ダスカとガキトレ

ダスカとガキトレ

Aby


 史実無視やアプリ設定などの無視、改ざん、史実改変があります。

 おねショタなど本来の大人トレーナーではない設定やご都合主義があります

 二次創作ですので好き嫌いがある事は承知の上、設定上の無理や社会常識外のあれこれなど許容できる方のみ閲覧をお願いします。











 あたしは一番になるの。

 ウォッカなんかに負けられないのよ

 だからあたしにできる精一杯のトレーニングを毎日するのは当然

 自分には自分が一番厳しくするのは当然なのよね

 なのに

 それのなにが悪い? なんで邪魔をする? 

 なんで

 なんでトレーナーを降りるとか言うの? 


 ──何回目だろう、トレーナーを辞める相手の背中を睨むのは


 入学時はトレセン学園史上でも類を見ない成績で入学。

 当時同タイムだったウォッカとの史上最強新入生コンビとしてトレーナーなんか引く手数多だった。

 トレーナーなんて誰がなっても一緒だった。

 皆判を押したようなヌルいトレーニング、無意味な反復。

 無理──耐えられない。

 あたしは自分でトレーニングを繰り返して。

 そのたびにトレーナーと衝突して──担当トレーナー契約を破棄された。

 正直どうでもいい。あたしは1番になりたい。

 そのために必死にトレーニングして何が悪い。 あたしは悪くない。


 ──また、喧嘩してる


 高いきれいなソプラノの声、呆れ返るような声色だが。

 その声に振り向くと──小さな子供がいた

 中等部、にはまだ早そうだ。どう見ても初等部、しかも高学年にも達してなさそう。

 夕暮れになりそうな陽の光を反射して金色に光る髪の毛は茶色だろうか? 栗色だろうか? 

 人懐っこそうな丸くて大きな瞳でまっすぐあたしをみていた。



 ──お姉ちゃんはいつも怒ってるね

 ──プンプンして一人でトレーニングしてる

 ──まるで怒りながら走ってるみたい


 子供らしい遠慮のない物言いでズケズケと言ってくる。

 人懐っこそうな笑顔だけど、ずいぶんとそれが癪に触る。

 うっさいわね──だまってどっか行きなさい。

 あたしは結構『いい子』で通ってる。 子供が嫌いという性格でもない。

 ただ──目の前の少年? は、まっすぐにあたしを見つめるし、なにか嫌だった。

 まるで、あたしの図星をつくような嫌なガキに見えた。


 ──また、トレーナー契約、破棄されちゃったの? 


 滅茶苦茶イヤなガキだった。

 トレーナー契約という単語も、破棄という単語もその意味も、まだ目の前の子供は知らない──知らなくてもいいような見た目だ。

 何も考えず、泣いて喚いて怒って遊んで何も考えてないパッパラパーのガキんちょ。

 まだ、そっちのほうが可愛げがある。子供に図星を突かれるのはこんなにもムカつく事なのか。

 とはいえ──あたしもそろそろ余裕がなかったせいだろう。なぜなら──


 ──トレーナーさん達から聞いたよ

 ──お姉ちゃん、いつも喧嘩ばかりしてるからもう皆トレーナーしたくないって


 …………ガキを見下ろす目とあたしの目が合う

 ガキんちょは、明らかに怯えた瞳で身体をこわばらせた。

 別に睨んだわけじゃない、脅したわけでもない。

 ただ──その時のあたしの顔も瞳も──―きっと、子供を怯えさせるには十分なモノだったんだろう。

 あたしだってわかってた。 今回の契約破棄は──本当に最後かもしれない。

 身をすくませる

 とはこのような事を言うんだろう。


 歯を少しだけだけどカチカチと鳴らし──目にいっぱいの涙をためて、子供は震えてた

 あたしは悪くない

 子供ゆえのズケズケとした失礼な物言いはガキんちょだって事で怒ったりしない。

 ただ──今回はあまりにタイミングと、あたしの気分が悪すぎた。

 あたしだってまだ子供のウマ娘だ、こんな時にまでガキンチョのすべてを許容できるほど人間できてない。

 子どもの怯える視線が多少心に痛い──でも、私は悪くない。

 そんなあたしを見て、子供は泣いて逃げるか泣くのを我慢して逃げるか。

 あたしはそう思っていたけれど──


 目の前のただただ小さなガキんちょは

 歯を食いしばって

 砂利の地面に踏ん張って

 手をぎゅっと握って──あたしを睨み返すように、立っていた。


 ──お姉ちゃんはとっても速いから

 ──1番はやいから

 ──次の選考レース会でいい走りをできれば、まだトレーナー契約できるよ!! 


