ドラム島編inウタ1

ドラム島編inウタ1


100年もの間理由を忘れながらも太古の生物や生態系が息づく島で決闘を繰り返す二人の巨人に見送られた一行は静かに海をゆく。

そんな中でいの一番に声を張り上げたのは勇敢なる海の戦士である二人の海賊頭の勇姿に感銘を受けたウソップであった。


「みんな!!おれはな!!いつか絶対に!!エルバフへ!!戦士の村へ行くぞ!!!」

「よしウソップ!!必ず行こう!!いつか巨人達の故郷へ!!」


エルバフへ行くという目標にルフィが乗っかり、二人でお世辞にも上手いとは言えない即興エルバフソングを歌っていた所へウタが苦言を呈する。


「ちょっと二人とも!!そんな歌じゃエルバフの人達がバカになっちゃうでしょ!!……でもいいね、エルバフの…戦士の歌!!インスピレーションが湧き上がってきた…!!ちょっと作曲してくるね!!!」

「元気ねあいつら…」


巨大金魚に飲まれそうになっていたにも関わらず元気に騒ぎ駆け回る三人を呆れ顔で見届けていたナミは彼らのように騒ぐ元気も嗜める気力もなく、目的地であるアラバスタを指し示す永久指針をビビに託す。

大切な永久指針を託されたビビと傍に控えていたカルーはその針の指し示す先にある祖国を想い黙りこくっていた。そこへナミが安心させるような笑顔を浮かべながら声をかける。


「これでやっと…アラバスタへ帰れるわね」


付け加えて、アラバスタへの航海が無事に済めばとイタズラっぽく笑うナミに対してビビはきっと帰らなきゃと返していく。

そして思い起こされるのは今はこの場にいない、共にB・Wに潜入していたイガラムの言葉。たとえどんな犠牲を払おうとも死なない覚悟を持ってここまで来たのだ。


「必ず生きてアラバスタへ………!!!」

「そう力む事ァねェよビビちゃん、おれがいる!!!」


そう言ってビビの不安を払拭させようと本日のおやつであるプチフールを乗せた皿を持ったサンジがやってくる。アラバスタへの永久指針を手に入れる快挙を成し遂げたばかりか張り詰めていたビビの気持ちをサンジが和らげようとする、そんな場面に似つかわしくない表情をした三人がよだれを垂らしながら迫ってくる。


『んまほー』

「野郎共の分はキッチンだ」

『うおおおっ!!』

「ウタちゃんの分はこちらに…♡」

「うわ!ありがとう!!おいひー!!」


バタバタとキッチンに駆け込む野郎二人と舌鼓を打つ歌姫に見惚れるコック。そんな彼らを見て呆れ顔になる航海士と砂漠の国の王女、特に何も考えていない王女お付きのカルガモ。そして船の後方で筋トレに励む剣士と、ここ最近の航海で繰り広げられるいつも通りの日常の時間が過ぎる中、それは突然やってきた。


「みんな来て!!!大変っ!!!」

「なんだどうしたビビ!!」



ゆっくり休んで貰うために部屋へ行くよう促したビビの目の前で突然ナミが倒れて動かなくなってしまったのだ。その異常な発汗量と発熱を確認したビビは至急仲間達を呼び集めナミを部屋へ運び入れ、ゾロを見張りとして外に置くと残りのメンバーでナミの看病をする体制へと移っていく。

そんな中でハンカチを噛み締め涙と鼻水をだらしなく垂れ流すサンジがビビに問いかける。


「ナビざん死ぬのがなァ!!!?なァビビぢゃん!!!」

「おそらく​───気候のせい…"偉大なる航路"に入った船乗りが必ずぶつかるという壁の一つが異常気象による発病……!!!」


偉大なる航路に入った者達に降りかかる宿命とも言うべき異常気象による発病。どれほど名を上げた屈強な海賊であってもこれにより死亡するという事例もあるという大きな壁にナミはぶつかってしまったのだとビビは言う。

少しの油断も許されないこの状況で誰か医学をかじっている人はいないかとビビは仲間達に問いかけるも、皆揃えて倒れた本人であるナミを指さす有様にサンジはさらに涙を流してしまう。

そんな散々な状況の中で肉を食えば、パンケーキを食べれば病気は治ると言うルフィとウタに対してサンジは基本的な病人食は作るがそれで治るとは限らない、あくまで看護の領域だと言葉を返していく。


