ダイナレスラーとスーパー銭湯
ガチムチダイナレスリング今日はみんなでスーパー銭湯にきている。
全員都合よく時間が空いており、じゃあ皆集まってどこかに行くかとなって、急な話で遠出もできないしとなった結果がスーパー銭湯だった。
平日の早めの時刻ということもあり、他の客はほとんどおらずまるで貸切状態だ。
広い浴場に足を踏み入れると、いつもの風呂とは全く違うその風景に俄然テンションが上がってくる。
「というわけでばーーーーーん!!」
「他の客が全く居ないわけじゃないんだから迷惑になることはするなよ?」
パンクラトプスには釘を刺されてしまったが、見知った顔ばかりならばと自らの腰に巻いていたタオルを意気揚々と剥ぎ取った。
う〜ん、この解放感。
「パンクラトプスもタオル取らない?」
「取らない、恥ずかしい」
「恥ずかしがるようモノじゃないでしょ、自慢できる立派なモノだよ」
「いやそういうこととはまた別にだな……」
そうして手をワキワキさせながらどうにか隙を見てタオルを奪おうとする俺と、奪われまいとするパンクラトプスが暫し睨み合う。
「何やってんだよお前ら」
呆れながら声をかけてきたのはキングだった。
後ろにはカパプテラもついてきている。
そして二人ともタオルを腰に巻いていない全裸スタイルだった。
俺ですら浴場の人混み具合を確認するまでは巻いていたというのに、この二人の自分の身体への自信はマジで凄いな。
まあ眼福なので俺としては嬉しい限りである。
そういえばキングの逸物をまじまじと眺められる機会はこれまでなかったし、カパプテラの裸に至っては初めて見た。
キングの逸物は平常時でも驚くほど大きく、淫水焼けした雁太な先端は艶やかに黒光りしている。
それに比べればカパプテラのモノは随分と細長く見えるが、皮は余っておらずシルエットも美しく、先端から中程まで薄い桃色に彩られたそれは引き締まった肉体との均整の取れた良いモノだ。
サイズで気後れせずに堂々と衆目に晒すことへの謎の説得感がある。
実際俺の不躾な視線にも全く恥じらう様子を見せない。
キング側に視線を戻し、股間を視界に収めながらも意識していない体裁で語りかけた。
「ねえキング〜、パンクラトプスのタオル奪うの手伝ってよ〜」
「パンクラに嫌われたくないからやだ」
「えー」
キングならノリノリで一緒に馬鹿してくれると思ったのに肩透かし。
パンクラトプスもキングが乗ってくるだろうと身構えていたようだがあっさり引いたことに驚いているようだ。
「あれ、マスターとキングさん何してるんですか?」
そんな茶番を繰り広げていれば、今度はシステゴくんとコエロが入ってくる。
いつも大人しくこういうときに恥ずかしがりそうなシステゴくんはノーガードで、逆に日頃の太々しく斜に構えた態度でそのあたり気にしないようなイメージが強かったコエロはしっかりタオルを巻いていた。
ちょっと意外。
「ほう……大きいのは知ってたけど生で見るとこれはまたなかなか」
「おいあまりジロジロ見てやるな、システゴも困って……ないのか?」
「はぁ、まあなんか最近は人に見られる機会も増えて慣れちゃったといいますか」
「そうか……」
スラリと締まったシステゴくんの身体の印象に合わせるように長い印象を与える逸物は、僅かに余り気味の包皮から除く艶やかな桃色がまだ使い込まれていない初々しさを強調しているようだ。
噂に聞く彼の性豪っぷりにこの綺麗な姿を拝める時間ももう短いのかも知れないと思うと貴重な物を見られた気分でちょっと感慨深い。
そんな視線をパンクラトプスから嗜められたものの、当のシステゴくん本人は見られても全く気にしていない様子だ。
そこでロックオン先をコエロに替えて手をワキワキと躙り寄る。
堂々と晒されたものよりも大切に隠されたモノの方が気になるというのは人間のさがだ。
「というわけでキング手伝って〜」
「応よ!」
「ちょっ!? さっきパンクラさんに対してのときは断ってたじゃないッスか!!」
「それはそれ、これはこれ。 折角の裸の付き合いで隠してんじゃねーぞ!!」
「や、やめろッス〜〜〜〜!!」
タオルを死守することはもう無理だろうなと勘づきつつもせめてもの抵抗を試みるコエロが初心な乙女のようでかわいい。
そうして悪漢二人から逃れようと器用に立ち位置を変えるコエロの背後にいきなり滑り込む人影。
反応の遅れたコエロから見事にタオルを剥ぎ取った人物は何と驚くことにシステゴくんだった。
