ナンバー1が早期に統一政府の研究機関を殴った結果ドロップしたマコトに補給目的キスで処女のままじっくり快楽を教え込んでる奴 1/2

ナンバー1が早期に統一政府の研究機関を殴った結果ドロップしたマコトに補給目的キスで処女のままじっくり快楽を教え込んでる奴 1/2

ホムンクルスの食性の捏造・憶測(唾液からの栄養補給)・SAN値チェック失敗で負け癖ついたマコト・直接描写はないリョナ、スカの示唆・マコト=カグツチナンバー1の本名説採用・キスしかしない 以上よろしければどうぞ

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以上の点から、彼を犯人であると断定できる。同様の犯行が他にも認められる可能性は高い。

→周辺地域の類似事件のピックアップ

・5年前の事件が本件のトリックと類似。誤認逮捕を視野に入れ再調査指示。

・近隣に、現在別件で派遣されている超探偵が3名。内一名派遣可能。


今日の記録

・市販の飴(メロン味) まずまず

備考:幼少期に一時期愛食していた。味覚が退行した訳ではないようだ。


・コーヒー 普通

豆の種類か?


・オリーブ×

備考:やんわり拒絶された。情緒が認められたと見ていいだろう。


◎生ハム

一番食いつきが良い。


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 食事の前に間食を摂るようになって随分経つ。彼と出逢って以降、色々な物を食前に摘むようになった。

 彼——鼻先を擦り合わせて、キスをしている相手だ。

「ちゅ……ん、っれ、チュパ」

 彼は、執務室に備え付けられたソファに大人しく背を預け、接吻を甘んじて受け入れている。瞳をキツく閉じ、ソファをカリカリと柔く引っ掻きながら膝を擦り合わせる。ぽうっと染まった桃色の血色は、彼の肉体がこの行為に劣情を催している証左だ。

「あ……う、ちゅる……こく」

 細い喉が鳴っているのは、唾液を無駄にしないように飲み干そうとしているからだ。彼にとっては栄養源であるから、一滴も無駄にはできない。かつて彼の置かれた環境は、栄養源を無駄にする余地など許さなかった。それが尾を引き、彼は今も懸命に唾液を吸い出す。最も漏れ出る声が、食事以外の感触の感想を述べているのだが、ナンバー1は黙認していた。

(ボクも心地良いが、この差はなんだろう)

 短く呼気を吐きながら、ナンバー1は予測を立てる。思うに、彼が自分から分かたれ折れるに至るまでの期間が肝要なのではないだろうかと。

(諦観と共に抵抗する気力を失った。その結果として、影響も受けやすいのだろうか)

 舌の根元を摩られ唾液の催促を受けつつ、ナンバー1は平常心を保っていた。

(積極的になったものだ)

 一方彼は、情欲をソファを引っ掻いてやり過ごし、ナンバー1に縋りつかない選択を取っている。表向きは。既に初期は受動的だったキスに、積極性が出始めた結果が甘えたな催促であるなら、ナンバー1の当初の目的は達成できたと言えるかもしれない。

 彼——マコト=カグツチの情緒を引き出す。ナンバー1がマコトを発見してから立てた目標のひとつだ。

 覆い被さっているナンバー1がざりっと潜り込んだ舌を舐め返すと、露骨に跳ねた肉体と共に、茄子紺の瞳が見開かれた。じわりと滲んだ涙に、ナンバー1も頃合いを悟る。

 ナンバー1は最後に一度だけマコトの唇を柔らかく食み、今晩の前菜を終いとした。

 ゆっくり唇を離し、マコトの唇を拭ってやりながら彼の呼吸が整うのを待つ。ナンバー1は案外この時間が好きだった。

「深呼吸しよう。ゆっくりで構わない」

「……はい」

 呼吸音を耳に、ナンバー1は肩口まで伸びた自信と同じ色の髪に触れた。頭頂部の癖毛の名残りのような一房を指で遊ばれながらも、マコトは指示通り深呼吸を続ける。肺腑にコーヒーと、戦闘でもあったのだろうか、微かな硝煙の匂いが入り込む。何より人間の匂いがする。

