デッドオアアライブ〜プリキュアミニ四駆倶楽部〜(前編)

デッドオアアライブ〜プリキュアミニ四駆倶楽部〜(前編)


 ここはおいしーなタウンとソラシド市とぴかりヶ丘の境目に位置する場所に都合よく存在する電気店──コジマ電気……

 そこに、最速を求める男たちが今日も集っていた。

 なぜなら、コジマ電気にはミニ四駆のサーキットが常設されているからである。

 全国各地どの店に行ってもだいたいサーキットが常設されているコジマ電気は、ミニ四駆業界にとってなくてはならない企業として有名なんである(モール内に出店してるところだとサーキットが無い場合もある)。


「よ、ツバサくん。もう来てたのか。早いな」

「あ、誠司さん。お疲れ様です」


 タミヤマークのキャリーケースを掲げて店内の一画へとやってきたのは、ぴかりが丘の住人、相楽誠司。

 ハピネスチャージプリキュアのキュアラブリーこと愛乃めぐみの幼馴染であり、空手の有段者にして学業優秀という高スペック男子である。しかも家事だってこなせるし、人の心の機微にも聡い。その高スペックをフルに活かしてめぐみたちハピチャチームを陰に日向に支え続け──本当にもう散々苦労しながら支え続けた男である。


 が、その苦労話はとりあえず横に置いといて、今回、彼がここにやってきたのはミニ四駆で遊ぶためである。


 先に店内で待っていた少年は夕凪ツバサ。

 紆余曲折あってソラシド市の住人となった異世界人にして、プリキュア史上初の「男子プリキュア」である。


 そんなエポックメイキングな彼に関して語るべきことは尽きないが、その話題も横に置いておいてやはりミニ四駆である。


 常設サーキット脇に設置されたピットスペース──と言っても長机とパイプ椅子があるだけだが、その机の上には、すでにツバサのマシンがいくつものパーツに分割された状態で整然と並んでいた。


