ニューハウンズ防衛戦
BGM:High_Pressureそれは突然のことであった。ハウンズ部隊の一部と総隊長であるロニーがブランチによって煽動されたアリウスの大反攻作戦掃討に出撃してしばらくたった時であった。
突如ハウンズ本部エリア内を侵入者を告げるサイレンが鳴り響いたのだ。
「サイレン?!」「襲撃だ!!全員出ろ!!」「敵襲~~!!敵襲でーーーす!!!」「敵機の情報は?!」「識別不明!機体は・・・ACです!」「なんだと?!」「今カメラで捉えました!!モニターに映します!!」
それは黒い機体であった。例えるなら、まるで夕暮れのような・・・迫ってくる落陽のような重圧をその機体を見たものは感じた。
そして肉眼で捉えたものも次々と現れる。
「あれは・・・ロニーさんが交戦したというレイヴン、機体はナイトフォールか?!だがフレームやミサイルが少し違う・・・!」
「偽物め!リベンジしに来たか…!!」「至急MTを出せ!!」「おい金田ぁ!!」「ただいま参りまぁす!!」「全兵装を出せ!」「ヘリでもですか?!」「とにかく奴にありったけをぶつけろ!この際装甲車でも砲撃ドローンも全部出せ!!出し惜しみすればこっちが死ぬぞ!!」
そして展開したハッチから次々とMTや装甲車、挙句の果てには武装ヘリや戦闘ドローンが出撃していく。
「ここが死線だ!!絶対に通すな!!」
『『『おおーーーーーーーッ!!!!』』』
「おい!シールド持ちの4脚MTを前に出せ!!」「バズーカMTは後方でとにかく砲撃しろ!!」「砲撃ドローンを前に出せ!!撃ち落されてもひるむな!!」
襲撃してきた一機に対応すべくハウンズ総員が一丸となって立ち向かう。士気は十分、連携も最高、情報伝達も素早い。並大抵の組織なら手も足も出ず敗北に喫するだろう。
だが、いま彼女たちが相手にしているのはレイヴン。ルビコンに戦禍を招いたブランチの一人でアーキバスMT部隊と惑星封鎖機構艦隊を単騎で殲滅できるほどの実力者である。
陣形を組んでいるのにもかかわらず次々と撃破されていくMT。
戦闘ドローンの供給が追い付かないほどの猛攻。
武装ヘリがなすすべもなく翻弄されるほどの動き。
本部を攻撃されてはいないが、突破されるのも時間の問題だった。
「化け物め…!」「一機だけでこの圧力・・・!!やはりロニーさんと死闘を繰り広げただけはある・・・!!」「だが敗けるな!ロニーさんが来るまで死ぬ気で持たせろ!!」「622隊長とコエ隊長はまだですか?!」「もう少しで終わるそうだ!」
「こちら622、機体準備が完了した!!LOADER5、出撃する!!」
「こちら河岸コエ!機体の最適化が完了した!出るぞ!」
ハッチから二機のACが飛び出してくる。それを見たMT部隊は少しの歓声に包まれた。
「よっしゃあ!これでさらに持たせれそうだ!!」「クソッ、機体がいかれた!撤退する!」「金田ぁ!!応急修理を頼む!」「ただいま参りまぁす!!」「修理が完了次第出るぞ!」「戦闘ドローンはまだ出せるか?!」「あと残存数が半分を切りました!」「このままだと負けだぞぉ!!」「貴様らぁ!怯むなぁ!!」
「コエ!挟撃で行こう!!」
「おう!暇を惜しんだ訓練の成果、見せてやるよ!!」
二機のACがナイトフォールに突っ込んでいく。すると当機は銃口をとりあえずといった感じでLOADER5の方に向けた。そして射撃を開始する。
「クッ、確実に当ててくる…!!」
「とにかくあのパイルバンカーの直撃は避けろ!当たればタンクでもタダじゃすまないからな!」
「わかっ、てるよ・・・!!」
