ドラム島編inウタ2

ドラム島編inウタ2


「名前のない国?そんなことってあるんですか?」


村へと案内される中、国に名前がないと言われごく自然な疑問を浮かべるビビ。

医者が魔女一人で国に名前がない、何とも不思議な所へ来たと思いに耽けようとしたところへウソップの悲鳴が響き渡る。


「っぎゃあああ!!!熊だあああっ!!!みんな死んだフリをしろォおお!!!」

「ハイキングベアだ、危険はない。登山マナーの"一礼"を忘れるな」


ウソップ一人が死んだフリをし、皆が一礼をして雪の中をかけ分けていく。

船番としてゾロとカルーを残した一行は寒さに震えながらも一歩一歩進んでいき辿り着いたのは雪の降る村"ビッグホーン"。巨大な角を有していたり、フサフサの体毛に覆われた動物達と人が闊歩するその光景に一行は興味津々だ。


「なんか変な動物歩いてるぞ」

「あのフサフサしてる子可愛い…!!」

「さすが雪国だぜ」

「ナミさん!!人のいる村へついたぜ!!村だ!!!」


村への案内を終えたリーダー格の男は共にここまで来た島民らに対し見張り以外は仕事に戻ってくれと通達する。一人で平気かと問われるもその男は長年の勘から彼らに害はないと言い島民らを解散させる。


「…国の守備隊ではなかったんですね」

「民間人だ。ひとまずウチに来たまえ」


ビビの疑問に男が答え家へと案内されようというときにウソップは何かを発見し小さな声でルフィとウタに話しかける。


「はっ!!おいみろお前ら!!ハイキングベアだ」

「またかっ…!!」

「登山マナーの"一礼"…だよね……!!」

「あらドルトンさん、海賊が来たと聞いたわ。大丈夫なの?」

「ええ、異常ありません。ご心配なく」


ハイキングベアに似た大柄のおばさんに一礼する三人を困ったように男が見届けた後、その男の家へと案内された一行はナミをベッドに寝かせ安静にさせると、申し遅れたが…と男に声をかけられる。


「私の名はドルトン、この島の護衛をしている。我々の手荒な歓迎を許してくれ」


その男、ドルトンは肩に背負っていた大きな武器を取り外しながら自己紹介をするとナミをベッドに寝かせるビビへ一つ聞いていいかねと歩み寄る。


「どうも私は君をどこかで見た様な気がする…」

「!!き…気のせいですきっと…それより"魔女"について教えて下さい…」


海賊として上陸した以上、アラバスタの王女であることを気取られるのはよろしくないと判断したビビは魔女という一人しかいないという医者の事を問いかけ話を逸らしていく。

そんな中で辛そうな表情をしているナミの体温を問うたドルトンに対して今朝は42度であったことを伝えると驚愕される。


「3日前から熱は上がる一方で…」

「これ以上上がると死んでしまうぞ…」

「…ええ、だけど病気の原因も対処方法も私達にはわからなくて」

「何でもいいから医者が要るんだ。その"魔女"ってのはどこにいんだよ!!」

「"魔女"か…………窓の外に…山が見えるだろう…!?」

「ああ…あのやけに高い…」


島に入っていった時から目立っていた山の事を言われ、窓の外を見ようと振り向いたサンジとビビの視界に入ってきたのはそびえ立つ山ではなく家の中を覗き込む雪だるまであった。


「"ハイパー雪だるさん"だ!!!」

「"ウルトラ雪だるシャン"だよ!!!」

「雪の怪物"シロラー"だ!!!」

「何やってんだてめェら!!!」


二段重ねの大きな雪玉で作られた雪だるまを作ったルフィと左目に三本線が入った三段重ねの雪だるまを作ったウタ、今にも動き出しそうなほど精密に作られた雪の恐竜を作ったウソップら三人は邪魔だからどかせとサンジに命じられ、自分達の作品を破壊し家の中へ入りお茶を啜る。