 このガキ──

 泣き出しそうなクセに──手だって……膝だって──ガタガタ震えてるクセに

 このガキほんとなんなのよ

 一瞬だけど、あたしが気圧された。

 そのぐらい、子どものクセにまっすぐに真剣な目で見上げてた

 1番? そんなわけないでしょう? 

 あたしが本当に──本当に速くてこの学園の注目株ならどんな我儘だって通るのよ。

 トレーナー達だってレースで1位を積み重ねれば実績が積める。

 それなのに今誰もトレーナーのなり手がいないっていうなら

 ──今の私はちっとも速くないって事じゃない。




 ウォッカと同タイム、新規の中等部の模擬レースとしては異例の記録

 そんな記録も今はありふれたもの。

 トレセンのトレーニングをうける中等部のタイムはメキメキと上がっていく。

 いくら最初のレースの結果が良くても、どんどんと伸びていく成長の前には敵わない。

 ウォッカも毎週のように追い切りで中等部レコードを更新していた。

 一方の私は──まったくタイムが伸びない。

 多少伸びてもウォッカどころか他の生徒たちのタイムの更新にすら及ばない。

 エリート入学をして弛んでいたりサボっていたなら仕方がない。

 相対的に悪くなっていくタイムと模擬レースの酷さから、同室のウォッカすら声をかけにくくなってるのか同室の空気は最悪、最近は会話すらしていない。

 かたや中等部期待のエース

 かたや"気性難"扱いされる我儘なだけのメイクデビューも勝てるかどうかの小娘


 あたしにはもう何もなかった

 余裕も、自信も、唯一の取り柄の走りも──なにもかも


 ──1番になれる! 


 ガキんちょは、まだ泣きそうな顔をしてる。

 それなのに、大声で叫んだ。 本当は怖いクセに。

 手だって、足だって……まだ、怯えて震えてるクセに。


 ──ボクが思うんじゃなくて

 ──お姉ちゃんの頑張りは

 ──お姉ちゃんが頑張ったのは絶対嘘なんか吐かないっ! 


 ……ッ

 うるさい! 

 じゃあどうして勝てないの! 

 ウォッカはどんどん早くなってる、アタシだって練習量だったら負けてない。

 なのにどうして──ちっとも速くなってくれないの

 頭の中がぐちゃぐちゃだった

 怒鳴ってしまったのか頭の中で叫んだのかすらわからない。覚えてない。

 ただ──その時のガキンチョはひどくひどく悲しそうな顔をしてた。

 でもどうだっていい。

 人の苦労も知らないで、しったような口でズカズカと上がり込んでくるような物言い。

 アタシはこのガキンチョが大嫌いだ。アタシの努力も辛さも分かってない。

 なのに

 このクソガキは怯えて震えているクセに

 アタシが睨んでも距離を詰めても、脅すように見下ろしても

 絶対に後ろに引かない


 ──僕が魔法をかける! 

 ──週末の模擬レース一回きりの魔法! 

 ──そのレースでお姉ちゃんが絶対1位になる魔法! 


 なにを言ってるんだコイツ。

 魔法なんかあるわけないしこんなクソガキが魔法なんか使えるわけがないだろう。

 でも──もし次の模擬レースで結果が出なかったら? 

 トレーナーと契約できなかったらそもそもがレースに出れない。メイクデビューであろうと未勝利戦であろうとこれは絶対だ。

 どちらにしてもトレーナーをみつけるために──いや、見て貰うためには模擬レースに出走しないといけない。

 いや──出走するだけではない、多少性格に難がありトレーナーとトラブルを起こしてたとしても実績を勝ち取れるほどの実力を魅せないと行けない。

 1600mで1着、この時期ならこれが最低限だろう

 しかも、その1着が不可能なぐらい今の自分は周囲に置いていかれてる。


 ──2000Mで2分03秒! 


