第四話「トリニティ襲撃勧誘作戦」 その4

第四話「トリニティ襲撃勧誘作戦」 その4

概念不法投棄の人



※アドビス砂漠の砂糖本スレまとめのリンクから来られた方へ

 2023/12/29 に物語の構成を変更したためにサブタイトルが一部改変されています。

 この物語の旧タイトルは『第三話『トリニティ襲撃勧誘作戦』その4』で合っています。





「せ、セリナ先輩ですか……?」


 錆びついた鉄の扉の向こうから恐る恐ると言った感じで声が聞こえてきました。ずっと聞きたかった声、幻でも何でもない本物のハナエちゃんがこの扉の向こうに居る!!私は嬉しくて速くハナエちゃんに会いたくて扉に身体をくっつけて声を上げます。


「ハナエちゃん!?本当にハナエちゃんなの!?…ねぇお願い!ここ開けて!ハナエちゃん顔を見せてよぉっ!!」


 早く会いたい、早く会いたい、ちゃんと面と向かってハナエちゃんに会いたい!!私は自分の中の衝動を抑えきれません。気が付けば扉を激しく叩きながら叫んでました。


「ハナエちゃん!!ハナエちゃん!!お願いっここ開けてっ!!ハナエちゃんに会いたいの!お願いっ!!」


「あの……セリナ先輩お一人なんですか?……他に人は居ないんですか?」


 不安そうなハナエちゃんの声で私は冷静になる事が出来ました。大丈夫!ミネ団長も居るよ!そう伝えようとした瞬間、ミネ団長に肩を掴まれました。


「……………」


 ミネ団長は人差し指を自分の口に当てて「静かに」とジェスチャーをした後、声を出さず唇だけを動かします。"私の事は言わないで、一人だと言いなさい"と唇は語っていました。


「あ、あのセリナ先輩……?」


 扉の向こうからハナエちゃんの不安そうな声が聞こえてきます。私が無言になったのを不審に思ったのでしょうか、私はハナエちゃんへ心の中で謝りながら嘘を言いました。


「……あ、う、うん、私一人だけだよ。ハナエちゃんが心配で探しに来たの。お願い、ここ開けて、私を中に入れて、お願いハナエちゃん!!」


 すると扉の向こうで息を呑むような音が聞こえ、慌てて立ち上がる物音がして、ゆっくりとドアが開いていきます。ドアの隙間から月明りに照らされてハナエちゃんの顔が見えてきました。本当はもっとちゃんとハナエちゃんの顔が見たかったのですが罪悪感に負けた私は扉を開けて立つハナエちゃんへ頭を下げて謝罪します。


「ごめんなさいっ!ハナエちゃん!!」


「やはり、此処に居たのですね。探しましたよハナエ……」


「ミ、ミネ団長………」


 ハナエちゃんの息を呑む声が聞こえました。


「少し、お話をしましょう。色々と聞かせて貰いますよハナエ――」


 私が顔を上げるとひどく怯えた表情を浮かべたハナエちゃんと、私の横を通り抜けてハナエちゃんへ腕を伸ばすミネ団長が見えました。


「ミネ団長っ何を……」


「待ちなさいハナエっ!!」


「ひっ!いやぁっ!!!」


 咄嗟に逃げようとするハナエちゃんの腕を掴みそのまま床へと組み伏せるミネ団長。どうしてミネ団長がハナエちゃんにそんな事をするのか、まるで悪いことした生徒を取り押さえるような行動をとるのか訳が分からなくて私はオロオロするばかりです。


「……!セリナ、ハナエを抑えてなさい。絶対に力を緩めてはいけませんよ」


 何かに気づいたのかミネ団長は私を呼ぶとうつ伏せに倒れているハナエちゃんの後ろ手を抑えてる部分を私に抑えさせて歩きます。必死に藻掻いてるハナエちゃんに「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りながら押さえてると何かを拾ったミネ団長が戻ってきました。


「これはハナエ、あなたが使った物ですね?」


 ミネ団長の手が摘まんでいる物、真新しい使用済みの注射器がありました。


「し、しりません……私……しりません」


ハナエちゃんが苦しそうに答えます。


「知らないはずがないですね。元々落ちていた?それはありえないですね。こんな真新しい使用済みの注射器が落ちているわけありません。ハナエ、あなたが使ったんですよね……?」


