ダンス・マカブル

ダンス・マカブル

匿名

傷一つないボルドーの靴は雑魚の返り血を浴びたよう、うーんでもアレはもう少し茶色っぽいから違うか。私はもっと鮮やかな赤が好みなんだけどヒールの細工は好きよ、デリンジャーってば良い趣味してるじゃない。


「バーヴァン・シー」

そう呼ばれて振り返れば、お父様が静かにこちらを見ている。いつもお父様にべったりのシュガーも、一緒にコレクションを眺めていたデリンジャーも今は居ない。つまりこの部屋には私とお父様の二人っきり。

いそいそとお父様の隣に座る、この場所は人気があるから座る機会が少ないんだ。

「この間コロシアムで活躍したらしいな。」

「見ていてくれたの!?」

「いや、ディアマンテから聞いた。悪かったな見に行けなくて。」

正直雑魚ばっかりでつまんねぇと萎えていたんだけど、こうして褒められるなら話は別。コロシアムに顔を出す回数増やそうかな、そうすればいつかはお父様直々に見てもらえるかもしれない。

「おれの可愛いバーヴァン・シー、何処に出しても恥ずかしくない自慢の娘だ。誰よりも気高く、誰よりも」

「『悪辣であれ』、でしょう?覚えちゃったよ。」

そう言えば正解だと言わんばかりに頭を撫でられる。これは私がお父様に拾われた頃からの口癖だった。


『この世界は優しい奴は生きていけない、善人こそ馬鹿を見る。だからお前は悪辣に生きろ、誰よりも非情に。』

いたくてさむくて、かと思ったらあついときもあった。毎日『ごめんなさい』と言ってて、なんで謝ってんの?と不思議に思うことも出来なかった。そんな地獄から救ってくれたのがお父様。

カス共はお父様の手を恐れる。血に塗れた悪魔の手だと。

でも私はこの手が大好き。独りぼっちの私をファミリーに迎え入れて『娘』と呼んでくれた。知識を、生きる術を教えてくれた。地位を、壊しても怒られない玩具をくれた。何よりお父様の手は誰よりも温かいもの。

私は多くの物を与えてもらった。だから『どうして私はハートの椅子に座れないの?』なんて疑問を抱いちゃダメなんだ。


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