そしてようやく見えた山を見てドルトンはあれが何たるかを語っていく。


「あの山々の名はドラムロッキー。真ん中の一番高い山の頂上に城が見えるか?今や…王のいない城だ…」

「城!?」

「あったまるなー」

「心までポカポカ」

「ああ…確かに見える」

「あのお城が何か…?」

「人々が"魔女"と呼ぶこの国唯一の医者、"Dr.くれは"があの城に住んでいる…」


国唯一の医者が島で最も高い山の上の城に住んでいると聞きなんであんな高いところにと愚痴を言うサンジ。急患だからすぐに呼んでくれと頼むがそうしたくとも通信手段がないのだという。

医者としての腕は確かだが少々変わり者のバアさんらしく140近い高齢だと付け加えられ、ではこの国の人は病気やケガをどうするのかとビビが問う。


「彼女はきまぐれに山を降りてくる。そして患者を探し処置を施しては報酬にその家の欲しい物をありったけ奪って帰っていく」

「そりゃタチの悪いババアだな」

「おいおいまるで海賊だな!!」

「私あんまりその人とお近づきになりたくないかも」

「でもそんなおばあさんがどうやってあの山から…?」


140近いバアさんがどうやって山を下るかというごく自然なビビの疑問にドルトンは答える。噂ではあるが月夜の晩にそりに乗り、見た事のない生き物と共に空をかけ降りてくるというのだ。

それを聞いたウソップは魔女に加えて雪男もいるのかと頭を抱え、ドルトンもあまり関わりになりたくないと漏らす。

次に山を降りて来る日をここで待つしかない、国中で医者が一人なんておかしすぎるなどと言い合う最中にルフィが動き出す。


「おいナミ!!ナミ!!聞こえるか?」

『───でお前は何やってんだーっ!!!』

「………ん………」

「お!起きた。あのな、山登んねェと医者いねェんだ。山登るぞ」


急にナミを起こしたかと思えば山を登るなどぬかすルフィにサンジとビビは真っ先に止めようとするが、おぶっていくし早く診せた方がいいだろとルフィが譲らず、ウタとウソップもルフィを止めようと説得し始める。


「てめェが行けてもナミさんへの負担はハンパじゃねェぞ!」

「でもほら…もし落っこちても下は雪だしよ」

「あの山から転落したら健康な人でも即死よ!!!」

「あのねルフィ…?ナミはルフィじゃないし、今は特にムリしたら危ないんだよ!?」

「常人より6度も熱が上がった病人だぞ!?わかってんのかお前っ!?」

「………………ふふっ」


自分のためを思い行くべきだと譲らない船長とナミの体が持たないと止めようする仲間達を見て笑いが漏れるナミ。皆がナミの身を案じ振り返る中、ナミは早く治さなきゃと一考し小さく右手を上げる。


「…よろしくっ」

「そうこなきゃな!任しとけ!!」


ナミが上げた手にぱしん!と手を叩くルフィを見た一行は二人に呆れかえりながらも不安を募らせる。

そこでルフィ一人に任せられないとサンジとウタも同行しようと声を上げる。


「よし、おれも行く!!!」

「私も!!」


足を引っぱるだけだからと残る事にしたウソップとビビはルフィに転ぶなよと忠告をしつつナミが落ちないようにするためにしっかりと布で固定する。

そんな一行を見て本気なら止めはしないがせめて反対側の山から登るといい…とドルトンは忠告する。正面から行こうとすると何でも"ラパーン"という肉食の凶暴なうさぎがいるらしく、集団に出くわせば命はないのだと。


「うさぎ?でも急いでるんだ…平気だろ、なァ」

「あぁっ蹴る!!!」

「歌って突く!!!」

「じゃいくか!!お前ら!!!ナミが死ぬ前にっ!!」

「縁起でもねェこと言うんじゃねェ!!このクソ野郎!!」

「何があってもナミを落とさないでよルフィ!!絶対だよ!!!」


自身の忠告を無視し、三人と背負われた病人の背中が遠くなっていくのを見ながら本当に大丈夫かと心配するドルトンに対して残った二人はあの三人は心配ないがナミの体力がついていけるかどうかと口にする。

三人と病人が見えなくなり、外は寒いからと中へ入るようドルトンは二人へ促すが、ウソップもビビも外にいたいからとその場を動こうとはしなかった。二人の心意気に触れドルトンも付き合おうと言い、雪の積もる地面に腰を据えると昔は医者がちゃんといたのだと話し始める。