 ハナエちゃんの眼前に注射器を持って来てもう一度ミネ団長が念を押します。ハナエちゃんが苦しそうに目を閉じて顔を逸らします。


「ハナエ、あなたのポシェットを見せて貰いますよ。セリナ、しっかりハナエを抑えてなさい」


「ひっ!!いやっ!!駄目ッ!!ミネ団長っ!!!それだけはやめてくださいっ!!」


 ハナエちゃんが急に顔色を変えて暴れ始めます。私は「ハナエちゃん、ごめんね、ごめんね」と謝りながら必死にハナエちゃんを押さえます。

 ミネ団長がハナエちゃんがいつも大事に持っているうさぎさんのポシェットを持ち上げます。「ハナエ、ごめんなさい」と謝るとナイフで肩ひもを切り、抜き取ります。


「あ”あ”っ!!返してっわたしのっ、返して、ミネ団長返して!返せっ!返せっ!!」


 ハナエちゃんが強い言葉でミネ団長を睨むように見ています。こんな怖いハナエちゃん初めて見ました。

 ウサギさんポシェットを取り上げ、背中のファスナーを開けると中から半透明な小物入れバッグが出てきました。


「やはり……、ハナエ、これでも知らないと言いますか?」


 小物入れバッグにはさきほどミネ団長が拾った注射器と全く同じサイズ・メーカーの注射器の未使用新品が何本も入ってました。


「あ……ああ……」


 ハナエちゃんが顔を青ざめて行きます。私も同じでした。どうしてハナエちゃんがあんなにも注射器を持ち歩いているのか……信じたくない気持ちが湧いてきます。


「これが薬液ですか」


 次に注射液が入ってる大き目のアンプルを取り出します。封を切って匂いを嗅いだ後、徐に中身を床へとこぼします。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!やめてっやめてっやめてよぉぉおっ!!!」


 ハナエちゃんが絶叫のような悲鳴を上げます。床に零れた薬液からは濃厚な甘い香りが漂ってきました。その香りに何かとても既視感を覚えます。




「ハナエ……あなた、"砂漠の砂糖"に手を出しましたね?」




「「!!!!」」




 時が凍り付き、止まったような感覚を受けました。あれだけ暴れ絶叫したハナエちゃんも静かに……目を大きく見開いて固まっています。


"砂漠の砂糖"


 ここに来る途中にミネ団長に教えて貰った真実。このトリニティを覆いつくす暴力暴走騒乱事件のすべての原因で黒幕。見た目は普通の砂糖なのに、他の砂糖よりも美味しくて芳醇で口にした者に空を舞うような多幸感を与えると言われ、そのかわり一度でも口にすると激しい依存性と副作用があり、砂糖が切れると禁断症状により、凶暴性が増し攻撃的な性格になると言われてる悪魔の白い粉。

 あらゆる食品に混じり私達の生活を脅かす地獄の甘味料。それをハナエちゃんが取っていたなんて………。


「う、嘘だよね。嘘だよねハナエちゃん、ミネ団長が言ってたよね。"怪しい物が出回ってるから食べたり飲んだりしないようにって"ハナエちゃん、ちゃんと守ってるって言ってたじゃない……」


「ごめんなさい……」


 ハナエちゃんが呟く声が嘘ではないと、そう言うのが信じられなくて……。


「ハナエ……いつから……何時から摂取していたのですか……」


「■■くらい前から……です」


「そんな……そんな前から……」


 ミネ団長が絶句してます。ハナエちゃんはずっとずっと前から、私達が砂漠の砂糖の存在に気づくずっと前からハナエちゃんは砂漠の砂糖に遭遇しその悪魔に憑りつかれていたのです。


「嘘ついてごめんなさい……だましていてごめんなさい……ミネ団長……セリナ先輩…ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……」


 ハナエちゃんが震えながら謝罪の言葉を繰り返します。


「いくら……一日どのくらい摂取していたのですか……ハナエ」


 ミネ団長が震えるように問いかけます。


「ぐすっ……一回2ml……を、一日……4回……注射……してました……」


「そんな……一日に8mlも静脈注射するなんて……あなた正気ですか!!」


 確か人間が一度に注射して良い量は薬液にもよりますが1回が2mlだと注射器の取り扱い授業で習った記憶があります。私達、救護騎士団で使う注射の薬液が一回0.3mL~0.5mLなのでその4~5倍の量をハナエちゃんは摂取していた事になります。