お陰様でご開帳されたコエロの逸物はといえば、随分と控えめだった。
いや決して小さくはないのだが、周りの比較対象のせいで小ぢんまりした印象は拭えない。
長さでいえばカパプテラと同程度、少しふっくらしつつも余り気味の包皮のその先は遊び慣れているのか桃色に若干の燻みが見られるがまだ若々しく可愛らしい印象が残る。
コエロのプライドの高さから言えば隠そうとしたことも頷けるなと勝手に納得した。
「見られても困るもんじゃないだろ別に、そんなことで公共の場で騒がない」
「「「ごめんなさい」」」
そう言われればコエロも渋々従うほかなく、三人一緒に頭を下げる。
しかしシステゴくんも変わったなぁ、生真面目一辺倒の昔なら考えられない暴挙だ。
肩の力が抜けたというか、箍が外れてしまったというか……
まあ根っこの生真面目さは相変わらずなので心配することではないとは思う。
「俺ばっかり見られてズルいッス、パンクラさんも晒すッス」
「えぇ……俺ェ?」
「正直俺も興味あります」
「ちょっとシステゴくん!?」
「仕方ねェなあ」
「いやお前、それでいいのかよ」
前言撤回、ちょっと天然の入ってるシステゴくんが箍が外れて怖いモノ知らずになったのは予想外に危険だった。
そしてかわいい後輩の純粋無垢な好奇心のためなら文字通り一肌脱ぐこともやぶさかではないと、キングのツッコミも無視してパンクラトプスの股間がそのヴェールを脱ぐ。
「まだ一枚被ってるけどね」
「やかましいわ!」
「わぁ……すごく大きいですね」
「お、応……ありがとう?」
「なんやお前ら楽しそうにしとるのぉ?」
直に見比べてれば太さのパンクラトプス、長さのキングだな等と脳内で妄言を垂れ流していればシステゴくんが何故か食いついてきた。
その対応への妙な空気感をどうしようかと逡巡する暇もなく、場の空気を吹き飛ばすようにアンガの銅鑼声が掛けられる。
後ろにはアンキロとアンペロくんもついてくる。
「アンペロくんデカッ!?」
「……ッスゥ」
「恥ずかしがらなくてもいいさァ、むしろ立派なナニを自慢してやりな」
「うひょ〜、どこを向いても眼福眼福」
三人ともタオルで隠さない全裸姿だった。
アンペロくんの逸物はシステゴくんと同程度の長さだが、太さもあってバランスのいいキングと同じタイプで、実際のサイズはキングより一回り小さいものの身長自体がキングより一回り小さいこともあってぱっと見のサイズ感は正にキングサイズ。
というかキングが大きすぎるのでそれより一回り小さい程度ではまだまだ立派な巨根である。
キングと違ってまだ使い込んでいないのか先端が綺麗な桃色でかわいい。
などと評論家気取りで観察を続けていれば、俺の不躾な声と視線を受けてアンペロくんは持ち込んだ洗面器で股間を隠してしまった。
残念。
視線を隣に流してアンキロを見れば、まあ充分に大きいながらもアンペロくんのインパクトの直後だと物足りないな、などと失礼極まりない感想を抱く。
こちらも太さと長さのバランスも良く、しっかり剥けた先端は淫水焼けに燻みほどよい風格を醸し出していた。
そうしてアンガの股間に視線を向ければ、でっぷりとした陰嚢の上にちょこんと載った皮被りのかわいらしい逸物があった。
いや太さがあるのと体格の横幅で必要以上に小さく見えているだけで……
と、そこまで考えて視線を皆の腰の高さに巡らせてから、もう一度アンガの股間を凝視する。
うん、やっぱり実寸もそんなに大したことないなこれ。
アンガの一つ上のランクとなると最早全てを諦めて自棄になり堂々と股間を晒しているコエロや、何故か両腕を頭の後ろで組んでS字ポーズのモデル立ちをするカパプテラになるのだが、その二人にすら大きく溝を開けられている。
ふと視線を上げれば、先ほどの俺と全く同じ視線の辿り方の末に俺の股間で目を止めたアンガの顔があった。
分かっている、人様の逸物を好き勝手に評している自分自身の愚息がどれほど矮小なものかなど百も承知だ。
こちらの視線に気づいたアンガと目と目で通じ合い、どちらともなく歩み寄る。
俺たちは熱い抱擁を交わした。
いいさ、格差社会の中には必ず底辺ヒエラルキーを担わなければいけない存在が必要なのだ。
その重責を分かち合える友がいるという事実だけで俺たちは充分に救われている。
「アンガッ!!」
「兄弟ッ!!」
「「心の友よッ!!!」」
「お前らその辺りにしとけよ……他の客の存在忘れんなよ?」