(美味しそうな匂い)

 死体はよく与えられたが、マコトがきちんと人間に旨みを感じるようになったのは、ナンバー1に保護されて以降の事だ。他の実験体達がどうだったかはわからないが、「美味しい」と「安心」が匂いに紐付けされて、マコトは自身が人外の者であると強く実感する。伴って微睡みたくなるのは、目の前の存在がどうにもマコトを慈しんでいるようであるからだろうか。

「味はなんだったかな」

 自身に尋ねてくるナンバー1の表情は冷然としているようでありながら、何処か穏やかである事をマコトは知っていた。彼が、他ならぬ自分のオリジナルであるから。

 もう自分が至れない場所に座す、マコトならなんでも知っている筈であった生き物。自分なのだから、知っていなければおかしい生き物。

(もう、何もわからなくなって久しいが)

「コーヒーです」

 存分に口腔を舐め回して感じた味を、マコトは述べた。「正解だ」と笑うナンバー1を、自分もかつてこんな顔をしていたのだろうかと、マコトは傍観する。最初、あまりにも反応が鈍かった為行う事を決めたクイズは、現在も継続している。味のチョイスは恐らく、ナンバー1/マコトの好みに反映していた。自分自身だから当たり前だが。

「好きな銘柄かな」

「はい。愛飲していました」

「もっと用意しておこう。……共に食事を摂ろうか」

 人間由来の成分の摂取が目的ではない、ごく一般的な食事に誘われる。これがナンバー1が世界探偵機構にいる期間の一般的な彼らのルーチンだ。ナンバー1は世界中を飛び回っているが、近頃は世界探偵機構に帰還する度このルーチンを繰り返している。ナンバー1が跪いて手を差し伸べると、マコトは従順に手を重ねた。

「はい」

 流されるまま手を取って、マコトが執務室に隣接された生活スペースに連れられていく。何も考えず、ただされるがままになのは、これが新たに獲得したマコトの処世術だからだ。

 その割には、ナンバー1の手を躊躇いがちに握り返すのを、マコトだけが把握していなかった。


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 ナンバー1が自分のホムンクルスを認識したのは、統一政府のきな臭い組織犯罪を潰した時であった。実験所内に散在していた、非人道的な実験の産物であるホムンクルスの遺骸を内心痛ましく思いつつ、連れ立った部下に指示を出す。

 その奥地で、彼は縮こまっていた。辛うじて病衣に袖を通した、ラベンダーのやや髪が長い彼は、どう考えてもナンバー1と同じ顔をしている。

 与えられた人肉を死んだ目で齧り、オリジナルである自分を見ても、何の感情も浮かべない。ただガラス玉めいた茄子紺の瞳で見つめ返された時、ナンバー1はこの個体が既に死んでいる事に気付いた。当然、肉体の死ではない。

(もう“ボク”としては死んでいるんだな)

 ナンバー1から完全に分たれた存在である事実が、精神の変容具合……アイデンティティの死とでも言うべき事象によって提示されている。

 彼がどんな目に遭ったかは、研究施設から押収したアーカイブに目を通せばよく把握できた。唯一の成功例のホムンクルスであった彼は、それを確認すべく多くの暴虐を受けたらしい。

 酷く怖かったのだろう。優れた頭脳だからこそ、彼はその恐怖を正しく認識した。本来は様子見に呈し、状況を打破するタイミングを待つべきだったのだが——彼は冷静さを保てなかった。記憶や肉体は再現出来ても、生まれて数日の生命だ。恐怖への耐性が低かった可能性もある。案外ここを堪える事が出来るかどうかは、運であったのかもしれない。

