ネイクノ(仮)
「おはようございます、ネイチャさん」
「お……はよ」
噂をすればっていうか、考えてる時に限ってこういうパターンになるよね。カノープスのミーティングスペースに一番乗りしたアタシの次に、部屋に入ってきたのはイクノだった。集合掛けられた時、一番早いのは大体イクノで、その次がアタシ。で、タンホイザがターボを連れてくるのがいつもの流れなんだけど、今日に限ってアタシの方が早かった。
多分、色々意識しすぎちゃってたせいだと思う。昨日の会話とか、いろいろ。ヤバいな。アタシ、顔赤くなってないかな。
「……ネイチャさん?」
「うえっ!? な、なに?」
「いえ、上の空だったので……顔が赤いようですが、大丈夫ですか……?」
「だ、大丈夫だから!ほんとに!」
やっぱり、顔に出ちゃってたかあ。イクノのせいだよ、なんて口には出さないけど、もしかしたら勘づいてた?
イクノはそこにあった椅子に静かに座って、カバンから何か本を取り出した。……やっぱ、姿勢良いなあ。スタイルも良くて、それで……いやいや、何流されてんだ、アタシは。
それからお互い、しばらく無言。イクノは、昨日のことなんとも思ってないのかな。アタシは、色々意識しちゃってるんだけどな。
そんなことを考えて、沈黙に耐えられなくなったのはアタシの方だった。
「あー……のさ!」
「えっ」
「あ、ごめん大声出して」
驚いたイクノの耳がびくんと跳ねて、ぎょっとこっちに視線を向ける。手にしていた本に静かに栞を挟んで、テーブルに置いた。
「イクノは、さ。その……昨日のこと、どう思ってるの?」
「昨日の……?」
「……タンホイザが、アタシたちの事、あー……夫婦みたい、とかさ……」
「そうですね」
「そうですね、って……イクノも乗っかってたじゃん!」
「ふふふ、すみません」
悪戯っぽく笑った。鉄の女、なんて異名がついてるらしいけど誰が付けたんだか。丸眼鏡とクールな顔つきだけで言ったんじゃないの?なんて考える。
「もしかして、それで顔を赤くしていたんですか?」
「それは、そう、です、ケド」
「じゃあ、ネイチャさんも嫌じゃなかったってことですよね?」
「え──」
突然の問いかけ。呼吸が止まる。イクノは微笑みながら、ずっと真剣な目をしてた、と思う。アタシはどんな顔してたんだろ。
「それなら……私も、嬉しいです」