ティーモリ(黒モリ)

ティーモリ(黒モリ)


ダイスに脳を焼かれました。誰か助けてください。




「クソッ……!」


多勢に無勢だった、仕方がないと誰もが思っただろう。

モリア本人を除いて。


相手は今や押しも押されぬ四皇、あの怪物カイドウ、ビッグマムに勝るとも劣らない”悪名”の持ち主だ。

その本拠地に単身乗り込み、黒ひげ本人に加え巨漢船長数人を相手取ったのだから。

散々に暴れ回って五体満足に、地べたへ這いつくばっていられる事すら強さの証。


「そう睨むなよ、傷つくじゃねぇか」


手下に海楼石を準備させながら、広い手を踏みつけてティーチは白いうなじの、耳元へ顔を寄せた。


「俺はお前に惚れてんだぜ?」

「……は?」


言葉の響きを理解するのに数秒かかり、その意味を理解するのにさらに数秒の時がかかった。

運ばれてきた海楼石の鎖を振り払おうと、とっさにあげようとした手が更にきつく踏みつけられる。


「足の一本でも斬っとくか」

「よせシリュウ! お前こいつを傷モノにする気か?」


言い合いをどこか遠く聞きながら、ぐらりと強烈な眠気に似た虚脱感がモリアを襲う。

ただでさえ傷の重い体では、最早這う気力すらなかった。

そのはずなのになおも藻掻こうとする彼を、ティーチは心底嬉しそうに眺めている。


それでこそ、とでもいうように。

あるいは長い間、お預けを食らっていたオモチャがようやく手に入り、嬉しくてたまらない子供のように。


「まさか、本気か?」


きれぎれに何とか息を吐く。

否定して欲しい、とどこかでモリアは祈った。

“彼”が死んだ理由に、最悪のものがつけたされそうで。


「本気も本気、大真面目さ! 愛してるぜ、ゲッコー・モリア」

「殺したあいつがお前の部下だと知った時は、こりゃあ運命だと浮かれたもんだ!」


声にならない怒号を上げ、海楼石の鎖すら引きちぎらんばかりに全身が暴れる。

必死に鎖を掴んでいた部下が手を離すより、ティーチが再びモリアを打ち倒す方が早かった。


「勘弁してくれよ、俺にそういう趣味はねェ。まあ、お前がそうなら勿論付き合うが……」

「ティーチ!!てめェ!!この、クソッ!!」

「ゼハハハハ! そんなに大声出さなくても聞こえてるさ、ハニー」


最早脳みそが焼き切れてしまったかのようで、怒りすら言葉にならない。

そもそも、ティーチに向けられたものなのか、それとも自分に向けられたものなのか、それすらモリアには分からなかった。


「こりゃあ失恋ってやつか?」

「どこからどう見ても」


やけに寂しそうな声で意見を求められ、シリュウは首をすくめた。

2年もの間ついてきた”提督”だが、「やっぱりイカれてやがる」と小さく零す。


「そうか残念だ……まあフラれちまったもんはしょうがねェ。おい、連れてけ」

「はい!」


尚も暴れようとするモリアだったが、今度こそ指の一本も動かせなかった。

数人がかりで運ばれながら、なおもティーチを睨む。

殺してやる、と声にはしなかった。

わざわざ声にするまでもない、そのぐらいはっきりと決めたことだった。


殺してやる。


「どうする気だ? 提督」

「時間はたっぷりあるんだ、気長に口説くさ」


いつになく上機嫌な彼の背中を見送る。

ほんの少しだけ、シリュウは同情を覚えた。


「運が悪かったな、ゲッコー・モリア」


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