チョコで芽生えた絆とともに

チョコで芽生えた絆とともに

 

「よ~し!やりましょうトップロードさん!気持ちを全部乗せた特別なチョコを作るために!」 


「は、はい……」


 体育館にあたし――キタサンブラックの気合が入れた声が響き渡る。

 何といっても今日はバレンタイン。感謝の気持ちを伝え合うことの出来る日。

 そんな日に、あたしはあるヒトと一緒にチョコを作ることになった。そのヒトはさっき一緒に声を出していたナリタトップロードさん。オペラオーさんと同じ世代の偉大な先輩で、あたしと同じ長距離が得意なウマ娘だ。

 共通点はあるけれど関わりで言えばそんなに多くはないあたし達。そんなあたし達が何故一緒にいるのか?簡単に言えばトップロードさんが困っている様子だったからだ。


 ダイヤちゃんにしっかりとチョコは渡したほうがいいと言われた後のこと。あたしは準備のために体育館へ歩いていると、何か悩んでいる様子のヒトがいるのに気づいた。

 これはお助けキタちゃんの出番かな?すぐにそのヒトの元に駆け寄り、声をかけることにした。


「こんにちは!何かお困りですか?」


「あっ……こんにちは……。そう……ですね……。困っているといえば困っています……」


「あたしで良ければ話を聞きますよ!任せて下さい!えっと……確か貴方は……」


「ナリタトップロードです……。貴方は……キタサンブラックちゃんですよね?色んなヒトをお手伝いしている噂は聞いたことがあります」


「はい!キタサンブラックです!キタちゃんで大丈夫ですよ!そっか……あたしのこと噂になっているんだ……なんだか嬉しいな……」


 胸にジ~ンとしたものを感じてしまい、拳を握りしめながら言葉を噛み締める。色んなヒトに知られるのはやっぱり嬉しくて、そんなつもりではなくても知ってもらえるのはありがたいことなのだ。

 って、いやいや!そうじゃないでしょあたし!そんなことは置いておいて、今はトップロードさんの悩みを解決しなきゃ!

 そう思い、気合いを入れ直して改めてトップロードさんを見てみる。あれ?なんだかさっきまでの困り顔と違って、ちょっとニコニコしてるような?


「トップロードさん?なんで笑っているんですか?」


「いえ……表情がコロコロと変わって、可愛らしいなと思っていたんです。その……気を悪くしたならごめんなさい……」


「そ、そんな!謝らないで下さい!なんでかなと疑問に思っただけなので!」


「それなら良かったです。嫌な思いをさせていたら申し訳ないですから」


 あたしの言葉で勘違いさせてしまい、悲しそうな顔になってしまうトップロードさん。何とか誤解であると伝えると安心してくれたみたいだ。

 何というか……凄い真面目なヒトなんだねトップロードさん……。あたしも真っ直ぐな方ではあるけど、ここまでじゃない……気がする。この真面目さなら、沢山大変なことに巻き込まれてるんだろうな。

 そんな風に思いつつも、本題に戻ることにした。


「誤解させてしまい本当にごめんなさい!改めて何ですけど、何を悩んでいたんですか?」


「そうですね……。キタちゃんの言葉に甘えて話してもいいかな。実はね……」


 そうして話してくれたことは、あたしにも大いに関係あることだった。

 どうやらトップロードさんは、トップロードさんのトレーナーさんに渡すチョコがこれでいいのか悩んでいるみたい。

 他のヒトに渡すものよりも大きいものを用意しようとしたけど、不公平になるからと諦めていたら、オペラオーさんやアヤベさんがトレーナーさんに同じサイズのチョコを渡しているのを見てしまったらしい。不公平に負けてこのチョコを作ったけど、こんなものではトップロードさんの感謝は伝えきれない。

 そう思っては見たものの、新しくチョコを作る時間もなくて、どうすればいいのか悩んでいた。

 ということみたいだ。


「チョコ自体はここにあるんだけど、このまま渡すのは私が許せないと言いますか……。でも、これを渡すしかないですし……」


「トップロードさん……」


「あはは……どうすればいいんでしょうかね……」


 表情を曇らせながら、全てを話してくれたトップロードさん。

 あたしにはトップロードさんの気持ちがよく分かる。あたしも感謝の気持ちを伝えるためにチョコを作るつもりだけど、きっとその大きさは小さなチョコでは表現出来ないもののはずだ。だからこそ、あたしは体育館を借りてチョコを作るわけだし。

