スレの67

スレの67






「ふぅん?トレーナー君もなかなかスミに置けないじゃないか」


感情の及ぼす力を研究する者としてファンレターというのは最高の実験材料の一つ。なのでこうして時間がある時に読むようにしているのだが……まさかトレーナー君にラブレターを送る物好きがいるとは思わなかったよ。


お弁当の美味しさだとかそういう親しいからこそ知ることのできる彼の一面、これを知らない人からすれば彼はイカれた目をしたレース狂にしか映らないはずだ。


「まあ、どうでもいい事だ。……しかし、これは僥倖だ!ちょうど不快感がレースに与える影響について調…べ…?」


今、私はなんと言った?『不快』?この手紙がか?この、顔も知らない誰かの書いたトレーナー君への手紙がか?……いや、正確に言えば『誰かがトレーナー君を好きでいる』ということがか……?


私と彼は単なる研究者とモルモットの関係に過ぎない……とは流石の私ももう言えない。だが、別に恋仲というわけでもない。彼が誰に好かれようと、誰を好こうと関係ないはずだ。


なのに何故だ?何故こうも苛立つ?彼が誰かに好かれているという事実に。誰かとそういう仲になるかもという空想に。……私が彼とそういう関係にならないという予測に。


わからない。この気持ちはなんだ?私はトレーナー君をどうしたい?どうなりたい?彼にどう思っていて欲しい?


わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない…!


なんだこれは?なんなんだ?不合理だ、非理性的だ、非論理的だ。あまりに感情的で、自分勝手。怒りも恐れも感じる。酷くドロドロとした意味不明なこの感情は……?


「まさか、ねぇ」


これが恋か?愛なのか?私は彼を男として見ていて、彼に女と思われたいと?私が、か?彼に対して、か?何もかもわからない。だが、一つだけ分かることがある。やりたいと、やらなければと思うことがある。


「いらない紙はどこだったかな———」


———書き置きを残した。……私の心を乱す原因とはいえ、実験資料を無下に扱うような事はできないからね。だから、ファンレターに添えるように一枚の紙を残した。混乱する心を鎮めるため、軽く走っている間にトレーナー君がこの手紙を読んでもいいように。


『君が誰のモルモットか、誰のゲージに入れられているのか忘れないように』と


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