セッしないと出れない部屋(認識阻害有)

セッしないと出れない部屋(認識阻害有)



右側に人の温もりを感じて目を覚ます。

温もりの先を見れば、景虎が静かに寝息を立てていた。またぞろいつの間に寝所に潜り込んだのかと、晴信はため息をついた。

魔甲斐での再会を経て晴信がカルデアに召喚されて後、互いに恋慕の思いを自覚してから紆余曲折はありつつも、晴信と景虎は恋仲になった。

今までの自分たちの関係に色恋が加わることで多少の変化はあったけれど、その変化がすっかり馴染んでしまうのにそう時間はかからなかった。

好敵手と恋人が一つにまとまっているなんてお得じゃないですか、とはいつかの景虎の言葉だった。実際そういう面も加味しない事はないが、それを完全に飲み込むには人の心は複雑なのだといつかこの女が完全に理解する日は来るのだろうか。

眠る景虎の頭を撫でたところで、晴信は部屋を見る。割り当ててもらっている自室でも、信長が占拠している部屋でもない、全く見覚えのない部屋だった。

自分と景虎が二人寝ても余裕がある無駄に大きなベッドとその横に小さな調度品を入れる棚、そして右側面の壁に扉があるだけの簡素な内装。まるで閨事のためだけにあるような空間だと感じた。

それに気付いたことで、晴信は慌てて自分と景虎の身体を確認する。どちらにも記憶にない情交の痕跡は見当たらず、そのことに晴信はひとまず胸を撫で下ろした。

そもそも、昨日の寝るまでの記憶ははっきりとしている。つまりは寝ている間にこの部屋に閉じ込められたと仮定した方がいいだろう。

晴信が思案していると、隣で身じろぐ気配がした。閉じられていた双方の瞼の下から現れた金緑色の瞳が晴信を捉える。

「おやぁ…晴信、何故私の寝床に?」

景虎は一瞬の警戒の後、晴信の顔を視認してその覇気を収める。どうやらこれは景虎の暴挙の類ではなかったようだ。

一番解決が楽だった仮定の一つを潰し、晴信は起き上がって辺りを見回す景虎に問いかける。

「ここはおまえの部屋でも俺の部屋でもない。俺もさっき目覚めたばかりで分からんのだが、ここに見覚えはあるか?」

「うーん、全くないですね。何なんでしょうかここは」

「それが分かれば苦労はせん」

結局、景虎もこの部屋に心当たりは無いようで首を捻る。

悩んでばかりいても仕方がない。

晴信はベッドから下り、魔力で編んだ当世風の衣装を纏う。そして、唯一の出入り口であろう扉へと向かった。

 

「セックスをしないと出られない部屋」

まさか意識がある内にこんな言葉を口から発することになるとは思わなかった。えらく頭の悪い、悪趣味な部屋だ。

扉は西洋風のドアノブ式で、ノブを回せば扉を開ける事は可能なはずだが、晴信がどれだけ力を入れてもびくともしないどころか壊れる気配すらなかった。

一度ドアノブから手を離し、息をついて扉をまじまじと見ればそんな文面が目に飛び込んでくるのだ。呆れてそれ以降二の句が繋げなくなるのも無理はないだろう。

「なんですかその変な部屋は」

晴信に続いて着替えてきた景虎が横から扉を覗き込んだ。晴信の視線の先に目をやれば、その目を見開き言葉を失った。

「…………聖杯の影響とか、誰かの悪戯とかですかね?」

「後者の場合は誰であれ、脱出後にそれなりの礼をする必要があるな」

なんとか絞り出した景虎の言葉に返答しながら、晴信は大きくため息をつく。悪戯の類とすれば最悪の部類に入る。カルデアのサーヴァントが犯人だとは考えたくないが、善意であれ悪意であれ、しでかす者はどこであろうとしでかすものだと生前の経験から知っている。部屋を出た後は一応カルデアの責任者に報告する必要がありそうだ。

不意に肩にかけているコートが引っ張られるのを感じ、晴信は引っ張っている主である景虎の方を見る。

頬を赤らめながら控えめに微笑む、それでも期待を孕んだまなざしが晴信に向けられていた。

「でもまあ、それが条件というなら仕方がないのでは?」

すでに景虎とは何度も身体を重ねてきた。今さらしり込みする関係でもないが、誰とも知らぬ相手が用意した部屋で致すというのは気が進まないが仕方がない。本当に目合うだけで扉が開くと言うならそれに越したことはない。けれど、目合っている最中は無防備な状況なる。敵襲の懸念がゼロでないなら本当は首を縦に振るべきではないのだが…。

