ドラム島編inウタ3
丸のこやナイフが向けられた拘束具の付いたベッドや怪しい雰囲気漂う試験管やフラスコ、人のものを含む多種多様な頭蓋骨が壁や椅子に散りばめられた奇妙な部屋でナミは横になっていた。
何とも悪趣味な部屋ではあったがナミが横になっているベッドだけは普通のものではあった。彼女の頭に置かれている氷の詰められた袋が斧で支えられている点を除けば。
そんな部屋で微かに鳴る薬を調合するような音でナミは目覚めると、その薬を調合していたと思われる動く物体に声をかける。
「だれ?」
だれと聞かれたその物体、いや生き物はナミが起き上がって声をかけてきた事に驚き後退していく。酷く同様しているのか出入口付近まで行くと本来隠れるべき向きとは逆に体を向けており、それをナミに指摘されるとそーっと体の向きを直すがなおも隠れられてはいない。
一体何がしたいのか、そう思いナミが何なの?と問うとその生き物はビクビクしながらも言葉を発していく。
「う……うるせェ!!!人間っ!!!それとお前熱大丈夫か?」
「喋った!!!?」
「ぎゃあああああっ!!!」
「ううるっさいよチョッパー!!!」
珍妙な生き物が喋った事に驚いたナミに悲鳴を上げたその生き物、チョッパーは別室へと引っ込んでいく。そんなチョッパーに対してうるさいと怒鳴ったであろう女性が別室からナミのいる部屋へと入っていく。
サングラスをかけ手には酒瓶、へそにピアスを付けたファンキーな格好をした顔付きだけはバアさんなその女性はナミの額に指を当て38度2分と検温しながら笑いかけてくる。
「ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ!!ねつァ多少ひいたようだね小娘!!ハッピーかい!?」
「……?あなたは?」
「あたしゃ医者さ、"Dr.くれは"。『ドクトリーヌ』と呼びな、ヒーッヒッヒッヒ」
医者と聞いて周囲を見渡していたところへ藪から棒に若さの秘訣かい!?と聞かれたがそれを軽くあしらったナミはここがどこかとくれはに問いかけると予想通り山の頂上にある城と答えられ、だったらと更に質問を投げかける。
「私の他にあと3人いたでしょう!?」
「ああ、となりの部屋にいるよ。男2人はぐっすり、もう1人の娘には看病にあたらせてる」
仲間の無事が分かりホッと胸を撫で下ろすナミであったがそこへ間髪入れずにくれははナミの服を捲り腹を露出させると左脇腹辺りに浮き出ている痣のようなものを指しこいつが原因だとナミが高熱を発した病気について語り始める。
それはケスチアと呼ばれる虫に刺された際に発生するものらしく、刺されれば体の中に5日間潜伏し高熱・重感染・心筋炎・動脈炎・脳炎など様々な症状で人を苦しめ続けるという。
刺し口の進行からみて感染から3日目と言うくれはであったが、5日経てば楽になれたとも言う。
「放っておいたらお前は2日後には死んでたからさ」
「…………え!!?」
5日経てば楽になれるというのは死ぬ事で5日病とも呼ばれるその病気の苦しみから解放されるというものだったのだ。
だがケスチアは100年も前に絶滅したとも言い、太古の島の密林を腹出して散歩でもしてたのかと揶揄られたナミであったがまず間違いなく二人の巨人が決闘を繰り広げていたあのリトルガーデンで貰ったものだと思い「あ」と声を出してしまう。
そんな小娘に呆れながらも治療は終わってないからとくれははナミを再びベッドに寝かせつつ、あとは勝手に治るんでしょと病気をナメた発言をするナミに対して3日は大人しくしてもらうと言い放つ。
それを聞いたナミは3日もここにはいられないと体を起こし抗議するがメスを握りしめたくれはに押さえつけられる。
「あたしの前から患者が消える時はね…ヒッヒッヒ。治るか!!死ぬかだ!!!逃がしゃしないよ」
「そんな……!!!」
首元にメスを向けられ身動きが取れないところへ別室からチョッパーが悲鳴を上げながら飛び出してくる。その後ろにはルフィとサンジがくっついていた。
「ギャーーー!!!助けてェっ!!!」
「待て肉っ!!!」
「待て待てルフィ、こいつはおれが調理する。どうせなら美味く食うべきだ」
