ハロウィンの泣き声

ハロウィンの泣き声



「あのさ……助けてくんない?」


 ベッドに簡素なテーブル、そしてよくわかんないパソコン。あとはゲーム機とか本棚だけの飾り気が無さすぎてダサい通り越してヤバい部屋を狭くなった視界に収めがらアタシはトウヤに助けを求めた。


「……突然やって来て……なに? 玲愛」


 ハロウィンの日だというのにアタシとは対照的なスウエット姿でダルそうに返すのがアタシの幼馴染みの男。適当に伸ばした髪は今から美容院にでも叩き込んでやりたいくらいウザったい。整えればそれなりにかわいく、カッコよくなると思うんだけど。


「いや……信じられないかもしんないだけど」

「うん」

「この仮面、取れない」


 そんでアタシは自分の顔、視界が狭い理由を指差した。しばらく黙ってる時間が続いて


「……後ろ、見せて」


 面倒臭そうに、しかし何か考えながらトウヤはアタシの明るい髪の後ろ部分を探る。


「紐とかもない……糊とか使ってないよね?」

「使うワケないじゃん! ……その、バカみたいな話だけどさ……なにもしてないのに取れない……んだよね」


 自分で言っててバカバカしいと思う。もしこんなコトを友達が言い出したら笑い飛ばすだろう。だから、最初に助けを求めたらアタシのコトを笑い飛ばしたアイツらへのムカつきをちょーっとだけ鎮めてやる。


「呪われた面ってこと……? ところでなんで僕に?」

「……いやほら、アンタ昔からこーいうの詳しいから助けてくれるかも……てか信じるん?」

「玲愛はこういうはウソは吐かないし……あと別に詳しくはないよ」


 そう言いながらアタシの目の前に戻る。その顔を見るとさっきから緩みっぱなしの涙腺がさらに緩くなりそうだ。トウヤなら、こう言ってくれるかと思ってたけど。


「そういえば……さっきからなんで泣いてるの? 怖いの?」

「違うし! なんか……さっきから涙が出んの! この部屋ちゃんと掃除してる!?」

「久し振りに部屋に来たかと思ったら……してるよ」


 実際目が痒いとかではないから分かってるけど、不安な気持ちごと苛立ちをぶつけてしまう。


「……そのコスプレ、なに」

「お化けっぽいJKって感じだけど……なんか関係あんの?」


 普段の制服を着崩してデコっただけのお手軽コスプレ。それなりにかわいくできてない?


「仮面は?」

「デコった制服だけじゃちょーっと足りないかな? って思って探してたらなんかビビッときたヤツ」

「涙マーク付いてるけどピエロじゃなくて女性っぽいけど……なんの仮面?」

「なんだっけ……外国の落書きマンみたいな名前だったんだけど」


 デザインが気に入ったというか直感でコレ! したから覚えてない。


「バンク……ああ……ええ……」


 しかしアタシのうろ覚えで何か思い付いたのかトウヤは目を開いたり、細めたり、変な声を出したりする。


「ちょーっと、なにか分かったん」

「……その涙、いつから?」

「だーかーら、トウヤの部屋に来てからだって」


 同じ話を何回させるのか、もしかしてアイツらと同じくからかってるんじゃないでしょうね。


「……うん……なんでこの日本のコスプレハロウィンごときに……ああ、もう……いいや」


 トウヤはダサい髪型をわしゃわしゃと掻きむしるみたいにする。


「……なに? 分かったの? どうやったら外せる?」

「僕、結構いっぱいいっぱいなんだけど……しかもケルトなんて全然詳しくないからね」


 がばっと顔を上げたトウヤは真剣な顔でアタシのコトを観察するように見始めた。


「……ケトル?」

「お湯掛けたら戻るって? ……そんな漫画昔あったな……吸う? いやいや」


 トウヤは視線を一瞬下に向けたかと思うとアタシの顔、仮面? を見つめる。


「……ど、どう?」

「むむ……まあ、うん……こういう解釈もあったはず……動かないで……っ!」

「――っ!?」


 ちょーっと、不安になったアタシにトウヤはなんかキモくブツブツと呟いたかと思うと――顔を近付け、仮面の唇部分にキスをした。


「な、は、はぁ!? と、トウヤなにを……あ」


 カラン、と仮面が音を立てて床に落ちた。


「え……は、外れた……!?」

「……まあ、こういうやつの定番というか……接吻でよかった……あっちを吸うとかじゃなくて……うわっ」

「あ、ありがと……! ホントにありがとう!」


 アタシはなんでだか出てしまうとかではなく、思わず本気で涙を溢れさせながら抱きついてしまう。


「……そんな怖かった?」

「……そりゃ、コワイでしょ……フツーに考えて」


 突然アタシが飛び込んでもトウヤはそれなりに落ち着いた様子で慰めるように受け止める。こういうところが、トウヤだ。


「ねえ、玲愛」

「……なに」

「キスしていい?」

「……へっ!?」


 驚いた猫みたいにピョンと離れる。


「いや……なんで!?」

「じゃあ、デートしようよ」

「デート……!?」

「嫌?」


 アタシの反応など構わないようにトウヤはグイグイ来る。突然、いったいどうしたのよ。


「イヤじゃ……ないけど! どーいうコト? これまでアタシがハロウィンとか誘っても来なかったクセに……」

「玲愛の友達と一緒はね……でも、今ならそれでもいいよ」

「……だから、なんで」


頬が熱い。アタシ、どんな顔してるんだろ。


「――覚悟が決まった、みたいな?」

「なにそれ……」

「いいから、今からでも行こうよ」

「……今日は、イヤ」


こんな涙でぐちゃぐちゃになった顔でトウヤとデートなんて、イヤ。今度、明日とか……うん。それならイイ。


……でも、覚悟ってなんのコト?

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