ナイスバルクっすグエル先輩!
最近学園の生徒の間でタピオカチャレンジなるものが流行ってるらしい。どうもカフェテリアで売っているタピオカドリンクのボトルを胸元に乗せて落とさないようにし、成功したらSNSに写真を上げるのだとか。
我がジェターク寮生もそんなばかばかしいおふざけに興じているようだ。それを聞きつけたラウダは半眼になって止めさせようかと言ってきたが、特に支障もないから見逃してやることにした。
しばらく経つと今度は派生型のプロテインチャレンジとやらで盛り上がっている。こちらはプロテインドリンクのパックを鍛えた大胸筋へ乗せて落とさず飲み切るというものだ。肉体派のジェターク寮らしい。些細な遊びがきっかけでもトレーニングのモチベーションアップに繋がるならば良いと思う。
ある日のこと、グエルがカミルと連れ立って寮備え付けのトレーニングルームへ行くと、丁度寮生が日頃の鍛錬の成果を見せようと熱心に挑戦しているところだった。
「あー、惜しい」
「やっぱバンプアップ足りてないなぁ」
あのようになかなか良い体をした男子生徒でも失敗するのか。意外と難しいんだな。などと興味を惹かれて彼らの方を見ていたら向こうも気がついて声を掛けてきた。
「あ、寮長にカミルチーフ。こんちはっす」
「それは例のなんたらチャレンジか?」
「ですです〜。手を使わずに胸だけで支えるのってこれが結構ムズくて」
「あ、でも二人ならできそうじゃない?」
参考資料としてSNSに投稿された達成者(男性)の写真を見せられる。確かに、このくらいの厚みを必要とするなら自分たちにはできそうだ。
「見たいなー!」
「二人ともやってみてよ!」
「まいったな……どうするグエル」
「まあこれくらいなら……」
グループの中にいた三年生の派手な女子たちがそう提案してきたので、若干気圧されつつ、やってみることにした。
プロテインドリンクの入った四角いパック。そこにストローを突き立てて咥え、そっと裸の胸元に乗せる。グエル自身の努力した証──豊かな厚みのある大胸筋は容器を危なげなく受け止め、ギュッと寄せて力を籠めればしっかり固定できた。横目で見るとカミルもまた立派な胸板にパックを難なく置いている。
「おお〜!」
「マジで乗っかってるー!」
二人は今、チャレンジ達成の証拠にするからとカメラを向けられている。動画を撮影する者もいた。
乗せたらあとは飲み切るだけだ。肺活量を目一杯活用し、一気に中身を吸い上げる。やがて空っぽになったパックを掴み、二人は勝利宣言のようにそれを掲げて振った。見事、チャレンジ成功である。次々とシャッターが切られ、拍手と賛辞を送られる。
「すっげー!先輩たちすっげー!」
「グエぴたちの巨乳ナメてたわ」
得意満面のグエルはカミルと拳を突き合わせ、珍しくニッカリ歯を見せて笑った。自分の鍛え抜いた肉体を再確認するいい機会だった。馬鹿げた一過性のブームだと軽んじていたが、なかなかどうして楽しいじゃないか。
「寮長すげー!カミル先輩すげー!」
「俺らもがんばろ!」
そうポジティブに捉えていたのは陽キャでジョックなジェターク寮生だけだったようで、悪意のある人間によってグエルたちのプロテインチャレンジ動画と写真がアスティカシアの学内掲示板に流出するや否や、それはもうひどい劣情と罵倒の嵐が巻き起こった。劣情97:罵倒3の割合だ。
一部を抜粋してみよう。
『デッッッッ エッッッッッッ』『このおっぱいでホルダーは無理でしょ』『男の胸に価値はないと思っていた』『カミルくんふっと♡恵体すこ♡』『薄褐色子供乳首たすかる』『ふざけんな抜くぞ』『俺とどすこいぶつかり稽古してくれ』『いいご身分だな』『弟も見せろ』等々……。
目を覆いたくなるようなレスの山を見て遂にラウダが切れた。
「ジェターク寮はタピオカチャレンジもプロテインチャレンジも今後一切禁止!」
そう厳命された寮生はおとなしく従ったか。いいや、金と行動力がある高専生の探究心は尽きない。むしろそのお達しこそ、また新たな○○チャレンジのネタを生み出してはラウダに禁止されるというイタチごっこの始まりだったのだ。過熱するSNS問題、というか飽くなき人間の心理はアド・ステラの時代になっても変わりないようである。
ところで我らがグエル・ジェタークはそんな騒ぎも露知らず。分厚い胸筋に物を置けば両手が空くことを学習した彼は、今日も生徒手帳だったりタピオカドリンクだったりをたわわな雄っぱいに乗せて平気な顔で作業に打ち込んでは周囲の人々を悶々とさせているのだった。