 は? 



 メイクデビュー前の模擬で2000Mというのはかなりの長丁場だ。

 本来ジュニア級ではなくクラシック後半向けのステイヤータイプのウマ娘が走る距離。

 ジュニア級の王道は1200mからG1である朝日杯の1600mだろう。

 そもそも2000mを2分3秒だ4秒だと簡単に言うがクラシック級の重賞でも勝ち負けがありうるタイムだ。

 それを芝を張っているとはいえトレセンの模擬レースで2分4秒を切れと? 

 重賞どころかメイクデビューもまだまだ先なのに?


 ──この前、トレセンの模擬レース会場は表芝をすべて換装されたのは知ってる? 

 ──元の地面は硬いままだし張替え直後に大雨が振って以来ずっと雨が降ってないんだ

 ──新しい芝も根をバッチリ張って週末まで雨も無しなら過去一番に「パンパン」の芝だよ


 本当に何を言ってるんだこのガキ

 初等部であろうヒトミミのガキンチョが──知っている知識でも情報でもない

 そもそも2000mで2分4秒がそれだけ条件がついたとしてもメイクデビュー前では不可能な数字だと

 なぜ、それを知っている


 ──勝てるから

 ──お姉ちゃんなら絶対


 震えてた手を握りしめながらアタシを見上げる。

 あたしと、にらみ合う。

 たしかに

 2000mを2分4秒、いや5秒でも走れれば再びトレーナー達から注目されるかもしれない。

 可能性はゼロからコンマいくつかに戻る。

 レースで1位だけじゃ足りなかった。今のアタシは1位と「目を見張るタイム」が必要だ

 その条件が目の前にあるなら──すがりつくしかない

 だけど



 ──だけど今のあたしが2000Mを走って、どんなひどいタイムになるんだろう


 ──大丈夫

 ──お姉ちゃんの「努力」は裏切らない

 ──だから、明日から僕が模擬レースまでトレーナーになる


 本当になにを言ってるんだこのガキんちょは。

 どこからどう見てもただの子供。

 まともなトレーニングもサポートもできそうにない。


 ──どうせ大人がトレーナーになっても勝手にトレーニングするじゃん

 ──僕なら契約破棄しないよ、週末までだけど

 ──あと、ちゃんとトレーナー資格あるよ? 


 本当になんなのだこのガキンチョは

 トレーナー手帳には『特殊』『年齢制限解除』『保護者監督条件』と赤い判が押されていた


 話を聞けば

 両親がトレーナーで、このガキんちょは一応「天才児」らしい。

 どう見てもそうは見えない、あまりモノを考えなさそうなゆるふわなどこにでもいるガキだ。

 飛び級でトレーナー技能資格──筆記と口述を合格。

 ただし学歴面での大学、専門学校への飛び級が認められてないので『両親などトレーナーの保護観察のもと』トレーナーとしての資格を有するらしい。

 こんなクソガキが天才で難関のはずのトレーナー試験を通ってるというのか。

 認めたくない。


 とはいえ、だ。

 最低限この少年の父親はトレーナーとして模擬レースの結果次第ではダイワスカーレットのトレーナーになる可能性がある事など、疑問はあるが明るい話題もある。

 問題は、入学以来殆どタイムが伸びてないあたし自身だが──


 ──明日から魔法のために週末まで一緒にきてね。

 ──言うこと聞けないなら模擬レースの魔法も、お父さんへのお願いもしないよ


 あああっ、このクソガキはっ!!! 