「ルフィ、サンジ…………それと何なの?…あの花の青い…喋るしかのぬいぐるみ」
「驚いたね、あいつらもう動くのかい」
くれはがそう驚くのも無理はない。チョッパーが三人を連れてきた時にはルフィは全身凍傷になりかけ、サンジは出血が酷く骨を何本もやられ、ナミはケスチアで死にかけてる状態だったのだから。
そんな状態から適切かつ最高クラスの治療を施したとはいえ動き回り目の前の生き物を食べようとするその姿を見ながらくれははナミの質問に答える。
「あいつが何かって?名前はチョッパー、ただの青っ鼻のトナカイさ…」
「トナカイは喋らないわよ!」
「───ただし、"ヒトヒトの実"を食べて"人の能力"を持っちまっただけさ。あいつにゃあ、あたしの"医術"の全てをたたき込んであるんだよ」
くれはがそう解説する中でチョッパーはたぬきのようなサイズから大男程のサイズにまで大きくなり、ルフィとサンジを殴り倒すと部屋から出ていってしまう。
そこへ入れ替わるように焦った顔付きで紅白の髪を揺らしながら一人の少女が入ってくる。ウタだ。
「こらルフィ!!サンジも!!2人ともまだ安静にしてなきゃダメでしょ!!?……あ、ナミ!!起きたの!?よかった……!!」
「ええおかげさまで。あんたも元気そうでよかったわ」
「よかないようさぎ娘!お前にはその2人を見てるよう言っておいたはずだよ!!教わる気あんのかい"若さの秘訣"!!」
「ごめんなさいくれはさん!!ちょっとうたた寝しちゃって……」
言い訳するウタにくれはは台所に置いてある料理と水を持ってくるよう指示を出す。それに対してウタは、はーい!と元気よく返事をする。
仮にも客人であるはずのウタが明らかに雑用をさせられているのを見てナミが微妙な表情をする横でルフィがそういや…と口を開く。
「ウタ、お前いつここ来たんだ?おれ達がここ来た時はまだ来てなかったよな」
「ああ、それなんだけどね…私がここ来た時にはもうみんなの治療が終わってたんだ。下でちょっと時間かけすぎてさ……」
そう言いながらウタは雪崩の後にルフィ達と別れた後にどうやって山の頂上の城へ辿り着いたのかを語っていく。ルフィ達と別れた後にウタは一体何をしていたのか……
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ラパーンの群れにより引き起こされた大規模な雪崩。その被害を受けたのはルフィ達やビッグホーンの村だけではない。岩にぶつかり空を飛んだサンジと衝突し玉突き事故のようにしてスっ転んでいったラパーン達も雪崩の被害を受け雪の中に埋もれていたのだ。
いくら雪山で生活する動物といえど雪崩に巻き込まれ埋もれてしまえば自力で脱出することはほぼ不可能。それを雪山で生活しているからこそ理解している小さなラパーンの子うさぎは必死に埋もれた親うさぎを助けようと雪を掻き出すが焼け石に水。ほとんど効果はなかった。
そこへ雪を踏み鳴らす音と共に槍を背負った少女、ウタが現れる。
「いた……やっぱりこの子の声だったんだ」
「…ッ!!ガルルル!!!」
「そんなに警戒しないで……!!私はあなた達を助けに来ただけだから!!」
持ち前の歌の才能からか、遠くの音でも拾える程耳がいいウタは子うさぎの必死なガルルルという鳴き声を聞き取りここまで来たのだ。警戒しないでと優しい声色で話し親うさぎの僅かに飛び出している腕を掴んだウタに対して、子うさぎは藁にもすがる思いで見守り、それに応えようとウタも両手で掴んだ親うさぎの腕を力強く引っ張りあげる。
「んん…しょっ!!!」
ボコォ…!!という音と共に出てきた親うさぎの一本傷が入った顔を見た子うさぎは分け目もふらずに抱きつき涙を流し、親うさぎも優しく包み込む。
それを見たウタはよかったと口にしながらもまだ用があるのか周囲を見渡しながらラパーンに話しかける。
「あなた達の仲間ってこの辺りに埋もれてるはずだよね?安心して!!私がみんな助け出してあげるからね!!」
つい先程まで襲いかかり雪崩まで引き起こしたにも関わらず自分達を助けるという目の前の人間に面食らったような表情を浮かべるラパーン。