「何か身体に異変は起きてませんか?身体の一部に変化が出ているとか、体調がおかしくなっているとか?」


「いいえ……むしろとても調子が良いんです……身体が軽くて……頭がとても冴えて……救護活動も体育の授業も学科のテストもとても楽しく速く正確に出来るようになりました……。みんなに迷惑かけ無くなって……救護活動も一人で出来るようになって……いっぱい褒められて……全部お砂糖のおかげだったんです」


「………」


 私の中でハナエちゃんを誉め立てる声が木霊します。


『ハナエちゃんの手当てとても良かったよ』『ハナエちゃんのおかげで怪我がすぐ治った』『セリナちゃんの指導の賜物だね!良い後輩を持ったもんだ』


(そんな……そんな……)


 私はハナエちゃんが一生懸命努力していたのを知っていました。少しでも皆に追い付こうと、ミスや失敗を無くそうと、いつも遅くまで部室に残り練習してる姿。お洒落ですといっぱいつけた絆創膏が飾りでは無くて本当にその下に無数の傷がある事も私は知っていました。

 その努力が……ハナエちゃんの努力がやっと実を結んだと喜んでいたのに……こんな結果になるなんて……。ハナエちゃんはもちろんそれを自覚していたのに、私はそれを知らずにハナエちゃんをほめたたえてました。その言葉一つ一つがハナエちゃんを追い詰め傷つけてるとは知らずに。ハナエちゃんが砂漠の砂糖に悪魔に蝕まれて行ってるのに、すぐそばに居たのに全く気付かなかったのです。


「ハナエ……甘い香りがしてますけど……香水や砂漠の砂糖を身体に浴びせたりしてないのですね」


「はい……」


「砂糖のフェロモンを常時自然発揮する所まで蝕まれている……ステージ4辺りでしょうか……もうここまで重篤化しているとは……」


 いつの間にかハナエちゃんの身体からはとても甘い香りが漂ってました。今日は特に濃くてハナエちゃんのすぐそばに居ると少し頭がぼうっとしてくるくらいです。私はてっきり香水をつけ始めてて「ハナエちゃんもお洒落さんになったんだな~」と温かい目で見守っていたのがとても情けなくなりました。これこそがハナエちゃんの異変を教えてくれる重要なサインだったのに……私は呑気に見逃してしまってました。

 ミネ団長が深刻そうに顔を歪め、片手で目のあたりを抑えて呻いています。ステージ4……癌の病期でいうと五段階評価の5番目……末期患者のレベルです。ミネ団長の言う"ステージ"とやらが癌の病期(ステージ)と同じなら――。


「ハナエちゃんは……末期……終末医療……」


 ハナエちゃんはもう助からない……そんな絶望感に襲われてしまいます。


「末期……終末……いや…いや、いやぁああ!!ミネ団長、早く早く早くソレをっ!!砂糖を返してください!!私はソレが無いともうっ!!」


 私の呟きを聞いてしまったハナエちゃんが再び暴れ出します。思わず後ろ手を解いてしまい立ち上がったハナエちゃんを必死に後ろから抱きしめます。


「嫌だっ!!なりたくないっ!!あんなっ!あんなっ凶暴な獣になんかなりたくないですっ!!怖い目をして物を手あたり次第壊してっ皆に暴力を振るう怪物になりたくなんかないっ!!お願いです!!ミネ団長!!悪い事はしませんからっ!!もう量はふやしませんからっ!!それを!!それを!!砂糖を返して!!返してくださいっっ!!」


 ハナエちゃんがミネ団長からポシェットを取り返そうと暴れます。空しく宮中を何度もきるハナエちゃんの腕――。その腕にリストバンドが捲れてその下には消毒用アルコールにかぶれて赤く腫れ、5~6個の注射痕が見える痛々しい手首がのぞいていました。


(私の悪い予想……当たっていたんだ)


 ハナエちゃんがまるで手首を覆い隠すように急にリストバンドをしてて不安と疑いの目を向けてて、今朝見たら何事も起きてなかった手首。きっと現実を受け入れたくない私の我儘な理性が無意識下で見て見ぬふりをしていたんだと思います。あんな痛々しい注射痕を見落とすなんて……私は何て愚かなんだろうか……。


