デイビット・ゼム・ヴォイドは魔法少年ではない

デイビット・ゼム・ヴォイドは魔法少年ではない


(注意)

・テスカトリポカ×デイビット(FGO)として書いた。

・モブ視点部分が長い。

・あるべき説明が少ない。

・魔法少女(少年)性への苦情は受け付けない。お前の魔法少年デイビットくんで対抗しろ。






以下本編






神、悪魔、妖精、幽霊エトセトラ。

この地球にかつて多く存在した強大な不可思議存在。

それらは滅び、去り、消え、忘れられ、それでも失われてはいない。


ある地方都市はかなり以前からそういったオカルトの集積地であり、各々の目的を持ち多くの組織が介入を続けた結果抗争が日常となっていた。それがある日を境に暴力集団は一掃され表向きは平和となった歴史を持つ。

10年以上前にそんなこともあったんだよという噂程度の話としてだが、住人はそれを天使のおかげと信じていた。




私は一か月ほどこの街に潜入していた、ある企業に忠誠を誓う魔術師の末裔である。

渡された情報には平和な地方都市と書かれていたが、実際は日々どこかでオカルト的なトラブルが起きているとんでもない土地。

それを除外しても敵対組織エージェントとの衝突、新興宗教内部抗争の流れ弾、同志が雲隠れ等安息のない毎日であった。

しかしついにそれらとお別れの時がやってきた。今夜、社の特殊部隊が闇夜に紛れやってくる。

目的は聖骸片の回収。私は案内人の一人として道中で合流しそのまま街をはなれるのだ。



さすが同志たちのなかでも精鋭の実働エリート部隊、規律のとれた行動、ゆるぎのない精神、装備品どれも一流であった。

帰路は別の調査員に先導を任せ、行軍へ後方から加わる。さすがに殿は任せてもらえない。

いろんなことがあったけれどいいことで終われるならここも良い街と思えた……そんな気がした瞬間。


「隊長、前方に何か……」

「総員停止」


歩みが止まる。前方とぶつかることは避けられた。

私は身を横へ傾け、進行方向に発生しただろうトラブルの兆しを確認する。


小さな人影が外灯の点滅に照らされながらこちらを向いて立っている。

くすんだ金髪、紫の虹彩、白一色の服、そこまでならただ可愛らしい10歳程度の少年と言えただろうが頭の上には輪が浮かび、背には純白の翼を携えていた。

なにより我々を目前にしても全く動じた様子のない表情。

確かな障害、明らかな異常としてそこにいた。


「いいだろうか」


少年が口を開き、感情の乗っていないアルトボイスが耳に届く。


「アラボクコンバンワ?」

「おい!気を抜くな!ガキだろうがこんな夜中に、しかもここで話しかけてくるやつがまともなわけないだろうが」

「油断をするな。お前は……魔法少年か?目的は?」


魔法少女あるいは少年。なにかとの契約のもと奇跡を発現させる成人前の個体。

未だ定義付けの難しい最新の秘密に特徴は近いと思えた。


「オカルトを持ち出そうとしているだろう。それは善くないことだ、盗難であればなおさら。それらをオレに渡して街から出るなら今回は見逃すが。どうする?」


ふと思い出したのは少年と似た雰囲気のこの街にいる青年の姿。

優秀なのだろう、善良なのだろう、しかしいつも何かに操作されているように思えて気味が悪く私は遠くから見ていた。

名前はデイビット、研究所をひとりで管理する職員。

兄弟はともかく彼に年の離れた弟がいるという話は聞かなかったが……?


「受け入れると思うか?お前さんがなにも見なかったことにして帰ればいい」


部隊長の命令を受けた隊員が少年に銃を放つ。

あてるつもりのない威嚇射撃。無表情のままだがその殺傷力は十二分に身に染みたはずだ。


「次は当てる。ハナシアイの余地など初めからない」

「そうだな……では、■■を■■■る」


背後から醜い悲鳴と破裂音

振り返れば殿にいた同志は大型の蛇にでも締め上げられたような形で既に事切れていた。

目くらましのために強力な照明でも使ったのだろうか?少年から我々に向けて明かりが射し

声、先導がナイフで隊員を切ったと

それから

各々武器を・・いや、なにかはしているが間違いなく少年の排除には向かわないだろう予感

踊る影が伸びる


私は殿だったそれの横を通り過ぎ、目に入った路地裏に進路を変え、行先も決められないまま走り逃げ続けた。


どうして魔法少年だと思ってしまったんだろう

あれはまったく違う、おそろしいもの

みんな言っていたじゃないか10年も前の噂話だと

かつてこの街であらくれ者たちを殺し狂わせた「天使」!


「この街は……最悪だ……!」



憎らしいことに土地勘は向こうの方があったようだ。加えて路地裏に追い詰められる道中で触手に吹き飛ばされ脚を掴まれ転ばされ、私の身体は酷い有様になっていた。もう立ち上がることも難しい。


天使が見下ろしている。光輪のせいで逆光だから見えないけれどいつもどおりに何の表情もしていないだろう彼が。


「どうして、にがしてくれないんだ……聖骸、は、あの場所にあったはず。わ、私は何も持って、いない……ないのに……」

「オレの目的は初めから変わっていない。オカルトの回収だ、盗難されたものも、脱走しようとしたものも」


そういって天使は私の頸椎に手を伸ばす。


触れるな、触れるな、はがさないで!