「そもそも普段の航海中からおれはナミさんやウタちゃん、ビビちゃんの食事にはてめェらの100倍気を遣って作ってる。新鮮な肉と野菜で完璧な栄養配分。腐りかけた食料はちゃんとおめェらに…」

「オイ」

「だからいつもあんなに美味しいんだ、ありがとう!!」

「それにしちゃうめェよなァ、うはははは」


何やらとんでもない事実が暴露されていったがとにかく、サンジがコックである限り普段の栄養の摂取に関して問題は起こさないというのがこの話の肝なのだ。しかし病人食と一言で言ってもそれには種類があり、どんな症状で何が必要なのか、その診断が出来ないとサンジは言う。


「じゃあ全部食えばいいじゃん」

「そういうことする元気がねェのを"病人"っつーんだ」


とにかく食えば治るという持論を振りかざすルフィをサンジが戒める中、ナミの体温を測っていた体温計が40度を超えてしまう。

アラバスタにいるであろう医者に診てもらおうと考えたウソップがあとどれくらいかかるかビビに聞き一週間では無理と返される中、事の深刻さをいまいち飲み込めていないルフィが一言漏らしていく。


病気をした事の無い超健康優良児達に事の深刻さを伝えようとビビは40度なんて普通しゃない、命に関わる病気かもしれないと言うと、それを聞いた四人と一匹はこれまでの態度が嘘かのように慌てふためいてしまう。


「ナミは死ぬのかァ!!?」

「ダビダン死らバイベーー!!!(ナミさん死なないで)」

「病は気からって言うし心を強く持てば大丈夫だよね!?ね!!?」

「あああああああっ!!」

「クエーーッ!!!」

「うろたえないで!!静かに!!!」


死ぬかもしれないと聞いて居てもたってもいられなくなったルフィは医者を探してナミを助けてもらおうと捲し立てていく。

だがそこへナミがダメよと言いながら起き上がってくる。


「え…!?ナミさん」

「おーーーっ治ったーーっ!!!」

「治るかっっ!!!」

「私のデスクの引き出しに新聞があるでしょ…?」


騒ぐルフィらをよそにナミに言われた通り引き出しの中に仕舞われてあった新聞を取り出し読み進めていたビビであったが、その中に書かれていた記事の一つを見て滝のような汗を流しながら驚愕する。


「そんなバカな………!!!『国王軍』の兵士30万人が『反乱軍』に寝返った…!!?」


記事に書かれていたのはアラバスタ内で進むクーデターに関する最新情報であった。元々は『国王軍』60万『反乱軍』40万の鎮圧戦だったものが30万もの数が動いたことにより一気に形成が逆転し、アラバスタでの暴動もいよいよ本格化する事を告げるビビにとって悪夢のような内容だったのだ。

ナミ曰くそれは3日前の新聞らしく、ビビに見せても船の速度は変わらないので不安にさせるよりはと隠しておいたそうだ。

普段新聞を読まないルフィとウタも大変そうな印象を受けたと口にしたのを見たナミはいつまでも寝てらんないと起き上がろうとするがそれをウソップが制止する。


「でもお前医者に診てもらわねェと…」

「平気。その体温計壊れてんのね…40度なんて人の体温じゃないもん。きっと日射病か何かよ、医者になんてかかんなくても勝手に治るわ……とにかく今は予定通り…まっすぐアラバスタを目指しましょ。心配してくれてありがとう」

「おう、なんだ治ったのか………」

「………バカ、強がりだ」


息が荒く頬も上気し明らかに無理をしているナミが部屋から外に出ていく最中もビビはアラバスタの記事を見つめながらいずれ起こりうる戦争を憂い、もう無事に帰るだけではダメなのだと確信する。一刻も早く帰らなければ100万人の国民が無意味な殺し合いをすることになってしまうと。

一方、外に出ていったナミは進路と見張りの役目を任されていたゾロが全くその役割を果たしていなかったことに頭を痛めながらも空気が変わった事を感じ取り、ゾロに皆を呼び出させる。