晴信は思案しながら景虎を見る。正直、自分と景虎が共にいるなら何とでもなるだろうと思えてしまうのだから断る理由になりづらい。何より、期待をされれば応えたくなるのが男のサガだ。

「……それもそうだな」

晴信の返答に、景虎の目が一層細められる。

警戒を怠らなければ奇襲の一手も自分の魔術で対応もできるだろう。と、気をよくした景虎にベッドへと先導されつつ、晴信は思うのだった。

 

 

 

先ほど着たばかりなのにもう脱ぐのかという気持ちもあるが仕方がない。

晴信は身に纏っていた服を脱ぎ、同じく身一つになった景虎を後ろから抱き寄せる。

「もういいか?」

「ええ、どうぞ」

景虎の返事に頷き、その引き締まった身体を確認するように撫でる。

その手から伝わる感触を楽しみながら、隠した傷や違和感は無いかを探るようにその身を撫でる。これは、晴信の生前からやる前準備のようなものだった。傷があればその身を労わる。病の兆候が見えれば行為を切り上げる。ついでに暗器を警戒しての事でもあったが、幸いなことに生前それを見付けることは無かった。

サーヴァントの身であり、宿敵でもある景虎を相手にしてもそれは変わらなかった。基本的には案ずることなど何もないとしても。

腹を、腰を、脚を、胸を、背を、存在を確かめるようにその手で感じる。終いに首を撫で上げるようにすれば、景虎が頭を擦りつけながら身を寄せてくる。これが本当に猫であるなら、今頃喉でも鳴っているだろう。

最近ではめっきり景虎のスイッチを入れる行為となってしまっているそれを終え、晴信は景虎の胸に手を移す。

「っ、は……」

景虎の乳房を揉み、硬くなった胸の突起を押し弾くように弄ぶ。全体を満遍なくこねるように手を動かせば、虎の口から小さく息が漏れ出る。

自分の手に収まるその胸をいじっている最中、晴信はふと違和感を覚えた。景虎の胸にではなく、自分の行動に僅かに感じる違和。

手は動かしたまま、頭の中で違和感の正体を探る。この部屋での行動を振り返ってみるも、それが何なのか検討を付けることはできなかった。

「……晴信?」

声をかけられ、景虎に意識を戻す。景虎の方を見ると、どうかしたのかと、問うように晴信の顔を見上げていた。

「悪いな。少し違和感があって考え事をしていた」

「そ、っ……ですか。いわ、っあ。ちょっと、はるの……んっ」

会話の最中も手を止めなかったせいで軽く右手をはたかれるも、その手で腹から喉までを撫で上げれば甘い吐息が景虎の口から吐かれた。

「敵襲とかじゃない。心配するな」

「っはぁ……それなら、いいですけど」

晴信の言葉を信じ、景虎は再度その身をゆだねる。実際、この部屋には自分たちの気配以外は欠片もない。恐らくは警戒しているせいでいつもと勝手が違うのだろうと、晴信は自分を納得させた。

先ほど喉まで上げた手を景虎の腹部へ下ろし、へその下を指の腹で数度刺激するように押す。

「にゃ、っあ」

ビクンと景虎の身体が呼応するように跳ねる。

円を描くように下腹部を押し撫でた後、晴信は景虎の太ももの間に手を伸ばした。

股の双丘の谷間に沿って指を入れ、ゆるく主張し始めている陰核を二本の指で挟んで擦る。既に景虎の蜜壺からは愛液が溢れ出しており、晴信が指を動かすたびに絡みついて滑りを良くさせていった。

「景虎、もう少し足を開け。指、入れるぞ」

景虎の体を支えるように添えていた左手をその太ももに移そうとしたところ、先ほどまで晴信に身を任せて喘いでいた景虎が慌ててその手を押さえる。

「ま、待ってください!それは向き合ってからでないと嫌です!」

「そ…うか。ん?そう……だったか?」

再び、晴信の中で小さな違和が頭をもたげる。景虎とは正常位ですることが多いが、前戯の時までこだわりがあっただろうか。

晴信の中に記憶としては確かに存在しているのに、そこに繋がる何かが足りない気がして仕方ないように思えた。

 

