チョーカーと厄介オタク
「………」
いつもはしないんだけど、今日に限ってエゴサなんてしたからこんなものを見てしまった。
玲王のせいだ、玲王がたまにはお前もエゴサしてみろって言うからめんどくさいのにわざわざやったんだ。
少し気になってしまってこのポストをしたアカウントを覗いてしまった。内容は至って普通で、普段はユッキーのファンとしてつぶやいたりいいねしたりしているようだ。
一番新しい投稿はフォローとリポストでコスメが当たる抽選だった。まぁ、鍵アカウントだと応募要項を満たさないから一時的に公開にしているだけで、まさかエゴサに引っかかるなんて思いもよらなかったんだろう。
そんなことはどうでもいい。いつも付けているので気づかなかったが、確かにだいぶ前にあげたチョーカーは綻んでいるように思う。
ふー、とでかいため息を吐いた。やっぱりエゴサなんてするもんじゃないな。
「ユッキー、」
「?」
振り返って名前を呼ぶと、外を見ていたユッキーは俺の呼びかけに対応して首を傾げた。「なに?」と言いたげ。
「そのチョーカーもう新しくしない?」
首元を指差して言う。よく見ると、思っていたより俺の名前の刺繍がほつれていた。
しかし、ユッキーはそんな俺の言葉にほんの少し顔をきゅっと萎れさせる。
「これがいい…」
ふるふる首を横に振る。柔らかな髪が揺れて、綺麗な目元が一瞬見えなくなった。
次その目と合わせたとき、僅かに潤んでいた。俺はさすがにギョッとする。まさかモデルの現場でも何か言われたのだろうか。
「でももう結構長くつけてるしさ、新品にしない?」
また緩慢に首を振って、俺の名前が入っているところをぎゅっと握った。そうしたらもう俺は何にも言えなくなってしまった。
ユッキーはベッドサイドで腰掛けていたが、段々と萎れてきてベッドの上でねこのごめん寝のようになってしまった。
「うぅ〜…」
ぺしょぺしょと声も出さずに涙を流していて、俺はさらに焦る。
「わーごめんねユッキー、これがいいよね、ね、」
慌てて駆け寄ってその背中を優しく撫でていると、ユッキーはそのうち落ち着いたのか、鼻を啜ってふうふう呼吸していた。
「な、ぎくんが…くれっ、たから…、これ、がい、いの…!」
まだ声がひきつっていたが、充分聞き取れた。ユッキーはいつもこんなに感情を露わにしない。美味しいものとか暖かい光に目を細める程度だ。
あんまり泣いたら水分不足で枯れるんじゃないかと思って、早く泣き止んで欲しくてひたすら背中を撫でていた。
それからまだ途切れ途切れになりながらに声を紡ぐユッキーの話を一生懸命聞いた。
ファンからものすごく高いブランド物のチョーカーがいくつか送られてくること。モデルの現場でカメラマンにいつものチョーカーを笑われたこと。それでもこれを変えたくないこと。
どれも初めて聞くことばかりで驚いた。元よりユッキーも俺も、普段の話なんてちっともしないので当然といえば当然である。
「俺はユッキーが欲しかったら新しいのにしようと思っただけで、それがいいなら全然そのままでいていいよ」
なるべくきちんと伝わるように言葉を選んだつもりだが、あまり自信はない。
ただユッキーが泣き止んでくれたのでよかった。それから、俺がなんとなくその首元に手を伸ばすと、朝一番の綺麗な光を浴びたときと同じ顔をした。