 そして彼は恐怖に駆られ相当暴れて逃走を企てる。何度も、何度も。その末に失敗、疲弊。

 折れたタイミングでナンバー1達がやってきたという流れだ。

「あなたでも負け癖が付くんですね」

「ボクを何だと思っているんだ」

 長年影武者を務めている壮年の部下に感想を述べられながら、ナンバー1は押収した資料に目を通す。記録された死は多岐に渡るが、成功例でこれなら失敗例もまた凄惨だろう。

「却ってよかったかもしれません」

「というと」

 ナンバー1が続きを促すと、部下は眉間の皺をより深くして「便宜上欠陥ホムンクルスとしますが、一部実験個体に性的虐待が加えられています」と紙面を叩いた。覗いた資料には、凌辱と死が記録されていた。女や子供が多いが、趣向を変えている気分なのだろうか、男や老人が時折混ざる。

「まさか戦場で慰みものにするだけの目的で実験はできないだろう」

「戦闘継続を目的とした補給補助兵装運用の検証……と言う題目ですが、まとまった結果が出ても実験を継続しているようですな。そもそもまともに運用するなら実験対象の選別時点からおかしい」

 仕事の名目でスナッフフィルムを鑑賞していたようだ。

「……悪趣味な事だ」

「保護した彼も実験に使用する計画があったようです。従順になったのはつい最近のようですから、下手に機会を伺い大人しくしていたら先送りにされたやもしれません。……どちらがよりマシであるかは、私には分かりかねますが」

 怪我の功名と評するには些か失うものが大き過ぎるが、少なくとも彼の尊厳の一部は偶然にも守られていたらしい。より心を折るために性的虐待を加えるなどというルートも回避している。局地的であるが幸運だったようだ。

(だからと言って、受けた暴虐が消える訳でもない。方向性の異なる暴力が加えられなかった事を祝すのはグロテスクだ)

 そもそも暴力が加えられない事が最善なのだから。医務室の方をじっと見やる上司に部下は「それで」と溢した。

「彼の処遇は、如何しますか。私としては冷酷であろうとも、処分をご提案させていただきますが」

 ナンバー1は眉を微かに顰めた。見上げた部下のサングラスの中には、努めて冷淡であろうとする瞳がある。眉間に寄った皺、短時間ではあるが不自然に震えた口の端。容貌も相まって厳格で冷血漢であると黙されそうだが、殺し切れていない感情の発露をナンバー1は正しく視認した。

 人倫とリスクヘッジの間で揺れている彼は「完璧な解決、完璧な推理の為には、すべての感情を捨て去るべき」という理念からやや外れている。一方で、厳守を試みてはいた。

(……統一政府の組織犯罪自体は暴かれている。これはその事後処理だ)

 謎は既に解かれている。事件に対してなら兎も角、探偵の全ての日々から感情を消し去る必要もないだろう。そもそもナンバー1の夢は世界中の人々の幸福だ。そこには当然部下の席もある。

 ナンバー1は溜息を吐いて「不死の相手に?」と訊ねた。

「他の欠陥ホムンクルスならともかく、彼は完成品だ。難しいだろう」

「幾度も蘇生するにしても、その度に死に続ける環境に置く事は可能でしょう。拘束して絶えず溺水させる。壁に埋め込み常に監視する——」

「それこそ人倫にもとる残虐行為だ」

 本人が一番理解している点を指摘された部下は「……リスクが大き過ぎます」と苦言を呈した。

「今は弱っているにしても、彼は世界探偵機構のトップの完全なコピー。野放しにして悪用されようものなら目も当てられません。かといってこの組織に所属させたとして、必ず禍根を産みますぞ」

 部下は眉間を揉みながら「誠に嘆かわしいですが、我々も一枚岩ではない。真のナンバー1を知る者に限定しても同様です」と口にする。

 例え非人道的であろうとも、彼を生かすメリットは薄い。組織と個人を天秤に掛けて苦渋の選択を提示する部下に、ナンバー1はこともなげに言った。

「ボクが監督すればいい」

「……なんですと」

 動揺した部下の前で、ナンバー1は両手を広げ「そういった大凡の問題にボクは対処出来ると思わないか」と訊ねた。

「しかし、常に監視する訳には」

「その時はキミに頼む事もあるだろう。世話を掛けるね」

 既にナンバー1の中では決定事項のようである。「賛成しかねます……」顔を覆う部下を下から覗き込み、ナンバー1は「キミも積極的に殺したい訳ではないだろう」と指摘した。

