなければならない
長い交渉になるだろう
私は一度姿勢を正し、手元にまとめた資料を引き寄せた
「あぁ、実はな…」