「ツバサくん、いきなり全バラしでメンテ?」

「先に走らせたんですけど、コースアウトばっかりで完走できなかったんですよ。なので一からセッティングの見直しです」


 ツバサはやれやれとため息混じりにパーツを再び組み直し始めた。


「今月のレイアウト、そんなにヤバいんだ?」

「急斜面のロングコースにデジタルカーブ、さらにドラゴンバック。凶悪なセクションの連続ですよ」

「ヤバいね」


 誠司は苦笑しつつツバサの隣のピットに腰を下ろした。

 そんな二人のそばに、また新たな少年がやってきた。


「なんだ、相楽もツバサも早いな」

「よっ、品田」

「そっちが遅いんですよ、拓海さん」

「お前と違ってオレには学校や家の手伝いがあるんだよ」

「人をニートみたいに言わないでください。僕にだってやることはありますよ。プリンセスのお世話とか、プリンセスのお世話とか」

「羨ましいな畜生!」


 半分ニートも同然なツバサの発言だが、拓海は皮肉どころか本気で悔しがっていた。

 その様子にそばにいた誠司は苦笑を浮かべながら、自分のマシンをキャリーケースから出すと、それを手にサーキットへ向かった。


「品田、これから走らせるけど一緒にやるか?」

「お、やるやる。ちょっと待ってろ」


 拓海も自分のマシンをキャリーケースから取り出し、サーキットへ向かった。

 ミニ四駆のマシンは概ね大人の手のひら程度のサイズだ。

 マシンの種類や装備したパーツにより大きさはまちまちだが、レース公認競技会規則、いわゆるレギュレーションというものが存在している。

 ミニ四駆レーサーは、そのレギュレーションの範囲内で自分のマシンを自由に改造して公認レースに臨むのである。


「品田、フロントローラーの数を増やしたんだ?」

「ああ、コーナーでの安定感高めようと思って三段アルミローラーにしたんだ」

「ベアリング入りのオールアルミタイプか。フロントだけじゃなくリアも同じローラーにしたなら高くついただろ?」

「前後合わせてローラーが十個だからな。そりゃもう」


 ちなみに高品質なアルミローラーの場合、二個セットで千円近くするのである。

 拓海は遠い目をしながら、


「……ランチ代をこっちに充てたから、ゆいのやつ機嫌を損ねちまった」

「お前、それ削っちゃダメな経費じゃね?」

「速さのためには必要な犠牲だったと思いたい……それより相楽、お前のマシンも前と違うじゃないか。ボディが随分とファンシーになっちゃってまあ」


 拓海からそう言われて、誠司ははにかみながらマシンを掲げた。

 そのボディ──すなわち車体の外観は、ピンクの塗装に小さなハートの柄がいくつも散らされた可愛らしいものだった。


「めぐみがな、私もやりたいって言って、ボディの塗装を任せたらこうなったんだ」

「へー、よく興味を持ってくれたな?」

「見た目の改造だけな。走らせることにはさっぱり興味が湧かないみたいだし、自分でマシンを作る気もないみたいだ。このボディを一緒に塗ったら、それでもう満足したってさ」


 しょせん女にゃ男の趣味は理解できないのさ、とため息をつく誠司だったが、拓海は呆れた。


(惚気か、コイツ!)


 幼馴染の女の子の方から積極的に自分の趣味に付き合ってくれるなんて、拓海からすれば垂涎ものの状況だ。それなのに彼女の気持ちに気づかないなんてなんて鈍感な男だろう。

 だが、それはそれとして、もしもゆいがミニ四駆に付き合ってくれたとして、どうなるか、拓海はふと想像してみた。


 無理だった。まるで想像もつかなかった。


 彼女が食べることと、そのために運動やスポーツに楽しそうに取り組む姿は簡単に想像できるけれど、机に向かって工具を両手に手のひらサイズのモーターカーを分解したり組み立てたりする姿はどんなに頑張っても想像つかなかった。


(まあ人には向き不向きってもんがあるしな。アイツには似合わないよな)


 他に知り合いの中で似合いそうな女の子といえば、と考えて思い浮かんだのは、華満らんだった。

 発明、というより工作の類が好きらしくて妹や弟さんたちと手作りのオモチャなんかでよく遊んでいるらしい。

 今度らんを誘ってみようかなぁ、なんて無自覚に浮気性なことを考えながら、拓海は自分のマシン【ブラックプレシャス】のスイッチを入れた。

 マシンに組み込んだモーターによって、四つのタイヤ全てがうなりを上げながら高速回転を始めた。

 ミニ四駆のサーキットはレーン式である。コジマ電気のサーキットは横幅11センチのレーンが3つ並び、それが縦に横にと、文字通り縦横無尽に曲がりくねっている。


「品田、準備はいいか?」

「応」


 二人はマシンの後部側をつまんで、スタート地点に、タイヤが接触しないように前傾させて、前部バンパーだけをコースにつけた。


「レディ……ゴー!」


 誠司の掛け声と共に、掴んでいたマシンの後部を手離す。四つのタイヤがレーンの床を踏み締め、マシンはまるで弾丸のように急加速した。

 ミニ四駆の速度は、市販品をそのまま組み上げるだけでも時速15〜16キロ、チューンナップを施した改造マシンならば時速30キロをも超える。

 たかが30キロというが、その速度域は、もしもミニ四駆が実車同様のサイズであった場合、なんと時速960キロに相当する。

 まさに目にも止まらぬ速さで、二人のマシンは横並びにストレートコースを駆け抜けて第一コーナーのカーブへと差し掛かった。

 ミニ四駆はラジコンのような遠隔操作はできない。スイッチを入れて手放したが最後、基本的には真っ直ぐ全力疾走するだけだ。そのためカーブでは車体をレーンの壁に擦り付けながら曲がっていく。その際、壁との摩擦を減らすためにマシンの四隅にはローラーが取り付けられていた。

 コースは左カーブ。マシンが高速でレーンの右壁にローラーを押し付ける。その衝撃と左へ曲がる際の遠心力によって車体が右方向へと傾きかける。


「三段ローラーの力を見せてみろ、【ブラックプレシャス】」


 拓海の叫びに呼応するかのように、フロント左右に装備された三段重ねのローラーが、壁にしっかりと当たり、車体の傾きを阻止した。ローラーは滑らかに回転し、マシンの速度を殺すことなくマシンはカーブを曲がって行く。