理由あって医者が全員いなくなった事、数ヶ月前に"黒ひげ"という海賊に国を滅ぼされた事、元あったこの国の名が『ドラム王国』で王の名は『ワポル』であり、襲ってきた海賊を恐れ戦おうともせず誰よりも早く国を捨て海へ逃げ出した最低の国王であり、町村の復興が進んだ今最も恐れているのがワポルが帰還し王政の復古が為される事であると。


所変わって山の上の城にいる魔女を目指すルフィ達。村やその周辺と比べて雪が多く積もり足場が悪く、風まで吹いてきたことによりその歩みは徐々に遅くなっていた。


「ちょっと寒くなってきたな…風が出てきた」

「つーかお前何で下素足なんだよ。見てるこっちが痛ェだろ」

「これはおれのポリスーだ!!」

「ポリスーってなんだよポリシーだろ」

「昔っからこうなんだよルフィって。いっつも素足で過ごそうとするの」

「へェーそう…」


黙って雪道を進むのもなんだからと三人は雑談を交えながら歩みを進めていく。途中襲ってきた小さな子うさぎの攻撃を避けながら。


「それよりな、知ってたか?雪国の人達は寝ねェんだぞ」

「そうなの?」

「だって寝たら死ぬんだもんよ」

「バカいえそんな人間いるかよ!!」

「本当だよ昔人から聞いたんだ」

「ウソップか………」

「違う、村の酒場で聞いたんだ」

「じゃあヤソップだね……」

「だったら何であのドルトンって奴ん家にベッドがあったんだ」

「あっそれもそうだな!!じゃああれは死ぬ時の為に……」

「そんなわけないでしょおバカ」


子うさぎの凄まじい噛みつきにより木が倒れてこようとも三人の雑談は止まらない。


「じゃ二人ともこれ知ってるか?雪国の女はみんな肌がスベスベなんだ」

「何で」

「そりゃ決まってんだろ。寒いとこう…肌をこすり合わせんじゃねェか。それでみんなすべすべになっちまうんだ。すべすべで透き通る様な白い肌、それが雪国の女だ」

「へェー…白いのは何でなの?」

「そりゃ勿論降りしきる雪の色が肌にしみこんじまうからだよ」

「あーお前結構ばかなんだな」

「てめェにだけは言われたくねェよ!!!それに……うっとうしいんだよさっきから!!!

「何なんだろうなあいつ」

「ね。可愛いけど」


雑談ついでに避けるのも面倒になったサンジが一際気合いを入れて襲いかかってきた子うさぎを遥か彼方へと蹴り飛ばし、三人と病人は先へ進んでいく。

風が強くなり積もる雪も増す中でナミを案じるサンジが気をしっかり持つんだと励ましながら一行は進んでいく。


「雪がだいぶ積もってんなこの辺は」

「おいルフィもっとそ〜〜っと走れよナミさんの体にひびくだろ」

「…あっ、雪といえばさ!昔ライムジュースが話してくれたことがあるんだけど………ん?あれ何?」

「ん…?」

「んん!!?」


再び雑談を交えようとしたウタであったがそれを中断し正面を指差しあれは何かと二人に問いかける。吹雪が舞う中、目を凝らしウタの指差す方向を見た二人は白い体毛に覆われた大きく鋭い爪を持つ動物の群れを視界に捕える。


「な…何だよこいつら…!!!」

「白くてでけェから白熊だよ間違いねェ!!」

「でもあの大きな耳はうさぎっぽくない?」


群れで立ち塞がる白くて大きい熊のような体躯とうさぎのような耳を持つ動物達。その中央にいる目の近くに傷を持った個体の背中には先程サンジが蹴り飛ばした子うさぎが乗っていた。どうやら子供がやられたことへの仕返しに来たようなのだ。



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ルフィ達に降り掛かってきたピンチをよそに、村で待つウソップ達の元へ魔女がとなり町に降りてきたという知らせが来る中、ドラム島近海である船が一隻漂っていた。


