ノレア「犬になりたい」

ノレア「犬になりたい」


「ソフィこのボール投げて」

「は?」

「受け取ってよ」

「は?」


目の前の友人は、さも当然かのごとき表情でそのボールを差し出す。

開けた土地に女子2人とボールひとつ。この情報だけだと異質さは特に感じることは無いだろう。

いや別にあたし球技とか好き。すこしキャッチボールしようぜって感じのノリだったらすぐにボールを受け取っただろう。

問題なのはその不思議なボールと彼女の姿だった。恐らくゴムで作られただろうぶよんぶよんの小さいピンク色のボールを片手に、もう片方の手は装着している赤い革製っぽい首輪へ添えている。おまけに頭には某格安なんでもスーパーで買っただろうわざとらしい犬耳…

どことなしかその顔は暑苦しそうでかつ鬱陶しそうだ。

じゃあ取ればいいのでは


そんなことを考えているうちに、痺れを切らしたノレアは押し付けるようにしてあたしの手にその桃色のゴム鞠を握らせた。

ノレアはあたしが持つ(持たされた)ボールとあたしの顔を何度も見比べるように往復しては、きゅるりとした物欲しそうなかわいらしい目で訴える。『さあ、投げて』

なにがきゅるりだなにがかわいらしいだ。幼馴染の醜態を前に恐怖と羞恥心、そしてノレアの惨めさが一気にあたしへ押し寄せる。

そう言えば、最近あたしたち少しとげとげしちゃってさ、思春期ってやつなのかな?この間些細なことで喧嘩して、それからしばらく遊んでなかったよね。あんたから話しかけに来てくれた時もあたしってば素っ気ない態度しちゃって、あんたあの時何ともないって感じで振舞ってたけどあたしには分かってたよ。悲しかったって、、、そうだよ、ノレアはクール気取ってるだけの寂しんぼで、誰よりも孤独を恐れてるんだ。

これはあたしの罪だ。

ノレアのことをちゃんと知っていながら、知らんぷりして孤独の谷へ突き落とした、あたしの罪なんだ。

やっと決心がついたよノレア。

ゴムボールを手の上でしばらく転がして、ふっと前を見た。


「とってこーい!!!」


あたしは球技が好きだ。特に野球をする時なんかは投手としてその人気さから子供たちからひっぱりだこになるほど。勢いよく飛ばされたボールは、少し離れて待機していたノレアの頭を越え、遠く後ろの一本杉を越え、背の高い草むらへと消え去った。

少しやりすぎたかもなと思いノレアの方を見ると、少しずつ歩き出しながらもこちらに面倒くさそうな表情を向けていた。なんだこいつ。


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