タイトル:神社生まれのFさん
信仰にノイズが混じるようになって来たことを、騒々神は感じていた。
「っかし~な?」
最近は信仰の拡大と、あとは純粋に怪異との相対に慣れない人間の為を思って、妖怪上がりの神として怪異に巻き込まれた人間を助けたりしていたのだが……どうも、集まってくる信仰の様子がおかしい。
まるで自分ではない何かに対する信仰が此方へ混線しているような……
「これ、放置すると不味いよな」
騒々神は不定族であり、信仰によって存在を規定する神性である。不定族らしからぬ精神干渉に対する脆弱性は妖怪と神性、他者の観測の影響を受けやすい要素を重複して所有している事に起因したもので……つまり、信仰の違和感を放置しておくと、自らの存在そのものが変質してしまう危険性を帯びているのだ。
他者の信仰やイメージによって強さが変動する性質は、パワーアップの源にもなるが同時に危険も帯びている。
「なんかなぁ。怖がられてる気がするんだよな、塗り壁や布切りにも」
その恐怖は当然だ。「妖怪や怪異は滅すべきものだ」……その認識が、日に日に強くなっていく自覚があった。
今は敵対的な個体から人間を助けるだけで済んでいる。然し、いずれ仲間のドッペルゲンガーや、友人のポルターガイストにも牙を向いてしまうのではないか。
──それが、酷く恐ろしかった。
(ひとりは……いやだ)
「……かみさま?」
「おっと。ごめんな、どうした?」
舌足らずな声に意識を引き戻される。そう、つい先程も騒々神は釣りに出ていた少年を襲った首吊りの怪異をコスモス・レガリアから多種多様な力を混合した光弾を放ち退けたところだったのだ。
「なんだかボーッとしてたみたいだったから……助けてくれて本当にありがとう。『そこまでだ!』って言いながらあいつをぶっ飛ばしてくれたの、凄くカッコよかった!」
「へへっ」
「やっぱり……」
・・・ ・・
「神社生まれって、凄いね!」
「……ん?」
キラキラと目を輝かせる少年に得意になっていたが、その文言に引っかかるものを覚えて。
「……あれ、違った?古い神社で神格を得たのがかみさまの始まりだって聞いたんだけど……」
「それは合ってるぞー。……そうか、あいつか……!」
それは、実話怪談……創作と報告の狭間に生まれた、怪異を滅す性質の。
他者の語りから存在を確立される、それそのものが怪異。
「『寺生まれのTさん』!成る程な……あいつ、俺と重なってやがる!」
*
「なあ、あの記事読んだか?暇神ってどこにでも脈絡なく現れて怪異を倒して去っていく怪異『寺生まれのTさん』の同位体なんだってよ。お前知ってる?寺生まれのTさん」
「あー知ってる知ってる、前の世界にあったよTさんの話。確かに流れをぶったぎって転移でもどこにでも出てくる軍服ロリはサプライズTさん理論のエッセンスだいぶあるな。でもさ……」
「うん」
「それMOOの記事じゃん」
「まあそうなんだけども」
*
「ひまままま!」
騒々神を模したぬいぐるみが無表情で笑う。
自身に何が重ねられているかを理解した騒々神の対応は迅速だった。信憑性だけがないおもしろ与太雑誌MOOに、「騒々神=寺生まれのTさん」説を匿名で寄稿したのだ。
「これで本体≠Tさんの認識も広まって、信仰も元通りになるひまね」
ひまままま、とほくそ笑むぬいの後ろから突如響き渡る声!
「そこまでだ!破ぁ!!!」
「ひまーっ!?」
放たれる青い光弾!吹き飛ばされるぬいぐるみ!
そう!Tさんと混同された状態の騒々神が活躍し、その状態で信仰を稼いだ上でMOOを利用して自身と分離したことで!
怪異殺しの怪異、「寺生まれのTさん」もまた……実体を得るまでに至ったのである!
「そこまでだ!破ぁ!!!」
「なにぃっ!?」
突如として空間に穴が開き、コスモス・レガリアから放たれる光弾がTさんに激突する!
当然、ぬいを攻撃された騒々神も黙ってはいない!友達や仲間の怪異がいつ襲われるかだって分からないのだ!両者共にお互いを見逃す理由は皆無!
七色の光弾と青色の光弾が激しくぶつかり合う!
俺たちの戦いは……始まったばかりだ(ヤケクソ)!!!!!!!!!!!!
(なにもかもが)おわり