「おお…おおワポル様…」

「どうしたチェス!!やつらの船は見つかったか!!!」

「いいえワポル様、とうとう帰り着きました……」

「何!!?」

「苦節何ヶ月経ちましたでしょうか…我らが故郷!!!ドラム島です!!!!」

「本当かァーーっ!!!」


国を捨て海へ逃げ出し海賊となり放浪していたワポル達が数ヶ月ぶりに帰還を果たそうとしていたのだ。

だがその中には数ヶ月どころでない帰還を果たそうとする者が一人いた。


「おいおい……お前らは何ヶ月でもおれはもう何十年ぶりだってんだよ…!!」

「んあ…?何だ起きたのかいアンちゃん」

「カパ野郎!!!お兄たまと呼べっつってんだろおい!!」

「ごめんよアンちゃん!!まーっはっはっは!!!」

「わかればいい……ムーッシュッシュッシュ!!!」


平和になったドラム島に今まで以上の悪の華が返り咲こうとする中、ドラム島内ではウソップとビビはドルトンと共にとなり町へと向かっていた。送り出した三人の異常な脚力を考え、追いつかないだろうから現れたというドクターにすぐ城へ帰ってもらうよう伝えるために。



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『飛んだ!!!うわ!!!』

「ウソだろ、何だこの動きはっ……!!!ゴリラかよ!!!」

「違う!!白熊だ!!!」

「うさぎだってばルフィ!!!」

「でもサンジが今ゴリラだって!!」

「例えだ例え!!これがドルトンの言ってた"ラパーン"に違いねェ…!!!​───でこの数か!!」


ゴリラのような身のこなしとうさぎの如き機敏さ、そして白熊に近い体躯を持つラパーンの群れに襲われているルフィ達。一体だけでも面倒だというのにざっと数えただけでも二十体以上はいるその光景にサンジは幸先よくねェなと辟易としていた。

この数を相手するなら誰の手でも借りたいところではあったがサンジはルフィに手を出すなと制止する。ルフィが攻撃をしても受けてもその衝撃の負荷はナミにまで響いてしまい、ただでさえ弱りきっているナミにそんな負荷が耐えられるわけがない。

納得したルフィだったがじゃあどうすればいいんだとサンジに問うと避けて逃げてかつ退くなと難題を突き付けられる。


「難しいぞそれっ!!!」

「『腹肉(フランジェ)』…『シュート』!!!」


サンジの蹴りが一体のラパーンの腹に命中したが雪に足を取られてしまい、大した威力を出せずにいた。ルフィとナミに近づけまいと槍を振るうウタも同様で、足腰に力を入れられずまともな攻撃も出来ず受け流すのに精一杯であった。

そんな互いに煮え切らない状況と群れの一体が蹴り倒された事に腹を立てたラパーン達が一斉に襲いかかり始め、ルフィ達は堪らず森の中へと入っていく。


「何とか振り切るんだ、こいつら全部と戦ってたら日が暮れちまう!!」

「くそっ」

「こうなったら……私の能力であいつら全員眠らせて…!!」


ウタが自身の能力、ウタウタの実の能力で歌を歌いラパーン達を眠らせようと振り返り息を大きく吸い込む。だがそれをサンジがウタの手を引っぱり止めさせる。


「ダメだウタちゃん!!それなら確かにこの場を切り抜けられるがおれ達の目的はあの山を登ることだ!!この数を眠らせたら体力の消耗が激しすぎる!!!」

「そっか!!じゃあどうすれば……キャッ!!」

「ウタ!!!この…!!」

「よせ!!」


自身の能力が使えずどうすればいいのかという思考に気を取られ隙の出来たウタに襲いかかってきたラパーンを迎え撃とうとルフィが足を伸ばそうとするがサンジがそれを止め、代わりに襲いかかってきたラパーンを蹴り倒す。


「バカ野郎おれに任せりゃいいんだ!!!」

「ごめん!!」

「こりゃ冗談じゃねェんだぞ!!」

「私もごめん!!油断した!!」


何とか体制を整え再びサンジが蹴りウタが槍で防ぎの攻防が続く中、ルフィが上へ行けそうな場所を見つける。ルフィ、次いでウタとサンジがラパーンを足蹴にして飛び上がっていくがラパーン達も負けじと追いかける。