体勢を変え、晴信と向き合えば、思案気に眉を寄せる晴信の表情が景虎の目に映る。

「……やはり何か気になるので?」

景虎の問いにさらに晴信の眉間のしわが深くなったのを見て、敵襲ではないとの晴信言葉に嘘はないだろうが、どうにも拭えない違和がやはりあるのだろうと景虎は思った。

「気になるというか……そうだな、自分の何かがおかしいとは感じる。が、どうにも分からん。景虎、おまえはどうだ」

「どうだと言われても。そうですね……」

景虎はこの部屋で目覚めてからの事を思い返す。目を覚まして一番に見た晴信の顔も、部屋を確認する様子にも違和感はなかった。それならこの情事での出来事だろうかと思い至るが、まだ前戯の途中なため、それほど変だと思うようなことはなかった。けれど、たった一つ、強いて上げろと言われればという程度のものならないことはなかった。

「……晴信の攻めが今日はちょっとぬるくて物足りないかな、と思うくらいですね」

「は?」

景虎の答えに、晴信が眉間にしわを寄せたまま目を見開く。晴信の反応を見る限り、どうやら無自覚だったらしい。恐らく晴信の言う違和感とはそのことだろうと景虎は察した。

「一番いいところに来てくれないというか、ちょっと浅いというか、なんか物足りないというか……まあ、こんな部屋で致してるので仕方ないとは思いますが」

「待て!俺がおまえ相手に手加減なんか絶対にするか!……どういうことだ」

目元に手を当て考え込みだしてしまいかねない晴信を景虎が揺さぶる。この場合は一人で考えるよりも確認した方が断然早いだろう。

「…………晴信、こういうことを聞くのは恥というものがあるのですが……私の好いところ、気持ちよくなるところ……分かりますか?」

「好いところだと……」

晴信は、自分の眼前に晒されている景虎の肢体を上から下まで眺める。胸も、腹も、陰部も、触れたら景虎が感じるというのは分かる。最初こそ、そこまで反応が好いわけではなかったが、そうなるように何度も教え、積み重ねてきた。そう、記憶はしている。けれど、そこから先の景虎の反応への理解と自分の認識に関する記憶が朧気になっている。何度思い返そうとしても、白い霧が覆うかのようにその先への思考が阻まれていた。

「…………認識阻害か!」

思い至った一つの可能性に、晴信は声を上げる。正直言って在り得ないと一蹴したいが、実際に認識を阻まれていることへの実感は、確実な違和感となって晴信の心の内に鎮座していた。

魔術によるものか何かしらの余波で発生した事象なのかは分からないが、この部屋にいることで自信の認識に何かしら影響が出ていると見ていいだろうと晴信は結論付けた。

「……こんな部屋でこんな認識阻害を仕掛けるのはさすがに気狂いが過ぎるだろ」

「同感ですね」

晴信と景虎はお互いの目を見、そして同時に大きな溜息をついた。

こんな部屋に閉じ込められて本当に運が無いと。それでも、この部屋に共に入れられたのが思いを寄せ合っている相手であったことだけは一つの救いだった。

 

違和感の正体が分かれば懸念も薄れる。

けれど、情事を再開しようにも一度霧散してしまった雰囲気はどうしようもなかった。向かい合う景虎を見れば、そちらもせっかく入っていたスイッチが戻ってしまっているようだった。

それでも、なんとも馬鹿らしいとは言え、認識阻害なんてものをかけてくるこの部屋からは早急に出る必要がある。

晴信は大きく息を吐き、景虎へと言葉を投げた。

「はぁ……、とりあえず続きをするが……俺は記憶にある限りのことはやる。不足だと思ったらおまえが随時教えろ、いいな」

「!?……晴信、それは辱めというやつですか?」

晴信の言葉に景虎が驚きを返す。気を遣った言葉に対して「辱め」だなんて称され、思わず晴信は声を上げた。

「違う!あのなぁ…扉が開くまでは目合う必要があるだろ。この部屋にいる以上、俺はおまえの好む場所ややり方を認識できない。……さっきも物足りないと言ってただろ。だからツラくなったら言葉にしろ、と言うだけだ」

「別にその間我慢すればいいだけですよね?」

「まあそうなんだがな」

先ほど向き合ってでないと嫌だと慌てたのはどこのどいつだ、と口にするのはさすがに野暮かと晴信は口を閉ざす。なんにせよ、俺は俺のやるべきことをするまでだ。

晴信は景虎の左手を取り、手の甲から二の腕へと沿うように手を進める。輪郭に沿うように方から首へと指でなでれば、とたんに景虎の表情が艶やかさを帯びていく。さすがに日を開けず二回目ともなれば切り替わるのが早い。

