ディープインパクト

ディープインパクト

大切な友達を大好きな人と重ねてしまったことは?

青鹿毛の美しい髪も、受話器のような流星も、パッと見たあの子にあの人を感じさせるものはない。

でも、知れば知るほどあの子は似ている。

スッとしたシャープな線の肉体、その内側に眠る軽やかながら強烈な炎。

飛ぶような軽快な走りもそっくりといっていい。

小さいというのは逆にその走法とマッチしており、軽いのに使える筋肉が多いというのは故障のリスクとスピードを両立させられるということだ。

だが、やっぱり違う。ディープインパクトとコントレイルは別の存在だ。

・・・だから、今ぼくが抱いている感情も、本来この世のものではない。

大好き、大好き、大好き。基本人に懐けないぼくが、なぜか好意を抱けた人。

基本人を愛する人が、なぜか嫌ったぼく。

垂らされた糸を引きちぎられた感覚だった。しばらく何をやっても手につかず、自分の面倒くささを改めて自覚した。

そんなある日、コンちゃんに出会った。そしてすぐに絡んだ。

初めのうちは何故なのか分からなかった。だがコンちゃんを知れば知るほど、自分はコントレイルにディープインパクトを重ねていたことに気づいた。

・・・最悪の気分だった。その日は不思議とキズナの奴なんかも喧嘩すら吹っ掛けてこず、何もできなかったので早退して部屋で寝ることにした。

目が覚めると、不思議と部屋から柔らかなにおいが漂っていることに気が付いた。記憶の奥底で大切に封をされていた、あの思い出を感じさせる匂いだった。

「かあさん・・・?」

重たい瞼がゆっくり開く。まるでだれかが押し上げてくれているみたいに。

「・・・僕ですよ、エピさん。キズナ先輩から聞きました。どうしたんですか?」

なんでキズナの奴が?コンちゃん自分の勉強は?聞きたいことはいっぱいあった。

それでもぼくの口をついたのは、ひねりのない感謝の言葉だった。

「ありがとう・・・」

思っていたより疲れていたらしい。声がどもってしまっている。けどコンちゃんにはなんとか届いたようで、にこやかに笑いかけながら

「気にしなくていいですよ。そんなことよりおかゆとスポドリです。汗もすごいし、いったんエネルギーがいるんじゃないかなって。」

汗?そう言われると、とたんに気になりだす。パジャマに着替える余裕すらなかったのか。制服が寝汗でぐちょぐちょになってしまっていた。こういう時人は取り留めもない思考になっているのが常で、「クリーニングめんどくさいタイプなのにな・・・」なんてしょうもない考えに思考が支配される。それでも目はせわしなく注目するものを変え、世界の変化を認識しようとしていた。すると、寝る前はなかった水桶とタオルが目についた。

「コンちゃん、これは?」

「ああ、寝汗があまりにもひどいのでいったん拭きました。流石に体は拭いてないですけど、拭けるところは拭きましたよ。」

・・・言葉も出なかった。コントレイルのことをディープインパクトの代用品としてみていたぼくに対して・・・それでなくともいろんな人に嫌われてるぼくにこんな優しくしてくれる子なんて、多分世界中探したってコンちゃんだけだ。

「・・・ありがとう、コンちゃん。本当に・・・本当にありがとう。」

「そんな大したことはやってないですよ。・・・そうだ、ほら、あーん。」

コンちゃんはおかゆをひとすくいしてぼくの口に・・・あーんをしてくれた。

普段のぼくならびっくりして固まっちゃっただろう。だが、今のぼくは冷静ではない。コンちゃんも多分そうだろう。二人とも冷静でないのなら・・・

ぱくっ

「あっつ!」

「え?!あっごめんなさい!ふーふーするの忘れてた!」



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