南へいっぱい舵をとりシートについて右舷から風を受けろというゾロの指示に従い皆が動く中、ウタが疑問を投げかける。


「どうしたのナミ?波も静かでいい天気なのに」

「風。真正面から…大きな風が来る………たぶんね」


航海士として積み上げてきた経験と勘により熱が収まらない頭で大きな風を予報したナミだったが、その額をおもむろにルフィが触れると手がやけどする程に熱を発しており、船を止めて医者に行こうとルフィが提案するもこれが平熱だとナミは譲らない。

サンジやウソップにも心配されても、いいから船を動かしてと指示を飛ばし進んでいた方向から南へと船は進路を変えていく。

そんな中、ゾロの招集に応じず新聞に穴が開くほど目を通していたビビが部屋から出てきてお願いがあるのと皆に声をかける。新聞にあった通りアラバスタは大変な事態に陥っており一刻の猶予も許されない。


「だから、これからこの船を"最高速度"でアラバスタ王国へ進めてほしいの!!」

「………当然よ!約束したじゃない!!」


ビビの願いにナミは笑顔で応える。だが他のクルー達は浮かない顔のまま。

そこへビビがさらに切り出していく。


「…だったらすぐに医者のいる島を探しましょう。一刻も早くナミさんの病気を治して、そしてアラバスタへ!!それがこの船の"最高速度"でしょう!!?」

「……そおーーーさっ!!それ以上スピードは出ねェ!!」


ビビの言うこの船の"最高速度"に異議なしといった様子のルフィの横でウソップが王女として国民100万人の心配をすべきだろうと返していくが、だからこそナミの病気を早く治さなきゃとビビは譲らない。


「よく言ったビビちゃん!!!ホレ直したぜおれァ!!!」

「そうこなくっちゃ!!なら急いで医者のところに!!!」

「………いい度胸だ…」


ビビの決心を聞いた皆が一致団結する中、ナミもちょっとやばいみたいと倒れ込みビビに支えられる形で部屋へ戻ろうとしていく中、ルフィが突然なんだありゃ!と声を荒らげる。

その視線と指の先にあったものは…


「…ちょ…ちょっと待って、あの方角は…」

「さっきまでこの船が向かってた方角だ…」

「あのまま真っすぐ行ってたら直撃だったぞ!!!」

「危ねェっ!!ギリギリセーフだなこりゃあ!!」


先程まで船が向かってた方角へなんの予兆もなくサイクロンが現れ、驚愕する一行の中でもビビはナミの能力に驚いていた。理論だけで天候を予測するだけでなく体で天候を感じ取っているかのようなその能力にこんな航海士見たことないと。

こうしてサイクロンを避け南へ向かっていった一行はアラバスタを指す指針を無視してしばし医者探しの旅を始めていく。そしてちょうど一日が過ぎたころ​───

一向に熱が引かないナミの様子に慌てふためくサンジとカルーをビビが宥め、雪が降りしきる中見張り台で望遠鏡を片手に周囲を見渡していたゾロの呼びかけに対してルフィとウタが医者か島が見えたかと聞きウソップが医者は見えねェだろとツッコミを入れる。

ナミが熱を出している事以外はいつもと変わらない船上での日常であったが、そこへゾロがおもむろに口を開き始める。


「おいお前ら………海に……人が立てると思うか…?」

「人が海の上に立てるかだと?」

「夢の世界じゃあるまいし…急に何を言い出すの?」

「………じゃあ…ありゃ何なんだ」

「なにって」

「なにが」


何なんだと聞かれ船首の先をじっと見据え始めた三人。

その視線の先にいたのは確かに海の上にチャプチャプと音を立てながら弓矢を背に抱えた男が悠然と立っていた。その衝撃的な光景に目をごしごしと何度も擦る三人であったがその光景は一向に変わることなく、甲板に立つ三人と見張り台に立つ剣士と海の上に立つ男の間にはしばし沈黙が流れたが、海の上に立つ男がその沈黙を破る。


「よう冷えるな今日は」

「!!………うん冷えるよな今日は」

「あ…ああ冷える冷える、すげえ冷えるよ今日は…」

「冷えすぎて何も手につかないよね今日は…」

「そうか?」

『!』


自分から話を切り出したにも関わらずその話の腰を折った海の上の男に一行が驚きその男もまた驚く。なんとも言えない間が発生し再び静寂が五人の間を支配したが、その静寂も長く続くことはなかった。