なぜウタがそこまでしてラパーン達を助けようとするのか。それはひとえに彼女の優しさゆえであろう。たとえ敵対した相手であろうと助けられるものならば助けたい、そんな思いが彼女を突き動かすのだ。
そうして近くで埋もれているラパーンを見つけたウタは最初にしたのと同様に引っ張りあげていく。一匹、また一匹と引っ張りあげていき、とうとう全てのラパーンを救出したウタはさて…と休むのも程々にルフィ達の元へと戻っていこうとする。
「ルフィなら大丈夫だと思うけど……早く合流しないと…!!ラパーンのみんな!!もうあんな雪崩なんか起こさないでね!!じゃあ……わぷっ!!」
救出し終えたラパーン達に手を振り離れていこうとするウタであったが何か毛深いものに当たり歩みを止められてしまう。一体何がと思い見上げると、そこには最初に救出した顔に一本傷の付いたリーダー格と思しきラパーンが背中を向けていた。
「もしかして………乗れって言ってるの?」
両腕を上げ肯定するように一言だけ返事をしたラパーンを見たウタは子うさぎと同じようにして背中に飛びつき乗っかっていく。
「ありがとう!!それならあの山の頂上までお願い!!!」
「ガルルルルル!!!」
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「────そうしてラパーンの背中に乗った私はここまで登ることが出来たの!!まさか乗せてくれるとは思わなかったなー……」
「ずりィぞウタ!!乗れるもんならおれも白熊の奴に乗りてェ!!!」
「出た!!負け惜しみィ!!」
定番のやり取りをする二人を見てくれははヒッヒッヒと笑いながらラパーンは決して人に懐かないという習性を語る。それを背中に乗せてもらうとは大したもんだよと褒められ上機嫌になったウタであったがそんな話はいいから早く料理と水を持ってきな!と怒鳴られ、ウタは急いで台所に行き言われた物を持ってきてテーブルに並べていく。
巻かれていた包帯を取り服も着替え、とりあえずの腹ごしらえを済ませたルフィ達。そこへ突然ルフィがある提案をくれはに持ちかける。
「仲間になってくれ!!頼む!!!ばあさん」
「ルフィ…そう言ったねお前の名は」
「ああ」
「口にゃ気をつけるこったね!!!あたしゃまだツヤツヤの130代だよ!!!」
「うぶっ!!」
「おお…すげェババアだな」
年寄り扱いするルフィとサンジを蹴り飛ばしたくれはは海には興味はないとルフィの勧誘を一蹴する。
なおも勧誘を続けるルフィであったが、覗き見をしていたチョッパーを見つけるとサンジ共々再び追いかけ始め、それをくれはとウタが追いかける。
「待てトナカイ料理っ!!!!」
「待ちなガキ共!!!」
「2人共待って!!!」
「ぎゃああああ!!!」
その最中、サンジは顔だけ振り向かせながらウタとナミに精のつくトナカイ料理を作るからと言うがそれを遮りお前らを食ってやると包丁を握りしめながら迫るくれはと外は寒いからこれを着なさいと二着のコートを持つウタ。
何重にも折り重なった鬼ごっこをしながら出ていく四人と一匹を見送ったナミは大人しくしててほしいとため息をついたのも束の間、皆が出ていった場所から雪を乗せた風が入り込み閉めようと動き出す。だがそれをちゃんと寝てろよと制止する者が一人。チョッパーだ。
ルフィ達から何とか逃れたチョッパーはキョロキョロと辺りを見渡しながらゆっくりと扉を閉めながらケスチアの細菌はまだ体に残ってるんだからと付け加える。
「ちゃんとまだ抗生剤打って安静にしてなきゃまた」
「ありがとう」
「ん?」
「あんたが看病してくれてたんでしょ?」
「……………………!?……!!!う…!!うるせェなっ!!に…人間なんかにお礼を言われる筋合いはねェ!!ふざけんな!!コノヤローが!!」
「感情が隠せないタイプなのね」
言葉とは裏腹にうきうきニコニコと全身で喜びを表現するチョッパーだったが、すぐに落ち着くとそ〜ろ〜り〜とナミに近づきながらお前達は本物の海賊でドクロの旗を持ってるのかと矢継ぎ早に質問をしていく。
もしやと思ったナミが海賊に興味があるのかと問いかけるとチョッパーは分かりやすく動揺しながら、ねェよバカと捲し立てるが言葉の裏を読んだナミがにっこりと笑いかけながら語りかける。
