ダルヒー4 前編

ダルヒー4 前編



「今日の話し合いはこれくらいで良いかな?」

 エリアがメモがわりにしていたノートから顔を上げて、全員を見る。

 庭の丸テーブルを囲んで座っている全員が頷いた。

「うん、こんなものじゃない? ダルクもいないしね」

「うん、じゃあおしまい!」

 アウスがそう言ってお茶を飲むと、エリアがペンを置いて大きく伸びをする。

 今日は毎週やってる霊使いのみんなでの報告会の日だ。

 最初期のころはお互いにそれぞれの術の理念や式を教え合ったり、受けた依頼内容からその達成方法まで共有したりと、かなり真面目な会議だったのだけど、年数が経つと緩むもので、今はせいぜい新規の依頼人がどういう人だったかとか、良い触媒がある所があったかとかを話した後は大体雑談時間になっている。

 ちなみに、ダルクは朝、というか深夜から依頼があって、今は出てしまっている。

 そのせいで昨日はお互いの寝る時間がずれてしまって、あんまり話せていない。というか、ダルクのことを見送りしたかったのに、夜遅くはどうしても眠くなってしまうあたしは結局起きれず、グースカ寝てしまっていた。

 ダルクだって起こしてくれても良いのにと思わなくもない。あたしに気をつかってくれたのはわかってるから何も言えないんだけど。

「ところでさぁ、ヒータちゃん。ダルくんとはその後どんな感じ? 上手くいってる?」

 突然、ライナがそう聞いてくる。

「え、な、何だよ急に」

「いやぁ、奥手なヒータちゃんがちゃんと成長できたかなぁって思って」

 ライナはニコニコとした笑顔でそう言ってくる。どういう目線なんだ。

 というか、こんなみんないるところじゃなくても。

「おー、私も気になるー!」

 そう元気に声を上げるのはウィンだ。ついでに手も上がっている。

「ええ……。エリアとアウスもか……?」

「まあ、後学のために聞いてみたくはあるよね」

「まあ、ちょっと気になりは……」

 残りの二人にまでそう言われてしまって、逃げ道が無くなる。

「まあ、流石にヒータちゃんから話していくのは難易度が高いだろうから、私から聞いていこっか。どう、ダルくんとはあれからスキンシップできるようになった?」

 ライナが目を光らせている。恋愛関係の時のライナは肉食獣みたいな目をしててちょっと怖い。

「い、一応……」

「ほうほう、具体的にはどういうのが好き?」

「ぐ、具体的って……。えっ、と、ハグ、とか……」

 おー、とかあー、っていう声が上がる。何だこれ、公開処刑か何かか?

「ヒータちゃん、ダルくんの腕に抱きついたりしてたもんね〜。できるだけ体が触れ合うのが良いのかな?」

「は!? い、いつ見て……!?」

「いやぁ、ヒータちゃんは見えないところでやってるつもりかもしれないけど、結構わかるもんだよ?」

 他のみんなを見渡すと、ウィンが頷いて、エリアが顔を逸らした。あまり外に出ないアウスは見てなかったみたいだけど、それ以外には知られていたということになる。

「それはおいといて〜」

 あたしはおいとけないんだが。

「ダルくんとはデートとかした?」

「なんでそんなことまで……」

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

 あたしの羞恥心がめちゃくちゃになってるが。

 でも、ライナのやけに光ってる目に射すくめられて、口を閉じることができない。

「この前、ダルクに誘われて、ウィッチクラフトの街に……」

「あー、そういえばこの前依頼の後遅くなるって言ってた時あったね」

 エリアに日にちまで特定された。普段すごいって思ってる記憶力だけど、こんな時まで発揮してくれなくていいから。

「へー、ウィッチクラフトの街かぁ。色んなお店があるよねぇ。どういうとこ行ったの?」

「え、と、ご飯食べたり、アクセサリーの店とか……」

「お、ということは何か買ってもらったりした?」

「さ、さすがに見せないからな!」

「何かは買ってもらったんだ」

「あっ」

 自分から墓穴掘った。

 ダルクからは、ペンダントを買ってもらって、それは今も服の下に隠してつけている。

「うんうん、ちゃんと進んでるようでなによりです」

 ライナがしたり顔で頷く。

 だから何目線なんだよ……。

「ふふっ、楽しそう。なんかそういうの、ちょっと憧れるかも」

「ご飯いいなぁ〜」

 エリアとウィンもニコニコしながらそんなこと言ってくるし。

 人の恋愛の話なんてそんなに聞いてて楽しいものなのか?