脅威の白熊うさぎ達から逃れるためには目的地である山の頂上に逃げる他ない。果たして彼らは無事逃げ切ることが出来るのだろうか。



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一方その頃ドラム島の端、海へと繋がる川の近くにはワポルの船ブリキング号が停泊していた。とうとうワポル達がドラム島へ帰還してしまったのだ。

既に見張り達はほぼ全滅しており、悠然とワポル達は上陸を果たしていた。


「変わることなく雄然とそびえる大自然よ!!!チェス!!城は無事か?」

「変わりなく健在でございますワポル様」

「まっはっはっはっは!ならばさァ城へ!!我が城へ帰るのだ!!!海賊などはもうやめだ!!王様にもどるぞ!!」


意気揚々と王座へ返り咲く事を口にするワポル。だがその横でワポルと同様に白い体毛に覆われたホワイトウォーキー、通称毛カバに鎮座するワポルの兄・ムッシュールはつまらなそうにしていた。


「城が健在ィ?おいおいそれじゃあこの国を襲った"黒ひげ"っていう海賊はどこにいるってんだよ」

「こうして島民らが見張りをしていた以上、奴ら既にこの国を去ったと考えるのが妥当かと……」

「んだよ……!!そいつらどうにかするためにおれは連れ出されてやったってのに意味ねェじゃねェか……拍子抜けだぜおい!!」


あーあーと露骨に残念がるムッシュールがふて寝しようとするとワポルの家来の一人からある報せがもたらされる。先日ワポルを吹き飛ばした海賊船、ルフィ達の船ゴーイングメリー号が見つかってしまったのだ。

しかし、船が空っぽで行方が分からないという不出来な家来の代わりにルフィ達の足跡を検証した悪参謀・チェスと悪代官・クロマーリモによりビッグホーンへ向かった事がバレてしまう。

それを聞いたワポルはまずはそこでドラム王国復活の祝砲をぶちかまそうとビッグホーンへ向かう事を決定する。時を同じくして、唯一無事であった見張りの一人がワポルの帰還を知らせた事で魔女と入れ違いになっていたドルトンもビッグホーンへと向かっていく。過去との決着をつけるために…



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ところ戻って山の頂上にある城を目指すルフィ達。ラパーン達から逃げ回っていた彼らだったが、そのラパーン達はルフィ達を追うのを止め上へと回り込み、ボフンボフンとその場でジャンプを繰り返すという謎の行動を取っていた。

その光景にルフィとウタは疑問を口にするばかりだったが、ふと最悪のシナリオが頭に過ったサンジはあいつらまさか…と咥えていたタバコを落とし、次いで涙まで目に浮かべてしまう。


「やりやがったあのクソうさぎ共…!!ウソだろ」

「おいサンジどうしたんだ」

「おい…!!逃げるぞ二人とも」

「逃げるってどこに?」

「どこへでもいい…!!!どっか遠くへだ…!!

雪崩が来るぞォ!!!」


木をなぎ倒し飲み込み凄まじい勢いで雪が崩落してくる雪崩。ラパーン達が上でジャンプを繰り返していたのはこれを起こすためだったのだ。


「あのうさぎ共絶対許さねェぞ畜生ォ!!!」

「いやァあああ!!!何でこうなるのォおおお!!!」

「どうしたらいい!?どうしたらいいんだサンジ!!?」

「知るかよ!!とにかく!!1にナミさん2にウタちゃん!!3にナミさん4にウタちゃん……」

「今は私よりもナミが大事っ!!」

「じゃあ今だけ1から5全部ナミさんだ!!!死んでも守るぞ!!!」

「わかった!!!だけどどうやって!!!」


とにかく雪崩を回避しようと走る三人だったが雪崩の速度は凄まじく、とても走って逃げ切れるものではなかった。そこでサンジが近くにあった崖を指差し、少しでも高い場所に登るためにそこを目指す。

