トラウマ持ちドレークを

トラウマ持ちドレークを



よしよしするキッドのキドドレ

(1月16日オマケ更新)


キッドは『趣味:武器集め』だし鞭くらい持ってるよね!戦闘中は流石にお労し過ぎるから安全圏で泣かせたい

……という妄想から出て来た


「よくもまあここまで武器を集められたもんだな」

一時的に同盟を組むことになったキッドの船にお呼ばれして、武器庫に招待されたドレークは呆れとも感心とも取れる声を出した。剣に斧に刀に槍にメイスに弓エトセトラエトセトラ…。

「趣味ならこれくらい集めて当然だろ。キラーからは船が重くなるから程々にしろってゴネられてるが、おれはやめねぇぞ」

「程々にしとけよ」

キラーの気苦労も分かるが、これで他所の海賊に武器が行かないならドレークとしても万々歳だから少しの注意に収めておく。武器達の保存状態はキッドの外見からは想像も出来ないくらい良く、定期的にメンテナンスもしているのだろう。武器達のレイアウトは店のように整っているのも意外だ。

「お前は止めないんだな」

「他所の船のこと、ましてや船長のお前がしたいことなら、おれが止められる訳がない好きにやれば良いさ、お前は海賊なんだろう?」

ショーケース越しに剣を撫でて言ってやれば、違いねえと口角を上げるキッドはどこに出しても恥ずかしくない程海賊だった。

「お前話しが分かるな、特別に最近手に入れた武器を見せてやるよ。メンテしたばっかだから綺麗だぜ」

懐かれてしまったようだ。だが、かつての同盟相手のホーキンスもアプーも武器自体に興味が薄そうだから、武器に興味があるだけでポイントは高いのかもしれない。ちょっと待ってろと奥に引っ込んだキッドに言われるがまま近くで武器を見ていると、やはりキッチリとメンテナンスがされていて、余程武器が好きなんだなと分かる。陸にいると獲得出来る武器に限りがあるから出航したのだろうかなんて想像するくらい豊富な数は、本当にどれも綺麗で来て良かったと思う程だ。

「待たせたな赤旗!」

「いや、おれも楽し…」

楽しそうなキッドが持って来た『最近手に入れた武器』とやらを見た瞬間、ドレークの身体と表情は恐怖に染まって足元から崩れ落ちた。だって、ソレは、その、武器は…

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい殴らないでおれちゃんとするから言うこと聞くからごめんなさい殴らないでくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

鞭は、あの地獄のような時期に父親からの折檻で使われたトラウマの品だ。今ですら見るだけで震えと涙が止まらないなんて、醜態にも程がある。それを海賊に晒すなんてとんだ失態だが、そんなことを気にする余裕があれば恐慌状態になどなっていない。


「お、おい、いきなりどうした…」

「ごめんなさいちゃんとやりますおれちゃんと海賊やります父さんが言うこと全部やります言うことも聞くから殴らないでごめんなさい痛いのは嫌だ殴らないでくださいおれ父さんの言う通りにするいい子になるからぶたないでください」

鞭を持っているキッドがあの頃の父親と被って見えて、壊れた蛇口のように涙と鼻水が止まらないドレークと普段の彼が結び付かなくてキッドは混乱するだけだ。

「親父だぁ?」

ドレークの経歴はあまり知らないからこそ、今は二人しかいないのに父親が出て来るのかキッドには皆目見当もつかないが、同盟相手ならば仲間のようなものだ。アプーのクソ野郎が言ったことなど知るか、キャプテンであるキッドがそうあれかしと望んだならせめてドレークとの同盟だけはハッピーエンドになるべきだし、キッドがそうしてやる。ならばまず解決すべきは目の前にいる同盟相手だ。

「お前は充分いい子だ、だから無理する必要なんかねえ」

鞭をマントで隠して、ドレークを抱き締める。大袈裟なくらいに震えられたのは、それだけ父親にされた虐待が恐ろしいかったのだろう。安心させるように背中を叩いてやれば凭れ掛かって来ても抱き締め返さないドレークの傷は根深いらしい。他のヤツ相手ならおれはカウンセラーじゃねえんだぞ、てめぇのやる気くらいてめぇでどうにかしろと蹴り飛ばすところだが、ドレークの実力を評価しているからこそ戦場で鞭を見る目だけでここまで震えられては困る。それならトラウマの克服だって協力出来るのだ。

