ドキドキデート大作戦・ぐだ×プリヤ組バージョン!
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『『「「「「はあ…」」」」』』
『BAR 蜘蛛の巣』の静かな店内に、藤丸立香のものをはじめとした重苦しいため息が響く。
立香の周囲を囲むのは、イリヤ・美遊・クロ・ルビー・サファイアの五人だ。大人の雰囲気を醸し出すバーにはあまり似つかわしくない顔ぶれだったが、立香の連れなのでその辺りは黙認されてたりする。…『小学生に手を出した』という事実がここの店主含む一部に露見していたのは立香的に結構ショックだった。隠してたのに。
いや、今それは重要ではない。立香達はもっと別のことで頭を抱えていた。その理由は単純明快…。
「まさか、デートの約束が全て重なるなんて…」
…まあ、ハーレム間の痴情のもつれ的なアレである。
「というか、何で記念日でも祝日でもない日にバッティングするのよ。そこからして既におかしいじゃない」
そう言ってぶーたれるのはクロだ。『バッティングの危険性を考慮して計画立てたのに何故かバッティングしました』など、そうやすやすと受け入れられないのが人情というものだろう。
しかしながら、他の人と予約の時間をずらそうとして、結果的に全員同じ時間に予約を入れてしまうという事態は往々にして起こり得る。今回もそのパターンであることは明白だった。
「前に探索した微小特異点、そこにあるショッピングモールを利用できるタイミングは限られている。だからこうなるのも仕方ない……んだけど…」
クロをなだめる美遊だが、流石にこの状況には異議を申し立てたいようだった。そりゃそうだ。『バッティングの危険性を考慮して以下略。
「まあわたしとミユとクロは仕方ないよ。同じショッピングモール目当てだし。…でもルビーとサファイアはどうなの!? かたや実験、かたやリツカお兄ちゃんと一緒にカルデア内の雑用でしょ!? 別の日でも良いじゃない!!」
『えー、でも他の日にしちゃうと旦那様の休みがなくなっちゃいますよ?』
『…まあ、私は旦那様と二人きりでなくとも、別に……別に、気にしませんが』
イリヤはイリヤでルビー・サファイア姉妹と口論になっていた。
阿鼻叫喚───そんな状況を打破しようと動いたのは立香だ。元はと言えば自分の優柔不断が招いたこと。ここで男を見せて、ハーレムなんぞを許容してくれるイリヤ達に日頃の感謝を伝えたい……そんな考えからの発言だった。
「…仕方ない! 日程はそのままに、イリヤ達が満足できるタイムテーブルを考えるしかない!!」
『『「「「ええッ!?」」」』』
───
クロの投影で用意されたホワイトボードに、タイムテーブルをキュッキュと書き込んでいく立香。なおマジックペンもクロの投影によるものである。
「───出来たぞ」
「すごい…!」
思わずイリヤが呟く。実際、眼前にあるのは(ある意味で)凄まじいとしか言い様のないタイムテーブルだった。
「まず5時、いや、4時起床!」
「「「早っ!?」」」
「ルビーとの約束は早朝から始める! 同時に、サファイアと約束していたカルデア内の雑用も早朝から開始!」
『そんなことが可能なのですか!?』
「可能にするんだよ。でなきゃのっけから破綻だ…!」
サファイアの呈した疑問はバッサリカットされた。滅茶苦茶重要なのに。
「道具を取ってくるついでに特異点へレイシフト。ルビーの実験は、タイミングを見計らって休憩時間を挿入。心苦しいが、実験に付き合える時間は限られているからな」
『な、なんて計画…! 馬鹿ですか!?』
「ここからが本番だよルビー。この日、お誂え向きのビュッフェバイキングが催される。そこにイリヤ達を投入して時間を稼ぐ…!」
「レストランに5時間近く要られる訳ないでしょ? 締め切り前の作家じゃあるまいし…」