「ところでさ」

 今まで聞き手に徹してたアウスが口を開く。

「あ、私も質問していい?」

「どうぞどうぞ」

 アウスとライナがそんなやりとりをする。

 なんだよ、学会かよ。せめてあたしに聞けよ。まあ、もう、ここまで来たら答えてやるけどさ。

 そう半ばやけになって覚悟を決め、喉を潤すためにお茶を一口飲んだ。

「セックスってもうしたの?」

 口の中のものを吹き出しかけた。エリアも思いっきりむせている。

「は!? え!? なに!?」

「え、いや、ライナから借りた本で登場人物が恋愛関係になった後に、やけにそういうことをしたのを示すような描写があるから、恋人ができたら大体そういうことするのかなぁって思って」

「そう思っても、今聞くかなぁ!?」

 あたしの代わりに突っ込んでくれたのはエリアだ。あたしもそう思う。

「アウスちゃん、そこはお話だから盛り上げるためにそういう描写をしてるっていうのが多いかなぁ。なんだかんだ濡れ場は盛り上がるしね。実際はその人達によると思うよ」

「そういうものなんだ」

 ライナは何故か落ち着いて解説を始め、それにアウスが納得したように頷いていた。

 そこで完結するなら聞かないでくれ。

「へー、私好き同士になったらみんなすぐにするのかと思ってた」

「ウィン!?」

 別の方向から爆弾発言が飛んできた。

「え、ウィン、お前セッ……アウスが言ったことの言葉の意味分かってるか!?」

「そんなのわかってるよー! 子供作ることでしょ? というか、ヒータちゃん達とおんなじ事習ってるんだから、知ってないとおかしいじゃん」

 普通にわかってた。

 いや、そう言われればそうなんだけど、普段のウィンが幼いからなんか抜けてた。あと、ウィンが普段の雰囲気の割に結構サバイバー気質というか、野生的な感じのところがあるのも。

「まあ、子供を作るかどうかは別として、今の時代は愛を確かめ合うための手段として好きな人多いのかな? ヒータちゃんはしてる?」

「してないよ!」

「あ、そうなんだ。最近どっちかの部屋にいる事が多いからもう済ませてるものかと」

 ライナがそんな事を言ってくる。

 ダルクとは、せいぜいキスまでで、そんな事は話題にしたことすらない。

 ダルクと、そういうこと……。

 思わず想像してしまって、顔が熱くなる。

「あ、あたし、買い物に行きゃなきゃいけないから、そろそろ行くな!」

 いたたまれなくなって、あたしはそう言って逃げるようにテーブルを離れた。



 おっと、ヒータちゃん逃げちゃった。

 流石に踏み込みすぎだったかな?

「もー、私も調子に乗っちゃったから強く言えないけど、あんまりヒータちゃん追いつめちゃダメだからね?」

「はーい」

 エリアちゃんに注意されてしまったので、素直に返事をする。

 推しは見守れ派の私としても今回はちょっと突っ込みすぎたと思うし。

 まあ、最後の方以外はヒータちゃんもちょっと話したかったんじゃないかと思ってるけど。逃げようと思えばいつでもさっきの言葉で逃れたわけだし。

「アウスちゃんとウィンも! あんまりセックスとか言うものじゃないです! TPOは考えましょう!」

「「はーい」」

 エリアちゃんの注意は二人にも向かって、二人も素直に答えた。

「あ、もうこんな時間。私、前に依頼された農家さん達から依頼料とは別にお礼をしたいって言われてるからそろそろ行くね」

「え、私も行きたーい」

「別に良いけど、多分すぐに食べれるようなものは無いと思うよ?」

「ならいいやー」

 ウィンちゃんとそんなやりとりをした後、エリアちゃんも出かけて行った。

「それじゃ、後は解散でいいかな?」

「あ、ちょっと待って」

 立ち上がったアウスちゃんに声をかける。

「ウィンちゃんにもちょっと頼みがあるんだけど……」

「ん? な〜に〜?」

 ついさっき、思いついた事があって、それをやるなら二人に手伝ってもらったほうがいい。

 ヒータちゃんは多分もっとダルくんとくっついていたいだろうし、ダルくんも二人の関係が進展する手助けならそんなに怒らないと以前言っていたはず。

 何より、二人がよりイチャイチャしてくれれば私の幸福度が爆上がりするのでやってみるだけ損はない。最悪私が怒られるだけだし。

 あ、なんかラヴァーからろくでもないことするなって思念がきた気がする。

 天日干しにするよ?