「…でも…じゃあ、あんたも来る?」
「お!!?」
「海よ!!一緒に来ない?そしたら私も助かるわ!船に医者がいればここに3日もいなくていいでしょ?それに今ウチの船には…」
「バ……バ…バカいえ!!!おれはトナカイだぞ!!人間なんかと一緒にいられるか!!!」
2本足で立って喋る青っ鼻のトナカイが怖くないのかと聞くがなんてことはないといった様子のナミにチョッパーは面食らったような表情を見せる。
話が先に進みそうな雰囲気が漂い始めたところへ問題児二人が入ってくる。
『そこにいたかトナカイ〜〜!!!』
「ギャーーーッ!!!」
『待て……ぶ!?』
チョッパーを捕まえようとするルフィとサンジだったが、二人の顔にコートが投げかけられる。何とか追いついたウタが投げ込んだのだ。
「二人共さっき外出て寒かったでしょ!?ちゃんとそれ着てよ!!」
「ありがとうウタ!!じゃあな!!」
「ウタちゅわ〜ん!!美味しいトナカイ料理作って来るから待っててね〜♡」
嵐が去っていったようにしてコートを着た野郎二人とトナカイ一匹がいなくなり、部屋に残されたのは少女二人。そこへ入ってきたピチピチ130代の女がすばしっこいガキ共だと愚痴りながら椅子に腰を落ち着けるとナミに感心しないねと話しかける。
「あたしの居ない間に許可なくトナカイを誘惑かい?」
「…あら、男をくどくのに許可が必要なの?」
「ヒーーッヒッヒッヒッヒ!!…いーやいらないさ!!持っていきたきゃ持ってきな!………だがね、一筋縄じゃいかないよ!あいつは心に傷を持ってる…………医者でも治せない大きな傷さ…」
あたしでも治せないと言うくれはにウタとナミの頭に疑問符を浮かべるとくれははその大きな傷が何たるかを語っていく。
チョッパーはこの世に生まれた瞬間に青っ鼻だったからと親に見捨てられ、群れの最後尾を一人寂しく歩いていたという。そしてある日悪魔の実を食べ、いよいよバケモノ扱いされ群れから激しく追い立てられてしまったのだ。
それでも仲間が欲しかったチョッパーは人として人里におりたがその姿も完全な人型にはなれず、青っ鼻だけは変わらなかったがためにバケモノ扱いされ石を投げられ銃を撃たれて追いやられてしまう。
何が悪いのか分からない、何を恨めばいいのかも分からない。トナカイでも人間でもなくバケモノと呼ばれ、仲間が欲しかっただけのチョッパーはそうやってたった一人で生きてきたというのだ。
「お前達に…あいつの心を癒せるかい?」
「癒せるよ!私の歌があればね!!」
「…随分な自信だねうさぎ娘。いや、ウタと言ったかい……何故そこまで断言出来る?」
重々しく語られたチョッパーの過去を聞きながらもそれを癒せると言い切るウタに対して懐疑的な視線を送るくれはであったが、それを全く気にせずウタは胸に手を当てながら自信満々に答えていく。
「だって私は歌でみんなを幸せにするのが夢なんだもん!!それくらいやってみせなきゃ話にならないでしょ?」
「……ヒーヒッヒッヒ!!面白い事を言う小娘だね!!歌か……それもまた一つの道だろうね」
「そうだよね!!じゃああのトナカイ君の心を癒せたら仲間にするのと、若さの秘訣!教えてもらっていいですか!?」
チョッパーを仲間にするのとは別に若さの秘訣とやらを教えてもらおうとするウタの姿を見てナミはさっきから思ってたけど…と口を挟む。
「あんたなんでそんなに若さの秘訣とやらを知りたがるのよ…」
「え?だって……知りたくない?」
「まあ興味がないと言えば嘘になるけど、そこまでして教わりたいものかしら……」
「ヒッヒッヒ!!確かにここまでして教わろうとするやつは初めて見るさね。そんなにあたしのこの体に惚れ込んじまったかい!?」
「いや、体の方は別に興味ないかな」
体には興味がないというウタにナミとくれはは少し困惑する。若さの秘訣が知りたいのならばくれはの130代とは思えぬその体を保つ方法が知りたいとばかりに思っていたからだ。
困惑しつつもならなぜ知りたいんだと問うくれはに対してウタは元気よく答えていく。
「なんでって……だって若さは心からくるものでしょ?それなら今も若々しいままのくれはさんなら何か心を若く保つ方法を知ってるんじゃないかなって思って!!」