「団長っ!!!返してっ!!返してよっ!!私からっ!!砂糖を奪わないでよっ!!」


 ハナエちゃんが取り返そうと必死に暴れています。


「ハナエ、これは返すわけにはいきません。もうこれ以上砂漠の砂糖を摂取させるわけにはいかないんです」


「嫌だっ!!砂糖が無いと……私はもう壊れてしまいますっ!!壊れて皆を傷つけるケダモノになってしまいますっ!!!それだけは嫌、ですっ!」


「大丈夫ですよハナエ」


 ミネ団長がハナエちゃんに近づき、振り回していた腕をそっと掴んで両手で握ります。


「あなたは砂糖中毒者のなかでももっとも重い症状になっている……いえなっているはずです。それこそ砂糖を常に切らさず摂取していても理性を失い人の形すら保ててないくらいの――。しかし、実際はそうはなってない。あなたは人の形を理性をちゃんと保っています。私やセリナが砂糖を摂取している事に全く気が付かないくらいに……」


「ミ、ミネ団長……」


「ハナエ……おそらくあなたは砂漠の砂糖に対して強い耐性を持っています。あの白い悪魔の結晶に決して屈しない強い力を……。ハナエ、私と一緒にミレニアムサイエンススクールへ行きましょう。あそこなら、あなたの砂糖中毒を治す事が出来るはずです」


「ミレニアムサイエンススクール……ひいっ!?いやっ!!嫌ですっ!!ミレニアムなんて行きたくないっ!!あそこはっ!あそこの人達はっ!!私達砂糖中毒者を妬んでいて!!捕まえて拷問や人体実験する二度と生きて返れない恐ろしい場所なんですっ!!」


 ハナエちゃんが必死に懇願しています。ミレニアムの人達ってそんな事をするなんてとても思えないのですが……。


「誰がそんな事を言ってるんです!!ミレニアムの子達は決してそんな事はしません!!良いですか、ハナエ?私は少し前からミレニアムサイエンススクールと連絡を取り合ってます。このトリニティを、いえ、キヴォトスを覆い隠そうとしている巨悪を……砂漠の砂糖に打ち勝ち、学園を救うため協力して力と知恵を出し合っている事を――」


 そう言うとミネ団長は鞄から見た事ない四角い板状のアンテナが付いた通信端末を取り出し、どこかへ電話をかけ始めました。


「もしもし……トリニティ総合学園の蒼森ミネです。……はい。そうです……申し訳ありません、私の部下から砂漠の砂糖中毒者を出してしまいました。すべては私の油断と慢心がもたらした不徳の致すところです。……はい、……はい。……そうです、救護騎士団1年生朝顔ハナエです。……はい、もしそちらで治療していただけるなら……はい、治験などには参加させます。私も同席します……はい…ええ、わかりました」


 ミネ団長が通信端末をそっとハナエちゃんの顔へと近づけます。ハナエちゃんは恐る恐る声を出します。


「もしもし……?」


『もしもし、ふふっ、とても可愛らしいお声ですね。ああ、申し遅れました、私はキヴォトスが誇る稀代の清楚な高嶺の花であり、みなさんの憧れである「全知」の学位を持つ眉目秀麗なミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーの明星ヒマリと申します。ふふっ、初めまして朝顔ハナエさん?』


「は、はじめまして……」


『ミネさんからお話は聞きました。お砂糖に囚われてしまったのですね。でもご安心ください。この天才清楚系病弱美少女ハッカーの明星ヒマリが必ずあなたをお救い致します』


「でも……ヒマリさんは……ミレニアムの人達は私達の、砂漠の砂糖を妬んでるって……ミレニアムの科学技術を脅かす砂糖を嫌っていて、砂糖中毒者を捕まえて拷問や人体実験をしてるって聞きました」


『もう、全く誰ですかそんな根の葉も無い戯言を言っているのは……。ご安心ください。朝顔ハナエさん、私達ミレニアムは決してあなたの人格や尊厳を傷つけ奪うような事は一切しません。ミレニアムの超天才美少女である私が保証しましょう。もしも何かあった時は……そうですね、チーちゃんとエイミを桜の木の下に埋めても構いませんよ』