「おれ、いいこ?」

発言だけ見たら間違いなく子供がえりしていて自分のことを父親だと思い込んでいるだろうに、抱き締め返さないドレークの頭を撫でて甘えるように催促しても反応は芳しくない。

「ああ、いい子だ。だから、甘えろ。おれはお前を殴らねえって約束してやる」

少なくとも、同盟が終わるまではなんて言う必要がないことは言わない。さっきも言ったがキッドからしたら、同盟がある限りドレークは仲間だ。同盟が終わってもドレークが自分と敵対の意思がないならそれはそれで良し、あれば殺し合うだけだ。

「(おれがしてるのは同盟相手のメンタルケアだおれがしてるのは同盟相手のメンタルケアおれがしてるのは同盟相手のメンタルケア…)」

………だから、服を摘んで控えめに甘えてくるドレークのことなんて全っっっく可愛いなんて思ってないし、肩口に顔を擦り寄せてくるドレークにキュンとなんてしてない。してないって言ったらしてねえんだよ!!!


~オマケの数日後~


「キッド、キッド、今日はどうするんだ?」

今日も朝日が眩しいヴィクトリアパンク号、武器庫の一件から徐々に懐いて今ではキッドと離れたくないと後ろをぽてぽて歩くドレークに達成感と感慨深さを感じつつ、お前が食べたのはリュウリュウの実じゃなくてトリトリの実じゃねえのか?と聞きたくなる。いやそれより、自分の前だけで見せる子供のようなあどけない顔と絶対に前に来ないよう抑えた歩幅をするドレークがか…

「わいくねえ!!!」

「どうしたんだキッド!!?」

いきなりヘッドバットするキッドは最近よく見る光景だ。おかげでヴィクトリアパンク号の船体は穴だらけ…なんてことはないが、流石に奇行過ぎてキラーすらも引いているのは痛い。しかしドレークの口添えもあって、武器集めに口出しされなくなったからキッドとしては問題ない。キッドへの威厳を犠牲にするだけで趣味が自由に出来る上、こんなにデカいひよこに懐かれるなら寧ろメリットの方が大きいのではないだろうか。よく見て欲しい、キッドを心配してオロオロする姿なんて本当にキュ…

「ンとする訳ねぇだろ!!!!」

「キッドーーーーーー!!!??」

鉄の腕で自分で自分を殴るキッドは、やはりここの船員が言うように何かヤバいものをキメているのではないか。ドレークにまだ理性があれば思えただろうが生憎キッドといる時のドレークは、トラウマと一緒に張り詰めていた精神をキッドにドロドロに甘やかされた影響で子供がえりしてしまうのだ。

「キッド、おれ、いい子じゃないから、自分を殴ったのか?おれがいい子になれば殴らないのか?ごめんなさい、おれいい子になるから怒らないでくれ」

グズグズと泣き始めるドレークは、キッドの前だと精神と一緒に涙腺までも子供になってしまう。

「お、お前は、悪くねえ。いい子だから、泣きやめドレーク」

自分で放った右ストレートに頭を抱えつつも、ドレークを抱き締めるキッドの保護者ぢから、プライスレス。ほら、いい子いい子とドレークの頭を撫でるキッドの様子はライバルのルフィとローが見たら何があったと聞いてくるだろうが、キッドは自分どうこうより二人にこの状態のドレークを見られたら記憶をなくすレベルで殴り飛ばすイメージしか湧かない。キッド海賊団の船員がこの状態のドレークを知っているのはもう仕方ないが、アイツらはダメだ。何がダメと言われたら分からないが、キャプテンであるキッドがダメと言っているならダメなのだ。

「おれ、いい子?」

あどけない声色で恒例となった質問をするドレークに対する答えなんて、キッドには一つしかない。そもそも子供のような無垢な瞳で聞かれて、主に否定側の他の答えをするヤツがいたらキッドが直々にぶっ飛ばすから問題はない。

「ああ、いい子だ。いい子だから、……あんまおれの前で可愛いことすんなよー」

「? うん、分かった!」

元気に返事をしてキッドを抱き返すドレークに、分かってねえじゃねえかこのスットコザウルスがよぉ!!!と言い掛けたところで、唇を噛み締めてなんとか耐えたキッドの精神は朝から限界だった。それでも同盟を解消しない理由は分からない。分かってはいけない。


Report Page