デスピアンフェリジット
まず目に入ったのは、暗い石の天井。
空気が淀んでいる。すえた匂い。カビの匂い。そして、女と男の匂い。
横にフェリジットの気配を感じた。しかし、どうしてかそちらを見ることができない。変わりに声をかけた。
反応はない。身体は動く。思い切って横を見た。
シュライグから少し離れた石の床に、フェリジットは全裸で横たわっていた。バンザイの姿勢で、股は大きく広げられ膝を立てている。最後の体位がそのまま残っているようだ。口からは細く唾液を溢し、ぼんやりと開いた瞳からはなんの感情も感じられない。
秘部からは血と、精液が流れ出ていた。
状況確認のためにそれを少しだけ見たシュライグは目をそらし、無言で上着を脱いでフェリジットにそれをかけてやった。
ここは檻の中。フェリジットと共にデスピアに捕らえられたようだ。ふたりとも拘束はされていない。
フェリジットを人質に取られ、自分は攻撃を躊躇った。結果このザマだ。皆無事だろうか。フェリジットを連れて一刻も早く脱出しなくては。
鉄格子に手をかけてみる。思い切り力を入れるがビクともしない。高く、天井近くの壁に排気口が見えたが、あの大きさはシュライグでは入れなさそうだ。そもそも義翼は外されている。フェリジットと協力すれば届くだろうが、通れるかどうかは賭けだった。
再びフェリジットの元に戻る。生きてはいるが、表情は相変わらずだ。姿勢だけでも直してやろうと手を触れた時、天井を見つめていた瞳がこちらを向いた。
「…シュライグ」
「フェリジット…気がついたか」
「私、犯されちゃった」
「…そうらしい」
「痛かったのよ。苦しかった。シュライグがのんびり寝ている横で」
「すまない」
「あんなに大声出したのに。気が付かないんだから」
「すまない…」
「ねえ見て。私、こんなになっちゃったの」
フェリジットは下半身にかかっていた布を捲り上げた。
「…さっき、確認はした。もう見てしまったんだ。本当にすまない…」
「見てよ。ねえ」
顔をそらし、目を閉じたシュライグに執拗に迫る。観念したシュライグは「…わかった」と再びフェリジットを見た。
そして、その表情は凍りついた。
変わらず広げられた彼女の股、その奥から何本もの赤黒い触手が這い出ている。ミミズかヒルを想起させるソレらは既にシュライグの間近に迫り――脚を、そして這い上がって胴体、腕に絡みついた。細いにも関わらず、大蛇の如き力でシュライグを締め付けてくる。一瞬にして拘束され、受け身もままならずシュライグは仰向けに倒れた。
「ふふ、ふ、ふふふ」
緩慢にフェリジットは立ち上がる。シュライグの上着がパサリと床に落ちた。触手は彼女から離れ、あるものは鉄格子に絡みつき、あるものは床に根を張った。――シュライグを締め付けたまま。出涸らしのように短い触手がフェリジットの腟からぼとりと落ちる。それはしばらくのたうち、黒ずんで動かなくなった。
「そんな!シュライグ!捕まっちゃうなんて!信じてたのに!」
フェリジットの声で彼女は仰々しく言った。ショックだわ!とわざとらしく大袈裟な表情を作り、泣き真似をして両手で顔を覆う。
「……ふひっ」
体をくの字に曲げ、彼女は震えた。顔を隠しているが、笑っているのは明らかだった。
「ぶふっ、ふ、ふふ、あはっ、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
笑う。笑う。
彼女の声で。彼女の顔で。
顔を隠すこともしない。剥き出しの体をのけ反らせ、その目には涙さえ滲ませて。――それが赤く黒く変色するのを、シュライグはただ黙って見つめていた。
左目からこぼれたそれは地面に落ちることはなく、彼女の顔、その左半分を塗りつぶしていく。瞼の周囲に黒く滲み、目の上下を貫くような線を引き、唇を真っ赤に染めた。
「このメイクね、デスピアン様に教えていただいたの。似合う?似合うかしら?前よりずっといいわよね?」
シュライグの胸に手を乗せ、馬乗りになったフェリジットがずいと顔を近づけてくる。濃い女の匂いだ。いつも彼女から薫る、花の香りも微かに感じられた。間違いなくフェリジットのものだ。
「フェリジット、正気に戻れ」
「ほら見て。この体も。たくさんたくさん躾けていただいたの」
フェリジットの体を撫でるように触手が這い上がっていく。細い腰に纏わりつき、豊満な乳房をぐにゃりと歪ませる。その頂を絞るように巻き付かれ、彼女は「あっ…」と声を漏らした。そして腰を見せつけるように突き出してくる。秘部を割り開いて潜り込む触手。何本も何本も。下腹部が、内側からぼこりと蠢くのが見えた。
「あ"っは…。あんっ…」
触手に犯され、シュライグの上でフェリジットは体をくねらせる。ぐちゅ、ぐちゅと淫らに音を立てながら。
「シュライグぅ…、ほら、すごいのぉ…。お褒めいただいたのよ、私、名器だって…。んはっ、ぁ…。いい、でしょ?うらやまし、ひんっ、でしょ?ア"っ…やっだ、きもちい、おかしくなっちゃっ…」
「……」