「折角保護できた生き残り……それにボクとは完全に分たれてしまった存在なんだ。庇護を受けて然るべきだろう」

 彼はもうナンバー1としては死んでいる。だからと言って別の何かにならない訳ではない。彼が謎に翻弄された者のひとりであるならば、ナンバー1としてすべき事は一つだ。

「彼をボクの預かりとする」

 そんな決定がなされ、ナンバー1はホムンクルスを手に入れた。


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 医務室で、現状健康に支障がないと判断されたホムンクルスを、ナンバー1はあっさり連れ出す事が出来た。執務室に隣接する——優れた頭脳を持つなら解けるちょっとした手順と、生体認証とで隠された居住空間の中でふたりは対峙していた。

 仮眠用のベッドとシャワールーム、あとは数日分の食糧と水の備えられた冷蔵庫。拳銃と弾薬が収められたサイドテーブル。それぐらいしかない部屋だ。最低限の生活はできるが味気ない。

 椅子もないのでベッドに座らせたホムンクルスは、やはりぼんやりとナンバー1を見返している。ガラス玉めいた目玉には、自身の処遇への興味を持っていないようだ。自分も死を超越して虐め抜かれたら、このように無気力になる可能性がある。そこに何の恐怖も抱かなかった訳では無いが、ナンバー1はひとまずこれを黙殺した。

「キミの処遇だが、これからはボク預かりとなる。よろしく頼むよ」

「……はい」

 ホムンクルスは、ただこれが「かつての自分が考えられる最善の選択であるらしい」という事実をどうでも良さそうに聞いていた。これがかつての自分も選択する選択肢なのか、それとも決定的に違えた存在が行う自分では選ばない選択なのかすら、もうどうでもいい。

(ただ、もっと酷い目に遭うとは思っていた)

 自分を生かすメリットより、生かした事で生じるデメリットの方が大きい。そうホムンクルスは自認していたからだ。良くて幽閉。下手をすれば絶えず殺されるような環境に置かれるのではないかとホムンクルスは予測していた。

 それが、小柄な超探偵用の制服を手渡され着替えるよう促されているのだからよくわからない。紺色の見知った制服を眺めながら「錘をつけるか拘束して、一定量の水に漬けたまま放置した方が楽なのでは」などとホムンクルスは考えていた。

「悪いが、今手元にあった衣服はそれくらいでね。希望があるなら別のものを用意するが」

「これで問題ありません」

 ホムンクルスが、記憶上は着用した事がある衣服に袖を通すのを確認すると、ナンバー1は切り出した。

「キミの名前は——」

「検体XXX番です」

 あの場所で何度もそう口にするよう躾けられたので、ホムンクルスは直前の名前を忘れてしまった。床に向けられた仄暗い視線を認めたナンバー1は、跪いてホムンクルスと視線を合わせる。

「いや、マコト=カグツチだ」

 ここではじめてホムンクルスは感情らしい感情を顔に浮かべた。困惑であった。

「……その名前は」

「ボクの名前は必要性に応じて変えることが多い。その名前はキミに預けようと思う。異論はあるかい」

「……決定に、従います」

「よろしい」

 こうしてホムンクルスは再度名付けられた。面白くない皮肉のようであったが、ホムンクルス——いや、マコトに文句を言う資格はない。今マコトの一切を決める権利を持っているのは、ナンバー1である。