雪崩が迫る中での決死の行動。すんでのところで雪崩に飲まれる前に崖の上へ登る事に成功したルフィ達だったが高さが足りず吹き飛ばされてしまう。


「どうしよこれ。あ、そうだ」


空中に飛ばされながら何かを思いついたルフィ。それを実行したルフィは雪崩に飲み込まれていくウタとサンジに手を伸ばし救出する事に成功する。

しかし、ルフィが実行した作戦には一つ問題点があった。それは…


「雪には沈まねェけど………!!!このままじゃ一直線に山下りちまうんだ!!!」


ルフィの取った作戦とは近くで流されていた手頃な木の上に乗っかり事なきを得るものであった。しかし凄まじい雪崩の勢いに乗っている木に乗った以上自分達もその流れに身を任せる他無くなり、もう一歩で医者だった所からどんどん突き放されていく。

どうにかして止まる方法を考えようした矢先にさらに悲劇が舞い込んでくる。ルフィ達と同様に手頃な木に乗り、さながらスキーでもするかのようにしてラパーン達が追いかけてきたのだ。


『ん…!!!何ィィィ!!?』

『ガルルルル!!!』

『逃げろォーーーーーっ!!!』


慣れた足取りで追いついてきたラパーン達の攻撃を避けていると今度は正面から悲劇が向かってくる。鋭く折れた木が生えてる岩にルフィ達の乗っている木が衝突しそうになっているのだ。


「うわっ!!岩っ!!!」

「ぶつかっちゃうっ!!!」

「ぶつかっちゃマズイだろ、ナミさんが死んじまう!!!」


どうにかしようとルフィとウタは思考を巡らせるが、その思考はまとまらずに空中へと身を投げ出されてしまう。サンジが二人を岩にぶつからなくさせるために投げ飛ばしたのだ。


『え?』

「レディーはソフトに扱うもんだぜ」


直後、岩に生えていた鋭く折れた木に衝突しサンジは血を吹き出しながら空中へと身を放り出されてしまう。そしてサンジは近くにいた一体のラパーンに激突してから雪に飲まれ、激突されバランスを崩したラパーンとその個体が乗っていた木が別のラパーンとそれぞれがぶつかり、ラパーン達は二列のドミノ倒しとなり雪に飲まれていく。

何とか岩に捕まり雪に飲まれずにいたルフィとウタ。雪に飲み込まれ唯一出ていたサンジの手を掴みルフィが救出しようと試みるが手袋だけが外れサンジはそのまま流されていってしまい、サンジを助けるためにナミと麦わら帽子をウタに預けたルフィは雪の海へと飛び込んでいく。

そして雪崩の被害は他でも発生していた。優しいドルトンを始末したワポル達は二体の毛カバに乗り込み逃げようと画策し、魔女を追いかけギャスタという町を目指していたウソップとビビは乗ってきたソリを捨て駆け出す。だがいずれも逃げる事は叶わず雪崩に飲まれ雪に埋もれてしまう。

そんな中でいち早く復活したのはワポル達であった。ワポルのバクバクの能力により雪を食べたのだ。共に飲まれた家臣二人と兄一人、毛カバ二体を吐き出しワポルは雪崩の原因を麦わらの一味が起こしたものだと断定し怒りに燃えていた。


「許さねェぞ木っ端海賊風情がァ!!!」

「ムッシュッシュッシュ……それならおれにいい案があるぜ…!!黒ひげに与えるはずだったコイツをその"麦わらの一味"とやらにぶち込むのさ!!!」

「そりゃあいい!!同じ海賊相手ならちょうどいい……いや待てよ……!?まーっはっはっはっは!!!おれ様もっといい案を思いついたぞォ!!!」


もっといい案とは何なのかを家臣達が催促するとワポルは上機嫌に答える。


「麦わらの一味だけじゃねェ…!!国民共にも使うのさ!!!見ただろ、さっきの敵意に満ちたあの目……この国の王であるおれ様に楯突こうとする奴はみんないなくなっちまった方がいい!!」

