ネタバレ:主婦が勝つ
スコープネコ@ゴルシエミュって脳がぱちぱちしてくるね「ピーピー……ガガガガッ、ゴルシちゃん号マヨヒガ発マチュピチュ行き〜マヨヒガ発マチュピチュ行き〜」
「うわぁ!? ゴールドシップだ!!!」
「不沈艦襲来! 不沈艦襲来! 逃げろー!」
昼下がりの公園、狂言と共に現れた芦毛のウマ影に子供達の声が一斉に広がる。その姿を見たウマ影、ゴールドシップは即座に乗っていたセグウェイを駐車して構えを取る。当然静止するので子供達はどんどん距離を離していく、が。
「ゴールゴルゴルゴル! 元気なシラスどもゴルねぇ! 全員まとめて釜揚げにして3分クッキングしてやるでゴルよぉ!」
「何言ってんだゴルシの姉ちゃん!? シラスは醤油とご飯で食べるもんだろ!?」
「あ? てめー醤油派かよアタシはポン酢派だ!」
「やっべ目付けられた!」
構えたゴルシに近かった子供の一人が思わずゴルシの発言にリアクションを取ってしまった。ゴルシ対応マニュアル二十五条曰くゴルシは叩けば鳴り吹けば飛び構えればエルボーのウマ娘、つまるところ反応した時点でロックオン確定。事実その瞬間ゴルシは「何言ってんだコイツ」とでも言いたげな表情を作りながら構えた状態で二度進み一度下がるステップでじわりじわりと躙り寄る。
「オラーッ待ちやがれゴンゾウ!」
「ちげぇけどぉ!?」
「クッ、みんな! ゴンゾウを助けるぞ!!!」
「俺はゴンゾウだった……?」
若くしてアイデンティティの崩壊を感じた少年よ、強く生きろ。それはそれとしてゴンゾウ(仮)を助ける為、逃げるのを止め集まった子供たちにゴルシは見事なまでに包囲される。
「くっ……これはアタシはヤギの中に突っ込まれたヒツジって所か……! だがアタシは負けねぇぞ、オメーらがヤギってんならアタシはウミシダになってやるぜ!」
「ウ……なんだかは知らないけどこっちも負けねーぞー!」
数と統率を得た子供たちの士気は実に家のお手伝い(皿洗い)の564倍、その勢いのままに一人の子供が飛び出した。最初にゴルシの襲来を知らせて真っ先に逃げ出した子供であることをマスター・ゴルシ師範は当然覚えて居る。今まで逃げていた弟子が自身に立ち向かうその姿にマスター・ゴルシ師範の瞳にも涙が流れたがそれはそれとして見え見えなので飛びかかって来た所に
「うおおおお! くらえゴルシ姉ちゃん!」
「あそれ変わり身の術でおじゃるよ」
「なっ、なにぃーッ!?」
等身大ゴルシちゃんぱかプチ好評開発中! 飛びかかった子供が捕えたのはそんな看板を吊り下げた巨大なゴルシのぱかプチである。当然非公式品だが北海道のにんじん農家タナカ・カナタさん(84歳)監修の特別仕様である。別にプレミアは付かない。
そのプチの定義を破壊するゴルシちゃんぱかプチを身代わりとしてゴルシは子供が一人飛び出した事で生まれた包囲網の穴に飛び込む。他の子供も全員突如現れた巨大ぱかプチに意識を持って行かれたのですんなりと包囲網は崩壊した。
「待てー!!!」
「ぶおおんおんおんおおおんおんゴルシちゃん半速半進! コーナーで差を付けるぜぇぇぇぇぇ!!!」
どたどたと後ろを走ってついてくる子供たちをゴルシは遊具……ジャングルジムを活かしたコーナーリングで宣言通り差をつける。その際に行ったドリフト走法により靴底の寿命が僅かに縮んだが些細なことであろう。
しかしそもそも遊具の大きさは高が知れており、当然遊具を回ろうとした時点で反対側からゴルシを捕まえようとする子供も現れる。即ち挟み撃ち!
「くっ、ワトソンめ……このゴルセーヌの先を読んだってのか……!」
「へへっ……こうなりゃゴルシ姉ちゃんも敵陣の奥に置かれた香車!」
ズビシ、とゴルシの目の前の子供が得意気に指を天に向ける。
「それか桂馬!」
背後で追い付いた子供が両手を掲げたY字のポーズを決める。
「あとは……えっと」
「お? 成らねぇんなら歩じゃねぇか?」
「そうそれありがとう姉ちゃん!」
ご丁寧に横から逃げ道を塞ぐ様にゴルシに王手を掛けた子供は前二人に伴おうとするも悩み、それを解決してくれたゴルシに礼を言う。それはそれとして追い詰めるのはやめない。
結果、ゴルシは前門の香車ボーイ、後門の桂馬ボーイ、そして左右に歩ボーイとジャングルジム……正に窮地! あはれごぉるどしっぷ盗賊譚これにて終幕……!
