ハロウィンSS

ハロウィンSS


・交換留学後の捏造時空

・スグ→アオ

・スグリがチャンピオンかつ感じ悪い

・アオイは無自覚

・あくまでDLC後編来るまでの間の妄想を楽しむ用なのでいろいろ間違ってても許せる人向け



「トリック・オア・トリート!」

「……で?」

ブルーベリー学園の寮で、アオイは部屋の主の冷たい視線に苛まれていた。部屋の主は学園のチャンピオンであるスグリだ。

林間学校でのことがあってから気まずいままスグリと分かれたアオイ。先日交換留学でスグリと再会できたと喜んだのも束の間、スグリはポケモン勝負に取り憑かれた鬼と化し、何かとアオイに勝負を挑んでくるようになっていた。その勝負の時の空気の重さはすさまじい。言わば勝負を一緒に楽しめないネモ状態。ちなみにアオイはこれまでスグリに負けたことはない。オモダカよろしく手抜きができないのもあるが、仮に手心を加えようものならそれに気付かぬスグリではない。いつも本気で勝負するしかなく、結果として全勝し、スグリからは勝たねばならない相手としてより闘志を燃やされてしまう結果になっていた。

アオイの心労は想像を絶したが、そこは誰にでも友好的なアオイであり、逆にこちらは何かと友好的に振る舞おうとあの手この手を尽くしてきた。

今日は10月31日。ハロウィンにかこつけて仮装をして無理やり明るい雰囲気に持ち込もうとしたのだが、今しがた失敗したところである。

「あの……お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞってやつです……」

「馬鹿にしてんのか?」

「違う違う違う!」

ハイライトの消えた黄金色の瞳ににらみつけられながらも、アオイはぶんぶんと顔の前で手を横に振る。そしてこの時に至ってアオイはようやく自分のミスに気付いた。

(オーガポンの仮装……もしかして気に障っちゃった?)

今のアオイは緑の甚平に黒い角を模したカチューシャを付け、即席でオーガポンの体の色の似たブランケットを肩から羽織ってクリップで留めた格好をしていた。ハロウィンといえばゴーストポケモンの仮装がお決まりだが、少しでもスグリに縁のあるポケモンの格好をと考えてここに辿り着いた。しかしよくよく考えればスグリからすれば捕まえられなかった伝説のポケモンの格好でふざけたように部屋までやって来るというのはもしかしたら、いやもしかしなくても神経を逆なでしたかも知れない。そこに思い至ってアオイは青ざめた。

「いや本当に!イベントをスグリくんと楽しみたかっただけで……!」

「んだば菓子はない。それで何かするって言うなら今から勝負して決めよう」

(なんでこうなっちゃうの……!)

このままではアオイは間抜けな格好のままバトルコートに連行されることになる。楽しんでくれる生徒もいるかも知れないがアオイとしてはさすがに恥ずかしいので避けたかった。

(ええい、もうやっちゃえ!)

アオイはキッとスグリを見つめ返すと、言葉とは裏腹にスグリのタンクトップめがけてとっしんした。

「わっ!?」

「トリック!」

勢いだけでスグリごと部屋に押し込み、安全も考えベッドの方へ突き進む。急なことに驚いたスグリは体勢を崩して背中からベッドに倒れ込む形となった。

「な、何……」

「言ったでしょ!ハロウィンを楽しみたいだけだって!」

仮装したアオイに押し倒される形になったスグリはアオイがブルーベリー学園に来てから初めて見せる表情で目を白黒させていた。

「前にピクニック提案してくれたの覚えてる……?あの時みたいな友達関係に戻りたいの」

あたふたしているスグリに以前の面影を見つけたアオイは、両手をスグリの顔の真横についたまま自身の顔を近づけ真剣な瞳を見てもらおうとした。

「と、友達、って……!」

「スグリくんが強くても弱くても私には大切な友達なんだよ」

弱くても、という言葉を聞いてスグリの目が開いた。アオイがまたしてもやってしまったと気付くより先に、スグリはアオイの腕を取り、ぐるんと体勢を逆転させた。

「やっぱり弱いって思ってんだな」

「そんなこと……スグリくんは十分強いよ!」

「けどアオイにはまだ勝ってない」

掴まれた腕に込められた力は、自分より大きく上回っているのを感じる。アオイは自分をじっと見つめてくるスグリにどうしたら気持ちを分かってもらえるかと思案した。

「トリック・オア・トリート」

「え?」

「菓子、アオイは持ってるのか?」

「う、ううん……」

「じゃあイタズラされてもいいんだな?」

「え……」

「アオイがしたいって言ったせいだべ」

『友達』と『こんなイベント』、とスグリはにやり笑いを浮かべた。

その時。

「カミーッ!」

ぽすんとスグリのボールから飛び出したのはカミッチュだった。姿を現したりんごあめポケモンは、自分が甘いものだぞ!と主張するように二人の顔の間に割って入ろうとした。

「わっ!待って待って!」

「カミッチュ!それ以上くっつくと……!」

主人とは違い試合以外のイベントも楽しみたいのかカミッチュはアオイやスグリに飛びついて甘える。部屋中が一気にカミッチュの甘露な蜜の甘い香りに包まれた。

「……スグリくん」

「……わやじゃ」

ひとしきり甘えてきたカミッチュをなだめてボールに戻した頃には、二人ともカミッチュの蜜飴のような体液でベトベトになっていた。

「……ごめんね。私が無理やり巻き込んだせいで」

「それより……その」

スグリが視線を逸らしながらアオイの体を指さす。ブランケットははがれ、赤い蜜飴で顔から甚平からべたついてしまったのを指してるらしい。

「わ、私部屋に帰るね!」

「そんな格好で歩かせるわけに行かねえべ!」

「だ、だってシャワー浴びて着替えるには……!」

「……おれの、部屋の使えば」

「……!いいの!」

「仕方ないから」

アオイはスグリが久しぶりに見せた気遣いが嬉しく、瞳をキラキラと輝かせた。スグリに渡された新しいタオルを持ち、何の疑いもなく礼を言ってシャワールームを借りることにした。


「アオイの友達って……皆こんなことしてるべか?」

スグリはアオイのシャワーの音を聞きながら、どうしようもなく真っ赤になっていた。それはカミッチュの蜜のせいだけではない。

「絶対他にもやってる……他にも勘違いさせてるべ……!」

一目会った時からかっこいいと思って憧れた異性。いろいろあって今はその感情を素直に出せないが、そんな相手にベッドに押し倒されたり飴まみれで体の線が見えるような格好をされたりあまつさえ自室のシャワーを共有するのは思春期のスグリには全てが心臓に悪かった。

「おれがもっと強くなって対等になったらやめさせれるのかな……」

そんな複雑な思いを抱えてる主人をボールの中から見ていたスグリの手持ちたちは『ご主人、今日はすごく嬉しそうだな』と自分達も嬉しくなるのであった。


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