デッドエンドの冒険④

デッドエンドの冒険④


「にしても暗いなァ。」

「フーシャ村からちょっと離れた所にあった洞穴を思い出すね。」

 ウタ達はそんな取り留めのない会話をしながら洞窟を進む。緊張感を感じさせない2人に対し、後を着いていく仲間達は額に汗を滲ませ疲労の色を見せていた。

 時間にしては僅か数分ではあるが、海賊達が集まる場所に向かっているという事実といつ襲撃が来るか分からない恐怖がジリジリと彼らの精神を蝕んでいく。

「流石にここで襲って来る海賊は居ないでしょう。中立地達での戦闘は余程の事が無い限りご法度です。」

 そんな仲間達の様子に気付いたアマリが最高峰から声をかける。本来なら船長、副船長がやるべき事なのだろうがその2人は偶に周りが見えなくなる節がある。こういった細かい所をフォローするのは元々アマリの役割で合った。

「そうだ!歌おう!海賊は歌うんだ。」

 そんな後方のやりとりを知ってか知らずか前方を進むルフィが突然声をあげる。仲間達も削られた精神を安定させるのに歌を歌うのは賛成だった。そしてみんなで歌おうとした時に、ウタが待ったをかける。

「わたしは歌えないんだよ。それとも、わたし抜きで楽しもうってつもりじゃ無いよね。」ヒソヒソ

「なんでだよ。歌えば良いじゃねェか。あんなに歌うのが好きなんだしよ。」

「それじゃバレちゃうでしょ。」ヒソヒソ

「それもそっか。忘れてた。わりィわりィ。」

 ウタはもう既にその歌声を"海軍の歌姫の歌声"として世界経済新聞を通して世界中に届けている。今はまだ音貝に保存した歌声だけだが、来月の誕生日である10月1日には政府から配布される特注の映像電伝虫を使用した初配信まで控えている。そこで初めて顔をみんなの前に出す予定なのだ。

 そんなウタが歌でも歌おうものならば、わかる相手には歌声で海軍のスパイだとバレてしまうだろう。だからこそ自由に歌えない自分を無視して歌おうと言い出すルフィにウタは苦言を呈し、ルフィはそれになんでもないように答える。

「だったらビンクスの酒でも歌いましょうか。」

 2人の世界に入りかけた所に割り込むようにしてアマリが声をかける。海賊の歌を歌うという提案にウタは苦い顔をし、ルフィは楽しそうに目を輝かせる。それについていく仲間達は、精神的な疲れを飛ばす為に歌えるなら最早なんでも良かった。

「よーーし!じゃあ歌うぞ!ビンクスの酒!!」

「待ってルフィ。もうゴールみたい。」

 腕を大きく上げ歌おうとしたルフィをウタが止める。2人の視界の先には白色の能面が薄らと暗闇から浮き上がって居た。後方の仲間達はここまで接近するまで気付かなかった事実に警戒を上げ、ルフィは 目の前の能面から薄らと溢れ出る殺気を受け背中にかけた鉄パイプに手をかける。

「警戒しないで大丈夫。ただの門番だから。」

 そんな警戒を強める周りを宥め、ウタは1人先頭に立つとコインを2枚、能面に見せる。それを確認した能面は一切背を向ける事無くルフィ達の方を見ながら音もなく脇に移動する。それは確かに経験と実力を感じる足取りだった。

 闇の壁がめくれるように扉が開いた。能面は客人を出迎えるようにお辞儀をすし、ルフィ達はその横を通り扉の先へと入っていった。

「おっほ〜〜!なんだよ、ここは?楽しそうだぞ!」

 扉の先には、まるで岩窟都市のように円筒型に底から頂上まで何層にもフロアがくり抜かれた空間があった。全てのフロアにはテーブルが並べられていて、まさに酒盛りが行われている最中である。

 初めて見た光景にルフィは興奮を隠さず、ウタとその仲間達はこんな海賊達の隠れ家がある事に驚く。中央の吹き抜けから除けばこの空間を一望でき、そこから眺めるだけでも数え切れない量の海賊達が居た。掲げられたドクロの旗は有名所から無名まで選り取りみどりだ。

(この近辺は海賊被害が特段多い訳じゃ無いのに、なんでこんなに海賊が…)

「そこの若いの。あんたらも賭けに来たのかい?」

 思考の海に沈みかけたウタだか、直後に海賊に話しかけられた事で思考を中断し、声のする方を向く。そこに居たのは酔っ払い海賊だった。

「ちげェよ。おれたちはレースに出るんだ。なんだったっけなァ。」

「デッドエンド」

 ウタは海賊に答えようとするルフィから会話の主導権を取り上げるようにして目的の名前を口にする。

「やめとけ、やめとけ!あんなもん命がいくつあっても足らねェよ!」

 そういう海賊の目線は常にウタに向いており、声色も心配よりかは勿体無いと言ってるように感じる。そんな海賊の視線を遮るようにルフィはウタの前に立ち堂々と言う。

「おれ達の夢の為だからな!それでおれが死んだって悔いはねェよ。それよりおっちゃん。そのデッドエンド?ってのはどうすれば出られるんだ?」

 死ぬとルフィが口にすると共にウタの肩が少し跳ねる。だが、殆どの人間はそんな事など気付かずに過ごしている。

「あそこの部分。他の席と比べて豪華に出来てるだろ。あれがVIPルーム。賭けレース周りの事は全部あそこで行われる。レースへのエントリーも、レースの優勝者予想もな。」

「そうか。ありがとなおっちゃん。」

「別に良いって事よ。代わりにちょっとそ

「ウタ!レースに出る方法聞いてきたぞ!さっさく行こうぜ。」

「ちょっとルフィ!引っ張らないでよ!」

 酔っ払った海賊から情報を取ってきたルフィは満面の笑顔でウタに駆け寄って来る。それを見てウタも笑顔になる。ルフィはそのままウタの手を取り引っ張るようにして聞いた場所まで連れて行く。引っ張られる側のウタは満更でも無さそうだった。

「青春って良いですね。」

「ああ、あの2人には幸せになって貰いたいものだ。」

「バカ言ってないで行きますよ。それとも置いて行かれたいのですか。」

 ここ数日ずっと2人と生活を共にしてきた仲間達はその光景にほんわかし、そんな緩んだ空気をアマリが叱責して締め直す。ルフィと話しては酔っ払いの海賊は、言葉を遮られた挙句置いてけぼりにされ背後で進んでいたカードゲームにも置いてかれて大敗を期する結果となった。

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