もう片方の手を腰に回し、当て支えるようにしながら景虎の背を寝台へと倒せば、景虎は抵抗することなくその身を預けた。

仰向けになった景虎の足を開く。先ほど濡らしていたこともあり、少し話し込んでいたぐらいでは乾いていないようだった。

「指入れるぞ」

「ええ」

景虎の返答を聞き、晴信は指を一本、膣口へと進入させた。

中と入り口をほぐすように指を動かし、広さに余裕がでてきたところで一本、もう一本と指を追加する。三本の指を中でバラバラに動かし、挿入に十分な頃合いまでもっていくことができた。

ただ、景虎の反応はやはり思わしくなかった。身体も、声も感じていることは伝わってくるが、時折身をよじらせてはそれでは足りないと示してくる。

景虎自身が我慢すればいいと言った手前、晴信の方から聞くのも憚られ、景虎が反応を示した時だけ記憶を頼りに指を動かしていた。もっとも、その記憶も認識阻害のせいで完全にはあてにできないと晴信は思っているのだが。

正直、いつもは景虎を満足させてやれているという自負があるだけに、晴信にこの状況は堪えていた。

想い合う相手の求めに応えられないのは精神が消耗する。さっさと性交でもなんでもして出てしまいたい。

晴信はその逸る気持ちをなんとか抑えつつ、景虎への愛撫を続けていた。

「っ……、んっ」

景虎の腰が浮く。己の中に入っている晴信の指からの快を求め、押し付けるように動かす。それでも求めたほどのものは来なかったようで、悩ましげに吐息を漏らした。

これ以上続くのはさすがに景虎もツラいだろうと、晴信は景虎の中から指を抜く。

ずるりと抜き出した指が糸を引く。それを、すでに固くなっている自分の男根に塗るように擦り付けた。

ぬめりで手が滑るのを確認し、晴信は景虎の上へ覆いかぶさった。

「景虎、もうそろそろこっちを挿れるぞ」

景虎の膣口に男根の先端をあてがい、晴信は声をかける。

こくりと景虎がそれにうなずくのを見届け、晴信は景虎の腰に手をかけ、その中へと先端を押し入れた。

景虎の膣内は、解きほぐしてなお、肉襞が柔らかく締め付けてくる。相変わらず、鍛えられた身体の中は締りが良い。

「はぁっ……」

一度奥まで腰を送れば、詰められていた息が景虎の口から吐き出される。

何度交わっても一番初めの挿入に目をつむり、息を殺す姿はまるで生娘のようだと思わされる。

「動くぞ」

言葉と同時に晴信は腰を引く。みっちりと接していた肉の中から抜き出た部分が、蜜の膜を纏って面を出す。それをそのまま押し戻せば、水音を立てて景虎の中を進んでいく。

抜き、打つ。引き、押す。出し、入れる。繰り返す動きに景虎の身体が揺れる。日頃、晴信の刃をブレることなく容易く受け止めるその身体が、腰を打ち付けるたびに上下し、喘いだ声を出す。それなのに。

「っぁ、るのぶ……はるっ、のぶ……」

晴信の耳に届く景虎の声は懇願を有していた。足りないと、もっとほしいと。

記憶にある限りの、認識できる範囲でのことはやっているはずなのに。それでもどうしても満ちないと。

「だから、口にしろ!どうしてほしいか!」

必死な気持ちが思わず晴信の声を荒げさせる。こんなことで苦しませるのは晴信としても本意ではない。

このままでは声だけでなく行為にまで影響が及ぶと晴信は懸念し始める。景虎の様子に気を回しすぎて自分の快を後回しにしていることもあり、晴信の理性も限界に近付いていた。

だから早く欲しいなら言えと、晴信は動くのをやめ、景虎の顔を自分の方へと向けさせた。

混濁するかのように渦巻く瞳が、晴信を捉える。構わずそれを見つめ返す。きっと自分は険しい表情をしてしまっているだろうと思ったが構わなかった。そんなことで怯むような女であったら生前から苦労はしてない。

「……………………おく」

やっと口にしたかと思えば、一言呟いて目を伏せる。そして、下腹部へと手をやり、繋がっていることを確認するかのように上から撫でる。

「奥を、もっと……擦り付けるように、突いてくれた…方が……。あと、もう少し……動きを……激しく、……してもらえると……」

言葉を発するたびに景虎の紅潮が頬から耳にまで達する。その様子を見て、確かにこれは辱めになってしまっている気がしてきたが、今の晴信には言葉にしてもらう以外他にはなかった。