「あー、もう、何だってあんなこと聞いてくるんだか……」

 歩きながらぶつぶつと呟く。ダルクと恋人になった今でも、恋愛話で盛り上がるという感覚はよくわからない。

「いや、そんなことより買い物とっとと済ませちゃおう」

 逃げるために言ったことではあるけど、嘘ではない。霊術のための触媒なんかが少なくなってきたからそろそろ仕入れる必要があった。

 気持ちを切り替えて、ウィッチクラフトの魔道具店に溢れた街並みを歩いていく。

 ウィッチクラフトの街は一定額の買い物さえすれば無料で街への転移のスクロールを貰える為、一度来てしまえばいつでも気軽に来られるのが大きな利点だ。普通は作るのが難しい転移のスクロールを条件付きとはいえ配ってしまうなんて事ができるのは、世界有数の魔道具生産地だからこそだろう。

 物を壊したり、盗難に利用される可能性があるからということで、ウィッチクラフト製のゴーレム以外、使い魔の同伴が禁止されてるのが唯一の不満点だが。

 おかげで稲荷火はお留守番だ。機嫌を取るためのおやつとか買っておかないと。

「あ、この店……」

 前にダルクにペンダントを買ってもらった店だ。

 コインのような金属板に狐が彫られたもので、目のところには二対の小さなルビーがはめ込まれているペンダント。

 最初は宝石のついたようなものなんてとても貰えないと言ったけど、宝石単体としては売れないくず石を再利用して作ったものだから、そんなに値段は張らないと言われて、結局買ってもらったものだ。

 魔法の触媒としてくず石は使ったことはあるけど、アクセサリーに使われたものなんて扱ったことないから、風にさらすのも肌に直接触れるのもおっかなくて下着と服の間に入れている。

 そんなんだから、見るのは寝る前に外す時くらいだけど、狐の目が温かく光るのを見るとあたしの中も暖かくなる。

 ……そういえば、ダルクはあたしとそういうことをしたいと思ってたりするんだろうか……。

 そこまで考えてしまって、顔が熱くなる。こんなの考えるのも、アウス達のせいだ。

 でも、実際どうなんだろう。ダルクのことだから、そう思ってても絶対に口に出したりはしないだろう。

 そうしたら……、あれ? あたしから言うしかないのか? いや、でも、流石にそれは……。

「あたっ!?」

 もやもやと悩みながら歩いていたら、街頭に頭をぶつけてしまった。

 幸い、周りの人達は自分の目的に目いっぱいで気づかれることは無かったようだけども。

 悪態を吐きそうになるけど我慢する。

 ちょっと、たかが一単語に振り回されすぎだ。

「あ、もうこんなところまで来てたのか」

 少し落ち着こうと顔を上げたら、目的地の次の通りを示す標識が目に入った。

 いつのまにか目的の店を通り過ぎてしまっていたらしい。そういう意味ではここで頭をぶつけておいて良かったのかもしれない。

 くるりと反転して来た道を少し戻り、ようやく店まで辿り着いた。

 眩しいくらいだった通りから、薄暗い店内に入ると一瞬何も見えなくなる。魔術の触媒には日光で急激に劣化したり、反応を起こしてしまうものが結構あるので、大抵の触媒店は日光を入れず魔術による弱い光だけで店内を照らしている。

 しばらくかけて目を慣らしていると、奥の方から店員がやってくるのが見えた。

「いらっしゃいましー。ご自由に見てくださいなー」

 それぞれの手にペンや帳簿を持った六本の腕に、触覚のようなものの先にある丸い目、青紫の体と、いつ見ても不思議な見た目をしている店員はいつも通りニコニコと笑っている。