 ブラックプレシャスが一歩リードしながらカーブを抜け、続いて上りの急斜面に差し掛かった。

 誠司が叫んだ。


「ここからの立体セクションが本当の勝負だ。行け、【ラブリーカイザー】!」


 拓海のマシンから一歩遅れて、誠司のピンク色のマシンも急斜面を登りだす。その上り坂で、二台が再び並んだ。


「追いつかれた!? 誠司はトルク重視のマシンか!?」

「ここの斜面は40度の急角度。ギア比4:1でも無けりゃとても速度を維持できないさ!」

「くそ、【ブラックプレシャス】に搭載したスピード重視の3.5:1ギアじゃトルクが足りないか!?」

「天高く駆け上がれ【ラブリーカイザー】!」


 急斜面のレーンはそのまま大きく右へ1180度のカーブを経て下り坂となっていた。速力を殺さず急斜面を登り切った誠司のピンクマシンが、下り坂に差し掛かりさらに加速しながら駆け降りていく。

 拓海のマシンはジリジリと速度を落としつつもなんとか坂を登りながらカーブを曲がり切り、ラブリーカイザーを追って坂を駆け降りる。

 その二台の先に待ち受けるのは、数メートルのストレートと、そして180度のヘアピンカーブ。だがそのカーブにはある仕掛けが施してあった。


 レーンの壁面がなだらかな曲面ではなく、平面の短い壁が角度をつけて並ぶ多角形のコーナーとなっているのだ。


 通称【魔のデジタルカーブ】。壁面にサイドローラーを押し当てながら曲がるミニ四駆にとっては、壁の繋ぎ目を通過するたびに衝突に近い衝撃を受けることになる。ここは車体の耐久性を試される場所でもあった。


「僕のマシン、【プリンセス・プリンセス】はこのデジタルカーブでの衝撃に耐えきれずローラーパーツが外れてコースアウトしてしまいました」


 そう独り言を呟いたのは傍で見守るツバサである。


「拓海さんと誠司さん、二人の愛車がここをどう攻略するのか、見せてもらいますよ!」


 ツバサが固唾を飲んで見守る中、先ずは誠司の【ラブリーカイザー】がカーブに突入する。

 サイドローラーが多角形の角に連続して接触し、激しく横ブレを起こした。だが、車体そのものはまるで曲面のレーンに沿っているかのように滑らかに曲がっていく。


「こ、これはいったい!?」


 驚愕するツバサに、誠司が胸を張った。


「これがラブリーカイザー必殺技の一つ、【スライドダンパー】さ!」

「す、スライドダンパー!?」


 説明しよう。スライドダンパーとは、ローラーを取り付けるための追加バンパーパーツの一種である。

 その内部にはバネが仕込まれており、ローラーが壁に接触した際の衝撃を内部のバネが吸収し、デジタルカーブであっても滑らかに曲がることができるのだ。

 ちなみにパーツのお値段はだいたい500円程度。コジマ電気ならどの店舗でも扱っている。

 ツバサもコース脇のパーツ売り場にスライドダンパーが売られているのを見つけた。


(僕も後で買っておこうっと)


 それはそれとして、一歩遅れて拓海の【ブラックプレシャス】もデジタルカーブへ突入した。

 彼のマシンにはスライドダンパーは搭載されていない。そのため車体は多角形レーンの連続した繋ぎ目を通過するたびに激しく左右にブレた。

 しかし、そのスピードは思ったよりも落ちていない。


「こ、これはいったい!?」


 驚愕するツバサに、拓海が胸を張った。


「これがブラックプレシャスのタフネスの秘密、【カーボン強化パーツ】だ!」


 説明しよう。通常ミニ四駆の車体はプラスチック製であるため、このようなデジタルカーブに高速で突っ込むと衝撃に耐えきれず歪みを生じてコースアウトするか、最悪破損してしまう。その耐久性を上げるため、様々な追加プレートを外付けするのがチューンナップの第一歩である。

 その外付けパーツはFRP製が主なのだが、ブラックプレシャスはさらに耐久性の高いカーボン製のパーツをマシンに組み込んでいた。これによりマシンの歪みが抑えられ、スピードロスを最小限にしたのである。