「…………」


『私達ミレニアムにも砂漠の砂糖が蔓延して多くの中毒者を出してしまいました。今、皆さん必死に砂漠の砂糖と闘いながら治験に参加して治療を受けています。ハナエさん、あなたが我々の治験に加わってくれるなら、同じ砂漠の砂糖に犯され、それでも必死に戦ってくれる同志になってくれるなら、それはきっと心強い頼もしい仲間になってくれるはずです』


『戦うのはあなた一人だけではありません。ミネさんもあなたに付いてくれると言ってくれました。こちらには私達の仲間のモモイやミドリ、ユズにユウカ……多くのミレニアムの生徒達があなたを待っています。共に砂漠の砂糖と闘い、打ち勝ち乗り越えて行く頼もしいトリニティからの仲間が――。どうか、どうか私達に協力していただけますか?』


「あ……あの……えっと……」


『ふふっ、大丈夫です。今ここで結論を出せとは言いません。……でもハナエさん、あなたの心はもうほぼ決まっているのではないのでしょうか?……蒼森ミネさんと代わっていただけますか?』


ハナエちゃんが端末をミネ団長へ返します。


「もしもし、ミネです。………はい、やはりそちらも激しい攻撃を受けているのですね。……ええ、この同時多発襲撃事件、まだ黒幕が居ますね………アビドスの………やはりそうですか。………はい、必ずこの苦難を乗り切って見せましょう。それから、今朝届いた例の薬をハナエに与えてもよろしいでしょうか?………はいリスクは十分承知しています。ですがハナエならきっと乗り越えてくれると信じています。万が一には私がそばに………はいその申し出は大変ありがたいです。……はい、では無事この苦難を乗り越えてお会いできるのを楽しみにしております。では……」


ミネ団長が通信を終了すると端末を鞄へしまい、かわりに一つの小さな瓶、緩衝材に包まれたアンプルを取り出します。中にはとても綺麗で透き通った青色の液体が入ってました。


「これは今朝ミレニアムから極秘に届いた薬品です。砂漠の砂糖の禁断症状に効く……かもしれないと言われている開発されたばかりの試薬です。これをあなたに、ハナエに処方します」


「わ、わたしに……ですか?」


「ええ、まだ開発したばかりで試験も治験もしてない、本当に効くかも副作用がどのくらいでるのかもわからない物です。でも私は信じてます。ハナエならきっと乗り越えられるはずだと。ハナエ、あなたが私達を信じてくれて、砂糖の誘惑に打ち勝ちたいと願うならこの薬を貴女に処方しましょう……良いですか?」


ミネ団長がハナエちゃんの手を取り真剣な表情で見つめています。


「ハナエちゃん、私も……私もハナエちゃんのそばに居るよ」


気が付けば私もハナエちゃんの正面に回り、彼女の手を強く握ってました。


「セリナ先輩……」


「ごめんね、私がハナエちゃんを放ってしまって、大丈夫だなんて、ハナエちゃんを一人ぼっちにしてしまって……でももう決めたの。私はずっとハナエちゃんのそばに居るよ。もう絶対に離れない。だから…治療受けよう?」


私達が手を取り握り合います。その手元にはそれぞれリストバントが鈍く光を帯びているように見えました。汚れてボロボロになり、それでも未だ手首に付いていて私達3人の強い結束力を示してるみたいでとても心強い気がしてきました。


「ハナエ……」「ハナエちゃん」私とミネ団長がハナエちゃんへ問いかけます。ハナエちゃんの瞳に僅かに小さな、そして強い光が灯ろうとしていました。


「セリナ先輩……ミネ団長………私は……わたしは……!!」






「あら♡こんなところに隠れていたんですね♡ ハ♡ナ♡エ♡ちゃん♡」







突然柔らかそうでそれでいて底冷えするような声が木霊し、真っ暗な講堂に月明かりが差し込みます。塞がれていた二階部分の窓が一か所いつの間にか開かれていて、


「あ、あなたは……!!」


一人の少女が空中に浮かびこちらを見下ろしながら佇んで居ました。


「現れましたね……この事件を仕組んだすべての黒幕………ハナエを狂わせた元凶……」


ミネ団長が怒りの形相で見上げて睨みつけます。



「浦和ハナコ………」



「うふふふ♡」



月明りにその桜色の髪を靡かせ、細めた瞳に邪悪な光を灯し、人を狂わせる甘い香りを纏って浦和ハナコさんが現れたのです。



(つづく)


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