 そういう種族なのか、はたまた使い魔か何かなのかはわからないが、魔法に関わる店でよく同じ見た目の、人? が働いている。本人達に名前を聞いても、魔道雑貨商人としか名乗らないので、結局使い魔なのかそういう種族なのかの議論は決着がついていない。

 そんな商人に軽く会釈をして店内のものを見て回る。

 あたし、というか霊使いが使う魔術の触媒というのは、言ってしまえば精霊への贈り物だ。

 炎に属する精霊が好むのは木炭や髪の毛、獣の皮や脂肪、あとはそれこそルビーやガーネットなんかの宝石など。火山地帯の噴石なんかも好きらしいけど、普通の石と見分けがつかないからあたしはあまり使わない。

「ん? お」

 触媒店には珍しいものがあったので、思わず手に取った。

 刃渡三十cm程の短刀だ。

 普通、霊術には刀剣、というか火で打たれた鉄製品は相性が悪い。ほとんどの精霊が嫌うからだ。

 ただ、不思議なことに神事用に清められたものや、霊的なエネルギーが豊富な地域の炎で打たれたものになると、急に精霊達が好み始める。御巫の里や不知火の里で打たれた刀や炎王の島の炎で打たれた剣なんかは炎の精霊なら大体喜んでくれるし、より大きな力を貸してくれるようになる。

 まあ、かさばるから精々一、二本くらいしか持ち歩けないけど。

 ……そういえば、ダルクのあれってどのくらいの大きさなんだろ。男の人のサイズとか全然知らないから予想もつかない。流石にこの剣と同じサイズって訳ないよな。そんなの、あたしの中に入らな……。

 そこまで考えて、思わず短刀の柄に頭を打ちつけた。

 いや、ほんとに何考えてんだあたし!? 今日はもう色々ダメかもしんない……。

「あの〜、お客さん。商品に乱暴するのは……」

 振り向くと笑みが消えた店員さんがこっちをじっと見つめていた。

「えっ、あっ! ごめんなさい! これ、買わせてもらいます……」

「まいど〜」

 短刀を勘定場まで持っていくと、無表情だった店員さんが笑顔に戻った。

 今まで笑顔以外見たこと無かったけど、店員さんの種族は口の動きが無くなると結構怖いという、無駄な知恵がついてしまった。



 結局、今日は短刀と稲荷火のおやつだけ買って帰って来た。

 というか、短刀が刃物の中ではトップクラスに高い炎王島産だったから予算がほとんど吹き飛んだ。ショーケースとかに置いててくれ……。

 まあ、触媒としても最高品質の品なので、何とか良しとする。

 おやつを咥えた稲荷火もご機嫌だし。

「はぁ、ただいま〜」

 少し気落ちしながら家の中に入ると、異様な雰囲気だった。

 アウス、ウィン、ライナの三人がエリアの前に正座させられている。エリアの隣には困ったような顔のダルクも居た。

 う、ちょっと今顔見るの恥ずい。

 というか、何があったんだ? エリアがマジで怒る直前の顔してるんだが。

「なぁ、これ、どうしたんだ?」

「ああ、いや、僕も帰ってきたばっかりだからまだ把握できてない」

 ダルクもわからないとなると、四人の誰かに聞くしかないが、あんまり突っ込んで行きたくない。

「あ、ヒータちゃん、聞いてよ〜!」

 向こうから来た。

 拗ねたような、悲しんでるような顔のライナがこっちを見つめている。

「エリア、何があったんだ?」

「え、そっちに聞く!?」

 情報元としてより信頼できそうな方に尋ねてみた。

「いや、その……。見てもらった方が早いか……」

 あたしとダルクの顔を見た後、エリアがため息を吐く。

 ダルクと顔を見合わせる。どうやらあたし達に関係あるらしいが。

「こっちなんだけど……」

 そう言ってエリアが案内したのは倉庫代わりにしてる大きめの部屋だ。

「ここがどうかし、た……」

 部屋を覗いて言葉が途切れる。

 そこにあるはずの備品なんかはすっかり無くなっていて、その代わりにどこかで見た事のある家具が並べられていた。

「え、これって……」

「ダルくんとヒータちゃんの部屋の物、運んでおきました!」

 廊下の先からこっちを向いたライナが誇らしげに宣言してくる。

「え、いや、なんで?」

 状況が飲み込みきれなくて、単純な疑問が口をついて出る。

「ふふっ、私は思ったんですよ、ダルくんとヒータちゃんはそろそろ次のステップに行って方がいいんじゃないかと! 付き合い出して、同棲は既にしてる、ならばプライベートの時間をより共有すれば良いと! そのためにはエリアちゃんに怒られるのも怖くない! あ、運ぶ時に個人の趣向に関わりそうなものは見てないのでご安心を」

