ドゥリーヨダナは悪くない
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ
汝、星見の言霊を纏う七天
降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!
眩いひかりが部屋を鮮やかに照らす。
新たな英霊が、また一人。
人類最後のマスターである人物の手によって英雄の座から此処(ノウム・カルデア)へと降ろされる。
地球白紙化を元に戻す為に―――
「我が名はドゥリーヨダナ!
ドリタラーシュトラの息子にして百王子の長兄、すなわち、わし様こそが正統なるクル族の王であrーーーンなこと、どーでもいいわ!」
「はぁーーーん!?
最強にして最優の戦士でもあるわし様の自己紹介をどーでもいいだと?!」
あまつさえ、己に対して言葉を遮り胸ぐら掴むなどなんたる無礼のことか。
事と次第によっては重い罰を与え無くてはならない無礼極まりない人物を視野に入れ……
「……は?」
その【無礼極まりない人物】は、
まるで人の血で染まったかのように紅い瞳と黒紫色の角。
棘が生え禍々しい色をした不気味な爬虫類の様な尾を生やし、鱗を纏った人とは思えない下肢。もはや棍棒など持つ事も叶わぬ鋭く延びた爪は簡単に人間を引き裂ける事が出来るであろうその上肢。
獣の如く鋭い牙を隠すこと無く、よく見慣れた顔(【ドゥリーヨダナ】)が言い放つ。
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「?????」「はぁ?」「えっ?!」「待って、待ってぇぇ?!」「メーデー!メーデー!」「タイム、一旦タイム」「無理ィ……」「アニ、キ……?」「ちーがーいーまーすー解釈違いだわ!ばーーーーか!!」
「大丈夫だって泣くなよ…な?」「ほら、まだ完全に“そう”って決まってないから大丈夫だよ。いい子だから一旦落ち着こ?」「おら、泣くとブサイクになるぞ〜?……イッテェ?!嘘!嘘!!世界一可愛いって!だからちょっ…殴るなァァァ!!」
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ギャーギャーと霊基(深層心理)に居る弟達が悲鳴が上がったり
たった1人の可愛い妹を必死に慰めようとアタフタしている。
「お、れ……?」
本来カウラヴァ陣の旗頭として例え、遠くにいる弟達や仲間等にも届く程の自信に満ち溢れ大きくはっきりとした声ではなく、
酷く弱々しいものだった。
「ほぅ……ちゃんと分かるのか。
褒めて遣わす、それに美貌に見惚れるのも無理はないからな。
存分に崇め褒め称えるがよいぞ?
【人間】の“俺”よ。」
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「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」「やっぱりじゃん、やっぱり“そう”じゃん!!」「嘘嘘嘘嘘嘘嘘」「嫌だぁぁーーーー(絶叫)」「ンな訳ねぇだろ!こちとら一人残らず人間様だぞ!?」「解釈違いです」「でも“あの口調”と“あの自信”は完全に兄上だよ」「カヒュ……ッ」「ドゥフシャーサナ兄さんが倒れたぞ!!」「医者ァァ!」「待て、ストップだドゥフシャラー 目が!目が怖い!!」「助けてヴィカルナ兄さn……えっ、気絶してる……?」「わァ…………ァ」「下の奴ら泣いちゃったじゃねぇーか」「お前もな」
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収拾がつかなくなって阿鼻叫喚状態に陥った弟達が霊基内で暴れてクラクラする。
このまま座に還る可能性もある。
一部の弟らが「撤退!」「戦略的撤退!!」「今すぐ座に還りましょう兄様!」と叫んでいる。
『分かる…――――
おおいに分かるぞ、何より愛おしい弟妹達よ。
わし様だってさっさとこの場から離れたい。』
だが、だかしかし。
例え、あの戦争が大地を支えられなくなってきた女神達の事業(オーダー)だとしても。
例え、増え過ぎた人間の間引きの為に産まれたとしても。
『“俺”は断じて【カリ(悪魔)の化身】ではないわ!』
あれ(戦争)は己の意思でやった
《欲しい》から《全て我が手にする為》の戦だ。
人が、望んで羨むことが何が悪い。
人が、不満や欲して何が悪い。
人が、憎んで恨んでいるのが何が悪い。
愛し、愛され、恵まれても それでも“まだ”足りなくて。
“またまた”目に入ったから、
“偶然”気が向いたから、
“野望の為に”使えそうだから、
ドゥリーヨダナは【手を差し出しただけ】だ。
全て、全てが【己自身の為】、他の誰の為でも無い。
どんな手(イカサマ)を使っても勝利(王権)を手に入れようとして何が悪い。
やられたらやり返しただけだ。
奪われる前に奪って何が悪い。
周りに止められようが やりたいようにやった、好きなように生きた。
死ななくてもいい人間が、殺すべきでは無い人間が、手を汚さなくてもよい人間が…
数多な尊い生命があの戦争のせいで消えていった。―――
不満が無いとは言わない、何せ最後が最後だ。
だが、其れも之も“ドゥリーヨダナ”が選び決め突き進んだ。
それ故に【悔やみ】など有る筈が無い。
それどころか、英霊となっても“まだ欲しい”のだ、“全てを手にしたい”。
【愛した者(民)ら】を“もう一度この手に”したいのだ。
なにせ、ドゥリーヨダナはこの世の全てこの手にするのに値する存在であるのだから。
故に、ドゥリーヨダナは何一つ悪くない――
それ故に、だからこそ。
その姿が、忌々しい。
その姿に、対して何も思わないのが腹立たしい。
その姿を、誇ったような口調が厭らしい。
その姿が、まるで“正しい”と語るような態度に吐き気がする……。
ドゥリーヨダナの目の前に居るコレは、其れこそクル族偉大なる王ドリタラーシュトラ
そして、心の底から王を愛し共に分かち合い、生涯その瞳を閉じる事を決意した王妃ガーンダーリーに対し、同じ産まれの弟妹に対し、最後まで共に来た誇り高き戦士や心の友らに対しての【最大級の《侮辱》】。
其れは、誇り高きカウラヴァの戦士達はカリ(悪魔)の為に
その尊き生命を散らしたと語るようなものではないか。
巫山戯るな
知った事か
【大地の女神の重荷】?其れがどうした。
【神々とアスラ(悪魔)との争い】?だからなんだって言うのだ。
【神々の生まれ変わりと、悪魔たちの生まれ変わりの戦争】?知りもしないし関係ない。
クルクシェートラの大戦争は断じて神々の為で無い!!
ギリギリと胸ぐらを掴んでいる腕をへし折らんとばかりに握り抵抗する。
「分を、弁えろ痴れ者が…」
「勝てると思っているのか?」
射殺さんばかりの目付きで睨みつければ、
その態度が心底可笑しいのか歪な笑みを浮かべ―――
「「ならば、記念に死んでおれ」」
ドゥリーヨダナは悪く(カリでは)無い