ドゥリーヨダナが産まれたときに処分されず捨てられていたら
最初に見たのは、目を覆った母の姿だった。
最初に聞いたのは己を処分しろという声だった。
「凶兆の子、クル族を滅ぼす不吉の子。」
「王よ英断を、残り百も生まれるのです。」
「一つ消すことで正しき王家となるのです。」
一人の神官が剣を持った。
母の手は震えていた。
「この子は私の最初の子です!私の大切な子です!」
魔性の子を庇って、母は死んだ。
母の腕が強く小さな体を包み込んだおかげで母ごと川に落とされた。
母の手が離れる。直ぐに姿は見えなくなった。
息ができなくなる。ああ、死ぬのだと、全てが失われていく。喪われてしまうのなら、なんとなく感じられた同胞との繋がりを辿る。凶兆だと言うのであれば、残りの弟妹の因縁を奪いつくそう。産まれてくることが、祝福であるように、望まれるように、願いながら、縁を裁ち切ったーーーはずだった。
「・・・捨て子か」
青い瞳が己を見つけたのだ。
少年は車輪の耳飾りと黄金の鎧を持っていた。
彼の家では養父が彼の帰りを待っていた
彼は養父に己を見せた。
「川に捨てられていた。弟にしたい。」
彼の真っ直ぐな視線を浴びて、養父は己を一瞥してため息をついた。許されたらしい。
「名前を、」
「名前は必要か?誰も呼びはしない。」
養父が俺を見ずに言った。
「俺の弟だ。」
「そこにあるだけのものだろう。お前が拾わなければ死んでいた。」
「生きている。」
「それは死んでいないだけだ、ヴァスシェーナ。ハイエナが啼いていただろう。凶兆だ、お前の凶兆になる。」
「・・・川に流されていた、俺の手が届いた。なら俺の弟だ。」
青い眼の中に己が写る。
ああ、確かに、人の形をしている。
「生きている、生きている。アーユス、お前の名前はアーユス。俺の甘やかな光。」
そうして今世では長兄であるはずの俺はヴァスシェーナの弟として生きることになった。