 翌日

 あたしはクソガキといっしょに蹄鉄を買いに来ていた。

 てっきり週末の模擬レースまで特訓をするのかと思って拍子抜けをしたが


 軽いシューズとそのシューズ用の蹄鉄、アルミ合金のやつ


 これを選ぶのに結構一苦労した。

 もともとトレーニング用に合わせた蹄鉄はジュラルミンの丈夫なものだったが、レースまで数日ということでこのシューズと新しい蹄鉄でやっていくらしい。

 その後そのシューズを履いてランニング──ではなく河川敷を歩くだけ。

 靴擦れ一つで時期的に致命傷になりうると言うことでジョグすら禁止。

 ありえない──レースまで数日しかないのに練習をしないなんて。

 その翌日はもっと酷かった

 人工のクッション芝を敷いたプールを蹄鉄付きのシューズであるくだけ。

 しかも30分程度で出て、一生このガキトレにマッサージをされてた。もみ返しでもでたのか夜お風呂に入るときにも太ももに違和感があった

 あのガキ、マッサージと称してあたしの足を触る痴漢だったらこ56すわよ。






 さらに翌日、レース前日

 最後の追い切り──と思ったらトレーナー室で足をチェックされた。

 こいつ本当にマセガキでいやらしい目でみてるんじゃないでしょうね。

 というより──模擬レースは明日。幸い雨は降っていないが


 ──明日、雨降っちゃうかもね。


 あたしの足を小さな両手でつかみながら、ガキトレは呟いた。

 明日の予報は夕方から雨。

 多少雨が早まってしまえば馬場が濡れた中模擬レースがはじまる。

 レースの1位は勿論──それなりのタイムを出さないといけないあたしにとってあまり良くない天候だ。

 ちょっとでも走りたい。トレーニングをしたい。

 そうでなければ──最後の模擬レースになってしまうかもしれないのに、一生悔やむ。


 ──だめだよ

 ──明日のレース前のウォームアップまでは我慢して



 約束は2つ

 1つ、模擬レースまではガキンチョのトレーニング指示に従う

 1つ、勝手なトレーニングを絶対にしない

 あたしだって数日ぐらいの約束なら守る。というかトレーニング指示もなにも、この3日トレーニングすらしてない、正直仕上がりもクソもない最悪な状況だ。

 足を撫でる手が止まる

 ガキンチョは、今まで通りの明るい人懐っこそうな声色、でも、真剣な空気だ。


 ──多分ギリギリ2000mは全力で走れると思う。

 ──でも、もし足に違和感があったらそこで絶対にレースは中止すること

 ──これは模擬レースなんだからもう一回ぐらいは模擬レースのチャンスがメイクデビュー前にはあると思う


 いや本当になにを言ってるんだろう。

 あたしは今までだって怪我や足に爆弾を抱えたことなんかない。

 走れというなら今だって2400mすら走れる自信はある──タイムは置いておいて。

 とはいえ。

 こいつがこの3日、一生懸命に足を撫でるそれは、多少は心地よかった。


 ──学校に出ないといけないから模擬レースはいけない。

 ──お父さんは多分見てると思う。


 ガキンチョは最後までガキンチョだ。なんて無責任。

 とはいえ、やる事が変わるわけでもない。

 今日はものすごく久しぶりに快眠できた気がする、ウォッカより早起きなのでウォッカが少し驚いた顔をしていた。

 脚は──軽い。もしかしたら、タイムはともかく1位は狙えるかもしれない。

 そんな思いでグラウンドに出た瞬間。

 ほほに水しぶきがつくような感触があった──小雨が振り始めた。

 ……しかた、ないか。

 1位を出せてもタイムが良くなければトレーナーたちから注目はされない。

 いや

 そもそもが今のあたしだと信用もマイナスだ。

 それは誰も悪くない。あたし自身の責任だ。

 だから──あたしは、あたしのために。


 あれ、ダイワスカーレットじゃん。

 このレースって未契約限定でしょ? またかよ

 入学時は華々しかったけどいまやプライドだけの気性難じゃなあ。


 遠くの声なのにずいぶんとあたしの悪口だと分かってしまう。

 トレーナーなのだからウマミミの聴覚ぐらい意識して陰口を言ってほしいものだ。

 分かってるわよ。 分かってる。

 今のアタシはプライドだけの3流ウマ娘。今日のこれだって誰も1位になると思ってない。

 でもね


 ──1番になれる

 ──お姉ちゃんなら絶対

 ──お姉ちゃんの頑張りは


 こんなどうしようもないあたしを

 あんなにガタガタガタガタ震えて馬鹿みたいに怯えても

 真っ向から睨み返して信じたクソガキがいたのよ

 だったら──ここでみっともなくピエロになってでも信じられたあたしのためにも全力で走ってやろうじゃない






 …………最悪

 本当に最悪の気分だ。

 努力も頑張りも自分のため。

 一番になるためにあたしは誰よりも誰よりも努力してきた。

 それなのに。


 ──すごいね、やっぱり1番になったって──


 駆け寄ってきた子供──あのクソガキの胸ぐらを掴む。

 怯えたように息を飲むのは分かったけどあたしは頭に血が登ってた。

 ……言いなさい。

 ……魔法っていったわね? アンタ──私になにをした? 