「あとは……食性に関してか。キミも含めホムンクルスは人間由来の成分の摂取を必要としているそうだが、今まではどのような食事を?」

「しょく……」

 マコトが生まれてから最初に確かめられたのは、蘇生の有無だった。その次に調べられたのは、今までの欠陥ホムンクルスとの差異である。当然、その食性も検証対象だ。

 血、肉、骨。元来消化できない毛髪。凡ゆる体液。吐瀉物や排泄物。比較的新鮮なものから、腐り切ったものまで。

 戦場での死体は、放っておけば病の蔓延する要因になる。組み込んだ食性は掃除屋として……そして、戦場にホムンクルスを縛り付け続けるのに有用だった。その有用な機能が検証されてからは、適当な生肉が与えられる事となる。

 与えられた“餌”への嫌悪感、不快感。確かに飢えが解消される感覚に気づいてしまった時、マコトは自分が人間ではないと突き付けられた。酷く怖くて、悲しくて。こんな事を他の検体にも行ったであろう非道を詰って暴れて、それから——。

「大丈夫かい」

「……!」

 肩に手を置かれて、マコトが過去から帰ってくる。返事をしなければいけない。耐久実験が増える。

(いや、もう増えないか。……食事は抜きかもしれないが)

 気味の悪い食性だ。死んでも復活するなら、餓死のまま放置されるかもしれない。そんな事を考えながら口にしたマコトの「大丈夫です」は、非常に空虚であった。

「どこから調達したかわからない人間の死体を、少しずつ与えられました」

「他に与えられた食物は?」

「なかったと思います」

 ふむ、とナンバー1は唸った。ホムンクルスの食性自体は聞き及んだ通りである。

(肉……は駄目だ。ならば血が妥当なのだろうが……)

 そもそもマコトが誕生した要因はナンバー1の負傷が起因である。影武者の彼だけでなく、それなりの部下から負傷……というより流血を避けるように口酸っぱく言われた。

「血液を流用できたらと思ったが、下手に隙を作りたくなくてね。どうしたものか」

「……微弱ですが、血肉以外からも栄養素は吸収できます。試してみますか」

 表情は変わらず無表情であったが、どろりと澱のようにマコトの瞳が濁る。また実験の再現をすればいい。そう自身に言い聞かせる。その様子を至近距離で観察していたナンバー1は、実験結果を思い出していた。人間の血肉どころか骨も残さず喰らえる生き物である彼らは、人間の凡ゆるものから栄養素を吸収していた。幾分か効率は下がるが、その中で比較的マシなものを思い起こす。

「……そうだな。確かめたい」

「……」

 自分で口にしておきながら、マコトは微かに身体を強張らせた。血を使用しないなら、何を使うのだろう。比較的集めやすいのは排泄物だろうか。

(味を、思い出したくない)

 しかし処遇を握るのは、ナンバー1である。マコトが何かできるという訳でもない。ちゃんと大人しく。より酷い目に遭わない為に全て諦める。大丈夫。今までも出来たのだから。この先もきっとできる。人知れず覚悟を決めるマコトの首筋に、手が添えられた。それにピクリとも動かなかったマコトは、ナンバー1の「失礼するよ」と言う言葉を至近距離で聞き——言葉を認識するより先に、口腔を舐められた。

「……?」

 唇にカサついた、やはり同じような唇が触れている。具合を探るように口内を撫で回しているのは、言うまでもなくナンバー1の舌だ。余剰分の唾液が喉を流れていったり、唇から溢れるのを感じながら、マコトはなすがままだった。

 相手の方はこちらをじっと観察しているようなので、マコトもそれに倣う。至近距離で映る瞳は自身と同じ彩色であるのに、確かに生気がある事が皮肉であるとマコトは自嘲した。

 水っぽい音が、頭の中で響いていて気味が悪い。呼吸が阻害されて、だからと言って鼻を積極的に使うほど生に貪欲ではない。故にマコトの意識は当たり前のように途切れそうになるが、ナンバー1が口を離した事で回避された。代わりに咳き込むマコトの背をナンバー1が摩る。