 だけど、トップロードさんは真面目なヒトだ。本当に真面目過ぎるヒトで、自分のエゴと公平さの中でずっと悩んでいたに違いない。2つの気持ちが並んだ天秤が今回は公平さに傾いたからこそ、色々と考えてしまうのだろう。

 考え方が何となく似通っている気がするトップロードさん。お助けしたい気持ちは変わらないけど、それ以上に同じ気持ちを持つものとしてなんとかしたかった。

 だからこそ、あたしはトップロードさんの手を強く握ることにした。


「キタちゃん?」


「トップロードさん!それならあたしと一緒に作りましょう!気持ちを伝えるチョコを!」


「キタちゃんと?私は嬉しいですけどキタちゃんはいいの?」


「むしろ手伝わせて下さい!だってあたしも同じ気持ちです!トレーナーさんへの感謝の気持ちを大きなチョコで届けたいんです!」


 あたしの言葉と握った手の力強さからか、さっきよりも少しだけ表情が明るくなっていた。だけど、戸惑いもあるみたい。

 握り返してくれた手は一瞬だけ強かったけど、すぐに緩めてしまった。


「う~ん……だけど、時間は大丈夫かな?今からだと、もしかしたら……」


 なるほど。戸惑いの理由はあたしに対する遠慮なんですね。だけど心配無用です!


「大丈夫です!同じ思いを持つ者同士がチョコを作れば、ひとりで作るよりも何倍も早く作れます!」


 ひとりよりもふたり!その力が合わされば何者にも勝る物ができる!

 そう思ってあたしの想いをぶつけてみる。

 大丈夫、きっと届く。だってトップロードさんは。


「そう……ですね……。うん!ありがとうキタちゃん!私もキタちゃんと同じ気持ちです!トレーナーさんのために……大きな気持ちを伝えたい!」


 あたしと同じなのだから。

 一瞬だけ悩んでいたけれど、それもすぐにやめて、力強くこちらを見つめ返してくれた。


「そうと決まれば早速ちょっと作りです!一緒に体育館まで行きましょう!付いてきてください!」


「えっ?なんで体育館まで?わわわ!速い!速いですキタちゃん!」


 そんな感じでトップロードさんと一緒に体育館まで来たというわけだ。


 早速チョコやその他諸々を準備していると、トップロードさんがポカンとしながら見ている。

 う~ん……急いでここまで来たからよくなかったかな?