いやだいやだいやだ、ひさしぶりにはいれたおおきくて温かいばしょなのに!また閉じ込められる!


「捕まりたくないから逃げる。あの場でそれができることこそが証明だ、他の人たちを見ていないから気がつかなかったんだね?」




誰も見てはならぬ、天使の頭上に浮遊する輪を。その輝きを。

それは心を焼き精神を漂白するまごうことなき侵略兵器。

目視してそれでも何かを内に抱けるものが存在するなら、それは神に愛されたか、すでに別の存在に侵された成れの果てかである。



摘出した■■■■は処理し腰につけたポーチへ収納。

残った死体は開いた宙に沈ませ……そこで気がついた。

今回、遺物は呼んだ記憶がない。

どうして疑問に思わなかった?

動揺、思考の停滞、血の気が引く感覚。

そんなことは知らないというように遺物たちは緩慢と狩りのようにオレを取り囲み、粘液の滴る触手を巻き付け――


「なにをしている」


夜の風が吹いた。

飛来してきたテぺヨロトル、黒きジャガーの戦士が着地とともに遺物のほとんどを吹き飛ばし、残りも抵抗さえさせないまま黒曜石の脚で潰すか爪で切断していく。

最後にオレを背後から拘束していた触手を無造作に掴んだそのまま握り潰す。先端は地面に向かいながら、根本は硬直し無音で空気に溶けていった。

路地裏の突き当りにはオレと戦士、それから破壊の跡しかいない。

「闘争はどうした。呼んだわけでもないだろうあれらに蹂躙されたくなったのか?違うだろう?」

冷たい声だった、しかしテぺヨロトルの瞳は爛々としている。獣が狩りで身を隠し、獲物の隙を待つ姿にも似ていた。

情けない姿を見せたことで怒らせてしまっただろうか。

「呼び込んだ事に変わりない以上無抵抗で終わらせた方が効率的だ、抵抗したぶんあれらが要求する時間は長くなる。次はああはさせない」

呆れたような溜息。どうも戦闘の意思はないらしい。

「わかっていないのかこれは……見ろ」

魔力で生成した鏡の前に立たされた。

映っているのは覚えている天使としての姿、ではない。

「……布が増えてる」

頭にレースの装飾品。

薄く柔らかく光沢のある布が重なった服。

白いリボンのついたパンプス。

視線を落とせば自分が同じものを装着している事実が確かにある。

「向こう側からまた好き勝手されてるぞ、お前」

「うん、そうだね。言われるまで服だって……」

変化している間の干渉が強まったのはごく最近、だってテぺヨロトルも今までこれを見たことがないのだから。

見た目まで変わることははじめてだが起こってしまった以上何らかの対策が必要だ。機能を使った結果あれらに支配されるのでは意味がない。




ジューンブライド。6月の花嫁、その月に結婚式を行うと生涯幸せな結婚生活を送れるという西洋に古くからある言い伝え。

別の世界で言う霊基再臨に近い更新がなされた天使は、純潔である。無垢である。穢されない存在である。そういった概念の強化をウエディングドレスの形で表出させている。

146億光年も向こう、人類の知覚できぬ存在がどの程度地球文化を把握しているかは不明だが天使が己の所有物であるという強い主張は疑う余地がない。

男の内心は怒りに打ち震え、今この時青年を外宇宙から優しく奪うことに決めた。




「デイビット」

静かに呼びかけられたその音に動揺した隙を突かれ右の前腕に座る形で抱え上げられた。普段と同じ位置にアイスブルーの双眸がある。

「……呼び方」

「ん?ああそうだな、相手が戦の姿であるならばそれに相応しい名で呼ぶべきと教えたのはオレだ。だが今は忘れろ」

つまり、自分にもそのようにしろと。いつもの気まぐれにしては少し頑なな気がする。

今夜はどうしたんだろう。

「…………テスカトリポカ」

「おう」

「降ろしてくれ」

「ハハハ!普段のお前ならとっくに足も手も出てる所だがね。いや、そもそも捕まえさせないか?全てが鈍っている。さすがに不安定か」

目の前の男は愉快そうに笑う。

そう。どんな姿でもテスカトリポカに抱えられて大人しく彼に身をゆだねていることはない、なかったはずだ。

空いている左手がオレの右手を撫でそのまま緩く繋がれる。

「お前の望みを叶えよう兄弟」

「オレの望み?」

「自分が人間であるという証明のため善いことをする、そのための方法。対価は……まあ問題ないとテスカトリポカ思うワケ」

「そんな説明では頷けない、確かに得たいが詐欺師からセールスをされている気分だ」

「わかったわかったしっかり者で偉い。今からオレが言うこと覚えておけよ」

「覚えなかったら?」

「泣くぞ」

「そこまでいくとちょっと嫌だな、忘れないようなものを頼むよ」

右の甲に柔く温かなものが触れる。

テスカトリポカはしばし無言になり……オレの目を真っ直ぐ見て言葉を告げた。


「オレと契約して魔法少年になれ、デイビット・ゼム・ヴォイド」



【デイビット・ゼム・ヴォイドは魔法少年ではない】終






「魔法少年デイビットくん」に「プロポーズの日」というワードが影響され今回この形になりました。

ありがとうスレ民、ありがとうイマジナリー逆噴射トリポカ。

ありがとうここまで読んでくれた人。






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