「クロが好きそうな限定スイーツが目白押しなのに?」
「行けるわね…!」
「その間、バイキングに参加していない残り二人の間を行ったり来たりしながらショッピング!」
「同じ敷地内の利点を活かしている…! 考えたね立香お兄ちゃん…!」
「こうすればいつものデートとは一味違うムードをちゃんと満喫できる! これがオレの完璧なデートプランだぁ!!」
そんな威勢の良いことを言っていた立香だが、直後に固まることになる。
───眼前にあるのは、まともなタイムテーブルとは口が裂けても言えないもの。ギチギチに詰まった文字を見ればおのずと未来が見えてくると言うものだ。
未来───つまりはプラン破綻。
『旦那様……これは…』
『…無理じゃね?』
「───もう駄目だーーーっ!!!」
落ち着いた雰囲気のバーに似つかわしくない叫びが木霊する。バーテンを務める犯罪界のナポレオンがかわいそうなものを見る目をしていたが、今の立香には気にもならない。目先にもっとヤバい地獄が垣間見えていたからだ。
「どうやっても上手く行く気がしない…。イリヤ達が悲しむ未来しか見えない…」
「だ、大丈夫だから! デートは別の日に…!」
「…それは駄目だ! これはもう、オレのプライドの話でもあるんだ! 恋人に良いとこ見せたいんだよオレ!! ハーレム作っといて一人も満足させられないとかもうクズにクズの上塗りしてるだけだろ!?」
「支離滅裂になってる…! 落ち着いて立香お兄ちゃん!」
「…やる気なのね?」
「応ッ!!」
クロの問いに対してケルト風に返す立香。もう半分ヤケクソだった。
───
…そして当日…。
「…はっ!? えっ!? なんかオレ拘束されているんだけど!?」
『あ、おはようございます旦那様ー♥ 約束の時間になっても起きて来られませんでしたので、ついお連れしちゃいましたー♪』
───立香、痛恨の寝坊…!
この時点でプランにヒビが入っている訳だが、立香はそれに気づいていない。というか場合によっては今にも死にそうである。
「待て、話せば分かる! 薬の治験とかなんだろうけど、今日それは不味い!!」
『えー、まあそうくると思いましたけどぉ…。…うーん…。…あ、そうだ! 帰ってきたら旦那様の奮闘を聞かせてください! 多分めちゃくちゃ面白くなってると思うので、それで溜飲を下げます!』
「…すまない…! 情けない旦那で、本当にすまない…!!」
『いえいえ。いつものデートも二人っきりのデートもこれまでいっぱい楽しんでますし、たまにはこういうのも悪くないです♪ では、行ってらっしゃいませ、旦那様♪』
腰が低い時のジークフリートばりに謝り倒し、ルビーの実験室から慌てて飛び出す立香。カルデア内を疾風の如く駆け抜け、向かった先にはサファイアがいた。
『おはようございます、旦那様』
「おはようサファイア! 約束通り、雑用手伝いにきたよー!」
『中々来られないので心配しました…』
「え、今何時?」
『9時40分です』
「ブーーーッ!!?」
立香が白目を剥く。ようやくプランが破綻寸前であることに気づいたのだ。
「(まずい…! 計画が!)だ、台車を持ってくるよ!」
『台車ならここに…』
「もっと大きなやつだ! 大きな人間でありたいよねー!!」
『だ、旦那様……もしや早速計画に無理が…』
内心『…ファイトです』とエールを送ることしかできないサファイアであった。
───
レイシフト後、電車内で着替えつつショッピングモールへ直行。周囲の視線が痛かったが背に腹は代えられない。
美遊となんとか合流し、二人で映画館に足を運ぶ。
「立香お兄ちゃん? まだ上映まで早いと思うけど…」
「ああ、良いんだ。早めに入っておこ…!?」
───「そう? 立香お兄ちゃんが言うなら…」という美遊の発言は耳に入らなかった。
…クロが、既に映画館にいたのだ…!