 2000m 2分04秒1 上がり35.0

 小雨の稍重

 ぬれた水分で芝が滑る中のこのタイムは、メイクデビュー前の模擬レースとしては異例も異例

 その結果にトレーナーからもどよめきが走った


 アタシは誰よりも努力してきた。

 入学時は中等部試験としてウォッカと同タイムのレコード。

 それからも誰よりも頑張った、ウォッカに負けないように──将来のシニアの先輩にも負けないように。

 正直嫌になるときだっていくらでもあった。 めんどくさい、身体が痛い、脚が痛い。

 怪我にだけは気をつけて、歯を食いしばってやってきた。

 それでも、結果は出なかった。むしろ周囲に抜かされ、差はどんどん広がっていった。

 それが。

 たった数日の「魔法」程度で。

 たった数日程度で今までの努力を否定なんかされてたまるか。


 ──魔法なんか無いよ

 ──レースの結果も、タイムも

 ──今まで全くタイムが伸びなかったのも

 ──全部、お姉ちゃんの『努力』と『頑張り』の結果だよ




 過度なオーバーワークは入学すぐに来ていたのではないか。

 本来ならば脚の故障や痛み、違和感などで気付けるはずのそれは恵まれすぎた身体のせいで無事すごせてしまった。

 しかし筋肉が過労状態なことには変わらず、酸欠、ガス欠のまま走ってるそれに近い状態だった。

 数日間の休養とマッサージがあれば『ある程度』全力で走る事が出来る程度。

 数日の休養をもってしても1レース全力で走るのが精一杯なほど『自覚なき疲労』が溜まっていたという予測。


 ──だから、魔法なんかない。

 ──今までのトレーニングの結果が少しだけ身体が引き出せるようになっただけ。

 ──でも全力で2000mなんて距離を走ったからまた身体がだるさや重さで真っ当に走れる状態じゃなくなると思う

 ──きちんと休養とリハビリを繰り返して、体中の疲労を抜いて栄養と酸素で身体を満たしてあげれば

 ──ウォッカにだって『まだ』負けない


 トレーニングの効果はあるが、それは無駄が多すぎるトレーニング

 疲労でトレーニングの効果が出せない以上、今でも大きく出遅れてることにはかわりない


 ──お姉ちゃんなら1番になれるよ





後日

 後から聞いたが

 あたしの入学試験のレースから、コイツはずっと見ていたらしい。

 将来G1をいくつ取るのだろう。

 クラシックで、シニアでウォッカと何度戦うのだろう。

 シニアで歴代の猛者とどのように戦うのだろう。

 デビュー前から随分熱心なファンも居たものだ、そんなウマ娘がこんな体たらくだったとは

 あたし自身が、情けない。しかもレース結果に怒って、こんな子どもの胸ぐらまで掴んで。

 あたしは──まだ、1番になれる? どうしたらいい? 


 ──なれるよ

 ──お姉ちゃんが1番頑張ってるもの、だから絶対1番になれる


 ごめん。

 あんたがこんなに信じてるのに。

 自分をピエロとか3流とか、諦めてたかもしれない。


 ……そうね

 決めた。

 アンタはトレーナーでもあるんでしょ? 

 まだ新人ならアタシがあんたも1番にしてあげるわ、天才だかなんだか知らないけど実績がつかなきゃ意味ないものね。

 アンタのいう事なら信じられるし聞いてあげるわよ。

 そんなあたしの申し出に、今までにないほど弱気にまごついてるのを見て、思わず吹き出してしまう。

 やっぱコイツただのお子様じゃない。

 そんなお子様がウマ娘のあたしを、あんなに怯えても睨み返して踏ん張って──証明したんだもの。

 トレーナーの魔法って奴、もうすこし信じさせて貰うわよ。

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