海の上に立っていた男の足元から突如穏やかな海面へ大きな波を発生させながらドーム状の何かが浮上してくる。メインマストのようなものを中心にしていたドームが開かれ収納されていき、カバァと海の中から船首が飛び出しいよいよもって船の形に姿を変えたそれから大きな笑い声が響いてくる。


「まはははははははは!!驚いたか!!この"大型潜水奇襲帆船"『ブリキング号』に!!!」

「やべェ!!!…か…海賊船…!!?」

「すげェ…」

「おっきな船…」

「……この忙しい時に…」


外に出ていたルフィ達が目の前に現れた海賊船に対する感想を口にする中、ナミの体に衝撃を与えないようベッドを持ち上げ支えていたサンジは波による揺れが収まったのをきっかけに外の様子を確認しようとビビに後を託し外へと飛び出す。


「おいどうした!!………んー……で?…どうしたって…?」

「襲われてんだ今、この船」

「まあ…そんなトコじゃねェかと思ったけどな……見た感じ」


扉を開け冷静にタバコに火を付けて一服するサンジと端的に襲われていると言ったルフィの頭には複数の銃口が向けられていた。他のクルーも同様の状況になっており、武装した賊達がメリー号を襲撃し占拠している状態であった。

襲撃を仕掛けてきた賊達の中で一際大きく、ナイフに刺した肉を頬張っていた頭目と思しき男がサンジの出現にフム…と一人話し始める。


「これで5人か…たった5人ということはあるめェ…まァいい…………とりあえず聞こう…」


話す中で肉と共にナイフを噛み砕き始めた男・"ブリキのワポル"を見て開いた口が塞がらない一行に構うことなくナイフの持ち手も噛み砕きながらワポルは一行に問いかける。


「おれ達は『ドラム王国』へ行きたいのだ。『永久指針』もしくは『記録指針』を持ってないか!?」

「持ってねェし…そういう国の名を聞いたこともねェ………」

「ほら、用済んだら帰れお前ら」

「はーあーそう急ぐな人生を…持ってねェならお宝とこの船をもらう」

「なに!?」

「だが…ちょっと待て、小腹が空いてどうも…」


そう言いながらワポルは横にあるメリー号の船体に噛み付き毟り取り、バリバリと咀嚼し飲み込んでいく。

衝撃的すぎる光景にサンジが目を丸くしウソップが絶叫するがワポルはお構い無しに錨綱にまで食いつき咀嚼し始め、ルフィとウタが止めようと声を張り上げる。


「おれ達の船を食うな!!!」

「ちょっとそこ!!まだ作曲途中の楽譜が書いてあったのに食べないでよ!!!」


自分達の船とまだ日の目を見ていない曲を齧り取られ怒り心頭の二人へ銃口を向けていた男らがワポル様はお食事中だから動くなと命令するが、二人は聞く耳を持とうとはしなかった。


「うるせェ!!!」

「邪魔!!!」

「こいつらやりやがった!!!撃て!!!」

「始めからそうすりゃよかったんだ」

「何だ、やっていいのか?」

「いや待て話せばわかりあえる!!!」


ルフィの拳が脳天を突きウタの裏拳が頬を弾き、二人の賊がダウンしたのをキッカケに睨み合っていた状態から戦闘が勃発する。

始めは一気に船を占拠する手際を見せた賊達であったがいざ戦闘となればカッコだけであり、サンジに蹴り倒されウタに薙ぎ払われゾロに斬り伏せられ散々な有様であった。

しかし、戦闘が始まってなおも船を食べ続けるワポルを見たルフィは賊達を押し退け向かっていく。


「おいお前っ!!!」

「んん?」

「クハハ…バカめ、ワポル様に敵うか!!!"バクバクの実"の能力で食われちまえ!!!」

「ルフィ!!?」


押し退けられた賊が言った通り、かばっと口を大きく開いたワポルはそのままルフィを食べ咀嚼し始めてしまう。大きく伸ばされた腕を外に残しながら。

ワポル以外の賊をあらかた掃除した頃、銃声と止まない戦闘音に驚いたビビがナミをカルーに任せて甲板へ飛び出してくる。


「やあ…ビビちゃん。ナミさんに異常は?」

「…え…これは………!?」


人が大量に倒れており、食べられながらと大きく伸ばされたルフィの腕、ウタとゾロが得物をしまいサンジにナミの状況を聞かれ何が何だか分からないといったビビをよそに伸ばされたルフィの腕が元に戻り始める。


