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※ 子供ネタあるよ
「あの黒髪のチビ・・・本当はお前の娘なんだろう?」
幼馴染の口から発せられた鋭い言葉にビビは凍り付く。
「周りには隠しているつもりだったんだろうけど、俺にはすぐにわかったよ。小さい頃のお前にそっくりだからな」
その口振りはカマをかけるような類のものではなく、確信に満ちていた。ビビも諦めたように微笑んだ。
「・・・さすが砂砂団のリーダーね。何もかもお見通しってわけ」
「長い付き合いだからな」
乾いた涼風が二人の間をすり抜けた。ビビの淡い色の髪が柔らかく揺れる。
「あ・・・他の人には言わないでよね!知ってるのはパパと・・・」
「わかってる、心配すんなよ。王女サマに隠し子がいたなんて公表できるわけないもんな」
ビビは安堵の溜息を吐く。
「だけどな・・・俺は一つ懸念していることがあるんだ」
「・・・・・・何?」
突然コーザが見透かしたような目をしたのでビビの表情が強張る。
「あのチビは見た目も言動も、確かにお前にそっくりだ。けれども・・・時折、何か空恐ろしい何かを見せることがある」
「どういうこと・・・?」
「この間も街のガキどもと喧嘩をしていた。ガタイのいい男のガキすらも圧倒していてな・・・俺は『やっぱりあのチビ、お前の子だな』って・・・その時は苦笑いした。だけど、その後ほんの一瞬・・・目付きが変わった。あの鋭い目の光・・・小さい頃のお前には見られなかった」
ビビは押し黙って幼馴染の言葉に耳を傾けた。そのまま遮ってごまかしてしまいたい衝動に駆られるが、同時に続きも気になって仕方がなかった。
「あの目を見た時に覚えた寒気・・・前も経験したことがある。そうだ・・・かつてこの国を残酷なやり方で滅ぼしかけた『あの男』・・・」
「・・・やめて・・・!!」
ビビは遂に抑えきれなくなり叫んだ。
「・・・ビビ!?」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・突然大声出して・・・でも・・・でもね、あの忌まわしい男と・・・大事なあの子を結び付けて欲しくなったから・・・」
ビビは力なくコーザに向かって微笑んで見せた。すると向こうも彼なりに納得したのか・・・
「・・・そうだよな。悪かった・・・変な考えを起こしちまってよ」
「そうよ!大体私が大嫌いな男と結ばれるわけないでしょう!?」
「あ、ああ・・・確かにそうだ」
「もう・・・!しっかりしてよ、貴方は砂砂団のリーダーなんでしょ!?」
「おいおい、今は違うだろう」
すっかりいつもの遣り取りに戻ったので互いに安心する。
「それはそうとして・・・チビの親父はいったい誰なんだ?」
「・・・結局聞くわけ?」
「気になるだろう?お前のようなお転婆王女サマに惚れる奇特な男なんて・・・」
「まあ、失礼ね!」
ここで会話が暫し途切れた。再び乾いた涼風が二人の間を優しく吹き抜けていく。
「・・・とりあえず、断言できるのは・・・私が好きだった人ってことね」
ビビは半分悪戯っぽく、半分寂しそうに答えた。
「・・・結ばれることはないってわかってたけど、『彼』のことが好きだった。だから・・・後悔はしてないの」
「・・・・・・」
幼馴染の返答を聞き届けたコーザはどこまでも広がる碧空を仰いだ。そして・・・
「・・・そっか」
簡潔に呟くように言った。
「・・・聞いておきながら随分反応が薄いのね」
「だって他に答えようがねぇだろう。ま、お前らしい答えだなって・・・」
「・・・とにかく、今の私は幸せだから。大好きなこの国で大好きな人達に囲まれてるんですもの。勿論、あの子もね・・・」
「・・・そうだな。あのチビはいかにも大物になりそうなツラしてるもんな」
「それってどういう意味?」
「新たなガキ大将の誕生ってことだ。だけど、母親なら少しはしつけて叱っとけよ。お前のチビにやられたガキ、相当落ち込んでたぞ」
「はいはい、そうしておくわ」
いつの間にか夕暮れ時が近くなり、茜色の光が平和な砂漠の国を照らしていた。