「どうしましたかトップロードさん?早く作らないと間に合わないですよ?」


「その……体育館を貸し切り程の大きなチョコを作るのは、流石にやりすぎなのでは……?」


 かなり困惑した様子であたしに声をかけるトップロードさん。あっ……そっちのことか……なるほど……。

 正直言いたいことはよく分かる。あたしも心の片隅で、あれ?これやりすぎじゃない?という気持ちがちょっと騒ぎ出している。

 だけど、だ。

 あたしは自分の気持ちをトップロードさんに伝えるために、しっかりと目を見る。


「確かにそうかもしれません……。でも!気持ちの大きさを込めたら、普通のサイズのチョコにはならない気がします!」


「!!!!!!!」


「あたしの感謝の気持ちは小さいものではないです!トップロードさんだって同じじゃないんですか?」


 手を握りしめるくらいの熱を込めて、トップロードさんに語りかける。

 そうすると、さっきまでの困惑に満ちたものではなく、熱意の炎に溢れた瞳に変わり始める。どうやらあたしの想いは伝わったみたいだ。


「そうですよね……!私の感謝の気持ちもキタちゃんと一緒……いや!それ以上です!ありがとうございますキタちゃん!私はもう迷いません!」


「えへへ……想いが伝わったみたいで嬉しいです!」


 ガシッ!とお互いに握手を酌み交わす。

 トップロードさんの表情に迷いはなかった。


 それから、あたしとトップロードさんとの共同でチョコを作り始めた。


「下地のチョコは……ブラックチョコがいいよね……猛々しい感じにしたいし……」


「猛々しいチョコとは一体……?」


 思い通りにならないことも色々あったけど、それでもあたし達は一生懸命に作り続ける。


「私としては大好きなサッカーの要素を取り入れたいんですよね……。う~ん……はっ!それならサッカーゴールをチョコで作るのもありなのでは!」


「いいですね!……いいんですけど、う~ん……。ゴールの網を作るのは……難しそうですよね……」


「確かに……そこまで細かいのは私には無理かな……。いい考えだと思ったけど……中々難しいな……」


 沢山の苦労はあったけど、その中で生まれたものはあった。


「大丈夫ですかトップロードさん!なんであんな無茶を……」


「ふふ……だってキタちゃんがこんなにも頑張っているんですよ……?私だってもっと頑張らないといけないと思うのは、自然なことでしょ?」


「トップロードさん……」


 それは絆だった。

 同じ苦労を味わっているものにしか理解することの出来ない。それを共有しているからこそ強くなる。

 今のあたし達は間違いなく何者にも負けない強い結びつきを得ていた。


「……出来ましたね」


「ええ……完成です」


 そうして出来上がったものは、巨大なサッカーボールとそれを同じくらい大きな板チョコだった。

 サッカーボールの方は外にあるゴールと同じくらいの大きさで、動かすのは結構苦労する。

 そして板チョコの方はブラックチョコをベースにしてそこにホワイトチョコを彩る。雪に見立てたそれをこれでもかとチョコに乗せることで完成した。

 大きさだけではなくて味にも自信がある。お互いに味見をしているし、そこに抜かりはない。


「名付けて冬の嵐チョコ……と言ったところでしょうか……」


「すごくすごい……強いサッカーボールチョコ……ですね!」


 あたしが名前を決めていると、トップロードさんも興奮した様子で同じように名前を決めていた。

 ……語彙力が失われているのは、興奮しているからなのかな?伝わるから問題はないけれど。


「トップロードさんこれなら!」


「ええ、キタちゃん!」


「「トレーナーさんに気持ちの大きさが伝わる!」」


 そう言い合いながらお互いに両手で握手しながら、ぴょんぴょんと跳ねて喜び合う。

 美味しさでも大きさでも負けることのない特別なチョコ。これを渡せばきっとトレーナーさんも喜んでくれるはずだ!


「ありがとうございますキタちゃん!本当に……何とお礼を言っていいのか……」


「気にしないで下さい!お助けキタちゃんはいつだって困っているヒトの味方です!」


 強く握りしめるトップロードさん。

 感謝の気持ちはそれだけで強く伝わってきた。だからこそ、あたしは気にしないほしいと伝える。

 だけど、その言葉にトップロードさんは首を振る。


「それでもです!感謝はしっかりと伝えてこそです!絶対にお礼をしますから!」


「えへへ……嬉しいですけど、今はトレーナーさんへのチョコを優先しましょう!」


「ですね!トレーナーさんへのチョコ……は持っていけなさそうだから、ここに誘いに行きましょうか!」


「はい!」


 確かにこの大きさでは、いくらあたし達でも運ぶことは出来そうにない。そのため、急いでお互いのトレーナーさんを呼びに行くことになった。

 別れ際、お互いの成功を祈るために腕を掲げながら。


 結論から言うとチョコを渡すのは、一応成功……でいいと思う。 

 お互いのトレーナーさんはその大きさに引きつつも、何とか受け取り美味しそうに食べてくれたからだ。


「「美味しいんだけど量がヤバいなこれ……」」


 そんなことを言っていたのが印象に残っている。

 だけど、最後には笑顔を見せてくれて本当に良かった。その笑顔を見てあたしとトップロードさんも笑いあった。

 一日では食べ切れない量だから、暫くは定期的にチョコをお渡しするようになったのはまた別の話だ。


 後日。トップロードさんからお礼のチョコを頂いた。中身は爽やかな柑橘系のいい香りのしたチョコだ。どことなくトップロードさんを思い出すその香りに包まれながら、一口ずつゆっくりと食べ進める。

 あたしからもお礼を贈らないといけないな。そうだな……トップロードさんの笑顔を元にしたチョコなんていいかも。タイトルは……頂に至る光チョコかな?

 そんなことを考えながら、トップロードさんの姿を思い返した。

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