呆れつつも生暖かい眼差しでそうパンクラトプスに嗜められたので名残惜しみながらも抱擁を解いた。
今度二人で美味い酒でも飲もうな、俺下戸だけど。
「すまない、準備に手間取って遅くなった」
ひと段落ついたところで最後に現れたのはスピノだった。
その股間に目を向け、思わず声を失う。
余りに圧倒的な存在に目を奪われたとき、人間は言葉を失うのだと知った。
生えている場所が股間なのだから間違いないはずなのに、同じ雄として有している器官だとは俄に信じ難いほどに巨大なモノがそこには鎮座していた。
「えっ、キング……アンガ……アレ、ハイッタノ?」
「ああ、あいつ膨張率そんなでもないんであれ以上大きくならんから安心しろ」
「尻って自分が思っとる以上にかなり伸びるぞ」
いや安心しろって、歩くたびにズル剥けの桃色が、重量感で、ブランブランって。
思わず声もカタコトになり、思考さえも千々に千切れてゆく。
奪われた視線を無理やり切ってぎこちなく首を回して周囲を伺えば、ここまで激しい衝撃を受けているのは俺だけの様子だった。
みんな予め知っていたのか、ダイナレスラーサイズとしてはこれでも恐るるに足らずということなのか。
「大丈夫だ、アレが規格外なのは共通認識だからお前は悪くない」
俺の全てを見透かしてパンクラトプスが肩に手を掛けながら優しく諭してくれた。
やっと平静を取り戻し、再びスピノの股間を見る。
「すごく……大きいです……」
半ば義務感だけで、なんとかその言葉だけを喉から絞り出した。
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下世話な品評会も終わり、やっとまともに風呂を楽しむ。
とはいえ俺は刷り込みされた雛鳥のようにパンクラトプスの後を付いて回るのだが。
迷惑がるなら流石に止めるつもりだったが、邪険に扱われることもなかったので並んで洗い場に腰をおろした。
「背中流そうか?」
「ああ、宜しく頼む」
「うわ、このボディタオルめっちゃゴワゴワじゃん」
「鱗の表面をガシガシ洗い流すにはそれぐらいの硬さが必要なんだよ」
「あっ、そうか……じゃあボディソープも特別だったり?」
「細かいことはよくわからんが、まあ一応は鱗肌専用として売られてるやつ使ってるな」
「へぇー」
「こだわるやつは人間の髪の毛みたいに鱗にも艶出すために何種類も組み合わせてるみたいだぞ、ほれ」
顎で指し示した先にはキングに身体を洗わせるカパプテラの姿があった。
確かに並べられたボトルの数は五種類にも及び、キングが泡を洗い流しては忙しなく次の洗剤を泡立てている。
…………まあ流石にお互い背中の流し合いをしているのだとは思うが、その作業量のせいでキングをコキ使っている構図になっているのはカパプテラ的にいいのそれ?
あの二人のパワーバランスは複雑怪奇でたまに見ていて分からなくなる。
「……とまあ、あんな感じになる」
「うん……じゃあ背中流すね」
「応」
「痒いところとかない?」
「特にはないが、そうだな……背骨に沿った辺りを重点的に擦ってもらえるか?」
「りょーかい」
力を込めてゴシゴシゴシゴシ……
背中の大きさもあって案外重労働かもしれない。
幸い幾ら汗をかいても直ぐに洗い流してさっぱりできるので無心にひたすら腕を動かし続ける。
「はあ〜……他人に洗ってもらえるのは気持ちいいもんだな」
「どうせなら前も洗って気持ちよくしてあげようか?」
「公共の場でそういうのは止めんか!!」
「おやおや、俺は『他人に洗われるのは気持ちいい』って言ったから胸や腹まで洗ってあげようって心算だったのにパンクラトプスは一体どんなエッチなことを考えちゃったのかなぁ?」
「くっ、ハメやがったなテメェ!?」
直ぐにそっち方面に考えが走るあたりもう完全に俺色に染まっていることを確認できて満足です。
見事にハメられたパンクラトプスはといえば、二度とそういう勘違いの起こしようがないようにと洗面器にぬるま湯を張り皮を剥いた先端を浸して早々に洗い始めた。
「ほうほう、なるほど」
「…………見ていて面白いもんじゃないだろ?」
「いやかなり楽しいけど」
「はあ……お前はそういう奴だったよな」
以降はトラブルもなく粛々と身体を洗い終えた。
流石に常時フルスロットルで巫山戯続けるのはパンクラトプスにも悪いし俺も無駄に疲れる。
無言でパーソナルスペースを共有する癒しのひとときも関係を長く続けるには重要だ。