「まずは謝罪を。驚かせてすまなかった」

「……」

「唾液で問題なく充足感は感じているかい」

 正直わからなかった。逡巡の末、マコトは素直にそう伝達する。

「とりあえず現状の栄養補給は唾液で、何か不調があれば他の手段を探そう」

「わかりました」

「……」

 なすがままになっているマコトを見上げ、ナンバー1は先程の接吻を思い浮かべていた。単に垂らすとかより直に口腔に送った方が早いとこの手段を取ったが、本来拒否されて然るべき挙動である。血縁者や双子より同一性が強い自分自身(のようなもの)なら尚更。

(しかし彼は拒絶しなかった。拒絶するという選択肢が奪われてきた所為だろう)

 もしかしたら積極的に呼吸をする様子がなかったのは、そのように指示しなかったからだったりするのだろうか。

(これではいけない)

 少なくとも、この短い対峙の間に困惑している様子は見せていた。彼の中に情動は存在する。それを表面化するのを敢えて選ばないとか、元来感情を表現する事が下手であるとかではない。選ぶ事を極端に恐れるように躾けた。そんな質感があった。

 マコトの食性の検証実験には目を通したが、当初の拒絶は凄まじかった。本来これもキスに対するセクシャルな側面以上に、ホムンクルスの食性を突き付ける事に恐怖を抱き拒絶するのが、彼の本来の挙動なのではないだろうか。

(ボクでも多分、そうなる。怒りすら覚えるかもしれない)

 だからと言ってマコトの健康維持の為にも、人間由来の栄養素の摂取は止められない。少しでも誤魔化してあげられないだろうか。

「あ」

「……?」

 何か思い付き、ナンバー1は制服のポケットを探った。

 一昨日、過去視の能力を持つ超探偵の活躍を聞き及んだ時のことだ。飴をよく舐めているという話を部下達が囁いていたのを聞いた。件の探偵がよく口にしている形状のものとは違うが、幼少期に愛食していたものがあるなと思い出した。

 それからほんの気まぐれでナンバー1は、飴を一袋購入した。一粒食べてこんなものだったかと満足した彼は、残りはあらかた居住空間の冷蔵庫に突っ込んだ。また食べたくなったら舐めるかと、一粒だけポケットに放り込み、今まで忘れていたのだ。

 カサカサなる個包装のビニールを破り、ナンバー1は透き通った薄紫の飴玉を自分の口に放り込んだ。

 そのままマコトに再度口付ける。

「ん、ぇ? ……んん」

 困惑気味のマコトは、それでもカラコロと飴を受け入れた。ナンバー1が何故こんな事をしているのか、全く意味がわからない。

(ボクがもう、偽物だからか? なんでこんな、突拍子もない……)

 含んだ飴は葡萄味がする。袋一杯に味が違う何種類かの飴を詰め込んだ、どこでも手に入るような市販品。双方にとって懐かしい味だった。

 久しぶりに餌以外のものを与えられて、マコトは反応に困る。喜べばいいのか、そもそもこの状況を疑問に思えばいいのかわからない。

 わからないなりに、飴の応酬は続く。舌に染み込むチープな甘みは、マコトには遠くなった日常を想起させた。幼い頃食べたものだから、郷愁や安心感を覚えるのかもしれない。

 だからだろうか。いつの間にかマコトは夢中になって飴玉を追っていた。伸ばされた舌が、必然的に互いの口腔で混ざり合う。こくこくと、喉を鳴らす音がする。

 そうして飴が小さなカケラになるまで、ふたりはキスを続けていた。その細やかなかけらをマコトに押しやって、ナンバー1はキスを打ち切る。

「ぷあ、けほ」

「……っ、飴は気に入ったかな」

 ふたりの口内では、まだ甘みが残留している。無事食い付いてくれてよかったと、ナンバー1は安堵していた。

「キミにとって不本意な食事だからね……せめて味に気を使えればと思ったのだが、どうだろうか」

「……」

 与えられた飴の残骸を噛み砕いて、マコトは「こっちの方がいいです」と答えた。「いいです」というより「マシである」というのが正しい所感であったが、わざわざ言う事でもない。