「耐久性を上げて無理やり押し通るってことですか。なんて力技な……」

「小細工無用、それこそがオレのプレシャスだ!」


 なぜか誇らしげに語る拓海。ちなみにカーボン強化パーツの平均的なお値段は一つ千円弱。パーツ一つでミニ四駆本体一台が買えるお値段である。

 種類によっては品薄でプレミア価格になっているものもある。現にコジマ電気のパーツ売り場には、すでに品切れの文字が並んでいた。


「拓海さん、アルミローラーといいカーボン強化パーツといい、あのマシンにいったい幾ら注ぎ込んだんですか?」

「間違いなく万は超えてる」


 マシンにお小遣いを注ぎ込んだせいでふいにしたゆいとのデートを思い返して、拓海は心中密かに葛藤していた。


 それはそれとして二台のマシンは次の難関に差し掛かろうとしていた。


 待ち受けるのは【ドラゴンバック】。ストレートコースの途中、僅かに盛り上がった箇所が天をうねる龍の背のように見えることから名づけられたセクションだ。

 マシンが高速でここに差し掛かると大きくジャンプすることになる。しかしその先に待ち受けているのは鋭いコーナーセクションだ。

 ストレートでの加速そのままに大きくジャンプしてしまえば、目の前に迫るコーナーを飛び越してしまう。そのための速度調節がドラゴンバック攻略の肝である。

 けれど、とツバサは疑問を口にした。


「ミニ四駆は一度走らせてしまえばコントロールができない。そんなマシンのスピードをどうやって調節するっていうんですか!?」


 そのツバサの目の前で、ラブリーカイザーがドラゴンバックの斜面に差し掛かった。

 その瞬間、マシンの速度が、微かに、ほんの微かに落ちた。

 勢いを削がれたラブリーカイザーは飛翔距離を伸ばすことなくすぐに着地し、コーナーへと進入した。


「こ、これはいったい!?」


 驚愕するツバサに、誠司が胸を張った。


「これがラブリーカイザー必殺技の一つ、【ブレーキ】さ!」

「み、ミニ四駆にブレーキが!?」

「そう、あるのさ。斜面を登ろうとした時にのみ効果を発揮するブレーキが!」


 ラブリーカイザーの後部底面にはスポンジが薄く貼られていた。

 マシンが斜面を登ろうとする際に後部底面のスポンジが床面と接触し、その摩擦力によってスピードを殺したのである。


「でもそんなブレーキつけてて、よく最初の急斜面を登りきれましたね?」

「あのスロープ、実はドラゴンバックよりバンクそのものは緩やかなんだよ。それがずっと続いて最終的には急斜面になるけど」

「そうか、バンクが急なドラゴンバックのみ効果を発揮するようにスポンジの高さを調節してあるんですね」

「その通り」


 誠司がツバサに解説している間にブラックプレシャスもドラゴンバックを飛び越える。

 しかしそのスピードはまったく落ちることなく、そのジャンプの高さも飛翔距離も大きなものだった。


「飛べ、ブラックプレシャス!」

「た、拓海さん! そんな大ジャンプじゃコースアウトしちゃうますよ!?」

「いや、ツバサ、拓海のマシンを見ろ!」


 空中を大きく飛翔したブラックプレシャスは、車体前方を下に向け、まるでコースに吸い込まれるようにコーナーセクション直前に着地した。


「こ、これはいったい!?」


 驚愕するツバサに、拓海が胸を張った。


「【マスダンパー】だ!」

「えっと、錘ってことですか?」

「そうそう」


 ブラックプレシャスはフロントに追加パーツのマスダンパー(錘)を付けて重心を前方に偏らせてあった。そのため大ジャンプ後すぐにフロントを下にした下降態勢に入ることができたのである。