などと以前語ったときには『お前がそれを言うか……』と呆れられた、解せぬ。
「ほら、次はお前の背中を流してやるよ」
「ありがとうね」
「力加減間違えて痛くするかもしれんからそのときはすぐに言えよ」
そう注意した割には器用で丁寧な力加減で背中の垢と角質が心地よく削り落とされていく。
まあ普段からもっとデリケートな部分を触れ合っている仲なのでこの手の力加減についてはパンクラトプスはお手のものである。
他人に洗ってもらうのは気持ちいいというのは俺も同意見だ。
家のバスルームが個人用かつパンクラトプスの体格が大きいのもあって二人一緒に入るには余りにも手狭で、こういう場所にこないとなかなか背中の流し合いなんてできないんだよなあ。
「うっし、洗い終わったし風呂入るか」
「スーパー銭湯に来たんだし、折角ならサウナ入らない?」
「いいなサウナ、よっしゃ行くか!」
分かりやすくテンションが上がるパンクラトプスがかわいい。
俺も分かるよ。
単純に汗を流す気持ちよさ以上に、ちょっとした特別感が出るのがいいよねサウナ。
そうして二人、ウキウキでサウナ室の扉を開けると先客がいた。
キングとスピノだった。
そこに俺とパンクラトプスも加わる。
決して狭くはないサウナ室の内部が、ダイナレスラーたちの巨躯の体積で一瞬で埋め尽くされてしまった。
本当に他の客のが少ないタイミングで来店してよかった……
「二人ともサウナ好きなの?」
「嗚呼、サウナはいい……」
「まあ悪くはないよな」
キングの言葉を正直に受け取るならアレだ、好きでもない癖にいつもの無駄な対抗心でスピノにホイホイ着いてきちゃって引っ込みつかなくなったやつ。
その証拠に二人とも最上段を陣取っているものの、自然体で感じ入るスピノの様子に対してキングはいかにも無理矢理堪えていますって顔で辛そうに汗を滝のように流している。
まあ無理して倒れそうになったらパンクラトプスに頼んで引き摺り出して貰おう。
俺は無理せず最下段に、パンクラトプスは中段に腰を下ろした。
ふと部屋の隅に目をやると、巨大なボウルに山盛りの盛り塩を見つけた。
ああ、これ塩サウナってやつか。
初めてだったが物は試しにと塩を腕や背中に盛っていく。
ゴシゴシと擦り込むのは粗塩の粒子が皮膚を傷つけてしまうためNGらしいので、汗に自然と溶けるのを静かに待った。
熱に浮かされた頭に、徒然なるままに益体のない思考の断片ばかりが過ぎ去ってゆく。
ふとその中に、今の自分を客観視するとどうかという思考が現れた。
服を脱ぎ、身体を洗い、塩を乗せて遠火でじっくり火入。
いや俺は食材か、と脳内で一人ツッコミを入れたが、更なる無秩序な思考の追い討ちを喰らう。
──────『注文の多い料理店』
思わずハッとした。
今の状況は正にあの物語そのものではないか。
気配に振り返れば蒸気の向こう側に四つの眼光。
二頭の頂点捕食者の姿がそこにはあった。
思わず立ち上がり後ずさる。
その動きに反応するように、巨大な影の片方がゆらりと動いた。
ゆっくりと緩慢に、しかし確実にこちらに迫ってくる。
その動きはまるで自由落下のように加速度的に早まり、気づいたときにはあっという間に距離が詰められていた。
「うわあああああああああああああ!!!」
悲鳴も虚しくその巨躯に押し倒された俺の身体はもう一切動かせない。
獰猛な歯列を成すその顎門が開かれ、そして……
「きゅ〜〜〜………………」
俺の視界に入った顔は、完全にのぼせ上がって目を回したキングTレッスルその人だった。
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パンクラトプスによって水風呂にぶち込まれたキングはしばらくして見事に復活を遂げた。
人間なら熱中症なりヒートショックなどの危険を疑うべきなのだが、流石はダイナレスラーの丈夫さが資本の肉体というべきか。
そんなトラブルもあったもののしっかり整った身体に満足して浴場を後にし、瓶詰めのコーヒー牛乳を購入。
そこで牛乳瓶片手のパンクラトプスと再び相見える。
「お前もか」
「銭湯といったらやっぱりこれでしょ」
乾杯するように牛乳瓶を鳴らし、二人一緒に一気に呷る。
「「ぷはぁっ!!」」
二人揃ってその美味さに喉を鳴らし、何故かそれが可笑しくて笑い合った。
こんなありふれた日常のひとときが、とても尊く輝いて見えていた。