ナオミ・ブルーグラス③
ばちゅん、ぶちゅん、どぢゅん。
くぐもった水音と共に、男の呻きと女の嬌声が洞窟の中に木霊する。
「ぐぼっ!がぼぼっ……!」
「あはっ❤うひぃひひっ❤まだ萎えたらあかんよぉ……❤」
でろりと長く垂れ下がる異形の舌を伝い、薄桃色の液体が男の口内へと注がれる。奇怪に枝分かれした舌は手指のようで、口内を支え男が口を閉じる事を許さない。そこに容赦なく注ぎ込まれる液体は人体の自然反応として嚥下され、その体内へと染み入っていく。
「がぼぉっ!!」
「あっはぁぁぁぁぁ❤❤もぉっと勃ちおったぁ❤❤」
女が……ナオミが、より一層の嬌声を上げる。善がり狂う彼女の身体は人型から段々と液体めいた質感へと変わり、どろり、でろりと形容すべきであろうものへと崩れていく。
腰の動きも一層に激しく、叩き付ける様にふりたくる尻は文字通りに弾け飛ぶがごとく、粘性の飛沫を上げ、彼女の身体へと戻っていく。
「う゛ごっ!!!!」
「お゛っ❤❤❤」
どぐりゅ、ぶびゅるるるる。くぐもった音を響かせながら、彼女の下腹部に白が混じる。男のものから放たれた精は彼女の半透明と化した身体を漂い、下腹部にある何か「玉」らしき部分に纏わりつくかのように纏まっていく。
「あっは❤❤仰山射精(だ)しはったなぁ❤❤濃ゆぅい濃ゆぅいキンタマ汁ン中ぁ、びっちびち元気なお精子ちゃんたちうじゃついとるよぉ……❤❤」
ニタニタと厭らしい笑みを浮かべながら、ビクンビクンと身体を跳ねさせる男の上で尻を揺するナオミは、うっとりとした顔で下腹部を撫でる。
「あーん❤あーん❤お精子ちゃんたちがぁ❤❤うちん『核(コア)』を卵子と勘違いして群がっとるやん❤頑張れ頑張れぇ❤みぃんな膜ぅ突き破って遺伝子混ぜ混ぜしたいんやろぉ❤❤」
ナオミは最も鋭い『核』に対する知覚の中で、精液の中に蠢く精子たちが自分の胎で『核』を貫こうとしている感覚に酔う。
「……お゛ひっ❤❤」
そして—————それを磨り潰す。
胎周辺を構成する体液を蠕動させ、群がる精子たちを磨り潰し『吸収』していく。生命の元を吸収し、貪る。かつて彼女の種族が原始的な存在であった頃に行っていた「狩り」での方法の如く、それを溶かし喰らう。
「あはぁー……はははぁ❤ぷちぷちぶちゅぶちゅ❤ぐちゅぐちゅ潰いてぇ……じゅるじゅる吸ってぇ……あぁはぁ………❤❤」
低い声の吐息と共に、組み敷いた男の耳元で呟く。
「あんたさんの射精した精液……❤ぜぇんぶ❤うちが喰い散らかしたったわ……❤❤これから残りのもぜぇんぶ……❤❤喰い散らかしたる……❤❤」
歯を剥き、ニタリとした笑みを浮かべ、蕩けつつある身体のナオミの姿は『怪物』さながらの様相であった。
だがふとナオミは、組み敷いた男が痙攣しながら白目を剥き、気絶していたことに気が付いた。
彼女の身体が発する「媚薬」としての影響と、齎される快楽に耐えきれなかったのだろう。突き刺さった逸物だけが快楽を求めるかのようにびくつき搔き回そうとするが、膣圧によってそれすら動く事が出来ない。
「……はは……」
そこでふと、ナオミは自身の火照りが収まっている事に気が付いた。
ずるりと先ほどまで突き刺さっていた逸物を引き抜き、ふらふらとした足取りで洞窟の奥へと進んでいく。
進んだ先には、棺桶を模した巨大な銃口があった。彼女が自らの力だけで組み上げた、本来必要になる筈が無い「義手」。膝を付き、右手で接続部を持ち上げ奇妙な程に違和感もなく「左腕が失われている」左肩に寄せる。
にゅぐり、という感覚と共に神経が繋がる。裸身を覆うように自らの体液を変化させ、今や慣れ親しんだシスター服めいた形状へと整える。
「……はは……は……う……」
火照りが失われた後に、何時もナオミの胸中に虚しさがやってくる。
惨めだ。酷く惨めだ。
「うぅううう……!!」
かつては優秀なSSPとして華々しく成果を挙げていた自分が、今や悪党蔓延る星に隠れ潜み、「正義の味方」紛いとして頼まれてもいないのに狩り続け、そのついでに男を漁り性欲を満たす日々。
全てはあの潜入任務からだ。あの任務が完了する直前に、想定外の襲撃があった。
ただの木っ端海賊だった筈、だというのに極めて希少な「液体生物」を捕縛する為の装備を持ち、更には改造さえ可能とする『専用施設』まで持っていた。
そうして私は見せしめめいて左腕を「削除」され、更には自身を構成する粘性体液を「媚薬」と化された。
その後も散々に弄られ、辱められ、尊厳を奪われ続け……ある日、どうにか逃げ出す事が出来た。脇目も振らず遠くへと離れ、流れ着いた残骸地帯に転がっていた廃材から今の左腕を組み上げ、逃げ足に使った船の寿命が尽きたのが、この星。
「あぁ……あ……!!」
性欲が燃え盛っている時は良い。ただ悪人をぶちのめしている時も良い。何も考えず、ただ何かをしている時は、良い。
だが一つ事が終わると……虚しさと屈辱と、どうしようもない今の自分の惨めさがやってくる。襲い、犯し、喰らい、眠る。
獣と何が違う。今の私は、一体何だ。
ナオミの頭には幾度も「自死」の選択肢が浮かんだ。自身の『核』を破壊すれば、液体生物は死を迎える事が出来る。だがそれでも、死ぬ事は出来なかった。
死への恐怖があった。そして、最後に残ったほんの少しの、なけなしのプライド。
「……生きて……生きて、帰るんや……」
後輩たちに向けて放った己の言葉。それだけが、今の彼女を支えていた。
何処に帰るつもりだと理性が囁く。あの任務は、何かの作意があったものだと分かっている。何かが「上」に疎まれ、自身はあの任務に就かされ、手痛い失敗をしてしまった。
今更SSPに帰ったところで、碌な事になる気はしない。
それでも。
「生きて……生きて帰るんや……!」
なけなしのプライドが、吐いた言葉への責任が、彼女を生かしていた。