ダイズスレにしたい
「おれは友達いないしなぁ」
サウサンドサニー号、その満月の下の宴、真っ只中の狙撃手の発言である。
酔っているのだろう、頬を赤らめ射撃手は寂しげに笑う。
「はぁ?」
誰の声か、重なる麦わらの一味メンバーの声にシャチは息をのむ。
きょとん? とウソップの横で首を傾げるのは親友にして弟分、ハートの海賊団マスコット兼No.2のシロクマことベポであった。
「そうなの? 変なの~」
(そうなの? じゃないんだよなあ!!)
(後ろ~、いやベポからみたら正面~!)
シャチはペンギンと微かに触れ合う互いの指先の震えから同じ恐怖を受信する。
さすが10年越えの友情だ、いや、親友だ。
死なば諸共だ。いや、こんなアホらしいことで死にたくない。
さっきまで肉を片手にニコニコ笑っていた麦わらの青年は表情が抜け落ち、給仕に走り回っていたコックの足は止まりうっすらと焔を纏う。隻眼の剣士は鯉口を切り、骸骨はぞっとする黄泉にも似た冷気を発する。
月明かりの下、確認できるだけでもこの有様だ。
だがその異様にベポは気づかない。
「さっきも話したけど、おれ達は北の海で会ってから一番の仲間で友だちなんだけど長鼻は違うの?」
ウソップは手の中でジョッキを弄び唸る。
「うーん。おれさ、友だちっていうかなんていうか、故郷にカヤ、いやわかんないか。女の子が一人いるくらいでさ」
いや、カヤも友だちって思ってくれてるか自信ないんだけど…………と小さく呟かれた言葉にシャチは首を全力で振りたかった。多分、それ友だち以上に相手は思ってると謎の確信がある。
「他に友だちっていなくて」
謎の圧力が船上を覆う、ような気がした。いっそ覇王色の覇気でもなんでも構わないから出せよ、とシャチは泣きたくなる。この恐ろしい会話を一刻も早く止めて欲しい。
「そうなの? 長鼻は結構慕われそうなタイプなのに」
うん、それは間違いないだろう。いつの間にか静まり返った船の上、耳をうさぎにして一言だって聞き漏らすまいとしている麦わらの一味がその代表格だ。
「故郷にも仲間はいたよ。大事な奴らが三人もいた。おれにはもったいないくらい良い仲間だ。でも仲間って友だちとはまた違うしさ」
視界の端で焦る我らがキャプテンがいる。だが元七海海とはいえどもどうしたらよいか動き損ねている。気持ちはわかる。シャチだってどうしたらいいかわからない。
「おれはハートのみんなが友だちで仲間だよ、長鼻もそうじゃないの?」
ウソップは腕組みして、首を振る。
「仲間だよ。皆、大切でおれの命なんてこいつらの夢のためなら必要なら幾つやってもいい大事な仲間。尊敬してるし、一緒にいると楽しい。負けたくないって思う。でもそれって友だちじゃないだろ? なんかちょっと違う。おれ、故郷の村にも友だちいなかったからさ、正直作り方がわかんないだよな」
だからお前たちの関係が羨ましいよ、とウソップは言う。
「そっかー、それなら長鼻、ううん、ウソップ、おれと友だちになろ?」
おれじゃ嫌? と笑うベポはとても可愛かった、可愛いんだがシャチは泣きたくなる。
「いや、嬉しいけど」
「じゃあおれがウソップの友だち第一ご……」
「シャンブルズ」
と、ここで我らの船長の声が響く。さすがだ。キャプテン!
「麦わら屋、宴はお開きだ」
「……おう」
「えっ。ちょっとキャプテン」
「ベポ」
「アイ」
「帰るぞ」
から始まるウソップの友だちつくり