「ぬ…なんてカミにくい奴だ…」

「こんのォ…」

「は」

「吹き飛べェーーーっ!!!!」


ルフィの十八番"ゴムゴムのバズーカ"によりワポルは空の彼方へと吹き飛んでいく。吹き飛ばされたワポルの顔に何か見覚えがあるような感覚を覚えたビビであったが、その正体を今は知る由もなかった。



​───────​───────​───────​───────



「水とか…ぶっかけたら熱……ひかねェかな………」

『アホかァア!!』

「うご」


ワポル率いる賊達の襲撃を退けてから数刻後、ルフィの突拍子もない提案を蹴り殴り飛ばしたサンジとビビはナミの指示なしで夜の航海は出来ないと錨を降ろして停泊することを決める。

その夜、3時過ぎ頃にふと目が覚めたナミは体を起こして周囲を見渡すと見張り台にいるサンジ以外の全員が集まって寝ているのを確認する。ベッドにもたれかかるようにしてビビがおり、机に背を預けるウソップの肩に足を乗せたルフィの脇腹をウタは枕にし、横になっているカルーにゾロは背中と頭を乗せるなどしていた各々の姿にナミは笑みを浮かべるとすぐにベッドに潜っていく。

そんなこんなでもうじき満月となる夜が明けると、ナミの看病にルフィとゾロを残した一行は島を探しながら船の修理を行っていた。修理をする原因となったワポルという聞いた事のない海賊を何だったのかと口にするウソップに対してありゃただのアホだと切り捨てたサンジはそれよかよ…と話を切り替える。


「ここんとこどうも安定して寒くねェか?」

「そうだな。こういうこともまた気まぐれなんだろうな、この海は………」

「島が近い証拠よ。サンジさん、注意して水平線を見てて」

「ビビちゃん………」


近くに島があるとビビが確信めいて言うのには理由があった。気象学的に"偉大なる航路"の島々には『夏島』『春島』『秋島』『冬島』の四種類に分類され、それぞれの島にもだいたいの『四季』があるのだという。

もちろん例外や未知の気候もたくさんあると付け加えるビビの解説に関心、というよりかは何かを思い出したようにウソップと一緒に船を修理していたウタが声をあげる。


「……そういえばスネイクがそんなこと言ってたっけなー」

「え?ウタさん知ってたの?」

「いやァ……前に赤髪海賊団にいた頃に航海士のスネイクから聞いたことがあるってだけで今まで忘れてたよ!」

「そういやおめェあの赤髪海賊団のとこにいたんだったな……あ、それならよ!!医学に関してもなんか聞いたことあるんじゃねェか!?当然船医もいたんだろ?」

「ホンゴウさんの事?うーん……でも私、皆のそういう難しそうな話はほとんど聞き流しちゃってたからなァ……でも、ヤソップがアリの眉間にでも銃弾をブチ込めるって言ってたのは覚えてるよ!!」

「………あーいや、期待したおれがバカだった…お前はそういうやつだよな、うん……親父のこと教えてくれてありがとな」


海賊としてはこの船にいる誰よりも経験が長く頼りになる仲間達に囲まれていたウタなら実は色々と知ってる事があるのでは、という希望が打ち砕かれたウソップはとにかくビビが言うような島が折り重なってればそれに挟まれた海は尋常な気候じゃいられねェなと話を戻していく。


「………そうなの。だから気候の安定は島が近いことを意味するのよ…!」

「……確かに、見えた…!!!」


皆が待ち望んでいた島発見の報告は船内でナミの看病をしていたルフィ達の耳にも届いていた。ようやく発見した島を見に行きたい気持ちとナミを見てなきゃいけないという気持ちがせめぎ合いカタカタと震えていたところをゾロにいいからと送り出されたルフィは定位置である船首の上に座り大きく声を張り上げていた。


「う〜〜〜〜おおお!!!しーーまだァああああああァ!!!!白いな!!雪だろ!冬島か!!」

「おいルフィ!!言っとくがな、今度は冒険してるヒマはねェんだぞ。医者を探しによるんだ。ナミさんを診てもらったらすぐに出るんだぞ」

「雪はいいよなー……」

「いいよね雪……」


雪に夢中でサンジの忠告を全く意に介さないルフィとウタとは対照的にウソップは雪の化け物やそもそも人がいるのかどうかを心配し始める。そんな中でも雪は白くて好きだのふわふわしてて好きだの言い合う幼馴染達。