「そこは、いやありがたいけど、そこじゃない!」

「ダルくんはともかく、ヒータちゃんは結構常に人と一緒にいたいタイプだからあんまり気にならないでしょ? 今でもぬいぐるみとか稲荷火と一緒に寝てるし」

 いや、そういう問題でもないだろ。というかなんで知ってる。

 あ、ぬいぐるみはそりゃ置いてあるからわかるか。でも一緒に寝てるとか稲荷火と寝てるとかは何で知ってるんだよ。

 てか、ダルクはともかくで置いといていいのか。

 ここ最近思ってたけど、ほんとにライナがわけわかんなくなってしまった。

 寝てる時のあたしのこと知ってるのとか含めてマジで怖い。

「昔エリアちゃん達とお泊まりとかした後、一番一緒に寝れなくなるの寂しがってたって聞いたし」

「はっ!? 誰が……!?」

 その事を知ってるのはライナとダルク以外の三人だけのはず。

 そう思って三人を見るとエリアが目を逸らした。情報元そこかよ。

「ちなみにウィンちゃんの風霊術で音漏れないようにしてるから何しても大丈夫だよ!」

「頑張った!」

 何も大丈夫じゃないが。

 ウィンもそんな誇らしげにしないでくれ。

「……ここにあった魔道具の類は? 僕の大体日光ダメなんだけど」

 ダルクがライナに尋ねる。

 あ、そうだ、そこの問題もあった。というか、実害という点ではそこの方が問題だ。

「そこは抜かりなく! アウスちゃんに知識を借りてそれぞれに最善の保管法のままダルくんとヒータちゃんの部屋に移しました! 私の光霊術とウィンちゃんの風霊術で光量や空気の動きも管理してます!」

 なんでそんなに本気出してんだよ。別のことにその熱量を使ってくれ。

「はぁ、ライナちゃんとウィンはもうこの際しょうがないとして、なんでアウスまで手伝ってるの……」

 顔を手で覆ったエリアがまたため息をついた。

 ウィンが「なんで私はしょうがないの〜」って言ってるけど無視される。

 うん、まあ、普段から「たのしそう〜」って、何にでも首突っ込んでるからだと思うな。

「いや、ライナが光霊術の指導書全巻写本してくれるって言うから、つい」

 いやほんとに随分体張ってるな!

「はぁ〜、うん、まあ、これは正直すぐにどうにかはできないし、三人ともこれにかかりきりだったって事は担当してた家事とかまだだよね? 先にそっちやってきてください。説教するかどうかダルクくんとヒータちゃんに聞いてから決めます」

「「「はーい」」」

 三人が少ししょんぼりした顔で解放される。少しでも後悔するならやらなくても良かったんじゃないかと思うな。

「はぁ〜、さて、と二人ともどうする? 二人が嫌ならライナ達に元に戻してもらうけど」

「……まあ、そうしてもらった方がいいかな。ヒータは?」

「え、あ、あたしは……」

 ダルクに話を振られて口籠る。

 常識的に考えるなら、戻してもらった方が、そりゃ、いい。

 けど、心の隅には、ダルクと一緒の部屋で過ごすことへの憧れも、ある。

 別に、一人じゃ眠れないなんて歳では無いけど、ライナに言われたように、あたしは一人より誰かと一緒に居る方が確かに好きだ。

 それに……。

 ダルクの裾を掴む。

「ん? ヒータ?」

「その……」

 葛藤の末に、もごもごと口に出す。

「えっ、なんて?」

 あまりにも声が小さすぎたのか、エリアに聞き返された。

 恥ずかしさを堪えながら、さっきより大きな声をなんとか出す。

「あたしは、ダルクと一緒が、いい、かも……」

 二人とも黙ってしまった。せめて何か言って欲しい。

「「えっ、かわい」」

「う、うるさいっ!」

 口を揃えてそう言われて、思わず上げた叫び声が家に響いた。


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