「「「うおーっ!!!!」」」
珍獣ゴールドシップ都内の公園にて捕獲! 明日の朝刊の一面は決まった────しかしだ、感嘆符その後ろには疑問符を付けなければならないだろう!
前後横の三方向から一斉に捕まえんと飛びかかる子供たちは一つだけ失念していた……そう、回り込み挟み撃ちにした。つまり、ゴルシの真横にはまだ遊具が手の届く範囲にあるのだ!
「アポロ564号発射ッッッ! 快速特急上へ参りまぁ〜す!」
片手で遊具を掴みそのまま自身を上へ射出! そう……避ける先は直上! 邪魔する物が何も存在しない自由な空へとフライアウェイした怪盗ゴルセーヌは見事子供たちの手錠から逃げ延びたのだ! 王手だけでは決して詰みになったとは限らない……!
そのままゴルシは腕力だけでジャングルジムを高速移動……なんと言うマッシブ! 子供たちに囲まれない位置まで移動して陸路へ進路変更、そのまま逃走を再開した。
「うおあああああああっっっ! また逃げられたぞ!」
「へっへっへっ、時代は3Dだぜ? 最先端のゴルシちゃんだって当然3Dだ! まあ最近は4Dにも挑戦すべきだとは思ってんだけどな? やっぱそれやんなら三女神様にも御伺い立てねーとだし先に2Dも極めてんのも悪くねぇと思うんだわ」
「……?」
「……要はちょいと昔のゲームも楽しいぜ!」
「姉ちゃんが実況してる奴とか?」
「……あれアタシがデビューした時発売のゲームなんだけどそんな古ぃか……?」
残酷な時代のムーヴ。ウマ娘が走る速度と同じぐらいの速さでゲームのハードとソフトの戦争は加速する……! 特にレースに集中してゲームの進行が遅いタイプの競争ウマ娘は気が付けば学園外の友達との話題に出遅れる……!
まあゴルシに関しては自身のチャンネルで実況するゲームで偶に何処で手に入れたのか分からない様なレトロゲームの時もあるので半ば自業自得である。
「あ、捕まえた」
「……やっべ」
無念ゴールドシップ、気が付けば御用となった。脳内ゴールド会議にて『昔のゲームの昔って何処から?』を議論していた結果なので致し方ないだろう。因みに捕獲した立役者はゴンゾウ(仮)である。
「ゴルぴっぴとて武士の端くれ……捕まったからにゃ感念してカツ丼のカツになるぜ」
「なんかよくわかんねーけどよーし連れてけー!」
ゴルシを捕獲したチルドレンはぞろぞろと移動を始める。ついにやったぞ、あのゴルシを捕まえたんだ……! そう口々に子供たちが話し合いながら当のゴルシの周りをぐるぐると動き回る。
しかし少しすれば興奮も収まってくる。そうなればほんの少しとはいえ、沈黙がやってくるのだ。そうなるとなんとなくゴルシのゲーミング脳細胞に一つの疑問が浮かんできた。
「……」
「……」
「……なあこれどこ向かってんだ?」
「え?」
「は?」
……元より一連の追いかけっこはその場のノリで生まれた物。捕まえた後の事なんて子供たちが考えている訳も無い。考えていたらそれはもうエスパーか未来人である。ゴルシのノリを予想できると言う意味で、だ。現在未来人とエスパーには対ゴルシ対策室、求人募集中。時給は5640円から要相談。
「しゃーねぇ作っかゴルカトラズ!」
「また何か言い出したぞ!」
「ムショ造るんだよアタシらで。このゴルぴっぴを迎えんなら最高のセキュリティ用意しねぇとな!」
「……?」
全員が足を止め、子供たちがゴルシをどうするか悩み始めそうになったその瞬間、またゴルシが起動した。ゴルシのこの起動効果は1ターンに何度でも発動できるタイプだ。効果内容は誰も知らないが何か始める時だと相場が決まっている。子供たちもそれを知っているので咄嗟に身構えるも、ゴルシが何を言いたいのか直ぐには理解できなかった。彼らの年代だとムショやゴルカトラズ、もといアルカトラズは伝わらないのだろう。ゴルシもそれを理解しているのでオホンと一つ咳払いをし……実に子供心を擽るワードチョイスにし直した。
「────秘密基地作るぞおめぇら!」
「「「……おおおおお!!!」」」
────後に、ゴルカトラズは『ゴルシvsスペース焼きそばvs主婦のお母様方』の舞台となるのだがそれはまた別のお話である。