デッドエンドの冒険①
「デッドエンドレース…ですか?」
「そうだ。数年に一度開かれる海賊共の馬鹿騒ぎだ。お前達にはこれに海賊として潜入してもらいたい。」
「レース!すんげー面白そうだな!!」
隣で目を輝かせながら騒ぎ出した幼馴染を拳骨で静かにさせる。今、海軍の新兵であるウタとルフィは海軍のトップである元帥の部屋に呼び出されていた。
「開催場所がわかってるならわざわざ潜入しなくても…それに、私たちは新兵ですよ?そんな大きな任務なんて…初配信の準備もありますし…」
ウタは海賊が嫌いだ。簡単に人を殺め、大切な物を壊し、奪っていく。だからこそ、智将とも言われた海軍元帥センゴクの作戦に難色を示した。ただでさえ危険な潜入任務を新兵にやらせるのも無理がある。
「気持ちはわかる。だが、今回の任務を任せられるのはお前達しかおらんのだ。」
センゴクはそう言うと2人の前に一枚の紙を置いき、2人が覗き込んだのを確認してから読み上げる。
「"元"海軍本部大佐、【将軍】ガスパーデ。特殊な超人系であるアメアメの実を食べた水飴人間だ。懸賞金は9800万ベリー。そして、我々海軍にとって最悪の汚点でもある。」
「最悪の汚点…ですか?」
「なぁなぁ、水飴ってことはよ!うめェのかな?」
「ちょっとルフィ!今大事な話してるの!それに、いくらなんでも私は大切な幼馴染が人を食べる所なんて見たく無いよ!」
「じゃあさ、この後食いに行こうぜ!水飴!久しぶりに食いたくなった!」
ゴツンッ!!
「聞いてるのか?」
「「はい…ごめんなさい…」」
ついつい言い合いに発展した2人をセンゴクは拳骨を振り下ろす事で止める。怒られながらヒソヒソと言い合いを続ける2人を見てセンゴクは頭痛を感じながら話を続けた。
「とにかく、これまで滅多に尻尾を掴ませなかったこの男が、今回のデットエンドレースに参加するとの噂を入手した。狡猾な男だ。顔が知れ渡ってる海兵が潜入しても警戒されて逃げられるのが目に見えている。」
「だから顔が知られてない新兵で実力が認められてる私たちに潜入を…ってことですか?」
センゴクの説明を聞きウタは納得する。ルフィとウタは同期の中でも頭1つ2つ抜けてると自負出来るぐらいに強かった。そのガスパーデがどれほどの相手かは分からないが、センゴクがこれ程までに警戒し、海軍最大の汚点と言われながら今まで捕まってないのを見るに余程危険な相手なのだろう。
「だが、何も危険をおかしてまで捕まえる必要はない。ガスパーデとデッドエンドレースの情報をこっちに流せば、後は近くのナバロン要塞に待機している中将が捕まえに行く。いいか?くれぐれも無茶はするなよ?」
入隊時から問題を多く起こしてるルフィの方を強く睨みながらセンゴクは釘を刺す。
「了解しました。」
「わかったよ。センゴクのおっちゃん。」
「センゴク元帥と呼べ…お前達の部下の振りをする海兵達も既に選んである。今から軍港に行き、彼らと合流して当日の作戦を立ててくれ。」
センゴクが敬礼して部屋を出て行く2人を見送ると、同室でずっと話を聞いていた男が話しかけてくる。
「本当によかったんですか?ルフィの奴、絶対大人しく潜伏できるタイプじゃないでしょ。」
「ああ、あの一族の破天荒さは身に染みているよ。だからウタを抑え役に付けたのだ。彼女と一緒にいる時は問題の発生件数が半分以下になる。」
アイマスクを付け、ソファーに寝転んで居た青雉は心配半分でセンゴクに話しかける。ウタとルフィは若くして海軍に入隊し、日に日にその頭角を現していった。既にその実力は新兵の域に収まらない事もあり、最近では暇な中将が個人的に稽古を付けているほどである。破天荒ではあるが素直な2人は、海軍上層部の多くが可愛がっていた。この男はその筆頭である。
「その分一回問題起こした時の規模が大きくなりますけどね。流石に将軍の相手は難しいのでは?」
その声色に普段の気怠げな様子はなく、本気で2人の心配をしているのが見てとれた。だが、2人の心配をしているのはセンゴクもだ。センゴク自身もかつて息子のように思っていた男を潜入任務で失っている。だからこそ、今回が最大のチャンスだとしてもあの2人を向かわせたくなかった。
「ルフィ?あんた今回の任務の内容理解してる?」
「わかってるって。取り敢えずレースに出て、優勝すれば良いんだろ?」
「全くわかってない!いい?私たちは真面目にレースをしなくてもいいの。レースにさえ出場して、それで終わり。あとは先輩達に任せればいいの。」
「けどよ〜、せっかく出るからには優勝してェじゃねェか。」
そこに先程部屋を出て行った2人の話し声が聞こえる。ここまで聴こえると言う事は相当大きな声で言い合っているのだろう。その会話を聞きながら、元帥室の2人は頭を抱えた。