シュライグの体は動かない。すぐにでも彼女を犯す触手を引き千切りたかったが、それが叶わない今、黙って目を逸らすしかなかった。
「うぎ、ぃ、うゥ゛っ、…あっ、ごべんなさっ、ちんぽ、ほしいっ、ハヘっ、へ、ちんぽっ、くだしゃっ、んぁ゛ッッ」
外から内からフェリジットの上を蠢くだけだった触手は、いつしか本物の雄のように律動しながら彼女を激しく貫いていた。視界の端に、ぶるんぶるんと豊かな胸が揺れるのが見える。シュライグは目を閉じた。
「おぉ゛ッ、 オっ、お、ォ"……っ!みてぇっ、ひゅライグ、み"てよお!フェリジットがはしたなくイクとこっ…! ォ"あ、も、イ…………っ、 、 ………っっ ………」
フェリジットが体を震わせているのがわかる。腹、胸に柔らかく温かい感触。力の抜けたフェリジットが倒れ込んで来たようだ。続いて股間に手を添えられる。
「みて、くれなかった」
フェリジットが首筋で囁く。まだ荒い息がシュライグの首を擽った。
「なんでたたないの」
「フェリジット、やめろ」
股間を揉みしだかれたらたまらない。目を開け、その白い手から逃れようともがくが、張り巡らされた根がそれを許さない。
「わたしそんなに魅力ないんだ」
「正気に戻れ。ここから逃げるぞ」
「わたしからにげるんだ」
「フェリジット!」
「にがさないから」
服の下に潜り込んでくる触手、そのぬらりとした感触にシュライグは総毛立った。ズボンが張り詰め、特殊素材でできた筈のそれは呆気なく破かれる。
曝け出されたモノに触手がまとわり付いてくる。ヒルのような質感なのに、生暖かい。それが余計に気持ち悪かった。シュライグの性器にへばり付いた触手は縮み上がり、絞り出されるように粘液を出す。そうしてぬらついた男根を白魚のようなフェリジットの手が包み――扱き、亀頭をつつきだした。
「………っ」
「あれ?あれあれ?シュライグぅ、これなあに?」
持ち主の意志に反し、シュライグの一物が勃ち上がる。裏筋をツツ、となぞられると背筋がゾクりと震えてしまう。ぬちゃぬちゃと音を立てながら扱かれ、カリをひっかかるように刺激され、「―――ぅ、」と息が漏れた。
「……やめろ、フェリジット。やめてくれ」
「んん?やめろ?やめていいの?じゃあなんで勃起してんのぉ♡?なに?このちんぽ?ねえ♡」
フェリジットはそう言いながら向きを変えた。所謂69の体位になる。
「ほーら♡見て見て、シュライグ。ちょっと前まであんたの横でたっぷり腟内射精していただいてたメス猫性奴隷の使用済みおマンコですよ〜♡」
シュライグの眼前に来たソコは黒く、引き裂かれたように拡げられていた。精液と血と、濃い女の匂い。
「ここに挿れたいの?ダメダメぇ♡、ここはデスピアン様専用なんだからね〜♡せっかく勃ったのにねえ♡コレどうしよっか?」
つん、つんと蛇のように舌を鈴口につけてくる。舌舐めずりをする気配。
「私ね、あんたのこと、好きにしていいって言われてるの。犯しても殺しても…食べちゃってもね」
「やめ…っ」
静止も虚しく、シュライグの怒張にフェリジットはむしゃぶりついた。じゅるっ、じゅぶぶ、と激しく水音を立て、竿が、カリが、亀頭が絡みつく舌に撫で回される。
「ん…ぷはっ♡なにこれくっさ…♡獣臭するじゃん♡デスピアン様の見習いなよケダモノ♡」
ぢゅうぅぅぅっ♡と激しく吸われ、シュライグは固く口を閉じて声を殺す。目の前の蜜壺からたら、と愛液が溢れた。ぐっしょり濡れ、物欲しそうにヒクつくソコから顔を背けたシュライグは、先程からその周りをちらつくものに意識を移した。
「んぶっ♡ちゅっ、じゅるるる…っ♡ は、どう?シュライグ♡はしたない汁でてるよぉ♡メス奴隷にしゃぶられ…っ!?」
ガリ、と尻尾に歯を立てられたフェリジットの動きが止まる。ゆっくりと振り向いたその顔に表情はなく、口の周りを濡らした唾液を拭うこともしない。
「やめるんだフェリジット。こんなこと、お前も望んでいないだろう」
「……………なに?あんた」
金の瞳に冷たい光が宿った。フェリジットはゆらりと立ち上がり、四つん這いの姿勢でシュライグに迫る。
「私は玩具なの。デスピアン様に喜んでいただくための肉奴隷。あんただってそう。ここで面白可笑しく遊んで遊ばれていればいいの。どういうわけかあんた変われなかったみたいだけどね」
にち、と音がした。フェリジットがそのまま腰をゆっくり下ろしたのだ。黒ずんだ花弁がシュライグの先端を咥える。が、それ以上奥に入れることもなく、にちゅにちゅと亀頭を喰むだけだ。
「………フェリジット」
「気が変わったわ。私と交尾させてあげる。その薄っぺらい理性引っ剥がして、私達は所詮は獣なんだって思い出させてあげる」
そして、熱く蠢く肉に沈んていく。
シュライグのペニスがフェリジットの腟肉を割っていく。
「私のこと見下してんでしょ。汚いと思ってんでしょ。馬鹿にして!あんたも堕ちなさい!なんにもかんがえられなくなって、一緒に遊びましょうよ…っ」
「違う!フェリジット、俺は…!」
為す術もない。フェリジットに呑み込まれ、シュライグのソレは一層熱を帯びた。