しかし、戦況は全くと言っていいほど好転しない。なにせ、彼女たちの攻撃が当たらないのだ。まるで背中にも目がついているかのように軽やかに、羽ばたくように避けていく。しかし、自身は必ずと言っていいほど攻撃を当てに来てる。
二人が、ハウンズが再び押され始めるのは当然の帰結であった。
「クソッ、機体が限界か・・・!!脱出する…!!」
「コエ!くっそぉ・・・!!」
そしてチャージしていないパイルバンカーの突きをくらい、機体が限界に達したコエが戦線離脱した。
MT部隊も次々と増援・援護しているもののそれをあざ笑うかのように次々と撃破していく。お前の相手してても殲滅なんか簡単だと言われているような気がした。
「ふざけるなよ・・・」
呻くように622が声をこぼす。
「お前らは何がしたい!!私たちを苦しめ、アリウスの皆も煽動して!!自由のためなら何してもいいのかぁ!!」
もう我慢できずに張り叫んだ。ブランチのせいで多くの仲間が怪我をした。ロニーさんやイグアスさん、ラスティさんも・・・他の大人たちも、皆無視できない被害を受けた。
「ふざけるな!ふざけるな!みんな必死なんだ!明日生きていくだけでも必死な人たちだっているんだ!!それをお前たちは瓦礫の下に沈めて、好き勝手暴れることを自由だとのたまって、お前たちの自由に正当性なんかない!!死ね!死んでくれ!!」
するとその言葉が癪だったのかはわからないがナイトフォールはくるっとLOADER5にソングバードを向けると発射した。
直撃。ACS負荷限界に陥る。
「うわぁあああ・・・・!!」
機体の操縦桿を必死にガチャガチャ動かす。モニターにはこっちにアサルトブーストをふかしつつパイルバンカーを構えるナイトフォールの姿が見えた。
「おい!砲撃しろ!!」「ダメです!砲撃ドローン、まだ出撃できません!」「四脚MTは?!」「足がやられて動けない!!」
「死にたくない…!
せっかくウォルターさんやロニーさんに拾われたのに・・・!
ようやくエアさんとも面と向かって話しできるようになったのに!
仲間が増えたのにぃ!!
まだ生きたいよぉおおおお!!!!
助けてぇええええええええええええ!!!!!」
そしてパイルバンカーが突き刺さる直前、淡い緑色の光が割り込むように突撃してきた。
「お前たち、よくここまで持たせてくれた」
「ここからは俺がやる」
一瞬の静寂。そして大歓声に包まれた。
「来た!!」「ロニー大隊長!」「総隊長殿!」「ロニーさん!」「ロニー!」「われらが総隊長!!!」「待ってましたよぉ!!」「さすがはロニーさんだ!!」
「ロニーさん!」
涙で顔がぐっしゃぐしゃの622が喜色を交えて声を上げる。
「お前たち、全員下がっていろ」
もう機体が限界のLOADER5をMT二機が何とか運ぶ。意外なことにハウンズ部隊が下がるのナイトフォールは目で追ってはいたが追撃しなかった。どうやらハウンズを襲ったのは副次的なもので主目的はロニーのようだ。
そしてその場に二機のACしかいなくなった。お互いにらみつけるようにカメラを向ける。
「よくも俺の部下をここまでやってくれたな」
ロニーの声が冷たく、殺気に満ちる。
「バイザーも下げず、舐めてかかったな…?」
彼の脳深部コーラル管理デバイスがトルクをさらに上げ始める。
「レイヴン…お前は飛ぶしか能がない鴉だが、こちらは狩りを本分とした猟犬だ」
「噛み殺してやる」
シェイドアイのバイザーがカメラアイを覆うように降りる。それに対し、フィンダーアイが対抗するように光が増した。
「レイヴン、お前は今度こそ墜ちる時だ」
「・・・」ガチャン
返答はない。だが、今ここに言葉は不要。お互いがお互いだけを殺すことを目的とした決戦が幕を切った。