ネモ

ネモ


両手にコーラを持ち、自室のソファーに腰掛ける。チラリと隣に目を向けると、緑と黒の綺麗な髪の少女がスマホをポチポチと操作していた。

「ネモ、はいこれ」

左手に持った俺のと同じ大きさのタンブラーを手渡す。細くも逞しい指が軽く触れ「ありがと」っという返事とともに笑顔をこちらに向けてくれた。恥ずかしかったのか眩しかったのか、思わず目を逸らしてしまう。
最近できた友達に連絡を返しているのだろうか。っとぼんやり考えながら左手に持ったテレビのリモコンで画面を操作していく。

「誰かの部屋で映画なんて初めてかも」

ふとネモがそんな言葉を漏らした。横目で顔を見てみると期待と不安が入り乱れているような、そんな表情だ。いつものハキハキとしたパルデア地方の期待のチャンピオンとは違った女の子らしい年相応と言ったもの。


リモコンの操作が終わり、映画がスタート。ジャンルは友達におすすめされたアクションもの。最近話題のポケウッド出身の俳優が主演をしている。女子と二人でどうなんだということも言われそうだが、俺もネモもそういうのには疎い。というかここで恋愛映画をみるのも狙いすぎというやつじゃないだろうか。

「火薬の量すごっ」

「いや、多すぎだろ」

そんな風に会話になるかも怪しい言葉のラリーを続け、映画の視聴を進めていったときに、事件は起きた。
部屋に二人っきりになった男性と女性。フェザータッチでお互いの身体を触っていき、妖艶な雰囲気を身にまとっていく。そこでふと気が付く『これ濡れ場シーンあるやつや…』と。男女の触れ合いは加速していき、顔が近くなったかと思えば濃厚なキスシーンへ。水音とリップ音が室内に木霊する。
先ほどまでののんびりとした話し声は一切なくなり、お互いが黙って画面を見つめていた。向けない方がいいというのは理解してはいるものの興味が勝ってしまい、ネモの方を見てしまった。

「ぁ、ぁぉぁ」

声にならない声をあげ、顔を真っ赤にしながら画面を見つめていた。そういえば箱入りのお嬢様だったのでこういう性的なモノには疎いんだった。

「ネモ?」

思わず心配の声をかけてしまう。

「ひゃぁッ!!」

華奢な体がびくりとはね、もげそうな勢いで首がこちらに向いた。
視線が交差し、お互いに言葉を失う。何て言うのが正解なのか、今の俺にはその答えどころか片鱗にすらたどり着かない。室内に漂うじっとりとした空気。

『あ♡』

画面からそんな悩ましい声が上がった。どうやら濡れ場とはいかないまでも、所謂サービスシーンに本格的に突入したよう。このまま画面を見ているとどうにも可笑しな気持ちになってしまいそうだ。ふと、俺の身体に暖かいものが触れた。鼻孔をくすぐるのは何度も嗅いだことのある柑橘系のサッパリとした匂い。

視線を隣に向けると、さっきまで人一人分は離れたところに座っていたネモがすぐ隣にまで来ている。上気させた頬はこの暗がりでもわかる。首筋を伝う汗が映画の光を反射させる。触れ合う手から彼女の熱が十分すぎるほど感じられた。

この空気に耐えられたのか、そしてこの後どうなったかは、今は語らないでおこう

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