「ッッ!!!」
まずい、鉢合わせしたらいつものデートと同じになってしまう! クロに「結局こうなるんじゃない」と呆れ気味の笑いを返される未来がすぐそこに! その思いから立香は遮二無二動いた。
「美遊、オレ飲み物買ってくるよ…。あはは!」
美遊をホールに押し込み、扉をバタンと閉じる立香。クロと美遊の鉢合わせは回避できたが…。
「やあクロ!」
「ちょっとー、既に破綻寸前じゃない。大丈夫なの?」
「何を言ってるんだ? オレはずっと一人だったけど? あはははは、あはは……はぇ!?」
「リツカお兄ちゃーん♪」
今度はイリヤの声。一難去ってまた一難である。
「っ! クロ! パンフレット買ってきてくれ!!」
「ちょ、いきなり何よ!?」
「今すぐ一緒に読みたいんだッ!!」
「…もー、しょうがないわね」
全てを察したような顔のクロが離れた直後にイリヤが来た。…人混みに紛れてクロは目視されてない、はずである。
「お兄ちゃん?」
「やあイリヤっ」
「どうしてこんなところにいるの? 待ち合わせはレストランの前だったよね?」
「ああ、もちろんだ。今から行こうと思ってたところだよ。あ、オレちょっと手洗いに行ってくるから、イリヤは先に入っててくれ」
(危なかった…! けどまだ大丈夫だ(※)…!)※全然大丈夫じゃありません
───
駆け込み乗車などもしつつカルデア内に帰還した立香。彼はサファイアのため台車を引っ張ってきていた。
「サファイア、台車あったよ…! あ、掃除道具忘れた…」
『掃除道具ならここに…』
「もっと本格的なやつだ! 趣味には凝りたいよねー!!」
その足で特異点にとんぼ返りし、クロと共に映画鑑賞を開始。しかし…。
「ちょっとトイレ!」
「え!? ちょっと!?」
美遊やイリヤを蔑ろにする訳にはいかない(なお、この無茶なデートプラン自体が全員を蔑ろにしていることにはまだ気づいていない)。苦渋の決断と共に席を立ち、美遊の元へと急ぐ。クロが少し前に想像した通りの呆れ顔をしていた気がするが、そこは気にしないことにする。してたらプランの破綻待ったなしだ。
「大慌てだねお兄ちゃん。でもまだ始まってないよ(地獄は)」
「あはは……いや、挙動不審になるくらい、デートが楽しみでさ」
「うん。わたしも楽しみだったんだ(過去形)、こうやってお兄ちゃんと二人でお出かけするの。…あ、映画始まるね」
「そうだ!! 喉が乾いたなぁ! 飲み物買ってくるから、美遊は気にせず見ててくれ…」
───
「ゼェ……ゼェ……」
「長いトイレだったねお兄ちゃん? もしかしてお腹の調子悪い? それとも計画が…」
「いや!? アハハ、無闇に素敵なトイレなんで、つい長居しちゃったよ…」
───
『今頃旦那様は、地獄の果てを…。ゴクリ…』
割と平常運転のルビーであった。今でこそ赤毛美少女だが、元のルビーは割とこんなんである。
───
「掃除道具あったよ…」
『ありがとうございます…?』
「あ、シミュレーター清掃するって申請忘れてた…」
『お願いします…(旦那様……ファイトです)』
───
立香の奮闘は続いた…。
午後にイリヤと映画館に赴き、入れ違いになるようレストランに美遊を投入。
離席してクロとショッピングをし、カルデアに帰還してシミュレーターの使用(清掃目的)申請をしてそれをサファイアに報告。
そしてクロをレストランに誘うべく、特異点に戻った。
ここまでたった1〜2時間の話である。
(こ、ここまでは完璧だ…。ルビー……やれる、やれるぞー!!)
「リツカお兄ちゃん!」
「あ、クロ」
「もうボロボロじゃない! なんかこう、ハワトリアでの自分見てるみたいでいたたまれないのよそういうの!!」
(!? そ、そんなに露骨だったオレ!?)
見ていられないと言ってクロが出てきた、ということは。つまり。
(このままじゃプランが…! どうすればぁぁ!!)
「リツカお兄ちゃん、やっぱり無理してたんだね」
「んな!? イリヤぁ!?」
「(ピキーン)立香お兄ちゃーん、どこ行ってたのー?(※立香の動きはこの辺りで破綻するのも含めて全て予測済み)」
「ブーーーーーッッ!?!?」
イリヤどころか、タイミングを見計らったかのように美遊までやってきた。…かくして、立香のドキドキデート大作戦は、ここに呆気なく失敗と相成った。
───
「もー、やっぱり失敗したー。わたしミユ程は頭良くないけど、こうなるのは流石に分かってたんだよ?」
「面目ない…」
「…まあ、立香お兄ちゃんの頑張りは見て取れたからある意味楽しかったけど」
「ミユは前向きね。…わたしの場合、なんというかその……ハワトリアでのわたしがどう見えてたかが伺えて我が事のように辛かったわ。あれ見せられたら罪悪感でバカンスどころじゃないわよね」
「「「クロ…」」」
「あーはいはい、しみったれた空気はナシナシ! さ、ルビーとサファイアも連れてきてビュッフェバイキング行きましょう! リツカの奢りで、一人の時感じた寂しさ吹っ飛ばすくらい食べ尽くすわよ!」
「おー!」
「お、おー?」
「うう、ありがとうクロ…」
イリヤ達とそういう関係になって、過去一情けないとこを見せちゃったな、と思う立香であった。