「ムッシュッシュッシュ!!なかァねェなおい…!!この育ちに育った爆弾打ち上げるってのも派手でいいわな!!」

「だろォ!?アンちゃん!!」

「だが……どうやって打ち上げる?一発しかねェし……この辺りに大砲なんてねェしよ」

「それは………そうだ!!城に巨大キャノン砲がある!ちょうどあのババアもいて麦わらの一味も城を目指してるのなら都合がいい!!なァアンちゃん!?」

「カパ野郎!!!………お兄たまと呼べっつってんだろおいっ!!!」

「…………いまごろ…?ごめんよアンちゃん!!!」


行先が決まり、城を目指すぞと号令を出すワポル。真っ先に毛カバに乗り込み城へ行こうとするムッシュールを横目に家臣の一人チェスはワポルに小声で話しかける。


「ワポル様…本当に大丈夫なのでしょうか?胞子爆弾など使われては…」

「わかっちゃいねェなァ……なんのためにわざわざ兄貴を救い出してきたと思ってる」

「黒ひげに対抗するためでは…?」

「それもあるが……国民に恐怖を与え支配することこそがこの国の政治!!そのためには兄貴は……うってつけだからな!!!」


そう語るワポルの事など露知らず、ムッシュールは乗り込んだ毛カバの脇腹を蹴り雪崩で積もった雪から這い上がり城へ向けて大笑いしながら駆け出していく。

それをワポルは呆れたような顔で見届けていた。


「バカ兄貴が………助かるぜ!!まんまとおれの思い通りに動いてくれる。解毒剤をエサにすりゃあ国民どもを選別できる……おれ様に楯突く者と従う者にな…!!まーっはっはっはっはっ!!!」


ドラム島に悪夢をもたらさんとする悪王達の進撃が始まる中、雪の海に飛び込んだルフィは何とかサンジを救い出す事に成功しウタとナミの元へ戻っていた。

しかし、頭をぶつけ雪に飲まれたサンジは意識がなくだらんとルフィに抱えられたままであった。


「ルフィ!!!サンジは……!!」

「……気ィ失ってるだけだ。けどサンジも医者に診せねェとな」

「うん……じゃあナミは私が」

「いや、おれがおぶる。ナミにはおれが連れてくって約束したからな」

「……わかった。じゃあ括りつけるからじっとしてて」


そうしてウタは先程までナミを背負っていたのと同じ形にルフィへ戻す。異なる点はナミを背負うために持たされた剣がなく、脇には気絶したサンジを抱えているという点だ。

明らかに負担が増したルフィだったが、それを気にも留めずに歩みを進めていく。二人を早く医者に診せるために。

そんな中でウタはソワソワと落ち着かない様子だった。心配したルフィがどうしたのかと問うとウタは申し訳なさそうに答える。


「……ごめんルフィ。二人のことしばらく任せてもいい?すぐ戻ってくるから」

「いいぞ別に。なんかあったんだろ?」

「うん……じゃあちょっと行ってくる!!」


必ず戻ると付け加えウタは進んでいた向きから逆方向へと駆けていく。長年連れ添った幼馴染のする事に一切の疑問を抱かずに見送ったルフィはそのまま振り返ることなく再び歩みを進めていく。


「必ず連れてくから………!!!死ぬんじゃねェぞ…!!!二人共…」


決意を新たにしたルフィは一歩一歩、より激しくなる吹雪の中麦わら帽子に雪を積もらせながら頂上を目指す。ガチガチガチと震えながらもようやく目的地の城が建つ山の麓まで辿り着いたルフィはサンダルを脱ぎ捨て、自身とナミを繋ぐ布をより締め上げ、サンジを咥えて持ち、山登りを開始する。

断崖絶壁の山を僅かにある窪みに手と足の指を引っかけながら登るルフィ。途中サンジを落とすアクシデントに見舞われながらも何とか落とす事なく登っていく。

三時間以上にも及ぶ決死の山登りによりルフィの体は悲鳴を上げていた。指先からは血が吹き出てタンクトップと半ズボンであるが故に寒さに震える。それでも二人を医者に診せるために進むことを止めない。

そうしてようやく見えた頂上付近。最後の力を振り絞って登頂しきったルフィの目の前には幻想的な光景が広がっていた。

「きれいな城だ…………………医者………」


目的地に辿り着きとうとう気力も体力も尽きたルフィはその場に倒れてしまう。だが倒れた衝撃からか、ルフィが乗っていた部分の雪が崩れ落下してしまう。

それを救いあげる怪物が一人……

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