 ただ、何か餌以外のものを口にできるのは魅力的だった。

(また食べられるのかな)

 記憶上では数ヶ月ぶりの甘みの余韻を味わうマコトに、ナンバー1は「そうか、ではそうしよう」と快諾した。

(飴は存外良かったな。しかしこれはそもそも『舐める』食物だから成立した事だろう)

 口移しで食べ物を分け合うのは飴と比べて持続性がない。そもそも咀嚼した食べ物を口移しするのは基本的に嫌煙されるだろう。

(となると、事前に食べてみる……か)

 意見をまとめたナンバー1は「…マコト、次回からの補給だが」と切り出した。

「はい」

「ボクが事前に何かしら口にしてから口付けるから、味を当ててくれないだろうか」

「……クイズですか?」

「そう思ってもらって構わない」

 自身の唇を指差しながら、ナンバー1は「隅々まで探って、正解を教えてくれ」と笑った。

「多少は栄養補給の気も紛れるだろう。日替わりにするから、明日も楽しみにしていてくれ」

「はぁ」

 気の抜けた返事と共に、マコトはこの行為が恐らくより唾液の摂取を円滑化する為の細工なのだと検討をつけていた。そこまでする必要性をマコト自身は理解できなかったが。

(でも、暴力より幾分かマシだ。口の中を舐め回すのも、舐め回されるのも慣れないが……)

 消去法的に現状を受け入れようとしていたマコトの前に、手が差し伸べられる。いつの間にか立ち上がっていたナンバー1が「では行こうか」と笑った。

「どこへ」

「食事だよ。今のはキミにとって最低限必要な栄養素の補給だろう。お腹は空いているんじゃないのかな」

「そんなの、今まで許され……」

「監督してるボクが許すんだ。他に文句は言わせないさ」

 マコトの手を取って出入り口に向かうナンバー1は、既に彼の中で決定したタスクを熟すべく最適解を導こうとしている。死体などの固形物は食していたから兵糧責めの対処は行わなくていいだろうが、できる限り胃に優しそうな物の方がいいだろうか。

「そうなると、ここの食堂より……いや、まだ外に連れ出すのは早計か」

 顎を手で覆ってぶつぶつ独り言を唱え出したナンバー1に手を引かれ、マコトは見知った景色を見送った。知り尽くしている世界探偵機構本部の内部構造は、目に沁みそうだった。

(こんな事、意味はないだろ)

 マコトは今まで雑に消費されていたのだ。ここでも同じように扱っても問題ない筈なのだが。

 ふと、ナンバー1はぴたりと足を止め、「マコト」と呼びかけた。

「はい」

「先程の飴玉だが、まだだいぶ残っている」

 振り返った彼は、案外、茶目っ気たっぷりな顔をしていた。片目を瞑る仕草に、マコトは記憶の中にしか存在しないかつての自分を見る。最早遠い世界の住民のような自分。その源流である者が、自分の手を引いている。出鱈目な夢を見ているようだった。夢だから、マコトを慰撫する者が現れている。それが自分に最も近い者であるのは、なんて皮肉な事なのだろうか。

「食事の後に共に頂こう——明日以降のクイズに使った飲食物も、正誤問わず一緒に嗜んでくれるとボクが嬉しい」

 拒否権はマコトに存在しない。少なくともマコト本人はそう捉えている。なすがまま、求められた答えへの返答は「はい」しかない。

「……はい」

 だからこの返答も、そのルールに従ったものだ。それなのに声音が随分穏やかであった理由を、マコトは知らない。

 そう、彼は知らない。

 この行為に思った以上にマコトがハマる事。快感を教え込まれてしまう事。そう遠くない未来で、気持ちよくて腰が砕けてしまうようになる事。それらの一切を、マコトはまだ知らないのであった。

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続き

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