「ブレーキなんか必要ない。猪突猛進。アイツにゃそれがよく似合う」

「拓海さん、さっきから思ってたんですけど、あのマシンに誰かを重ねてません?」

「なななんのことだ!?」


 わかりやすいな〜、ていうかマシンの名前からして割とそのまんまだな〜、と思うツバサの前で二台のマシンが最後のセクションに差し掛かっていた。


 コーナーを抜けた先は左右にカーブが連続するスラロームセクション。うねる川のようなそのコースを二台が並びながら駆け抜ける。

 スライドダンパー搭載のラブリーカイザーは、その機能を活かしてマシンの横ブレを最小限に抑えることでマシンの失速を抑える。

 しかしそれでもドラゴンバックの大ジャンプで追いついてきたブラックプレシャスを引き離すことはできなかった。


「こ、これはいったい!?」


 驚愕するツバサに、誠司と拓海は、


「あー、これギア比によるトップスピードの差だな」

「相楽、流石に4:1はスピード足りないんじゃないか?」

「でもスピード重視の3.5:1だと最初の急斜面で失速するしなぁ」

「間をとって3.7:1にしとくか」

「だな」


 スラロームセクションを抜け、レーンチェンジを経て二台は一周目を終了。そのまま二周、三周を走って、これにてゴール。


「品田、タイムは?」


 誠司の問いに、拓海はスマホの計測アプリを見せた。


「オレが三周で24秒53、相楽が25秒71」

「やっぱりトップスピードが足りないな。一周目はいい勝負だったけど、二周目からだんだん差を付けられた感じだったな」

「でも、思ったより差を広げることができなかったって印象でもあるな。こっちはスピード重視のせいで最初の急斜面とデジタルカーブでかなり減速したし」


 レース後の談義に花が咲く二人に、ツバサが声をかけた。


「お二人とも、横のスコアボードにタイムアタックの記録を書いておきますね」

「お、ツバサ、さんきゅ」

「こんなタイムでもトップ10ぐらいには入れたかな?」


 三人でサーキット脇に設置された手書きスコアボードに集まった。


「おめでとうございます。拓海さんが二位で、誠司さんが三位です」

「おいツバサ、おめでとうも何も、記録を書いてるのがオレたち含めて三人しか居ないじゃねーか」

「昨日サーキットのレイアウトを変えたばっかりらしいですからね」


 ちなみにツバサはまだ完走できてないので記録なし。


「おい品田、見てみろよ。一位はやっぱりDOAさんだ」

「うわ、21秒85!? まじかよ、オレたちより全然はえー」

「マシン名はえーと【レッドホットチリペッパー】……。どんなマシンなんでしょう。一度お会いしてみたいですね」


 ミニ四駆のチューンナップにレギュレーションはあれど正解は無い。速い人のマシンを見せてもらい、参考にして工夫を重ねるのもミニ四駆の楽しみ方である。


「オレもいつかこの記録をぶち抜いてDOAさんをあっと驚かせてやりたいな」

「ははは、大きく出たな、品田」

「拓海さん、記録だけじゃなく、DOAさんと直接勝負すればいいじゃないですか」


 と三人がわいわいと話し合っていた時、


「あれ、今もしかして私を呼んだ?」


 涼やかな少女の声が、風に乗って届いたかのように三人の耳に囁きかけた。


「うん、この声……薬師寺?」


 ハッとして振り返ると、そこに清楚な雰囲気を纏わせた一人の美少女が立っていた。


「こんにちは、拓海くん、ツバサくん、久しぶりだね」


 ニコリと微笑みかけるその少女の名は薬師寺さあや。ハグっとプリキュアのメンバー、キュアアンジュその人である。

 その姿を見つけ、ツバサが会釈した。


「さあやさん!? お久しぶりです。この前(オールスター映画)はお世話になりました」

「こっちこそお世話になったね。はなちゃんたちもみんなにまた会いたいって言ってたよ」

「ええ、僕もです」


 談笑する二人を前に、誠司が拓海の横腹を突っついた。


「品田、あの美人だれ?」

「薬師寺さあや。プリキュアの一人だよ」

「ああ、彼女がそうなのか。めぐみから話は聞いてたよ。すっごい美人だってな」


 その声が聴こえたのか、さあやが顔を赤らめながら苦笑を浮かべた。


「あははは、ちょっと恥ずかしいな。えっと、相楽誠司くん、だよね? 愛乃めぐみさんから聞いてるよ。いつも横で支えてくれる大切な幼馴染だって」


 大切な幼馴染、その言葉に誠司は嬉しさと哀しさが入り混じった複雑な笑みを浮かべた。


(相楽……その気持ち、オレにもよくわかるぞ……)


 拓海は幼馴染との距離感について誠司と熱く語り合いたい気分になったが、それはそれとして、


「で、薬師寺。ここで会うなんて奇遇だよな。お前はなんでこんなところに?」

「なんでって、コジマ電気に来る理由なんてミニ四駆に決まってるでしょ?」

「「「え?」」」


 暴論極まるさあやのその言葉に、男たち三人は目を点にしたのだった──


(後編に続く)

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