「分かった。同じようにできるかは分からんがやるぞ」

確かに先ほどまではなるべく激しく突かないように抑えていた。比較的太さも長さもある自分のこれで、そんな動きをすれば痛みの方が勝るものだと記憶していたからだった。けれど、景虎ならそれも受け入れることができるのか。受け入れているという記憶があるのは分かるが、それを正しく認識できている気がしないが今は構わなかった。ただ、そうであると言うのなら遠慮の必要性もだいぶ減る。

晴信は止めていた腰をギリギリまで引く。下腹部に置かれたままの景虎の手が少し力んでいるのが見て取れた。

「景虎、手は背にでも回せ」

そう言って上半身を近づければ、晴信の言葉に従って景虎の手が背中に回される。

景虎の手が完全に背に付いたのを感触で確認し、晴信は思いっきり腰を景虎の奥へと打ち付けた。

「――ッ!」

景虎の口から声帯を震えさせない叫び声が発せられる。

同時に亀頭の先を最奥の凹凸を擦るように突けば、景虎の身体がビクリと跳ねた。

「ぁああっ!」

広げるように引き抜き、それをまた勢いよく押し込む。そのたびに景虎の声が喉の奥から押し上げられるように出てきた。

内部をえぐるように擦ってしまっている気がして、臓器を押し込むように圧している気がして、手加減の程を忘れてしまっている気がして、それでも景虎の腰を掴んで肉を打ち付けた。

「はうっ、あっ、う……っあッ!」

晴信の背中に痛みが走る。それは景虎が爪を立てたせいだとすぐに察することができた。目合いの最中の爪は判断がしづらい。景虎の顔を確認しても、好いのか苦痛なのか殊更判断できなかった。

「っ、苦しかったら言え」

景虎の首が横に振られる。知ってはいたがこいつもなかなかに強情だ。

どうせこのまま我慢し続けるなら早めに終わらせるが景虎のためだと、晴信は先ほどよりかは勢いを弱めつつも同じ速度で腰を動かした。

「はるのぶっ……はるっ、のぶ……」

縋りつくような声に、再び背中に走るひっかくような痛み。苦しみだけではないとは分かるが、どれほど好いかは分からない。

景虎の膣の中がうねるように絡みつき、晴信に射精を促す。

イってないだろ、おまえが。

せめてもの意地で、下腹に力を込めて晴信は耐える。その力のまま男根を押し込めば、景虎の声に苦痛が滲み入った。

「……くそっ!」

自分の意地と景虎の身体、平時や仕合のさ中ならまだしもこの場合で通すわけにもいかない。

晴信は力んでいた腰の力を抜き、内部の最奥へと押し当てながら、景虎の膣の動きに促されるまま中に精を放出した。

晴信の出すのと同時に景虎の中が吸い込むようにきゅうっと締まる。

「はあっ、つぅ……」

景虎の口から漏れ出る声を聞けば、少なくとも今の選択は間違いではないと思えた。それでも、景虎がイくまでの事はしてやれなかったことだけが晴信の心に刺さった。

 

カチリと軽い音が晴信と景虎の耳に届く。

音が聞こえたのは扉のある壁からで、おそらく開錠の音だろうという事はわかった。今ならびくともしなかったドアノブも回すことができるのだろう。

晴信は景虎の中から自身の男根を抜く。扉が開いたと言うのなら一刻も早く出てしまいたい。が、しかし。

「……景虎、一回イっておくか?」

絶頂に足りてない快楽の渦を景虎の中に残しておくのだけは気がかりだった。少し時間はかかるかもしれないが、この部屋で発散させてしまった方が後に引かないだろうが。

「それよりも、早く出たいですよ、私は」

景虎が身を起こして言い放つ。そのまま少しだけ鈍い動きでベッドからおり、衣服を纏う。その姿はいつもとなんら変わらないように見えて、どうしても軸がふらついていた。

晴信は本日の予定を思い返す。他サーヴァントやマスターとの予定もない。一日を景虎で潰してしまっても問題ないだろう。

「はぁ……。景虎、この後予定は?」

「特にありませんよ」

「分かった。部屋に来い。続きをするぞ」

晴信も衣服を纏い、景虎に近付く。晴信を見上げる瞳は熱っぽく、どちらにしろ、このまま放り出すことはできなかっただろう。

景虎は少し驚いた表情を見せ、わざとらしく逡巡するふりをする。

「…………仕方ないですねぇ、晴信は」

まるで晴信が我慢ならないなら、というように微笑む景虎に、「おまえのためだ」などとは口が裂けても言わずにいようと晴信は心に決めるのだった。



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