「………そうかい…まああながち間違っちゃいないがね。その価値観も……否定はしないよ」
「…?」
何を言っているのか分かってないといった様子のウタに対してくれははチョッパーの心を癒せたら若さの秘訣でも何でも教えてやるよと言い放ち、ウタは無邪気にやったー!と全身で喜びを表現する。
その様子を見てくれはは笑みを浮かべながら振り返りつつ口を開く。
「…一人いたんだがね」
「え……」
「…あいつが心を開いたただ一人の男が…昔ね」
そうして語られたのはチョッパーに名を与え共に生きたヒルルクという男の話。追いやられ心も体も深く傷ついたチョッパーを癒し、ドクロの旗を掲げ誓った信念の象徴を共有し、先の短いヒルルクを想いチョッパーが持ってきた毒キノコ"アミウダケ"のスープを有無も言わず飲み干し、くれはに自身の30年の研究と息子を託し、最期には頂上にそびえ立つ城の前で爆散した病んだ国を救おうとしたヤブ医者の話。
そんな話がくれはの口から語られる中、外に出ていたチョッパーはトナカイとしての鼻を利かせ、城へ近づいてはいけない者達の存在に勘づく。二体の毛カバに乗ったワポル達が山を登っており、もうじき登頂しきるところまで近づいていたのだ。
ルフィとサンジを振り切っていたチョッパーはワポル達が来たことをくれはに伝えるためにナミが横になっている部屋まで急いで戻っていく。
「大変だよドクトリーヌ!!ワポルが…帰って来た!!!」
「げっ!!ワポルって今話してたやつ!?」
「………そうかい」
すぐに事情を理解したくれははチョッパーを連れ城の正門へと向かっていく。悪い王様が来たからには自分も行くとウタは二人について行く。
そして城の正門前ではワポル達が城のてっぺんに立つドクロの旗を見てドラム王国の国旗はどうしたと騒いでおり、それに答える形でくれは達はワポル達の前に姿を現していく。
「ヒーーッヒッヒッヒッヒッヒ!!燃やしちまったよそんなモンは」
「ぬ!!!出ェたなDr.くれは!!!"医者狩り"最後の生き残り!!!この死に損ないめがっ!!!」
「この城はね…ヒルルクの墓にしたんだ。お前らの様な腐ったガキ共の来る所じゃないよ、出て行きなこの国から!!…もうドラムは滅んだんだよ………!!!」
「墓!?あのバカ医者の墓だと!!?まっはっはっは、笑わせるな!!!!」
ヒルルクを大口開けてバカ医者と罵るワポルを見たウタはあれ?と思わず口にするとそのまま言葉を続けていく。
「もしかしてあれ…"雑食おじさん"?なんでこんなとこにいるんだろ」
「なんだい小娘、お前あいつらを知ってんのかい?」
「知ってるも何もあれ"雑食おじさん"でしょ海賊の。私達の船を作曲途中の楽譜ごと食べた!!謝ったって許さないんだから!!!」
「海賊……なるほどね。それに関しちゃ知ったこっちゃないが、あれがさっき話したこの国の最低な国王だったやつだよ!」
「ええ!?あれが!!?……全っ然王様なんかに見えないよ?」
船を食べまくり、目の前で下品に笑う姿から王様には見えないと言い放つウタを無礼な女がいますと言うワポルの家臣達。それにあれは麦わらの一味の一人のはずと付け加えられる。
「ドルトンも死に…ここには反国ババアと麦わらの一味がいる。まっはっはっ、こいつらを消せばもうおれ達に歯向かおうって生意気な輩はいなくなるわけだ…」
「そうですな…晴々としたドラム復活の日になるでしょう。お任せをワポル様、すぐに掃除いたしますので」
「どういうつもりか知らねェが!!おれ達の留守中に城に住みつくとはいい度胸だDr.くれは!!!」
噛み付いてくるクロマーリモに対しくれははこんなボロい城に興味はないが、コイツがヒルルクの墓標を立てるんだときかなくてねと言う。くれはの言うコイツ、チョッパーは体をトナカイの形からかつてヒルルクが死んだ直後にワポルらに向かっていったのと同じ大男の姿へと変貌していく。
「ドクターはこの国を救いたかったんだ!!!だからおれは…お前達を城へは入れない!!!あのドクターの"信念"は絶対に下ろさせないぞ!!!」
「まっはっはっ…いよいよもって殺してェ奴大集合ってわけだな!!!容赦するな!!!一人残さず殺っちまえ!!!」