そんなこんなで一行は海に繋がる川に入っていき上陸出来る場所を探し始める。


「ふーーーっこりゃすげェ!!何だあの山は…!!!」

「こんなに雪が、しやわせだ…おれ」

「うん…色んな雪遊びができそう…!」

「それよりルフィ、お前寒くねェのかそのカッコで」

「マイナス10℃、熊が冬眠の準備を始める温度よ」

「え?ああ…ん?寒ブッ!!!」

『いや遅ェよ!!!』


場違いな自分の格好に気づいたルフィがコートを取り出し戻って来た間に雪解け水の滝が流れる船を止められそうな場所を見つけた一行は誰が医者、もとい人探しに行くかを挙手制で決めていくがそこに待ったをかける者達が現れる。


「そこまでだ、海賊ども」

「おい人がいたぞ」

「…でもヤバそうな雰囲気だ…」

「速やかにここから立ち去りたまえ」

「おれ達医者を探しに来たんだ!!」

「病人がいるんです!!」

「そんな手にはのらねェぞ!!!ウス汚ねェ海賊め!!」


立ち去れと言われてもようやく見つけた人のいる島で医者探しをしなければならないとルフィとビビは食い下がっていったが銃を装備した島民らは自分達の国に海賊を上陸させてなるものかと息巻いている。

出ていかなければ船を吹き飛ばすと脅されひどく嫌われてんなァと悪態をついたサンジであったが、突如その足元に発砲され一触即発の雰囲気へとなっていく。


「撃った……!!!」

「………やりやがったな……」

「……!!ひ…」

「てめェ!!!」

「まってサンジさんっ!!!」


発砲され反撃しようとしたサンジを制止しようとビビが抑える。が、再び鳴った発砲音と共にビビが腕から血を流し倒れていく。サンジの気迫に気圧された島民が撃ったものがビビに命中してしまったのだ。


「ビビ!!」

「あ…」

「お前らあ!!!!」

『構えろォ!!!!』


仲間に手を出されては戦わざるをえないとルフィ達は戦闘準備を始め、島民らも反撃しようと銃を構え始める。

もはや衝突は避けられないと誰もが思い始めた時、それを止めたのは撃たれた張本人のビビであった。


「ちょっと待って!!!戦えばいいってもんじゃないわ!!傷なら平気、腕をかすっただけよ!!」


真っ先に島民らへ向かって行きそうになっていたルフィを全身で止めたビビはだったら…と言葉を続ける。


「上陸はしませんから………!!医師を呼んで頂けませんか!!仲間が重病で苦しんでます、助けてください!!」

「ビビ…………!!」

「あなたは…船長失格よルフィ。無茶をすれば全てが片づくとは限らない…!!!このケンカを買ったら………ナミさんはどうなるの?」


かすっただけといえども腕から血を流し続けながらも膝をつき額を地に当て土下座の姿勢を崩さず船長とは何たるかを、そしてナミを助けるためにはどうすべきなのかと語りかけるビビの姿を見たルフィは思い直し、島民らへ向き直る。


「…うんごめん!!!おれ間違ってた!!!」


そしてビビと同じように膝をつき額を地に叩きつけ、ルフィは懇願する。


「医者を呼んでください。仲間を助けてください」


先程まで物凄い剣幕で迫ろうとしていた麦わら帽子の男が仲間の説得により思い直したばかりか未だ銃口を向ける自分達に頭を下げる姿に島民らは圧倒される。

頭は下げずとも共に戦闘態勢に移っていた他の船員達も矛を収め、しばしの時が流れた後に島民らの中のリーダー格と思しき男が意を決したように口を開く。


「村へ…案内しよう。ついて来たまえ」


その言葉を聞いたビビは体を起こしながら土下座の姿勢のまま自分の方を向くルフィへ笑いかける。


「ね。わかってくれた」

「うん。お前すげェな」


誠心誠意頼み込み、村へ案内すると言われた一行は上陸しようと船を岸につけていく中、リーダー格の男から一つ忠告を受ける。


「一つ…忠告をしておくが…我が国の医者は…魔女が一人いるだけだ」

『は?』

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