ゼフとの別れ

ゼフとの別れ


島に残した代理人を通して、鍵と権利書をゼフに渡す

その鍵はゼフの財宝を収めた貸金庫の鍵、権利書は財宝の正当な持ち主であることを証明するためのもの

無論、貸金庫の借主である私の実印付きだ

これを銀行に持っていき手続きすれば、晴れてあの財宝は彼の手元に戻っていく


「…さて、これで契約は満了だ

異論はないかな、ゼフ?」

『あぁ、金庫の鍵も確かに受け取ったし、権利書にも何の問題もなかった

妙な文言でも入れられてねェかと思ったが、杞憂で安心したぜ』

「心外だな、私はそんな詐欺まがいのようなことは…

まぁ、やる相手は選ぶとも」

『けっ、言ってろクソ狸』

「フフッ」


実際、ゼフの提供してくれたレシピは今後グラン・セーニョの事業拡大に際し、強打な武器になりうる

そんなものを提供してくれた彼を騙すような真似など、まぁ気が載らない限りはやらないとも

とは言え、このままハイさよならというのも味気ない

最後に、本当の善意で情報提供くらいはしてもいいだろう


「あぁそれと、一つだけ良いかな?」

『…なんだ?』

「その島から出ている定期便、それに乗っていける――島という場所に、造船会社が密集しているエリアがある

そこでなら、腕のいい船大工が見つかるだろう

私の紹介が不要なら、せめて自分の目で信頼に足る職人を見つけるといい」

『…礼は言わねェぞ』

「結構」

『…』


ここまで話して、ゼフが押し黙る

…まだ何かあるかな?


『…怪物、いや、○○さんよぉ

アンタにゃだいぶ世話になった、そこは素直に感謝してる』

「…急にどうしたんだ、ゼフ?改まって」

『最後まで黙って聞いてろ

ここまで世話になったついでだ、アンタにもう一つ、頼んどきてェことがある』

「…聞こう」

『…もし今後、おれの作ったメニューを出すっつう客船が、腹をすかせた奴を拾った時ぁ、そいつが何処の誰であれ---たとえ海賊や犯罪者であっても、飯は食わせてやってくんねェか?』

「…それは、飢餓の恐怖を知る海のコックとしての頼み、という事でいいのかな?」

『あぁそうだ、「食いてェ奴には食わせてやる」それがおれの信念だ

無論、こいつはアンタには関係のねェ話、守ってもらう義理もねぇ

ただ、気が向いたらでいい、偶の仏心でも出してくれりゃ、何もいいやしねェ』

「…分かった、考えておこう」


実際、この広大にして残虐な海のど真ん中で、食料が付き、明日ともわからぬ死の恐怖におびえる日々がどれほどつらいかなど、船に乗る者なら---一部除き---誰でも想像できるだろう

それは、海賊であろうと誰であろうと関係ない

まさに、元海賊であり海のコックでもあるゼフだからこその言葉と言える

まぁ私としては、よほど向こうが好戦的な態度をとっているでもなければ奴の言葉を拒む理由はない

そうでなくとも、海軍は見せしめのために海賊は生け捕りすることを推奨している

折角弱った海賊がいるならば、捕らえてから死なないよう食事を提供するのは当然ともいえる

まぁ何が言いたいかといえば、ゼフのこの頼みは積極的には動かずとも、能動的には叶えてやるのもやぶさかではないという事だ


『…恩に着るぜ、○○さん

じゃあ、これで本当にお別れだ

どっかの海であったら、また飯ぐらいは食わせてやる』

「おぉ、それは実に楽しみだ

ならばそれまで、せいぜい生きながらえてくれよ、ゼフ?」

『…アンタも敵は多いだろう?そのセリフはお互い様だ』

「フッ、確かにな

サンジ君も達者でな、ゼフのもとで思う存分腕を磨くといい」

『おう!いろいろありがとな、おっさん!

今度会ったときはジジイよりうめぇ飯作ってやるから楽しみにしててく『生意気一点じゃねぇチビナス!』イッッテーーー!』

「…うむ、頑張りたまえ

じゃあ、待ったどこかで」 


最後まで変わらない様子に安心し、私は受話器を取った

今後はゼフ達には監視もつけない、晴れて本当に彼らは自由の身だ

とは言えこれが本当に今生の別れになるかと言えば、私はそうは思わない

ゼフの腕を考えれば、店が有名になるのにそう時間はかからないだろう

そうなれば、彼らの居場所もすぐにわかるからな

まぁ、まずはレストランを作るための船大工を見つけ出さない限り、そこまでもたどり着けないが


「…そういえば」


船大工という思考に、ふと今日の日付が頭をよぎる

カレンダーを確認すると、その訳がすぐに分かった

そうだ、ちょうどトムの最終判決が出るのが来週だったな

本当はW7まで行って、判決後すぐに直接祝いたかったが、さすがにここ最近自由に動きすぎた

ゼフの件も含め書類がたまりにたまっているし、ウタの指導も停滞している

昨日の夜にも、バカラからしばらく外出は控えて仕事に専念するようにと小言を言われてしまったくらいだ

そもそも、この島からでは準備も含めどんなに急いでも1週間ではW7まで行くのは無理がある、ここは諦めるしかないだろう

まぁ判決の瞬間をその場で見れないのは残念ではあるが、海列車の全路線を開通させた今、あいつの免罪はもはや疑う余地もない

実際に判決が出たら電伝虫で一報を入れ、仕事が片付いたら後日改めて訪問すればいいだろう


…そうだ、その時には奴の好きな酒も持っていこうか

コンゴウフグの魚人で巨体を持つトムは、見かけに違わずなかなかの酒豪だ

そのため大概飲むときは瓶では足りない、樽単位で持っていく必要がある

奴の好物の酒は特別希少な物というわけではないが、さすがに何樽もということになれば早めに連絡して用意しておいてもらう必要があるだろう

私は早速受話器を置いたばかりの電伝虫を手に取り、交流のある酒屋へと発注の連絡を取った

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