「はっ!!食らえェ!!"静電気(エレキ)マーリモ"!!!」
ワポルの家臣の一人、クロマーリモがモコモコアフロで覆われた腕を振るいアフロをくれはへと投げつけていく。
唐突に投げられたアフロに反応が遅れたウタとチョッパー。そのままアフロがくれはの顔に命中するかと思われたその時、一本の足がくれはとアフロの間に割って入りアフロを受け止める。
「ヘイヘイヘイアフロマン!!てめェレディーに向かってアフロ飛ばすとはどんなブラザー魂だよ」
「ヒッヒッヒッヒッヒ…わかってきたじゃないか」
「サンジやるー!!」
「ほっ…」
くれはに向けられたアフロを受け止め喜んでいた一行であったがクロマーリモはかかったな!と笑みを浮かべる。それに気づいたサンジはアフロを外そうと足を振るが全く離れない。どうやら技名の通り静電気でくっついてしまっているようなのだ。
そしてクロマーリモはまだまだ出るぞとアフロを増やしサンジへ向けてアフロを二つ投げつけ引っ付かせる。地味で気持ち悪いアフロを三つもくっつけられたサンジはチョッパーに外すよう協力を仰ぐがチョッパーにもアフロがくっついてしまい、返す返すなのいたちごっこが繰り広げられてしまっていた。
「フン!バカめ……次はお前だ!!"静電気(エレキ)マーリモ"!!!」
「させない!!くっついちゃう前に斬れば問題ないよね?」
「ほお…中々やる」
今度はウタにアフロを追加しようとしたクロマーリモだったが、それをウタが斬り捨てる。
しかしサンジらには既にアフロが三つも付いており、そこへチームワークがなってないともう一人の家臣のチェスが炎を宿した矢を弓に番え、サンジとチョッパーに向けていく。
「言っておくがその"静電気(エレキ)マーリモ"…地味な割にはよく燃えるんだぜ」
「やべェ!アフロを燃やす気だ!!!」
「おとり作戦だっ!!」
「おれが囮かァ!!!」
「チェックメート!!!」
「熱イッ!!!雪っ雪っ!!!」
おとり作戦と称しサンジを囮に仕立てたチョッパーはチェスに向かっていき拳を振りかざす。だがそこへワポルが割って入りチョッパーを食ってしまう。
「食べられちゃった!!!」
「しまった!!!」
「チョッパー!!!」
「おっ!!サンジ!!ウタも!!お前ら何してんだァ!?」
「ルフィ!!!……!!そこからおれの足つかめるか!!!」
「足?おう、こうか!!?」
「よォし、この手離すなよっ!!!」
少し遅れて城の正門前まで来たルフィはサンジに言われるがままに足を掴み、サンジはめいっぱい力を込めてルフィが掴んだ足を振り抜いていく。
「"空軍(アルメ・ド・レール)"」
「おー?おーー!!!」
「"ゴムシュート"!!!!」
「うっっほ〜〜っ!!!」
「んぬァあぬいィ!!!」
「回転も加えてやる!!!」
「ブふゥ!!!!」
サンジの脚力とルフィのゴムとしての跳弾力、そこにルフィが回転を加え抉るような凄まじい威力と化した体当たりは食べられていたチョッパーを吐き出させながらワポルを大きく吹き飛ばしていく。
が、そのまま彼方へ飛んでいくことはなく、後方に控えていた毛カバのロブソンにぶつかりそれを身代わりにする形でワポルはその場に留まることになる。
「フゥ…まずまず………あァアア!!?ウッ……」
「イッたか背骨……ま、当然だ」
ルフィを勢いよく蹴り飛ばしたまでは良かったがそれまで。そもそも動けているのが奇跡に近い状態であったサンジはその場に倒れ伏し、くれはに乗っかられ身動きを取れなくさせられてしまう。
一方、ワポルから吐き出されたチョッパーは大男から小さな姿に戻っていた。
「あ…ありがとう、すげェんだなお前達…」
「うん………見ろ!!あいつまだ生きてるぞ………!!」
「カバは飛んでっちゃったけどね」
「ワポル様!!大丈夫ですか!!?」
「やってくれるじゃねェか……海賊風情が…!!!」
「ん?何か妙な奴がいんなァ……」
ルフィが言う妙な奴とはムッシュールの事であった。船で会った時には見かけなかったその姿に懐疑的な視線を向けるルフィとウタだったがそれを気にも留めずにムッシュールはワポルに手を貸そうかと打診するが奴らはおれが殺すとワポルは拒否する。